3.呼吸器系

ビレーズトリ(LAMA/LABA/ICS)の作用機序【COPD】

ビレーズトリ・エアロスフィアとは、2019年6月18日に「COPD」を対象疾患として承認された新有効成分含有・新医療用配合剤で、LAMA/LABA/ICSの3剤を配合しています。

アストラゼネカ|ニュースリリース

基本情報

製品名 ビレーズトリエアロスフィア56吸入/120吸入
一般名 ●グリコピロニウム臭化物
●ホルモテロールフマル酸塩水和物
●ブデソニド
製品名の由来 Breztri:「Breeze (そよ風) 」と「Breathe (呼吸)」の「Brez」と
3薬効成分による治療であることから「triple」の「tri」をとって「Breztri」と名付けられた。
デバイス名の由来 Aerosphere:薬剤結晶と比べて比重の軽い担体がキャリアとなって薬剤を送達させる技術を用いたことから、
空気のように軽い「Aero」と担体の「sphere」をとって「Aerosphere」と名付けられた。
製造販売 アストラゼネカ(株)
効能・効果 慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎、肺気腫)の諸症状の緩解
(吸入ステロイド剤、長時間作用型吸入抗コリン剤及び長時間作用性吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)
用法・用量 通常、成人には、1回2吸入を1日2回吸入投与する。
収載時の薬価 56吸入 1キット:4,074.80円
120吸入 1キット:8,771.90円

 

ビレーズトリは

  • 長時間作用性抗コリン薬(LAMA)のグリコピロニウム
  • 長時間作用性β2刺激薬(LABA)のホルモテロール
  • 吸入ステロイド薬(ICS)のブデソニド

の3種類を配合した薬剤で、3剤配合剤としては2019年に承認・販売されたテリルジー100エリプタに次いで2製品目ですね。

参考読み方:LAMAは“ラマ”、LABAは“ラバ”、ICSは“アイシーエス”

 

木元 貴祥
ちなみに、有効成分的には以下の配合剤とも言えますね。いずれもCOPDに適応を有しています。
  • シムビコート(LABAのホルモテロール+ICSのブデソニド
  • シーブリ(LAMAのグリコピロニウム

 

今回は慢性閉塞性肺疾患(COPD)とビレーズトリの作用機序についてご紹介します。

 

慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは

慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)とは、喫煙を主な原因として発症する肺の炎症性疾患です。

基本的には不可逆的の慢性疾患で、徐々に症状が進行していきます。

 

主な症状は、咳、痰や動作時の呼吸困難などで、患者さんのQOLが著しく低下するだけでなく、症状の進行によって、やがては呼吸不全を起こし、生命を脅かす可能性のある病気です。

 

ではここで、COPDがどのような症状か体験してみたいと思います。

まず息を大きく吸って下さい。そのまま吐かずに吸って吸って吸って・・・・。

ちょっと吐いて下さい。

そしたらまた吸って吸って吸って・・・。ちょっと吐いてください。これを繰り返します。

 

木元 貴祥
非常に辛いですよね・・・。このような状態がずっと続くのがCOPDの主な症状だとお考えください。

 

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の原因と病態

COPDの最大の原因は喫煙です。

喫煙者の15~20%がCOPDを発症すると言われています。従って、発症予防としては「禁煙」が最も効果的です。

 

喫煙によって気管支に炎症が生じ、それに伴い気管支平滑筋の収縮や肥厚(平滑筋が厚くなってしまう)してしまいます。

また、喫煙による痰も絡みやすくなり、次第に気管支は狭窄していってしまいます。

正常な気管支とCOPDの気管支:平滑筋の収縮や肥厚によって狭窄している

 

進行してしまうと、酸素を取り込む肺胞自体も炎症によって破壊され、呼吸機能が低下していってしまいます。

 

木元 貴祥
重度に呼吸機能が低下しすぎてしまうと、人工呼吸器を用いることもあります。

 

気管支平滑筋の収縮と弛緩(拡張)

