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2020年11月27日、ゾフルーザ(バロキサビルマルボキシル)の効能・効果にインフルエンザウイルス感染症の「予防」を追加することが承認されました!
塩野義製薬|ニュースリリース
基本情報
製品名 | ゾフルーザ錠10mg/20mg/顆粒2%分包 |
一般名 | バロキサビル マルボキシル |
製品名の由来 | XO(ノックアウト,~がない)+ influenza = Xofluza |
製造販売 | 塩野義製薬(株) |
効能・効果 | A型またはB型インフルエンザウイルス感染症の治療及びその予防 ※10mgは予防の適応なし |
用法・用量 | 用法・用量の項参照 |
収載時の薬価 | 10mg錠 1錠:1,507.5円 20mg錠 1錠:2,394.5円 顆粒:未収載 |
ゾフルーザはA型/B型インフルエンザウイルス感染症治療薬として、2017年10月25日の申請から僅か4か月と異例の早さで2018年2月23日に承認されました。
その後、2018年9月19日に「顆粒剤」の剤型が追加され、今回予防適応も追加となりました。ただし、基本的には重症化のリスクの高い人を対象とすることに注意が必要ですね!
効能・効果に関連する注意<予防>
原則として、インフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族又は共同生活者のうち、インフルエンザウイルス感染症罹患時に、重症化のリスクが高いと判断される者※を対象とする。
※ 高齢者(65歳以上)、慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患患者、代謝性疾患患者(糖尿病等)等
また、規格と適応に違いがありますので注意が必要です。
規格・剤形 | 治療 | 予防 |
10mg錠剤 | 〇 | × |
20mg錠剤 | 〇 | 〇 |
2%顆粒剤 | 〇 | 〇 |
ゾフルーザは「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬」と呼ばれる新規の作用機序を有するインフルエンザ治療薬で、1回の経口投与で治療が完了するという特徴もあります。
今回はインフルエンザウイルスの感染・増殖メカニズムとゾフルーザ(バロキサビルマルボキシル)の作用機序や特徴についてご紹介します☆
既存のノイラミニダーゼ阻害薬(タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタ)、ポリメラーゼ阻害薬(アビガン)との作用機序の違いや服用方法の違いについても記載していますので是非ご覧ください。
インフルエンザウイルスとは
インフルエンザ、という名前は必ず一度は聞いたことがあると思います。
正式には「インフルエンザウイルス感染症」と呼びます。例年12月~3月頃に流行し、世間を賑わせていますよね。
インフルエンザウイルスは、構成するタンパク質の違いから、A型、B型、C型に分類されています。
- A型:ヒト、鳥、ブタ、ウマに感染し、病原性が強く、症状も強く出る
- B型:ヒトにしか感染せず、病原性が強い
- C型:ヒトにしか感染しないが、病原性は弱い
よく流行するのは病原性の強いA型とB型ですね。
C型については一度感染すると免疫を獲得するため、大人ではかかりにくいですが、乳幼児に多いとされています。
症状
インフルエンザ感染の症状としては、
- 突然現れる高熱
- 頭痛
- 筋肉痛や関節痛
- のどの強い痛み
- 咳・鼻水
などが挙げられます。
特にA型のインフルエンザ感染症では上記の症状(特に高熱)が強くみられる傾向があります。
免疫力の低下している方や高齢者の方では気管支炎や肺炎など、症状が重篤化する恐れもあります。
また小児では中耳炎、熱性けいれん、急性脳症などを併発し、重篤になる場合があるため、注意が必要です。
インフルエンザの予防
インフルエンザ感染症は、まずは感染しないことが最重要です!
