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2020年3月19日、「脊髄性筋委縮症(2歳以下に限る)」を対象疾患とするゾルゲンスマ(オナセムノゲンアベパルボベク)が承認されました!
ノバルティスファーマ|ニュースリリース
基本情報
製品名 | ゾルゲンスマ点滴静注 |
一般名 | オナセムノゲンアベパルボベク |
開発コード | AVXS-101 |
製品名の由来 | 単回(sole)から ZOL、遺伝子(Gene)治療からGEN、脊髄性筋萎縮症の SMAを組み合わせて、zolgensma(ゾルゲンスマ)とした |
製造販売 | ノバルティス・ファーマ(株) |
効能・効果 | 脊髄性筋萎縮症(臨床所見は発現していないが、遺伝子検査により脊髄性筋萎縮症の発症が予想されるものを含む)。 ただし、抗AAV9抗体が陰性の患者に限る |
用法・用量 | 通常、体重2.6kg以上の患者(2歳未満)には、 1.1×1014ベクターゲノム(vg)/kgを60分かけて静脈内に単回投与する。 本品の再投与はしないこと。 |
収載時の薬価 | 167,077,222円(1患者当たり) |
脊髄性筋委縮症(SMA)の治療薬には2017年に承認されたスピンラザ髄注(一般名:ヌシネルセン)しかなく、髄注かつ4~6か月毎の投与が一生涯必要でした。
今回ご紹介するゾルゲンスマ(AVXS-101)は、1回の静脈内投与で治療が完結する遺伝子療法です!
日本では再生医療等製品に分類されており、「先駆け審査指定制度」の指定品目でもあります。
今回は脊髄性筋委縮症とゾルゲンスマ(AVXS-101)の作用機序・特徴についてご紹介します。
脊髄性筋委縮症とは
脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy: SMA)は、遺伝的要因により、脊髄等の運動神経細胞(運動ニューロン)が変性・脱落することで、筋収縮刺激がうまく伝達できなくなる疾患です。
そのため、筋力の低下・委縮や筋無力を引き起こし、進行して重篤になると、呼吸や嚥下など生命維持のための基本的な身体機能に支障をきたす恐れがある難病指定の神経変性疾患です。
原因としては、5番染色体にある運動神経細胞生存(SMN)遺伝子の変異によると考えられています。
正常なSMN遺伝子(SMN1遺伝子)からは、正常な活性を有するSMNタンパク質が合成されます。しかし、SMAではSMN1遺伝子が欠損・変異しているため、正常なSMNタンパク質が合成されません。
そこで、副経路として存在しているSMN2遺伝子からSMNタンパク質が合成されるのですが、SMN2遺伝子の約90%はエキソン7に変異があるため、mRNA前駆体のスプライシング過程でイントロンと一緒にエキソン7が切り取られてしまい、活性のない異常SMNタンパク質が合成されてしまいます(SMN2遺伝子から正常なSMNタンパク質が合成される割合は10%前後)。
参考
- エキソン:タンパク質情報がコードされている配列
- イントロン:タンパク質情報がコードされていない配列
- スプライシング:イントロンが取り除かれ、エキソンのみの配列にする過程
- 転写:遺伝子(DNA)からmRNA前駆体が合成される過程
- 翻訳:mRNAからタンパク質が合成される過程
また脊髄性筋萎縮症には以下の型が知られています。
- Ⅰ型:重症型、急性乳児型
- Ⅱ型:中間型、慢性乳児型
- Ⅲ型:軽症型、慢性型
- Ⅳ型:成人型
脊髄性筋委縮症の症状
全ての型で
- 筋力低下
- 筋萎縮
- 深部腱反射の減弱・消失
などが認められます。
特にⅠ型は生後6か月ごろまでに発症しますが、すぐに運動発達が停止し、体を動かすこともできません。Ⅰ型を発症すると、平均6~9か月で死に至り、18か月までには95%が死亡すると推定されています。
脊髄性筋委縮症の治療
症状に対する対症療法(経管栄養、胃廔、人工呼吸、リハビリなど)が基本でした。
2017年には「アンチセンス核酸医薬品」のスピンラザ髄注12mg(一般名:ヌシネルセンナトリウム)が承認されて使用可能となっていますが、髄注かつ4~6か月毎の投与が一生涯必要でした。
-
スピンラザ(ヌシネルセン)の作用機序【脊髄性筋委縮症】
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しかし今回ご紹介するゾルゲンスマ(AVXS-101)は、1回の静脈内投与で治療が完結する遺伝子療法です!
