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2021年9月27日、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」を対象疾患とする抗体療法のゼビュディ点滴静注液(ソトロビマブ)が特例承認されました!
同日行われた厚労省の薬食審医薬品第二部会にて承認了承され、そのまま特例承認されましたね。早い!
グラクソ・スミスクライン|ニュースリリース
厚生労働省|新型コロナウイルス治療薬の特例承認について
基本情報
製品名 | ゼビュディ点滴静注液500mg |
一般名 | ソトロビマブ(開発コード:VIR-7831) |
製品名の由来 | 特になし |
製造販売 | グラクソ・スミスクライン(株) |
効能・効果* | SARS-CoV-2による感染症 |
用法・用量 | 通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、 ソトロビマブ(遺伝子組換え)として500mgを単回点滴静注する。 |
薬価 | 国が買い取って医療機関に提供するため、薬価収載されない |
*効能又は効果に関連する注意
- 臨床試験における主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者を対象に投与を行うこと。
- 他の抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体が投与された高流量酸素又は人工呼吸器管理を要する患者において症状が悪化したとの報告がある。
- 本剤の中和活性が低いSARS-CoV-2変異株に対しては本剤の有効性が期待できない可能性があるため、SARS-CoV-2の最新の流行株の情報を踏まえ、本剤投与の適切性を検討すること。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2:Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2)に対する初の治療薬としてはベクルリー(レムデシビル)、オルミエント(バリシチニブ)、ロナプリーブ(カシリビマブ/イムデビマブ)に次ぐものですね!
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ちなみに対象症例は「重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者」とされていますので、ロナプリーブと同様ですね。重症化リスクについては記事内で解説↓しています。
今回は新型コロナウイルスの基本的な解説と共に、ゼビュディ(ソトロビマブ)の作用機序・エビデンスについて解説していきます!
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とは
2019年末頃、中国の中国湖北省武漢市を中心に原因不明の肺炎ウイルスが発生しました。
その後、数カ月で日本を含む全世界にパンデミックを引き起こした原因ウイルスが「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)」です。このウイルスによって引き起こされる疾患名として、世界保健機関(WHO) は正式名称を「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」と発表しました。
「COVID-19」の読み方:コヴィッド・ナインティーン
SARS(Severe acute respiratory syndrome coronavirus:重症急性呼吸器症候群)と言えば、2003年頃に中国を中心に流行したウイルス感染症で、この原因もコロナウイルス(SARS-CoV)でしたね。今回の新型コロナウイルスもSARS-CoVと似ていることからSARS-CoV-2と名付けられています。
症状としては無症状から風邪様症状(発熱、倦怠感、咳、味覚異常)が多く、重症化することはあまりありません。
しかし、一部、肺炎・呼吸困難・血栓症等、重症化することもあり、特に高齢者や基礎疾患(例:糖尿病、心不全、COPD等の呼吸器疾患)を持っている方では重症化のリスクが高いと言われています。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖メカニズム
コロナウイルスの外観は「コロナ(太陽の光冠)」に似ていることからその名前が付けられています。
分類としては「一本鎖プラス鎖RNAウイルス」で、RNAをゲノムとしているウイルスですね!主にヒトの粘膜上皮細胞に感染します。
- 二本鎖DNAウイルス:アデノウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス
- 一本鎖DNAウイルス:アデノ随伴ウイルス
- 二本鎖RNAウイルス:ロタウイルス
- 一本鎖プラス鎖RNAウイルス:コロナウイルス、エンテロウイルス、C型肝炎ウイルス、ノロウイルス
- 一本鎖マイナス鎖RNAウイルス:麻疹ウイルス、RSウイルス、エボラウイルス、インフルエンザウイルス
- 一本鎖RNA逆転写ウイルス:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
- 二本鎖DNA逆転写ウイルス:B型肝炎ウイルス
ちなみに、アデノ随伴ウイルスの仕組みを用いた治療法なんかもありますね。
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プラス鎖というのはゲノムそのものがmRNAとして働くことが可能なもの、マイナス鎖というのはゲノムを鋳型として一旦mRNAを作るものを言います。
SARS-CoV-2はプラス鎖の一本鎖RNAウイルスですので、ゲノム自体がmRNAとして働き、ヒト細胞内に侵入するとすぐにウイルスタンパク質の合成が始まりますね。