そのため、毎年のインフルエンザワクチン接種の他、手洗い・うがい・マスク着用・加湿、といった日頃の生活で感染を予防することが大切です。
インフルエンザの治療
インフルエンザと思われる症状が発現した際には、まずは医療機関を受診して診断することが重要です。
インフルエンザであった場合、医師がその必要性を判断し、抗インフルエンザウイルス薬が処方されます。また、水分を十分に補給し、睡眠を十分にとることも大切です。
それではここからインフルエンザウイルスの感染メカニズムについてご紹介します。
インフルエンザウイルスの感染・増殖メカニズム
インフルエンザウイルスは「一本鎖RNA」を持つウイルスで、単体では増殖することができませんので、ヒトを含む様々な動物に感染して増殖します。
インフルエンザウイルスがヒトに感染する場合、以下の図のようなプロセスで感染・増殖します。
- 吸着・膜融合・脱殻:ヒト細胞内に入る
- mRNAの合成とRNAの複製:ヒト細胞内で増える
- 細胞からの遊離:ヒト細胞外へ出て、他の細胞に感染する
それではここから各プロセスについてご説明します。
①吸着・膜融合・脱殻
インフルエンザウイルスは、ヒトの粘膜上皮細胞にある「シアル酸レセプター」と呼ばれるところに結合(“吸着”と呼びます)し、そこからヒト細胞内に取り込まれます。
ヒト細胞内に取り込まれたウイルスは、今度はウイルスを包んでいたヒト細胞の膜とウイルスの殻の部分を融合させ(“膜融合”と呼びます)、ウィルスの殻が破れることで(“脱殻”と呼びます)、ウイルスのRNAがヒト細胞内に放出されます。
②mRNAの合成とRNAの複製
通常、ヒトのDNAは「転写」によってmRNAが作成され、mRNAの情報を「翻訳」することでタンパク質が合成されます。
※転写:DNAまたはRNAからmRNAを合成すること
※翻訳:mRNAからタンパク質を合成すること
インフルエンザウイルスのmRNA合成
インフルエンザウイルスのRNAは非常に単純な構造のため、そのままでは翻訳が開始できません。
少し難しく言うと、RNAの頭の部分に「キャップ構造(5'キャップ)」と呼ばれるものが存在しない限り、翻訳は開始されません。
もちろん、ヒトのmRNAにはキャップ構造があります。
従って、インフルエンザウイルスは自身のRNAからキャップ構造を持つmRNAを作成する必要があります。
そこで、インフルエンザウイルスはヒトのmRNAのキャップ構造を認識し、「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ」と呼ばれる自身のタンパク質によって切断して自分のRNAに結合させます。
エンドヌクレアーゼによってヒトのmRNAからキャップ構造を奪い取るイメージですね。
このキャップ構造を起点(プライマー)として転写が開始され、インフルエンザウイルスが元から持っている「RNA依存性RNAポリメラーゼ」によって伸長反応が促されます。
伸長反応の最後には「ポリA鎖」と呼ばれるmRNAの安定性に関わるものも付与され、ウイルスRNAからウイルスmRNAの転写が完了します。
その後、mRNAは翻訳が開始され、ウイルスのタンパク質が合成されます。
インフルエンザウイルスのRNA複製
一方、RNAの複製反応は、不明確なことが多いとされていますが、インフルエンザウイルスが元から持っている「RNA依存性RNAポリメラーゼ」によって、自身のRNAの複製が行われると考えられています。
このようにして出来上がったウイルスタンパク質とウイルスのRNAが合わさって、インフルエンザウイルスが完成します。
このプロセスを繰り返すことで、ヒトの細胞内ではインフルエンザウイルスが増殖し続けます。
③細胞からの遊離
ヒト細胞内で増殖したインフルエンザウイルスは、最後にヒト細胞から離れ、また他の細胞に感染していきます。
遊離する直前には、ヒト細胞の表面に盛り上がって突起(“出芽”と呼びます)となっており、シアル酸レセプターに繋がれている状態です。
このままでは細胞から遊離できませんので、インフルエンザウイルスは「ノイラミニダーゼ」と呼ばれるタンパク質によって、シアル酸レセプターを切り離します。
これにより、ヒト細胞からインフルエンザウイルスが遊離され、また他の細胞に感染していきます。
以上がインフルエンザウイルスの感染・増殖メカニズムです!
ゾフルーザ(一般名:バロキサビルマルボキシル)の作用機序と特徴
「ウイルスのmRNA合成」の項で前述のように、ウイルスmRNAの合成開始時には、「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ」を使用してヒトmRNAから「キャップ構造」を奪ってきます。
ゾフルーザはmRNA合成の開始に関わるキャップ依存性エンドヌクレアーゼを選択的に阻害する薬剤です!
これによって、ウイルスはmRNAを合成することができなくなり、当然タンパク質も合成することができなくなりますので、ウイルスは増殖できなくなってしまいます。
このように、mRNA合成の開始に関わるエンドヌクレアーゼを阻害することでウイルスの増殖を抑制するのがゾフルーザです!
