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2021年11月25日、「未治療のALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」を対象疾患とするローブレナ錠(ロルラチニブ)の適応拡大が承認されました!
これに伴い、効能・効果は「ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」に変更されています。
ファイザー|ニュースリリース
ローブレナは2018年9月21日、「ALKチロシンキナーゼ阻害剤に抵抗性または不耐性のALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」を効能・効果として、「条件付き早期承認制度」の適用第1号で承認されています!この時は申請から約8か月とかなりのスピード承認!
よって、これまでは未治療例(初回治療)では使用できず、二次治療以降の使用に限られていました。
今回は非小細胞肺がんとローブレナ(ロルラチニブ)の作用機序についてご紹介します☆
肺がんの分類について
肺がんは性質や薬の効き方によって“非小細胞肺がん”と“小細胞肺がん”に分類されています。
早期に発見できた場合、手術の適応になりますが、発見時に他の臓器に転移がある場合、化学療法(抗がん剤や分子標的薬)の治療が中心となります。
非小細胞肺がんの治療(切除不能・再発の場合)
非小細胞肺がんはその組織型によって以下の2種類に分類されています。
- 非扁平上皮がん
- 扁平上皮がん
今回は①非扁平上皮がんを中心にご紹介します。②扁平上皮がんについては以下の記事をご確認ください。
-
ポートラーザ(ネシツムマブ)の作用機序と副作用【肺がん】
続きを見る
非小細胞肺がん(非扁平上皮がん)の初回化学療法(一次化学療法)は、がんの遺伝子状況(ドライバー遺伝子変異など)によって対応するチロシンキナーゼ阻害薬を使用します。1)
ドライバー遺伝子変異など | 初回化学療法例 |
EGFR遺伝子変異陽性 |
|
ALK融合遺伝子陽性 |
|
ROS1融合遺伝子陽性 | |
BRAF遺伝子変異陽性 | |
MET遺伝子変異陽性 | |
RET融合遺伝子陽性 | |
遺伝子変異/転座陰性 (または不明) |
|
ALK融合遺伝子とがんの増殖メカニズム
がん細胞が増殖するメカニズムは様々な仕組みが存在していますが、がん細胞は増殖因子の結合する受容体を持っています。
受容体を構成する遺伝子の1つに「ALK遺伝子」が知られていますが、正常なALK遺伝子を持つ受容体では、増殖因子が結合することで、その刺激が細胞内を伝達(シグナル伝達)し、核内に刺激が届けられます。
核内まで刺激が伝達すると、増殖・活性化が促進され、がん細胞の増殖に繋がります。
ただし、増殖因子が存在しない場合、刺激が核に伝達しないため、がん細胞は増殖しません。
しかし、非小細胞肺がんの約2~5%の患者さんでは、ALK遺伝子と別の遺伝子が入れ替わって融合してしまうことが知られています。
融合してしまった遺伝子のことを「ALK融合遺伝子」と呼んでおり、これを元に「ALK融合タンパク」が合成されます。
ALK融合タンパクは、増殖因子が存在しないにも関わらず、恒常的にシグナル伝達が核へと伝達されています。
そのため、常にがん細胞は増殖が活性化されている状態です。
ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんの一次治療
ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんの一次治療では、これまで下記のいずれかのALK阻害薬が使用されていました。
- 第一世代:ザーコリ(一般名:クリゾチニブ)
- 第二世代:アレセンサ(一般名:アレクチニブ)、ジカディア(一般名:セリチニブ)
- 第三世代:アルンブリグ(一般名:ブリグチニブ)
今回ご紹介するローブレナは「第三世代」に分類されるALK阻害薬で、第一/第二世代のALK阻害薬で耐性の生じた肺がん細胞に使用されていましたが、今後はローブレナも一次治療の治療選択肢として使用可能となります。
ローブレナは元々、ALK阻害薬耐性のがんに対して創薬・開発された薬剤ですので、耐性メカニズムを解説します。
ALK阻害薬の耐性
第一世代と第二世代のALK阻害薬の登場によって、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんの生存期間は延長しましたが、いずれ遺伝子変異(例:G1202R⇒1202番目のグリシンがアルギニンに置換)によって耐性を生じてしまいます。
耐性化した患者さんではALK融合タンパクに第一/第二世代のALK阻害薬が結合できなくなってしまいます。
その結果、がん細胞のシグナル伝達が回復し、再度、がんの増殖が活性化されてしまいます。
ローブレナ(ロルラチニブ)の作用機序と特徴
ローブレナはG1202Rなどの遺伝子変異(耐性)の生じたALK融合タンパクに対しても阻害作用を有する薬剤です!
