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2022年8月30日、「SARS-CoV-2による感染症及びその発症抑制」を対象としたエバシェルド筋注セット(チキサゲビマブ/シルガビマブ)が特例承認されました!
厚生労働省|新型コロナウイルス治療薬の特例承認について
厚生労働省|新型コロナウイルス感染症における中和抗体薬「チキサゲビマブ及びシルガビマブ」の医療機関への配分について
基本情報
製品名 | エバシェルド筋注セット |
一般名 | チキサゲビマブ(遺伝子組換え) シルガビマブ(遺伝子組換え) |
製品名の由来 | “SHIELD for EVERYONE”に由来する |
製造販売 | アストラゼネカ(株) |
効能・効果 | SARS-CoV-2による感染症及びその発症抑制 |
用法・用量 | 記事内参照 |
薬価 | 未収載。 一般流通は行わず、当面の間、厚生労働省が所有した上で、 本剤特有の効能である発症抑制目的での投与についてのみ、本剤を配分する |
効能又は効果に関連する注意
〈SARS-CoV-2による感染症〉
- 臨床試験における主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者に投与すること。
- 他の抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体が投与された高流量酸素又は人工呼吸器管理を要する患者において症状が悪化したとの報告がある。
〈SARS-CoV-2による感染症の発症抑制〉
- SARS-CoV-2による感染症に対するワクチン接種が推奨されない者又は免疫機能低下等によりSARS-CoV-2による感染症に対するワクチン接種で十分な免疫応答が得られない可能性がある者に投与すること。
- SARS-CoV-2による感染症患者の同居家族又は共同生活者等の濃厚接触者ではない者に投与すること。SARS-CoV-2による感染症患者の同居家族又は共同生活者等の濃厚接触者における有効性は示されていない。
- 本剤の投与対象については最新のガイドラインも参考にすること。
既に、新型コロナウイルス感染症治療薬としての抗体薬は以下の2製品がありますが、いずれも「オミクロン株」には効果が期待できませんでした。
エバシェルドはオミクロン株に対しても中和活性が期待でき、かつ、Fc領域を改変していることから血中半減期が延長しているという特徴があります(通常の抗体と比較して血中半減期が3倍延長)。
また、「濃厚接触者ではない者(感染源への曝露前)」に対する発症抑制の目的でも使用可能です!類薬のロナプリーブは「暴露後」でしたが、エバシェルドは暴露前から使用できますね。
ちなみに、2022年9月1日の事務連絡によると、以下の場合にのみ薬剤を配分・供給することとされています。
- ウイルス曝露前の投与(発症抑制目的での投与)に限り薬剤を配分・供給する
- 投与対象
- 抗体産生不全あるいは複合免疫不全を呈する原発性免疫不全症の患者
- B 細胞枯渇療法(リツキシマブ等)を受けてから 1 年以内の患者
- ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬を投与されている患者
- キメラ抗原受容体 T 細胞レシピエント
- 慢性移植片対宿主病を患っている、又は別の適応症のために免疫抑制薬を服用している造血細胞移植後のレシピエント
- 積極的な治療を受けている血液悪性腫瘍の患者
- 肺移植レシピエント
- 固形臓器移植(肺移植以外)を受けてから 1 年以内の患者
- T 細胞又は B 細胞枯渇剤による急性拒絶反応で最近治療を受けた固形臓器移植レシピエント
- CD4T リンパ球細胞数が 50 cells/μL 未満の未治療の HIV 患者
今回は新型コロナウイルスの基本的な解説と共に、エバシェルドの作用機序・エビデンスについて解説していきます!
