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2021年12月24日、厚労省の薬食審医薬品第二部会にて「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」を対象疾患とする経口剤のラゲブリオ(モルヌピラビル)の承認が了承され、当日中に承認されました!
同年12月3日の製造販売承認申請からスピード審議・承認ですね。これで軽症から中等症の患者さんに対して経口での治療が可能に!!
MSD|ニュースリリース
基本情報
製品名 | ラゲブリオカプセル200mg |
一般名 | モルヌピラビル |
製薬会社 | 製造販売:MSD(株) コ・プロモーション:キョーリン製薬ホールディングス(株) |
効能・効果 | SARS-CoV-2による感染症 |
用法・用量 | 通常、18歳以上の患者には、 モルヌピラビルとして1回800mgを1日2回、5日間経口投与する。 |
収載時の薬価 | 2,357.80円(2022年9月16日より一般流通開始) |
これまで新型コロナウイルス感染症で「重症化リスク因子」を有する軽症から中等症の患者さんには抗体薬の以下が使用されていましたが、いずれも注射剤・皮下注でした。
ラゲブリオは上記対象患者さんに対して初の経口剤として治療可能なため、非常に期待できます!臨床試験の重症化リスク因子は以下の通りです。
MOVe-OUT試験における重症化リスク因子
- 61歳以上
- 活動性のがん(免疫抑制又は高い死亡率を伴わないがんは除く)
- 慢性腎臓病
- 慢性閉塞性肺疾患
- 肥満(BMI 30kg/m2以上)
- 重篤な心疾患(心不全、冠動脈疾患又は心筋症)
- 糖尿病
- ダウン症
- 脳神経疾患(多発性硬化症、ハンチントン病、重症筋無力症等)
- コントロール不良のHIV感染症及び AIDS
- 肝硬変等の重度の肝臓疾患
- 臓器移植、骨髄移植、幹細胞移植後

特例承認制度については類薬のベクルリー(レムデシビル)の記事で少しだけ解説していますので、ご興味あればご覧ください。
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ベクルリー(レムデシビル)の作用機序・副作用【COVID-19】
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今回は新型コロナウイルスの基本的な解説と共に、ラゲブリオの作用機序・エビデンスについて解説していきます!
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とは
2019年末頃、中国の中国湖北省武漢市を中心に原因不明の肺炎ウイルスが発生しました。
その後、数カ月で日本を含む全世界にパンデミックを引き起こした原因ウイルスが「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)」です。このウイルスによって引き起こされる疾患名として、世界保健機関(WHO) は正式名称を「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」と発表しました。
「COVID-19」の読み方:コヴィッド・ナインティーン

SARS(Severe acute respiratory syndrome coronavirus:重症急性呼吸器症候群)と言えば、2003年頃に中国を中心に流行したウイルス感染症で、この原因もコロナウイルス(SARS-CoV)でしたね。今回の新型コロナウイルスもSARS-CoVと似ていることからSARS-CoV-2と名付けられています。
症状としては無症状から風邪様症状(発熱、倦怠感、咳、味覚異常)が多く、重症化することはあまりありません。
しかし、一部、肺炎・呼吸困難・血栓症等、重症化することもあり、特に高齢者や基礎疾患(例:糖尿病、心不全、COPD等の呼吸器疾患)を持っている方では重症化のリスクが高いと言われています。
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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖メカニズム
コロナウイルスの外観は「コロナ(太陽の光冠)」に似ていることからその名前が付けられています。
分類としては「一本鎖プラス鎖RNAウイルス」で、RNAをゲノムとしているウイルスですね!主にヒトの粘膜上皮細胞に感染します。

