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2022年12月23日、「真菌症の治療」を対象疾患とするクレセンバ(イサブコナゾニウム)が承認されました!
その後、2024年9月24日には40mgのカプセル製剤が追加で承認されています。
旭化成ファーマ|ニュースリリース
基本情報
製品名 | クレセンバカプセル100mg/40mg、同点滴静注用200mg |
一般名 | イサブコナゾニウム硫酸塩 |
製品名の由来 | 海外における販売名を使用した。 |
製造販売 | 旭化成ファーマ(株) |
効能・効果 | 下記の真菌症の治療 ●アスペルギルス症(侵襲性アスペルギルス症、慢性進行性肺アスペルギルス症、単純性肺アスペルギローマ) ●ムーコル症 ●クリプトコックス症(肺クリプトコックス症、播種性クリプトコックス症(クリプトコックス脳髄膜炎を含む)) |
用法・用量 | カプセル 通常、成人にはイサブコナゾールとして1回200mgを 約8時間おきに6回(負荷投与48時間)、 負荷投与終了12~24時間後より1日1回経口投与する。 点滴静注用 通常、成人にはイサブコナゾールとして 1回200mgを約8時間おきに6回(負荷投与48時間)、 負荷投与終了12~24時間後より1日1回、1時間以上かけて点滴静注する。 |
収載時の薬価 | カプセル100mg:4,505.70円 点滴静注用200mg:27,924円 |
発売日 | 2023年4月6日(HP) |
新規のトリアゾール系抗真菌薬ですね!
既存のトリアゾール系抗真菌薬のブイフェンド(ボリコナゾール)と作用機序は同様ですが、クレセンバの方が肝胆道・眼・皮膚系の副作用が低いといった特徴があります。
今回は代表的な真菌症として「アスペルギルス症」を例に、真菌症に重要となる造血幹細胞移植を解説していきます。
真菌の生態と真菌症
まず真菌について説明します。
ヒトの細胞より少し小さく、異なる点としては以下が挙げられます。
細胞膜の主成分 | 細胞壁 | |
ヒトの細胞 | コレステロール | ない |
真菌の細胞 | エルゴステロール | ある |
ヒト細胞の細胞膜の主成分は「コレステロール」ですが、真菌細胞の細胞膜の主成分は「エルゴステロール」である点が重要です。
真菌には様々な種類が存在していて、ヒトに感染する部位・場所によって、真菌症は3つに分類されています。
- 表在性真菌症:皮膚表面に感染する
- 深在性皮膚真菌症:皮下組織や爪に感染する
- 深在性真菌症:内臓など体内の臓器に感染する
「①表在性真菌症」の代表例としては「水虫・白癬」が挙げられますね。実際に水虫治療では内服薬や外用薬による抗真菌薬が使用されます。
-
ネイリン(ホスラブコナゾール)の作用機序と副作用【爪白癬】
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この中でも特に「③深在性真菌症」は死に至る危険性もあり、早期の予防・治療が重要だと言われています。
その他にも、抗がん剤治療、ステロイド薬の乱用、免疫抑制薬の使用、糖尿病、などを起因として発症する場合もあります。
造血幹細胞移植と深在性真菌症
通常はほとんど問題のない深在性真菌症ですが、免疫力が著しく低下した場合、真菌が体内の臓器に感染してしまう恐れがあります。
特に造血機能に異常をきたした場合(例:白血病や悪性リンパ腫などの血液腫瘍、再生不良性貧血など)、ドナーから提供された造血幹細胞を患者さんに移植するのが造血幹細胞移植です。
血液腫瘍(白血病など)の場合、そのまま造血幹細胞を移植してしまっても、体内には腫瘍細胞が残ってしまっています。
そのため、移植を行う前に大量の抗がん剤を数種類併用した多剤併用化学療法を行い、体内の腫瘍細胞と正常な血液細胞を全て根絶します。
その後、ドナーから提供してもらった正常な造血幹細胞を体内に投与することで、正常な血液細胞が増え(生着)、移植は完了です。
しかし移植後も血液細胞の働きは完全と言えず、免疫力が低下している状態ですので、移植後には様々な感染症の危険性が伴います。
特に、移植後早期~100日の間には深在性真菌症の発症リスクが高いことから、予防的に抗真菌薬を投与することがあります。1)
真菌の種類としてはカンジダ属とアスペルギルス属が多い。
予防・治療に用いられる抗真菌薬には以下の3種類がありますね。
- トリアゾール系:フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、ノクサフィル(ポサコナゾール)など
- エキノキャンディン系:ミカファンギンなど
- ポリエン系:アムホテリシンBなど
今回ご紹介するクレセンバは「治療」にのみ使用可能です。「予防」には使用できませんのでご注意ください。
類薬のノクサフィル(ポサコナゾール)は治療・予防共に使用可能です。
-
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「侵襲性アスペルギルス症」の治療はトリアゾール系の中でもボリコナゾールが第一選択薬1)に位置付けられていますが、クレセンバも新たな治療選択肢として期待されていますよ!
