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2022年8月24日、「EGFR変異陽性の非小細胞肺がんにおける術後補助療法」を対象疾患とするタグリッソ錠(一般名:オシメルチニブメシル酸塩)の適応拡大が承認されました!
アストラゼネカ|ニュースリリース
タグリッソは2016年にこれまでタグリッソは「EGFR阻害薬抵抗性」かつ「EGFR T790M変異陽性」の非小細胞肺がん(NSCLC)の治療薬として登場し、その後、2018年8月21日には一次治療から使用可能とする適応拡大が承認されています。
また、2024年6月24日には、一次治療としてペメトレキセド+白金製剤(シスプラチン or カルボプラチン)との併用療法も可能になっています。
今回は非小細胞肺がんとタグリッソ(オシメルチニブ)の作用機序についてご紹介します☆
肺がんの分類について
肺がんは性質や薬の効き方によって“非小細胞肺がん”と“小細胞肺がん”に分類されています。
早期に発見できた場合、手術の適応になりますが、発見時に他の臓器に転移がある場合、化学療法(抗がん剤や分子標的薬)の治療が中心となります。
その中でも非小細胞肺がんは組織型によって以下の2種類に分類されています。
- 非扁平上皮がん
- 扁平上皮がん
今回はEGFR変異が密に関係する①非扁平上皮がんを中心にご紹介します。②扁平上皮がんについては以下の記事をご確認ください。
-
ポートラーザ(ネシツムマブ)の作用機序と副作用【肺がん】
続きを見る
非小細胞肺がんの治療(手術可能な早期の場合)
早期発見で手術可能な場合、手術によってがんを全て取り除くことが可能です。
しかしながら、進行度によっては目に見えないがん細胞が体内に残存している可能性があるため、術後に抗がん剤を用いた治療(術後補助療法)が行われることがあります。
主に使用される薬剤としては
- ティーエスワン(S-1)
- シスプラチン+抗がん剤併用療法
などです。
また、しばしばEGFR遺伝子変異が陽性の場合もあり、その場合、ガイドラインでは従来の術後補助化学療法後にタグリッソによる治療が提案されています(病期Ⅱ-ⅢA期(第8版))。1)
非小細胞肺がんの治療(切除不能・再発の場合)
非小細胞肺がん(非扁平上皮がん)の初回化学療法(一次化学療法)は、がんの遺伝子状況(ドライバー遺伝子変異など)によって対応するチロシンキナーゼ阻害薬を使用します。1)
ドライバー遺伝子変異など | 初回化学療法例 |
EGFR遺伝子変異陽性 |
|
ALK融合遺伝子陽性 | |
ROS1融合遺伝子陽性 | |
BRAF遺伝子変異陽性 | |
MET遺伝子変異陽性 | |
RET融合遺伝子陽性 | |
遺伝子変異/転座陰性 (または不明) |
|
また、EGFR変異陽性の一次治療でよく使用されているのはタグリッソですね。
EGFR遺伝子変異陽性の肺がんと治療薬
がん細胞が増殖するメカニズムは様々な仕組みが存在していますが、がん細胞はしばしば「EGFR」と呼ばれるタンパク質を発現していることあります。
因子であるEGFが、がん細胞のEGFRに結合すると、その刺激が細胞内を伝達(シグナル伝達)し、核内に刺激が届けられます。
核内まで刺激が伝達すると、増殖・活性化が促進され、がん細胞の増殖に繋がります。
ただし、因子であるEGFが存在しない場合、刺激が核に伝達しないため、がん細胞は増殖しません。
非小細胞肺がんの約半数の患者さんではEGFRの遺伝子に変異のあることが知られています。
これを「EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん」と呼んでいます。
EGFR遺伝子変異陽性の場合、因子であるEGFが存在しないにも関わらず、恒常的にシグナル伝達が核へと伝達されています。
そのため、常にがん細胞は増殖が活性化されている状態です。
EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんの一次治療
EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんの一次治療では、これまで下記のいずれかのEGFR阻害薬が使用されていました。
- 第一世代:イレッサ(一般名:ゲフィチニブ)、タルセバ(一般名:エルロチニブ)
- 第二世代:ジオトリフ(一般名:アファチニブ)
今回ご紹介するタグリッソは「第三世代」に分類されるEGFR阻害薬で、2018年までは二次治療しか使用できませんでしたが、現在は一次治療から使用可能です。
なお、一次治療としてペメトレキセド+白金製剤(シスプラチン or カルボプラチン)との併用療法も可能になりました。
EGFR阻害薬の耐性
第一世代と第二世代のEGFR阻害薬の登場によって、EGFR遺伝子変異の非小細胞肺がんの生存期間は延長しましたが、奏効しても、ほとんどの患者さんは1年程度で耐性化し病状が進行してしまいます。
また、この耐性化した患者さんの過半数にEGFR遺伝子の“T790M変異”がみられるということがあり、T790M変異がある場合、EGFRに第一/第二世代のEGFR阻害薬が結合できなくなってしまいます。
その結果、がん細胞のシグナル伝達が回復し、再度、がんの増殖が活性化されてしまいます。
タグリッソ(一般名:オシメルチニブ)の作用機序
今回ご紹介するタグリッソ錠は、
- EGFR遺伝子変異のあるEGFR
- T790Mが変異したEGFR
を共に不可逆的に阻害する薬剤です!