ゾルゲンスマ(AVXS-101)の作用機序・特徴
ゾルゲンスマ(AVXS-101)の中身(構造)は、正常なヒトSMN1遺伝子(二本鎖DNA構造)を「自己相補型アデノ随伴ウイルス9型(scAAV9)」と呼ばれるウイルスの殻(カプシド)で包んだ構造をしています。
SMNタンパク質産生細胞は中枢神経(脊髄等)に存在していますが、静脈内に投与されたゾルゲンスマ(AVXS-101)は血液脳関門(BBB)を通過し、脊髄に到達します。
標的細胞内(SMNタンパク質産生細胞)に侵入すると、すぐに正常なヒトSMN1遺伝子(二本鎖DNA構造)が放出されて遺伝子のみが核内に移行します。
その後、核内で環状DNA(エピソーム)として永続的に留まるといった特徴がありますので、そこから正常なSMNタンパク質が産生されていきます。1)
エビデンス紹介:START試験(海外の第Ⅰ相試験)
海外のⅠ型患者さんを対象とした第Ⅰ相臨床試験(START試験)を紹介します。2)
本試験はⅠ型患者さんを対象にゾルゲンスマ(AVXS-101)単回静脈内投与の安全性と有効性を確認した臨床試験です。
15名の患者さんが登録されましたが、20か月時点では全員にイベントフリーな生存(恒久的な換気補助無しの生存)が認められていました。
理論的には治癒が可能ですが、本当に全員で治癒が得られるのかどうかは現在進行中の第Ⅲ相臨床試験(STR1VE試験)4)の結果が待たれるところですね。
用法・用量
通常、体重2.6kg以上の患者(2歳未満)には、1.1×1014ベクターゲノム(vg)/kgを60分かけて静脈内に単回投与します。
「本品の再投与はしないこと」とされていますので、1度の投与で治療が完結しますね。
副作用:肝機能障害に注意
主な副作用としてAST増加(11.0%)、ALT増加(7.3%)、トランスアミナーゼ上昇(7.3%)、嘔吐(7.3%)などが認められていました。
重大な副作用として、
- 肝機能障害、肝不全(19.5%、頻度不明)
- 血小板減少症(6.1%)
が挙げられていますので特に注意が必要です。
収載時の薬価
収載時(2020年5月20日)の薬価は以下の通りです。
- 167,077,222円(1患者当たり)
米国では$212万5000(日本円で約2億3,200万円)の価格と発表されていますので、日本ではそれよりも安く、約1憶6,700万円ですね。
ただ、類薬のスピンラザは1回投与あたりの薬価が約900万円(2019年時点)で、4〜6か月毎にずっと投与する必要があります。
例えば乳児型の場合、1年目には約6回投与しますので薬価にすると約5,400万円です。2年目以降は年3回投与ですので薬価にすると年間約2,700万円でそれが一生涯続きます。
そう思えば、ゾルゲンスマは1回の投与で治療が完了するため、1憶6,700万円であっても安いのかもしれませんね。
参考までに、再生医療等製品の保険適用は、医薬品(薬価)か医療機器(材料価格)か、個別に判断されます。
<平成 26 年 11 月5日 中医協総-2-1(抜粋)>
1.保険適用に係る今後の対応について
○ 再生医療等製品の保険適用に関する当面の間の対応
・薬事法改正後に承認(条件・期限付承認を含む。)された再生医療等製品については、保険適用の希望のあった個別の製品の特性を踏まえ、医薬品の例により対応するか、医療機器の例により対応するかを、薬事承認の結果を踏まえて判断
※引用:厚生労働省|中央社会保険医療協議会 総会(第285回) 議事次第>再生医療等製品の保険上の取扱いに関する今後の検討について
ゾルゲンスマは2020年3月25日の中央社会保険医療協議会 総会(第452回)にて医薬品として薬価収載されることが了承されていますね。5)
また、患者さんの自己負担医療費ですが、小児の脊髄性筋萎縮症は「小児慢性特定疾病」に指定されています。従って、小児慢性特定疾病の医療費助成が受けられるため、所得にもよりますが、月の医療費上限は15,000円程度です。
小児慢性特定疾病情報センター|小児慢性特定疾病の医療費助成に係る自己負担上限額
算定根拠等については以下の記事をご確認ください。
-
【新薬:薬価収載】18製品+再生医療等製品(2020年5月20日)
続きを見る
まとめ・あとがき
ゾルゲンスマはこんな薬
- 1回の静脈内投与で治療が完結する遺伝子療法
- アデノウイルスを利用して遺伝子を核内に組み込む
- 再生医療等製品に分類されている
- 薬価は1憶6,700万円(国内最高額の薬価)
これまで脊髄性筋委縮症には対症療法しか治療選択肢がありませんでしたが、2017年のスピンラザ髄注(一般名:ヌシネルセン)の登場によってその治療体系が変わりつつありました。
以上、今回は脊髄性筋委縮症と遺伝子置換療法であるゾルゲンスマ(AVXS-101)の作用機序・特徴についてご紹介しました!
引用文献・資料等
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