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ピフェルトロ(ドラビリン)の作用機序・特徴【HIV】

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2020年1月14日、「HIV感染症」を効能・効果とするピフェルトロ錠(ドラビリン)が承認されました!

MSD|ニュースリリース

基本情報

製品名 ピフェルトロ錠100mg
一般名 ドラビリン
製造販売元 MSD(株)
効能・効果 HIV感染症
用法・用量 通常、成人にはドラビリンとして100mgを1日1回経口投与する。
本剤は、食事の有無にかかわらず投与できる。
投与に際しては、必ず他の抗HIV薬と併用すること。
収載時の薬価 1錠:2,147.80円(1日薬価:2,147.80円)

 

木元 貴祥
木元 貴祥
ピフェルトロは新規の非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)に分類されています。

 

既存のNNRTIの耐性ウイルスにも効果を示すことが期待されているようですね!

 

今回はHIV感染症とピフェルトロ錠の作用機序などについてご紹介します。

 

AIDSとHIV

木元 貴祥
木元 貴祥
AIDS(エイズ)という言葉は一度は耳にしたことがあると思います。

 

正式名称は「後天性免疫不全症候群(Acquired immune deficiency syndrome:AIDS)」と呼ばれ、体内の免疫細胞が破壊されて後天的に免疫不全を引き起こす疾患です。

 

AIDSを引き起こす原因とされているウイルスが「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」です。

HIVに感染して数年の潜伏期間(無症状)を経た後にAIDSが発症すると言われています。

 

AIDSを発症すると全身倦怠感、体重の急激な減少、咳、発熱、発疹、といった風邪のような症状を呈します。

その後、普通では感染しないような日和見感染症(例:ニューモシスチス肺炎、カポジ肉腫、サイトメガロウイルス感染症)を合併し、生命に危機を及ぼします。

 

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染と増殖メカニズム

HIVの感染経路には以下の3つが知られています。

  • 性的感染
  • 血液感染
  • 母子感染

 

HIVは一本鎖RNAを持つレトロウイルスで、単体では増殖できません。従って、ヒト等の動物の細胞内に感染して増殖を行います。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
それではここから増殖メカニズムについてご説明します。

 

HIVの構造と吸着・膜融合・脱殻

HIVはエンベロープと呼ばれる外膜の中にカプシドがあり、その中にRNAが封入された構造を有しています。

HIVの構造

 

HIVがヒト細胞に感染すると、

  • 吸着
  • 膜融合
  • 脱殻

というプロセスを経てヒト細胞内にウイルスRNAが放出されます。

HIVの吸着・膜融合・脱殻

 

ウイルスRNAの逆転写

ヒトの細胞内に放出されたウイルスRNAは「逆転写酵素」と呼ばれるウイルス酵素によって二本鎖DNAが合成されます。

 

合成されたウイルス二本鎖DNAはヒト細胞の核内へと運ばれていきます。

HIVのRNAの逆転写と逆転写酵素

 

ヒトDNAへの組み込み(インテグラーゼ)とタンパク質合成(プロテアーゼ)

核内に運ばれたウイルスDNAは、そのままでは複製や転写・翻訳ができません。

 

そのためウイルスDNAは「インテグラーゼ」と呼ばれるウイルス酵素によって、ヒトDNAの中にウイルスDNAを組み込みます

 

ウイルスDNAがヒトDNAに組み込まれることで、HIVに感染したヒト細胞が増殖する際にはウイルスDNAも一緒に増殖していってしまいます。

 

そしてウイルスDNAの遺伝情報を元に、転写・翻訳が行われ、ウイルスに必要なタンパク質も勝手に合成されていってしまいます。

 

合成されたタンパク質は「プロテアーゼ」と呼ばれる酵素によって適切な大きさに切断され、HIVの増殖が完了します。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
以上がHIVの感染・増殖のメカニズムです。

 

HIV感染症の治療

HIV感染症は早期に行うことで、AIDSの発症までの期間を延長することができます。

ただし、HIVを完治させることは現代医学では難しいとされています。

 

主に使用される薬剤には以下の種類があり、これらを適宜併用した多剤併用療法が基本です。1)

  • 核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)
  • 非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)
  • プロテアーゼ阻害剤(PI)
  • 膜融合阻害剤
  • インテグラーゼ阻害剤(INSTI)

 

組み合わせ方としては、HIV抑制効果が強い「キードラッグ」と、キードラッグを補足してHIV抑制効果を高める働きのある「バックボーン」を併用します。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
どの薬剤がキードラッグかバックボーンなのかの明確な定義はないのですが、「NRTI×2剤」をバックボーンとされることが多いです。

 

従って、初回治療の組み合わせとしては、以下のいずれかが患者さんの適正(服用率を100%に近づけることを最優先)に併せて推奨されています。1)