- 二本鎖DNAウイルス:アデノウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス
- 一本鎖DNAウイルス:アデノ随伴ウイルス
- 二本鎖RNAウイルス:ロタウイルス
- 一本鎖プラス鎖RNAウイルス:コロナウイルス、エンテロウイルス、C型肝炎ウイルス、ノロウイルス
- 一本鎖マイナス鎖RNAウイルス:麻疹ウイルス、RSウイルス、エボラウイルス、インフルエンザウイルス
- 一本鎖RNA逆転写ウイルス:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
- 二本鎖DNA逆転写ウイルス:B型肝炎ウイルス
ちなみに、アデノ随伴ウイルスの仕組みを用いた治療法なんかもありますね。
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ゾルゲンスマ(オナセムノゲンアベパルボベク)の作用機序・特徴【脊髄性筋委縮症】
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プラス鎖というのはゲノムそのものがmRNAとして働くことが可能なもの、マイナス鎖というのはゲノムを鋳型として一旦mRNAを作るものを言います。
SARS-CoV-2はプラス鎖の一本鎖RNAウイルスですので、ゲノム自体がmRNAとして働き、ヒト細胞内に侵入するとすぐにウイルスタンパク質の合成が始まりますね。
SARS-CoV-2がヒトの粘膜上皮細胞に感染する場合、以下の図のようなプロセスで感染・増殖します。
- 吸着・膜融合・脱殻:ヒト細胞内に入る
- ゲノム(RNA)の複製とタンパク質合成:ヒト細胞内で増える
- 細胞からの遊離:ヒト細胞外へ出て、他の細胞に感染する
上記②のRNAの複製過程では、「RNA依存性RNAポリメラーゼ(別名:レプリカーゼ)」と呼ばれるウイルスタンパク質が中心を担っています。
ちなみに、mRNAワクチンも2021年に承認されましたので、期待したいと思います!
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重症度別の治療方法
現在、重症度別の治療方法については厚労省の「新型コロナウイルス感染症(COVID 19 )診療の手引き」や日本感染症学会の「COVID-19に対する薬物治療の考え方」2)に掲載されています。
新型コロナウイルス感染症(COVID 19 )診療の手引き 第10.1版
軽症例では経口薬の
- ゾコーバ錠(エンシトレルビル)
- パキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル) ※重症化リスクが高い場合
- ラゲブリオ(モルヌピラビル) ※重症化リスクが高い場合
等が使用されます。
中等症Ⅱ~重症例では国内初の治療薬として登場したベクルリー(レムデシビル)が使用され、重症例では適宜ステロイドやオルミエント(バリシチニブ)が併用されます。
その他、中和抗体も承認されているものの、オミクロン株に対して有効性が減弱していることから、上記の抗ウイルス薬が優先されています。
各薬剤の特徴については「COVID-19に対する薬物治療の考え方」2)が分かりやすいと思います♪(下図。一部抜粋)
2022年には新規経口薬のパキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル)も登場しています。
ラゲブリオ(モルヌピラビル)の作用機序:RNAポリメラーゼ阻害
経口投与されたラゲブリオは体内で代謝され、活性代謝物となります。この活性代謝物がRNA依存性RNAポリメラーゼを選択的に阻害するといった作用機序を有しています!3)
ウイルスのゲノム(RNA)の複製がストップすることでヒト細胞内で増殖することができなくなり、結果としてウイルスの増殖抑制効果を発揮すると考えられていますね。

エビデンス紹介:MOVe-OUT試験
根拠となった臨床試験をご紹介します(MOVe-OUT試験)。4)
本試験は重症化リスク因子を1つ以上有し、軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症の入院していない成人患者さんを対象としてラゲブリオとプラセボを検証する国際共同第Ⅲ相試験です(日本を含む)。
主要評価項目は29日目までにおける「入院または死亡の割合」とされ、中間解析時点の結果は下表の通りでした。
プラセボ群 | ラゲブリオ群 | |
29日までの入院または死亡率 | 14.1% | 7.3% |
差:−6.8% p=0.001 |
なお、最終解析時点では主要評価項目はプラセボ群で9.7%、ラゲブリオ群で6.8%という結果だったようです。