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とは
2019年末頃、中国の中国湖北省武漢市を中心に原因不明の肺炎ウイルスが発生しました。
その後、数カ月で日本を含む全世界にパンデミックを引き起こした原因ウイルスが「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)」です。このウイルスによって引き起こされる疾患名として、世界保健機関(WHO) は正式名称を「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」と発表しました。
「COVID-19」の読み方:コヴィッド・ナインティーン
SARS(Severe acute respiratory syndrome coronavirus:重症急性呼吸器症候群)と言えば、2003年頃に中国を中心に流行したウイルス感染症で、この原因もコロナウイルス(SARS-CoV)でしたね。今回の新型コロナウイルスもSARS-CoVと似ていることからSARS-CoV-2と名付けられています。
症状としては無症状から風邪様症状(発熱、倦怠感、咳、味覚異常)が多く、重症化することはあまりありません。
しかし、一部、肺炎・呼吸困難・血栓症等、重症化することもあり、特に高齢者や基礎疾患(例:糖尿病、心不全、COPD等の呼吸器疾患)を持っている方では重症化のリスクが高いと言われています。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖メカニズム
コロナウイルスの外観は「コロナ(太陽の光冠)」に似ていることからその名前が付けられています。
分類としては「一本鎖プラス鎖RNAウイルス」で、RNAをゲノムとしているウイルスですね!主にヒトの粘膜上皮細胞に感染します。
- 二本鎖DNAウイルス:アデノウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス
- 一本鎖DNAウイルス:アデノ随伴ウイルス
- 二本鎖RNAウイルス:ロタウイルス
- 一本鎖プラス鎖RNAウイルス:コロナウイルス、エンテロウイルス、C型肝炎ウイルス、ノロウイルス
- 一本鎖マイナス鎖RNAウイルス:麻疹ウイルス、RSウイルス、エボラウイルス、インフルエンザウイルス
- 一本鎖RNA逆転写ウイルス:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
- 二本鎖DNA逆転写ウイルス:B型肝炎ウイルス
ちなみに、アデノ随伴ウイルスの仕組みを用いた治療法なんかもありますね。
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ゾルゲンスマ(オナセムノゲンアベパルボベク)の作用機序・特徴【脊髄性筋委縮症】
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プラス鎖というのはゲノムそのものがmRNAとして働くことが可能なもの、マイナス鎖というのはゲノムを鋳型として一旦mRNAを作るものを言います。
SARS-CoV-2はプラス鎖の一本鎖RNAウイルスですので、ゲノム自体がmRNAとして働き、ヒト細胞内に侵入するとすぐにウイルスタンパク質の合成が始まりますね。
SARS-CoV-2がヒトの粘膜上皮細胞に感染する場合、以下の図のようなプロセスで感染・増殖します。
- 吸着・膜融合・脱殻:ヒト細胞内に入る
- ゲノム(RNA)の複製とタンパク質合成:ヒト細胞内で増える
- 細胞からの遊離:ヒト細胞外へ出て、他の細胞に感染する
上記②のRNAの複製過程では、「RNA依存性RNAポリメラーゼ(別名:レプリカーゼ)」と呼ばれるウイルスタンパク質が中心を担っていて、これを阻害するのがベクルリー(一般名:レムデシビル)です。
-
ベクルリー(レムデシビル)の作用機序・副作用【COVID-19】
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ここでは「①吸着」を詳しく見ていきましょう。
SARS-CoV-2の膜には「スパイクタンパク質」が存在していて、吸着に関与しているのはその中のRBD(receptor binding domain)と呼ばれる部位です。
RBDがヒト細胞膜にあるACE2受容体と結合することで、SARS-CoV-2が吸着・侵入していきます。
ちなみに、スパイクタンパク質を標的にしたmRNAワクチンも2021年に承認されていますね。
-
コミナティ、ダイチロナ、コスタイベなどの作用機序【新型コロナウイルス】
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重症度別の治療方法
現在、重症度別の治療方法については厚労省の「新型コロナウイルス感染症(COVID 19 )診療の手引き」や日本感染症学会の「COVID-19に対する薬物治療の考え方」2)に掲載されています。
新型コロナウイルス感染症(COVID 19 )診療の手引き 第10.1版
軽症例では経口薬の
- ゾコーバ錠(エンシトレルビル)
- パキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル) ※重症化リスクが高い場合
- ラゲブリオ(モルヌピラビル) ※重症化リスクが高い場合
等が使用されます。
中等症Ⅱ~重症例では国内初の治療薬として登場したベクルリー(レムデシビル)が使用され、重症例では適宜ステロイドやオルミエント(バリシチニブ)が併用されます。
その他、中和抗体も承認されているものの、オミクロン株に対して有効性が減弱していることから、上記の抗ウイルス薬が優先されています。
各薬剤の特徴については「COVID-19に対する薬物治療の考え方」2)が分かりやすいと思います♪(下図。一部抜粋)
エバシェルド筋注の作用機序・特徴
エバシェルドは以下の2つの抗体薬を配合した薬剤です。
- チキサゲビマブ
- シルガビマブ
いずれもSARS-CoV-2のRBDに対するモノクローナル抗体(結合部位は少し異なる)3)のため、RBDとACE2受容体との結合が抑制されることで増殖抑制効果を発揮すると考えられています。
チキサゲビマブとシルガビマブはRBDの二つの異なる部位に結合するため、理論的には耐性などが生じにくいと考えられていますね!3)
また、いずれの抗体もFc領域を改変することで、血中半減期が通常の抗体と比較して約3倍に延長しているそうです。
治療のエビデンス紹介:TACKLE試験
治療の根拠となった臨床試験はTACKLE試験です。4)
軽症から中等症のCOVID-19の成人患者さんを対象に、プラセボとエバシェルド単回投与を比較した臨床試験で、主要評価項目は「投与後29日目までのCOVID-19の重症化または全死亡(原因を問わない)」とされました。
エバシェルド群 | プラセボ群 | |
イベント発現割合 | 4% | 9% |
相対リスク低減=50.5% [95%CI:14.6-71.3] p=0.0096 |
ちなみに、発症から3日以内の投与だとリスクが88%低減、5日以内だと67%低減だったとの結果でした。できるだけ早期の投与が望ましいですね。
予防投与の効果を検証した試験はPROVENT試験で、同じく主要評価項目が達成されていました!5)
オミクロン株への効果は?