ALK融合タンパクを阻害することでシグナル伝達を阻害させ、がん細胞の増殖を抑制するといった作用機序を有しています。
このように、一次治療のALK阻害薬で耐性のあった患者さんに対しても効果が期待できるのがローブレナです。また、ローブレナは血液脳関門を通過できるように設計されいるため、脳転移に対しても効果が期待されています。
エビデンス紹介:一次治療を対象としたCROWN試験
一次治療の根拠となった臨床試験(CROWN試験)をご紹介します。2)
ALK陽性の非小細胞肺がん患者さんを対象に、一次治療としてのローブレナとザーコリを比較する国際共同第Ⅲ相試験です(日本人を含む)。
本試験の主要評価項目は「無増悪生存期間(PFS)*」とされ、結果は以下の通りでした。
ローブレナ群 | ザーコリ群 | |
12か月時点のPFS率* | 78% | 39% |
HR=0.28(95%CI:0.19-0.41) p<0.001 |
||
奏効率† | 76% | 58% |
脳転移を有する患者における 頭蓋内の奏効率 |
82% | 23% |
*無増悪生存期間(PFS):がんが増殖(増悪)せずに生存している期間
†奏効率:がんが30%以上縮小した患者さんの割合
その他、最初の承認の根拠となった、ALK阻害薬抵抗性に対して根拠とされたのはALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺癌患者さんを対象とした国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験が根拠です。3-4)
本試験の第Ⅱ相パートにおいて、前治療で1レジメン以上のALK阻害薬が投与されていた患者さんの奏効率は47%と報告されています。
ちなみに、当初ローブレナは「条件付き早期承認制度」を利用していたため、第Ⅲ相試験を待たずに上記第Ⅰ/Ⅱ相試験のみで承認されました。
用法・用量
通常、成人にはロルラチニブとして1日1回100mgを経口投与します。
副作用
主な副作用として、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、浮腫、末梢性ニューロパチー、体重増加、疲労、下痢、関節痛などが報告されています。
重大な副作用としては、
- 間質性肺疾患(0.9%)
- QT間隔延長(5.2%)
- 中枢神経系障害(20.8%)、精神障害(15.8%)
- 膵炎(10.1%)
- 肝機能障害(18.2%)
が挙げられているので特に注意が必要です。
収載時の薬価
収載時(2018年11月20日)の薬価は以下の通りです。
- ローブレナ錠25mg:7,216.40円
- ローブレナ錠100mg:25,961.00円(1日薬価:25,961.00円)
算定方法等については以下の記事をご覧ください。
-
【新薬:薬価収載】12製品(2018年11月20日)と市場拡大再算定
続きを見る
まとめ・あとがき
ローブレナはこんな薬
- ALK阻害薬
- 第一/第二世代のALK阻害薬で耐性が生じた場合にも治療効果が期待できる
- 条件付き早期承認制度に指定されている
- 一次治療にも使用可能
ALK阻害薬が登場したことで、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん患者さんの予後は飛躍的に延長しましたが、ずっと効果が続くわけではなく、耐性が生じた場合、次の治療選択肢は限られていました。
ローブレナは第一/第二世代のALK阻害薬で耐性が生じた場合にも治療効果が期待されている薬剤です。
本剤は国内初の
- 条件付き早期承認制度
に指定されているため、申請から僅か8か月の迅速な承認でした!条件付き早期承認制度の概要については厚労省の資料をご覧ください。
今後は一次治療から使用が期待できますので、治療選択肢が増えることは朗報ですね。
以上、今回は非小細胞肺がんとローブレナ(ロルラチニブ)の作用機序についてご紹介しました!
引用文献・資料等
- 日本肺癌学会|肺癌診療ガイドライン2023年版
- CROWN試験:N Engl J Med 2020; 383:2018-2029
- ローブレナ 添付文書
- Lancet Oncol. 2018 Dec;19(12):1654-1667.
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