また、ゾフルーザは1回のみの経口投与で治療が完了するため、非常に利便性が高いと思います。
エビデンス紹介:国際共同第Ⅲ相試験(CAPSTONE-1試験)
根拠となった臨床試験を一つ紹介します。
本試験は12歳以上のインフルエンザ患者さんを対象に、ゾフルーザとプラセボとタミフル(タミフルは20歳以上限定)を比較する第Ⅲ相臨床試験です。1-2)
主要評価項目は「インフルエンザの罹病期間」で、結果は以下の通りでした。
試験群 | 全体 | 20歳以上 | ||
ゾフルーザ | プラセボ | ゾフルーザ | タミフル | |
インフルエンザ罹病期間中央値 | 53.7時間 | 80.2時間 | 53.5時間 | 53.8時間 |
p<0.0001 | p=0.7560 | |||
体内からインフルエンザウイルスが検出されなくなるまでの期間中央値 | 24時間 | 96時間 | 24時間 | 72時間 |
p<0.0001 | p<0.0001 |
このようにゾフルーザは無治療(プラセボ)と比較してインフルエンザの罹病期間を有意に短縮しており、また、タミフル(一般名:オセルタミビル)と比較すると同程度だったようです。
一方、体内からインフルエンザウイルスが検出されなくなるまでの期間については、無治療(96時間)やタミフル(72時間)と比較してゾフルーザ(24時間)で有意に短かったとのことです。
ただし、症状が治まったとしても学校や職場への復帰時期については医師にご相談ください。基本は熱が治まってから2日間(かつ発症から5日間)は外出できませんのでご注意ください。
その他、12歳未満の小児を対象としたT0822試験3)、ハイリスク因子を有する12歳以上を対象としたCAPSTORN-2試験3)でも同様の結果でした。
予防についてはBLOCKSTONE試験4)にてゾフルーザの予防効果が確認されていますよ!
副作用
ゾフルーザの主な副作用に下痢やALT/AST上昇がありますが、全体的な頻度は臨床試験1-2)においてタミフルよりも少なかったと報告されています。
インフルエンザウイルスに特異的に作用するため、基本的には副作用は少ない薬剤です!
ただし、新規の作用機序を有することから、予期せぬ副作用の発現には注意が必要かもしれません。
用法・用量
成人と小児、また体重によって少し異なりますのでご注意ください。
成人および12歳以上の小児 (治療・予防共通) |
体重 | 投与量 |
80kg未満 | 20mg錠を2錠または、 顆粒を4包 |
|
80kg以上 | 20mg錠を4錠または、 顆粒を8包 |
12歳未満の小児 | 体重 | 投与量 |
40kg以上 (治療・予防共通) |
20mg錠を2錠または、 顆粒を4包 |
|
20kg以上40kg未満 (治療・予防共通) |
20mg錠を1錠または、 顆粒を2包 |
|
10kg以上20kg未満 (治療のみ) |
10mg錠を1錠 |
20mg錠剤と顆粒1g(バロキサビルマルボキシルとして20mg)の生物学的同等性3)が確認されたため、顆粒剤承認に至っています。しかし、10mg錠剤と顆粒剤の生物学的同等性は特に検討されていない(今後検討?)ため、10mg錠剤の代わりに顆粒を使用することはできません。
また、治療に関する投与開始時期については、添付文書3)に以下の注意書きがあります。
本剤の投与は,症状発現後,可能な限り速やかに開始することが望ましい。[症状発現から48時間経過後に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。]
ノイラミニダーゼ阻害薬では「2日以内に投与を開始すること」とありましたが、ゾフルーザではそこまでの限定はなさそうです。
しかし、ゾフルーザの臨床試験1-2)は「インフルエンザ発症から48時間以内の患者さん」を対象としていましたので、臨床試験に準じて48時間以内に開始した方が良いと思われます。
類薬との作用機序の違い
その他のインフルエンザ治療薬には
- ノイラミニダーゼ阻害薬
- シンメトレル錠(一般名:アマンダジン)
- ポリメラーゼ阻害薬:アビガン錠(一般名:ファビピラビル)
がありますが、現在ではノイラミニダーゼ阻害薬が主流ですね。
以下の図にインフルエンザ治療薬の作用機序まとめを掲載しています。
ノイラミニダーゼ阻害薬は増殖したウイルスの拡散を抑制しますが、ゾフルーザやアビガンはウイルスの増殖自体を抑制します。
ノイラミニダーゼ阻害薬
タミフル(一般名:オセルタミビル)に代表されるノイラミニダーゼ阻害薬は「③細胞からの遊離」に関与している「ノイラミニダーゼ」を選択的に阻害する作用機序を有しています!