SARS-CoV-2がヒトの粘膜上皮細胞に感染する場合、以下の図のようなプロセスで感染・増殖します。
- 吸着・膜融合・脱殻:ヒト細胞内に入る
- ゲノム(RNA)の複製とタンパク質合成:ヒト細胞内で増える
- 細胞からの遊離:ヒト細胞外へ出て、他の細胞に感染する
上記②のRNAの複製過程では、「RNA依存性RNAポリメラーゼ(別名:レプリカーゼ)」と呼ばれるウイルスタンパク質が中心を担っていて、これを阻害するのがベクルリー(一般名:レムデシビル)です。
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ここでは「①吸着」を詳しく見ていきましょう。
SARS-CoV-2の膜には「スパイクタンパク質」が存在していて、吸着に関与しているのはその中のRBD(receptor binding domain)と呼ばれる部位です。
RBDがヒト細胞膜にあるACE2受容体と結合することで、SARS-CoV-2が吸着・侵入していきます。
ちなみに、スパイクタンパク質を標的にしたmRNAワクチンも2021年に承認されていますね。
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重症度別の治療方法
現在、重症度別の治療方法については厚労省の「新型コロナウイルス感染症(COVID 19 )診療の手引き」や日本感染症学会の「COVID-19に対する薬物治療の考え方」2)に掲載されています。
新型コロナウイルス感染症(COVID 19 )診療の手引き 第10.1版
軽症例では経口薬の
- ゾコーバ錠(エンシトレルビル)
- パキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル) ※重症化リスクが高い場合
- ラゲブリオ(モルヌピラビル) ※重症化リスクが高い場合
等が使用されます。
中等症Ⅱ~重症例では国内初の治療薬として登場したベクルリー(レムデシビル)が使用され、重症例では適宜ステロイドやオルミエント(バリシチニブ)が併用されます。
その他、中和抗体も承認されているものの、オミクロン株に対して有効性が減弱していることから、上記の抗ウイルス薬が優先されています。
各薬剤の特徴については「COVID-19に対する薬物治療の考え方」2)が分かりやすいと思います♪(下図。一部抜粋)
ゼビュディ(ソトロビマブ)の作用機序:保存されたRBDの選択阻害
ゼビュディはSARS-CoV-2のRBDに対するモノクローナル抗体で、ACE結合部位以外に結合します。そのため、直接的にSARS-CoV-2の中和作用を示すと考えられています。3-4)
その他にも免疫細胞による抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性や抗体依存性細胞貪食(ADCP)活性も期待されていますね。すごい!
加えて、ゼビュディが結合する部位は保存されている(=変異が起こりにくい)領域のため、変異株に対しても効果が期待されています。3-4)
類薬のロナプリーブは中和やADCCではなく、ACEとの結合を阻害して増殖を抑えるといった作用機序が主でしたので少し異なる印象です。
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デルタ株、オミクロン株などの変異株に対して効果は期待できるのか?
添付文書には「本剤の中和活性が低いSARS-CoV-2変異株に対しては本剤の有効性が期待できない可能性がある」とありますが、具体的には以下の変異株のことが記載されています。4)
ソトロビマブはSARS-CoV-2の臨床分離株を用いた試験において、野生型(USA-WA1/2020株)に対して濃度依存的な中和作用を示し、EC50は100.1ng/mLであった(Vero E6細胞)。
SARS-CoV-2の変異株の臨床分離株を用いた試験において、alpha株(B.1.1.7系統)、beta株(B.1.351系統)、gamma株(P.1系統)、kappa株(B.1.617.1系統)及びdelta株(B.1.617.2系統)に対する中和活性のEC50は野生型の0.4~3.0倍であった(Vero E6細胞又はVero E6-TMPRSS2細胞)。また、omicron株(B.1.1.529/BA.1、BA.1.1、BA.2、BA.2.12.1、BA.4及びBA.5系統)及びXD系統に対する中和活性のEC50はそれぞれ野生型の3.8、4.3、15.7、25.1、48.4、21.6及び2.1倍であった(Vero E6-TMPRSS2細胞)。
alpha株(B.1.1.7系統)、beta株(B.1.351系統)、gamma株(P.1系統)、delta株(B.1.617.2、AY.1、AY.2及びAY.4.2系統)、epsilon株(B.1.427及びB.1.429系統)、eta株(B.1.525系統)、iota株(B.1.526系統)、kappa株(B.1.617.1系統)、lambda株(C.37系統)及びmu株(B.1.621系統)にみられるスパイクタンパク質の主要変異を導入したシュードタイプウイルスに対する中和活性のEC50は野生型の0.35~2.3倍であった(Vero E6細胞)。
また、omicron株(B.1.1.529/BA.1、BA.1.1、BA.2、BA.2.12.1、BA.2.75、BA.2.75.2、BA.3、BA.4、BA.4.6、BA.5、BF.7、BQ.1、BQ.1.1及びXBB.1系統)にみられるスパイクタンパク質の主要変異を導入したシュードタイプウイルスに対する中和活性のEC50はそれぞれ野生型の2.7、3.3、16、16.6、8.3、10.0、7.3、21.3、57.9、22.6、74.2、28.5、94及び6.5倍であった(Vero E6細胞)。
類薬のロナプリーブもオミクロン株に対しては推奨されていませんね。
エビデンス紹介:COMET-ICE試験