EGFRを阻害することでシグナル伝達を阻害させ、がん細胞の増殖を抑制するといった作用機序を有しています。
特に、T790Mが変異したがん細胞のEGFRでも阻害することができるため、一次治療で耐性のあった患者さんに対しても効果が期待できます。また阻害作用は第一世代や第二世代より強力なため、一次治療で使用することも可能です。
そして、今後は術後補助療法としても使用できます。
エビデンス紹介(一次治療):FLAURA試験
一次治療の根拠となった臨床試験をご紹介します(FLAURA試験)。2)
本試験はEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者さんの一次治療において、第一世代のEGFR阻害薬(イレッサもしくはタルセバ)とタグリッソを直接比較する第Ⅲ相試験です。
主要評価項目は「無増悪生存期間(PFS)」で、結果は以下の通りでした。
臨床試験名 | FLAURA試験2) | |
試験群 | イレッサ or タルセバ | タグリッソ |
PFS中央値※ | 10.2か月 | 18.9か月 |
HR=0.46, p<0.001 | ||
奏効率† | 76% | 80% |
p=0.24 | ||
18か月時点の生存率 | 71% | 83% |
HR=0.63, p=0.007 | ||
Grade 3以上の有害事象発現率 | 45% | 34% |
※PFS(無増悪生存期間):薬を投与してから、がんが大きく(増大)するまでの期間
†奏効率:がんが30%以上縮小した患者さんの割合
このようにタグリッソ群では有意なPFSの延長と、生存率の改善が認められています。
また、Grade 3以上の有害事象の発現頻度もタグリッソ群で低い結果でした。
その後、一次治療としてペメトレキセド+白金製剤(シスプラチン or カルボプラチン)にタグリッソを上乗せすることを検証したFLAURA2試験において、有意なPFSの延長も認められています。3)
エビデンス紹介(術後補助療法):ADAURA試験
術後補助療法の根拠となった試験をご紹介します(ADAURA試験)。4)
本試験は手術によって完全切除可能であったEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者さん(StageはⅠB・Ⅱ・ⅢA)を対象に、従来の術後補助療法を実施後にタグリッソとプラセボを直接比較する国際共同第Ⅲ相試験です。
タグリッソは1日1回経口投与で3年間または再発するまで継続
主表評価項目は「StageⅡ・ⅢAにおける無病生存期間(DFS*)」とされ、結果は以下の通りでした。
タグリッソ群 | プラセボ群 | |
2年時点の StageⅡ・ⅢAにおけるDFS率 |
90% | 44% |
HR=0.17(99.06%CI:0.11-0.26) P<0.001 |
*DFS(無病生存期間):再発・二次がん発生の無く生存している期間
2年時点で実に9割の患者さんが再発せずに生存しているという結果でした!すごいですね。
副作用
主な副作用として、発疹・ざ瘡等、下痢、皮膚乾燥・湿疹等、爪の障害などが報告されています。
皮膚や爪の副作用が多い印象ですね。
あとがき
これまで一次治療のEGFR阻害薬同士の臨床試験は無く、使い分けが困難でした。
上記の臨床試験によって、第一世代のEGFR阻害薬よりもタグリッソの方が成績が優れていたことから、現在はタグリッソが一次治療から広く使用されています。
以上、今回は非小細胞肺がんに対する新たな治療選択肢としてタグリッソ錠をご紹介いたしました♪
引用文献・資料等
- 日本肺癌学会|肺癌診療ガイドライン2023年版
- FLAURA試験:N Engl J Med. 2018 Jan 11;378(2):113-125.
- FLAURA2試験:N Engl J Med 2023;389:1935-1948
- ADAURA試験:N Engl J Med 2020; 383:1711-1723
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