発症から48時間以内(2日以内)に投与を開始する必要があります。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
-
【インフルエンザ】ノイラミニダーゼ阻害薬の作用機序と一覧表
続きを見る
シンメトレル錠(一般名:アマンダジン)
シンメトレルは、インフルエンザウイルス感染初期の「脱殻」を選択的に阻害する作用機序を有した薬剤です。
耐性の問題や、A型インフルエンザウイルスにしか使用できないため、近年ではあまり使用されていません。
ポリメラーゼ阻害薬:アビガン錠(一般名:ファビピラビル)
アビガンは「②mRNAの合成とRNAの複製」に関与している「RNA依存性RNAポリメラーゼ」を選択的に阻害する薬剤です。
mRNAの伸長反応とRNAの複製を共に阻害できるため、ウイルスの増殖を抑制することが可能です。
しかしながら、アビガン錠は「緊急事態と国が認めた場合限り使用できる」という異例の条件付きの承認のため普段は使用できません。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
-
アビガン(ファビピラビル)の作用機序【SFTSウイルス感染症】
続きを見る
類薬との服用方法の違い(一覧表)
シンメトレル錠とアビガン錠はインフルエンザ治療薬としてほぼ使用されていませんので、ノイラミニダーゼ阻害薬とゾフルーザの比較を以下に一覧としてまとめています。
【治療に用いる場合(2020年11月時点)】
予防に用いる場合、用法・用量が異なる場合がありますのでご注意ください。
収載時の薬価
2018年3月14日に以下の薬価で収載され、即日発売されました!
- 10mg錠 1錠:1,507.5円
- 20mg錠 1錠:2,394.5円
通常でしたら2018年5月収載予定でしたが、季節性インフルエンザということや、先駆け審査指定制度の対象品目でもあることから、2018年3月中に緊急収載されることになりました。
顆粒剤については現時点では薬価未収載です。
ゾフルーザ錠・顆粒の耐性の問題
元々、ゾフルーザの作用する「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ」は遺伝子の変異が起きにくいとされていたため、ノイラミニダーゼ阻害薬より耐性が少ないと考えられていました。
しかし前述の臨床試験(CAPSTONE-1試験)ではゾフルーザの感受性低下(耐性)が9.7%に認められており、プラセボよりもウイルス検出期間が長いという結果でした。2)
各臨床試験に対する耐性の割合は以下の通りでした(%数値は例数から私が計算したもの)。3)
臨床試験 | 耐性の割合 |
CAPSTONE-1試験: 12歳以上65歳未満の通常患者さんが対象 |
36例/370例 (約9.73%) |
T0822試験: 12歳未満の小児が対象 |
18例/77例 (約23.4%) |
CAPSTONE-2試験: ハイリスク因子(高齢者(65 歳以上)、慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患、 代謝性疾患(糖尿病等)等)を有する成人、12歳以上小児が対象 |
15例/290例 (約5.17%) |
有効成分の構造式
ゾフルーザの有効成分であるバロキサビルマルボキシルの構造式です。
バロキサビルマルボキシルは体内に投与されると、血中・小腸・肝臓などで加水分解され、活性成分の「S-033447」に変換されます。
このS-033447が薬理作用を発揮すると考えられています。
まとめ・あとがき
ゾフルーザはこんな薬
- キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害
- 単回経口投与で治療・予防が完了
- ウイルス排出期間はタミフルより短い
- A/H3N2株の耐性に注意
ゾフルーザはキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害という新規の作用機序を有しており、単回経口投与で治療が完了できるため、今後広まっていく治療薬になるのではないでしょうか。
2018年9月には顆粒剤の剤型も追加されました!小児ではなかなか錠剤が飲み込みにくい場合もありますので、顆粒剤は服用しやすいのではないでしょうか?
以上、本日はインフルエンザウイルスの感染・増殖メカニズムとゾフルーザ(バロキサビルマルボキシル)の作用機序についてご紹介しました!
引用文献・資料等
- ゾフルーザ申請資料概要 2.5 臨床に関する概括評価
- CAPSTONE-1試験(治療):N Engl J Med. 2018 Sep 6;379(10):913-923.
- ゾフルーザ添付文書
- BLOCKSTONE試験(予防):N Engl J Med 2020; 383:309-320
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