  • NRTI×2剤+INSTI×1剤
  • NRTI×1剤+INSTI×1剤
  • NRTI×2剤+PI×1剤+リトナビル(PI)
  • NRTI×2剤+NNRTI×1剤

 

今回ご紹介するピフェルトロは上記の「NRTI×2剤+NNRTI×1剤」のNNRTIとして使用します。従って、必ず他のNRTI×2剤と併用する必要がありますね。

 

これらの多剤併用療法を原則、一生涯行うことでAIDSで死亡することはほとんど無くなったと言われています。

 

ピフェルトロ(ドラビリン)の作用機序・特徴

逆転写酵素阻害剤には「核酸系」と「非核酸系」がありますが、ピフェルトロは非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)に分類されています。

 

前述のウイルスの逆転写酵素を阻害することで、二本鎖DNAが合成できなくなり、その後の反応が全てストップします。

 

これまでの既存のNNRTIでは稀に以下の遺伝子変異による耐性が認められることがあります。

  • K103変異
  • Y181変異

 

ピフェルトロは上記の遺伝子変異による耐性ウイルスに対しても治療効果を示すことが示唆されています!2)

 

エビデンス紹介:DRIVE-FORWARD、DRIVE-SHIFT

主な根拠とされた臨床試験には以下の第Ⅲ相試験があります。

  • DRIVE-FORWARD試験:未治療のHIV患者さんを対象3-4)
  • DRIVE-SHIFT:既治療のHIV患者さんを対象5)

 

今回は代表として未治療のHIV患者さんを対象に、「NRTI×2剤+ダルナビル+リトナビル」に対する「NRTI×2剤+ピフェルトロ」の非劣性を検証したDRIVE-FORWARD試験の結果を示します。3)

 

本試験の主要評価項目は「投与48週時のHIV-1のRNA量が50コピー/mL未満の割合」とされ、非劣性マージンは-10%とされていました。

試験群 NRTI×2剤+
ダルナビル+リトナビル
NRTI×2剤+
ピフェルトロ
投与48週時のHIV-1のRNA量が
50コピー/mL未満の割合
79.9% 83.8%
群間差:3.9%(95%CI:-1.6%-9.4%)
非劣性が証明
ウイルス学的失敗例率(48週時) 6.3% 4.9%

 

この治療効果は96週時点でも継続していたと報告されていますね。4)

 

副作用

主な副作用として、悪心、下痢、疲労、頭痛、浮動性めまい、異常な夢などが挙げられていますが、いずれも頻度は2~5%とのことです。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
重大な副作用は特に挙げられていませんね。

用法・用量

通常、成人にはドラビリンとして100mgを1日1回経口投与します。

投与に際しては、必ず他の抗HIV薬と併用すること。

 

食事の有無に関わらず投与できるようですね。

 

収載時の薬価

収載時(2020年1月22日)の薬価は以下の通りです。

  • ピフェルトロ錠100mg1錠:2,147.80円(1日薬価:2,147.80円)

 

木元 貴祥
木元 貴祥
HIV治療薬のため、通常の薬価収載スケジュールとは異なり緊急薬価収載されましたね。

 

算定根拠は以下の記事で解説しています。

【新薬承認+薬価収載】2製品(2020年1月14日承認、1月22日収載)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

ピフェルトロはこんな薬

  • 新規の非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
  • 既存薬の耐性ウイルスに対しても効果が期待
  • 1日1回の経口投与で食事の影響を受けない

 

HIV治療薬は現在多数の配合錠が承認・販売されています。

 

2018年にはオデフシィ配合錠(既存薬の新配合剤)、2019年にはビクタルビ配合錠(新規INSTIを配合)やシムツーザ配合錠(既存薬の新配合剤)登場してきています。

 

ピフェルトロの承認と同日には初回治療から2剤併用療法で治療可能なドウベイト配合錠も承認されていますよ!

ドウベイト配合錠(ドルテグラビル/ラミブジン)の作用機序【HIV】

続きを見る

 

木元 貴祥
木元 貴祥
今後は使い分け等が検討されれば興味深いと感じます。

 

以上、今回はHIVとピフェルトロ錠の作用機序についてご紹介しました。

 

引用文献・資料等

  1. 抗HIV治療ガイドライン(2023年3月発行)
  2. ピフェルトロ錠100mg インタビューフォーム
  3. DRIVE-FORWARD試験(48週):Lancet HIV. 2018 May;5(5):e211-e220. 
  4. DRIVE-FORWARD試験(96週):Lancet HIV. 2020 Jan;7(1):e16-e26.
  5. DRIVE-SHIFT試験:J Acquir Immune Defic Syndr. 2019 Aug 1;81(4):463-472.

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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