通常、気管支平滑筋の収縮や弛緩(拡張)は副交感神経と交感神経によって調節されています。

  • 副交感神経:平滑筋の収縮
  • 交感神経:平滑筋の弛緩(拡張)

 

副交感神経から産生される「アセチルコリン」が平滑筋の「アセチルコリンM3受容体」に作用することで平滑筋が収縮します。

また、交感神経から産生される「ノルアドレナリン」が平滑筋の「アドレナリンβ2受容体」に作用することで平滑筋が弛緩(拡張)します。

気管支平滑筋の神経支配(交感神経・副交感神経)

 

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療

COPDの治療の基本は気管支拡張薬による薬物療法が中心です。1)

主な気管支拡張薬には以下があります。

  • 抗コリン薬
  • β2刺激薬
  • テオフィリン薬

 

また、上記薬剤は基本的には「吸入」で使用し、長時間持続タイプのものが使用されます。

 

抗コリン薬の長時間持続タイプを「LAMA」、β2刺激薬長時間持続タイプを「LABA」と呼んでいます。

  • LAMA:Long-acting muscarinic antagonist(長時間作用性抗コリン薬)
  • LABA:Long-acting β2-agonist(長時間作用性β2刺激薬)
  • ICS:Inhaled corticosteroids(吸入ステロイド)

 

治療を開始する際には、LAMAやLABAを単剤から使用していきますが、最近ではLAMAの単剤が第一選択として推奨されています。1)

また、喘息を併発している場合、適宜、吸入ステロイド薬(ICS)も併用します。

 

単剤で治療効果が不十分な場合に併用療法(例:LAMA+LABA、ICS+LABA)が検討されますが、症状や重症度によっては最初から併用療法が行われることもあります。

  • LAMA+LABA配合剤:アノーロ、ウルティブロ
  • ICS+LABA配合剤:レルベア、シムビコート、アドエア

 

今回ご紹介するビレーズトリはLAMAとLABAとICSの3剤を配合した薬剤で、中等度~重度の増悪歴のある患者さんに対して使用されます。

 

ビレーズトリ・エアロスフィアの作用機序

ビレーズトリは、

  • 長時間作用性抗コリン薬(LAMA)のグリコピロニウム
  • 長時間作用性β2刺激薬(LABA)のホルモテロール
  • 吸入ステロイド薬(ICS)のブデソニド

を配合した薬剤です。

 

グリコピロニウムの作用機序

グリコピロニウムは抗コリン薬に分類されています。

 

アセチルコリンM3受容体を遮断することで気管支平滑筋の収縮を抑制し、気管支を拡張するといった作用機序を有しています。

ビレーズトリの作用機序:グリコピロニウム(LAMA)

 

ホルモテロールの作用機序

ホルモテロールはβ2刺激薬に分類されています。

 

アドレナリンβ2受容体を刺激することで気管支平滑筋を弛緩(拡張)させるといった作用機序を有しています。

ビレーズトリの作用機序:ホルモテロール(LABA)

 

ブデソニドの作用機序

ブデソニドはステロイド薬であり、抗炎症作用を有しています。

COPDで特に喘息を併発している場合、気管支の炎症によって平滑筋が収縮してしまいますが、ブデソニドによって、炎症を抑制することができます。

ビレーズトリの作用機序:ブデソニド(ICS)

 

このようにビレーズトリは、

  • LAMAとLABAによる気管支拡張
  • ICSによる炎症抑制

により、炎症によって狭窄した気管支を広げ、呼吸機能の緩和が期待されています。

 

エビデンス紹介:KRONOS試験

根拠となった臨床試験を一つご紹介します。2)

本試験は中等度~重度の増悪歴のあるCOPD患者さんを対象に、以下の各群の吸入投与(1日2回)を比較する国際共同第Ⅲ相臨床試験です。(24週間)