ちなみにですが、造血幹細胞移植時にはサイトメガロウイルス(CMV)感染にも注意が必要で、これに対しては抗CMV薬が使用されます。
-
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クレセンバ(イサブコナゾニウム)の作用機序・特徴
トリアゾール系抗真菌薬は真菌の細胞膜の主成分であるエルゴステロールの生合成を阻害するといった作用を有しています。
イサブコナゾニウムはイサブコナゾールのプロドラックで、水溶性が向上されています。投与されると速やかに加水分解されてイサブコナゾールに変換され、薬効を発揮します。
エビデンス紹介:SECURE試験
侵襲性アスペルギルス症の根拠となった臨床試験(SECURE試験)をご紹介します。
本試験は侵襲性アスペルギルス症患者さんを対象に、ブイフェンド(ボリコナゾール)に対するクレセンバの非劣性を検証した第Ⅲ相臨床試験です。
主要評価項目は「投与42日目までの総死亡率」とされ、結果は以下の通りでした(非劣性マージンは10%)。
ブイフェンド群 | クレセンバ群 | |
投与42日目までの総死亡率 | 20% | 19% |
差は-1.0% (95%CI:-7.8-5.7) 非劣性が証明 |
||
何らかの有害事象 | 98% | 96% |
胃腸障害 | 69% | 68% |
感染症 | 61% | 59% |
肝胆道障害 | 16% | 9% |
眼障害 | 27% | 15% |
皮膚・皮下組織の障害 | 42% | 33% |
総死亡率はブイフェンドと同様であることが示されていますね!
また、全体的な有害事象の発現頻度は同程度ですが、肝胆道障害、眼障害、皮膚・皮下組織の障害の頻度はクレセンバ群で有意に低いという結果でした。
副作用
5%以上に認められる副作用としては悪心が報告されています(注射剤については注射部位反応、注射部位蕁麻疹、注入部位静脈炎も)。
重大な副作用としては、
- 皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)(頻度不明)
- 肝機能障害:肝機能検査異常(13.7%)、肝機能異常(6.8%)、肝損傷(1.4%)、肝炎(頻度不明)があらわれることがある。
- 急性腎障害(1.4%)、腎不全 (頻度不明)
- ショック(頻度不明)、アナフィラキシー(頻度不明)
が挙げられていますので特に注意が必要です。
用法・用量
カプセルと点滴静注の用法・用量を表でまとめてみました。
剤形 | 負荷投与48 時間 | 負荷投与終了 12~24 時間後 |
カプセル | 1回200mgを約8時間おきに6回 | 1日1回経口投与 |
点滴静注用 | 1回200mgを約8時間おきに6回 | 1日1回、1時間以上かけて点滴静注 |
基本は負荷投与(8時間×6回=48時間)を行った後に、12~24時間後から1日1回投与を行います。
クレセンバ製品ページ|投与スケジュール
収載時の薬価
収載時(2023年3月15日)の薬価は以下の通りです。
- クレセンバカプセル100mg:4,505.70円(1日薬価:9,011.40円)
- クレセンバ点滴静注用200mg:27,924円(1日薬価:27,924円)
算定根拠等については以下をご確認ください。
-
【新薬:薬価収載】13製品(2023年3月15日)
続きを見る
まとめ・あとがき
クレセンバはこんな薬
- トリアゾール系の抗真菌薬
- エルゴステロールの生合成を阻害する
- 侵襲性アスペルギルス症において、ブイフェンド(ボリコナゾール)と非劣性が証明
クレセンバは新規のトリアゾール系抗真菌薬ですが、既に類薬のイトラコナゾール、ボリコナゾール、ノクサフィル(ポサコナゾール)が臨床で使用されています。
-
ノクサフィル(ポサコナゾール)の作用機序・特徴【真菌症】
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以上、今回は深在性真菌症とクレセンバ(イサブコナゾニウム)の作用機序についてご紹介しました。
引用資料・論文等
- 日本造血細胞移植学会|ガイドライン一覧>真菌感染症の予防と治療(2021年9月)
- SECURE試験:Lancet. 2016 Feb 20;387(10020):760-9.
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