オックスフォード大学の非臨床試験では、オミクロン変異株BA.4およびBA.5に対しても中和活性を保持することが示されていました。6)
ただし、添付文書には以下の記載があります。
omicron株(B.1.1.529/BA.4系統及びBA.5系統)については、本剤の有効性が減弱するおそれがあることから、他の治療薬が使用できない場合に本剤の投与を検討すること。
in vitroにおけるウイルス中和活性
Omicron株(B.1.1.529系統)のうち、BA.1、BA.1.1及びBA.2系統の臨床分離株に対して、チキサゲビマブ及びシルガビマブ併用の中和活性のEC50はそれぞれ野生型の12~30、176及び5.4倍であった。
また、BA.1、BA.1.1、BA.2、BA.2.12.1、BA.3及びBA.4/BA.5系統のスパイクタンパク質の主要変異を有するシュードウイルス粒子に対して、チキサゲビマブ及びシルガビマブ併用の中和活性のEC50はそれぞれ野生型の132~183、424、3.2、5、16及び33~65倍であった
副作用
1%以上に認められる副作用として、注射部位反応などがあります。
重大な副作用としては、
- 重篤な過敏症(頻度不明)
が挙げられていますので、特に注意が必要です。
用法・用量
〈SARS-CoV-2による感染症〉
通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、チキサゲビマブ(遺伝子組換え)及びシルガビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ300mgを併用により筋肉内注射します。
用法及び用量に関連する注意には、以下の記載もあります。
SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与すること。臨床試験において、症状発現から8日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。
〈SARS-CoV-2による感染症の発症抑制〉
通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、チキサゲビマブ(遺伝子組換え)及びシルガビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ150mgを併用により筋肉内注射します。
なお、SARS-CoV-2変異株の流行状況等に応じて、チキサゲビマブ(遺伝子組換え)及びシルガビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ300mgを併用により筋肉内注射することもできます。
まとめ・あとがき
エバシェルドはこんな薬
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する抗体カクテル療法
- 2種類の抗体がウイルスのRBDに結合することで、ヒト細胞への侵入を抑制する
- オミクロン株BA.4およびBA.5に対しても効果が期待されている
これまで承認されていた抗体薬(ロナプリーブ注射液、ゼビュディ点滴静注液)は、オミクロン株BA.4およびBA.5に対して治療効果が期待されていませんでしたが、エバシェルドはこれら変異株にも効果が期待されています!
国内で使用可能なワクチンについては以下の記事でまとめていますので、併せてご参考くださいませ♪
-
コミナティ、ダイチロナ、コスタイベなどの作用機序【新型コロナウイルス】
続きを見る
2021年末には軽症から使用可能な初の経口薬のラゲブリオ(モルヌピラビル)も登場し、2022年にはパキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル)やゾコーバ錠(エンシトレルビル)も登場していますので、治療選択肢が増えたことは朗報ですね!
-
ゾコーバ錠(エンシトレルビル)の作用機序【COVID-19】
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2024年には予防に使用できる新規抗体薬のカビゲイル(シパビバルト)も登場します。
-
カビゲイル(シパビバルト)の作用機序【COVID-19感染・発症予防】
続きを見る
以上、今回は新型コロナウイルスの基本的な解説と共に、エバシェルドの作用機序・エビデンスについて解説しました!
参考資料・文献等
- International Committee on Taxonomy of Viruses (国際ウイルス分類委員会)による分類
- 日本感染症学会|COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15.1版
- N Engl J Med 2022; 386:2236-2238
- TACKLE試験:Lancet Respir Med. 2022 Oct;10(10):985-996.
- PROVENT試験:N Engl J Med 2022; 386:2188-2200
- Further antibody escape by Omicron BA.4 and BA.5 from vaccine and BA.1 serum
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