  • ビレーズトリ群(グリコピロニウム+ホルモテロール+ブデソニド)
  • グリコピロニウム+ホルモテロール群(LAMA+LABA)
  • ビベスピ群(ホルモテロール(LABA)+ブデソニド(ICS)のエアロスフィア)
  • シムビコート群(ホルモテロール(LABA)+ブデソニド(ICS)のドライパウダー)

 

主要評価項目はいくつか設定されていましたが、その中でも「24週期間のFEV1 AUC0-4」に関してビレーズトリ群ではビベスピ群(差:104mL、p<0.0001)やシムビコート群(差:91mL、p<0.0001)と比較して有意な改善が得られています。

 

副作用と注意事項

重大な副作用として

  • 心房細動(0.2%)
  • 重篤な血清カリウム値の低下

が挙げられていますので注意が必要です。これは他のLAMA+LABA製剤でも同様ですね。

 

また、ステロイドのブデソニドには免疫低下作用もあるため、口腔内の感染症(カンジダ症など)が発現することがあります。

従って、吸入後には「うがい」をするなどして予防することが望ましいと添付文書にも記載されています。

口腔カンジダ症又は発声障害の予防のため、本剤吸入後に、うがいを実施するよう患者を指導すること。ただし、うがいが困難な患者には、うがいではなく口腔内をすすぐよう指導すること。

 

また、抗コリン薬のグリコピロニウムを配合していることから、下記の患者さんには投与禁忌です。

  • 閉塞隅角緑内障の患者さん
  • 前立腺肥大等による排尿障害がある患者さん

 

木元 貴祥
共に、抗コリン作用によって、悪化する可能性があるためですね。

 

用法・用量

通常、成人には、1回2吸入を1日2回吸入投与します。

 

収載時の薬価

収載時(2019年9月4日)の薬価は以下の通りです。

  • ビレーズトリエアロスフィア56吸入:4,074.80円(1日薬価:291.10円)

 

120吸入は長期処方解禁後、2022年5月25日に薬価収載されました。

  • ビレーズトリエアロスフィア120吸入 1キット:8,771.90円

 

薬価算定の根拠は以下の記事をご参考ください。

【新薬:薬価収載】12製品+再生医療等製品(2019年9月4日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

ビレーズトリはこんな薬

  • LAMA/LABA/ICSを配合した薬剤
  • 世界初の薬剤送達技術(エアロスフィア)
  • 1回2吸入で1日2回吸入投与する
  • 2剤配合剤と比較して効果が高い

 

実地臨床でもLAMA/LABA/ICSによって症状がコントロールできている患者さんもいらっしゃいますので、まずはそういった患者さんに対してビレーズトリへ切り替えることでアドヒアランスの向上が期待できると思われます。

 

3剤配合剤は2019年に登場したテリルジーに次いで2製品目となりました。エアロスフィアは世界初とのことですが、これが臨床効果や安全性にどの程度寄与しているのかどうかは、今後、検討が進むことを期待したいと思います。

 

以上、今回はCOPD治療薬であるビレーズトリの作用機序やエビデンスについてご紹介しました☆

 

テリルジーについては以下の記事で3剤配合剤の違いや特徴について解説していますので是非ご覧ください。

テリルジー吸入用の作用機序:ビレーズトリ・エナジアとの違い【COPD/気管支喘息】

続きを見る

 

ちなみに、同日、ビレーズトリからICSを除いたLAMA/LABA配合剤のビベスピ・エアロスフィアが承認されています。解説記事については以下をご参照ください。

ビベスピ(LAMA/LABA)の作用機序:ウルティブロ、アノーロとの違い・比較【COPD】

続きを見る

 

最後に・・・COPDは喫煙をしなければほぼ発症しない病気です。もし喫煙されている方がいらっしゃれば、今のうちから禁煙をお勧めいたします☆

 

引用文献・資料等

  1. COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2022〔第6版〕
  2. KRONOS試験:Lancet Respir Med. 2018 Oct;6(10):747-758.
  3. テリルジーエアロスフィア インタビューフォーム

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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