ちなみに、パキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル)は中間解析・最終解析でも効果が保たれていましたよ。
オミクロン株、デルタ株への治療効果は?
MOVe-OUT試験にはデルタ株の患者さんが約3割含まれていて、治療効果は各変異株間(デルタ、ガンマ、ミュー)で差異はないとの結果でした。4-5)
しかしながら、MOVe-OUT試験にはオミクロン株の患者さんは登録されていない(不明)ため、臨床的な治療効果は不明です。
ただ、Merck社のニュースリリース5)によれば、前臨床試験においてオミクロン株(B1.1.529)に対する抗ウイルス効果は認められているとのことでした。加えて、添付文書にも追記されています。
In vitro抗ウイルス作用
NHCはVero E6細胞を用いた細胞培養系でSARS-CoV-2(USA-WA1/2020株)に対して抗ウイルス作用を示し、50%有効濃度(EC50値)は0.78~2.03μmol/Lであった。
NHCはSARS-CoV-2の変異株であるalpha株(B.1.1.7系統)、beta株(B.1.351系統)、gamma株(P.1系統)、delta株(B.1.617.2系統)、lambda株(C.37系統)、mu株(B.1.621系統)並びにomicron株(B.1.1.529/BA.1、BA.1.1、BA.2及びBA.4系統)に対して抗ウイルス作用を示し、EC50値の範囲は従来株(USA-WA1/2020株)では0.63~2.26μmol/L、変異株では0.92~5.5μmol/Lであった(Vero E6細胞)。
また、NHCはSARS-CoV-2の変異株であるomicron株(B.1.1.529/BA.4及びBA.5系統)に対して抗ウイルス作用を示し、EC50値の範囲は従来株では0.65~0.93μmol/L、変異株では0.28~0.71μmol/Lであった(Vero E6-TMPRSS2細胞)。
各変異株はウイルス表面のスパイクタンパクの変異なので、ラゲブリオの作用機序からするとあまり関係ないのかな、という印象です。
参考までに、ロナプリーブやゼビュディのオミクロン株に対する効果は以下の通りです。
副作用
1%以上5%未満に認められる副作用として、下痢、悪心、浮動性めまい、頭痛が報告されています。
重大な副作用は特に挙げられていませんね。
用法・用量:5日以内に服用開始して5日間経口投与
通常、18歳以上の患者には、モルヌピラビルとして1回800mg(4カプセル)を1日2回、5日間経口投与します。
臨床試験においては、症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていないとのことです。

収載時の薬価:2022年9月16日から一般流通開始
収載時(2022年8月18日)の薬価は以下の通りです。
- ラゲブリオカプセル200mg:2,357.80円(1日薬価:18,862.40円)
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【新薬:薬価収載】7製品(2022年8月18日)
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薬価収載までは、一般流通は行われず、厚生労働省が所有した上で、対象となる患者が発生した医療機関及び薬局からの依頼に基づき、無償で譲渡されていました。2)
その後、2022年9月16日から一般流通が開始されることになりました。
MSD|新型コロナウイルス感染症(COVID-19)経口治療薬「ラゲブリオ®カプセル200mg」一般流通開始日のお知らせ
厚労省からも事務連絡が発出されていますので、ご確認ください。
新型コロナウイルス感染症における経口抗ウイルス薬(ラゲブリオ®カプセル)の薬価収載に伴う医療機関及び薬局への配分等について(その2)(周知)

まとめ・あとがき
ラゲブリオはこんな薬
- 軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する初の経口治療薬
- RNA依存性RNAポリメラーゼを選択的に阻害することでウイルスの増殖を抑制する
- 特例承認制度を利用して承認された
COVID-19はワクチンや有効な治療薬も存在していませんでしたが、2020年以降、凄まじいスピードで治療薬やワクチンが開発されていきました。初めての登場はベクルリーでしたね。
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ベクルリー(レムデシビル)の作用機序・副作用【COVID-19】
続きを見る
その後、軽症から中等症に使用できる初の抗体カクテル療法のロナプリーブ点滴静注(カシリビマブ/イムデビマブ)も登場しました!
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ロナプリーブ注射液セット(カシリビマブ/イムデビマブ)の作用機序【COVID-19】
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ワクチンも2021年に承認されましたので、こちらの記事でまとめています♪
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コミナティ、ダイチロナ、コスタイベなどの作用機序【新型コロナウイルス】
続きを見る
以上、今回は軽症・中等症の新型コロナウイルス治療薬で初の経口剤であるラゲブリオ(モルヌピラビル)の作用機序とエビデンスについて解説しました。
参考資料・文献等
- International Committee on Taxonomy of Viruses (国際ウイルス分類委員会)による分類
- 日本感染症学会|COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15.1版
- Antibiotics (Basel). 2021 Oct 23;10(11):1294.
- MOVe-OUT試験:N Engl J Med 2022; 386:509-520.
- Merck & Co., Inc., Kenilworth, N.J., U.S.A.とRidgeback Biotherapeuticsが開発する新型コロナウイルス感染症の経口抗ウイルス薬モルヌピラビル、オミクロン株に対する活性がin vitro試験で示される
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