根拠となった臨床試験は国際共同で行われた第Ⅲ相試験のCOMET-ICE試験です。4)
重症化リスクの高い軽症から中等症のCOVID-19の成人患者さんを対象に、プラセボとゼビュディ単回投与を比較した臨床試験で、主要評価項目は「無作為化後29日目までにSARS-CoV-2による感染症の疾患進行(何らかの疾患の急性期管理のための24時間超の入院、又は理由を問わない死亡と定義)のイベントが認められた被験者の割合」とされました。
最終解析の結果は以下の通りでした。
ゼビュディ群 | プラセボ群 | |
イベント発現割合 | 1%(6/528例) | 6%(30/529例) |
調整相対リスク低下率=79% p<0.001 |
副作用
重大な副作用として、
- 重篤な過敏症(頻度不明)
- Infusion reaction(頻度不明)
が挙げられていますので注意が必要です。
その他の副作用についてはいずれも1%未満で、発疹、皮膚反応、注入部位疼痛、疼痛などの比較的軽度なものが報告されています。
用法・用量:1週間以内
通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、ソトロビマブ(遺伝子組換え)として500mgを単回点滴静注します。
投与開始までの目安は症状発現から1週間とのことです!
SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与 すること。症状発現から1週間程度までを目安に投与することが 望ましい。
重症化リスク因子の目安
重症化リスク因子については、その代表的な例として、
- 承認審査での評価資料となった第Ⅲ相試験(COMET-ICE試験)の組み入れ基準4)
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き5)
が想定されています。
具体的には①②は以下とされていました。
<①COMET-ICE試験の組み入れ基準>
- 55歳以上
- 薬物治療を要する糖尿病
- 肥満(BMI 30kg/m2超)
- 慢性腎障害(eGFRが60mL/分/1.73m2未満)
- うっ血性心不全(NYHA心機能分類クラスⅡ以上)
- 慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患又は労作時の呼吸困難を伴う肺気腫)
- 中等症から重症の喘息(症状コントロールのために吸入ステロイドを要する又は組入れ前1年以内に経口ステロイドが処方されている者)
<②COVID-19診療の手引き>
- 65 歳以上の高齢者
- 悪性腫瘍
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 慢性腎臓病
- 2型糖尿病
- 高血圧
- 脂質異常症
- 肥満(BMI 30 以上)
- 喫煙
- 固形臓器移植後の免疫不全
- 妊娠後期
いずれかに該当すれば投与対象となり得ますね。
まとめ・あとがき
ゼビュディはこんな薬
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する抗体療法
- ウイルスのRBDに結合することで、ヒト細胞への侵入を抑制する
- 重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者さんが対象
これまでCOVID-19の治療薬はベクルリーやオルミエントがあるものの、対象は中等度から重症の患者さんに限られていました(ベクルリーは中等症から使用可能ですが、供給の問題で重症例に限られている)。
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ベクルリー(レムデシビル)の作用機序・副作用【COVID-19】
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その後、ロナプリーブが特例承認され、ようやく軽症から中等症の患者さん(重症化リスクを有する場合)に使用できるようになりました。しかしながら、全員に効果があるわけではないため、新たな治療選択肢が望まれていました。
2021年末には軽症から使用可能な初の経口薬のラゲブリオ(モルヌピラビル)も登場し、2022年にはパキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル)も登場です。
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パキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル)の作用機序・特徴【COVID-19】
続きを見る
国内で使用可能なワクチンについては以下の記事でまとめていますので、併せてご参考くださいませ♪
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コミナティ、ダイチロナ、コスタイベなどの作用機序【新型コロナウイルス】
続きを見る
以上、今回は新型コロナウイルスの基本的な解説と共に、ゼビュディ(ソトロビマブ)の作用機序について解説しました!
参考資料・文献等
- International Committee on Taxonomy of Viruses (国際ウイルス分類委員会)による分類
- 日本感染症学会|COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15.1版
- bioRxiv, 2021.preprint : https://doi.org/10.1101/2021.03.09.434607
- ゼビュディ点滴静注液500mg 添付文書
- 厚労省|新型コロナウイルス感染症 (COVID 19 )診療の手引き:6.2版
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