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セムブリックス(アシミニブ)の作用機序・特徴【CML】

2022年3月28日、「慢性骨髄性白血病」を対象疾患とするセムブリックス錠(アシミニブ)が承認されました!

ノバルティスファーマ|ニュースリリース

基本情報

製品名 セムブリックス錠20mg/40mg
一般名 アシミニブ塩酸塩
製品名の由来 特になし
製造販売 ノバルティス ファーマ(株)
効能・効果 前治療薬に抵抗性又は不耐容の慢性骨髄性白血病
用法・用量 通常、成人には1回40mg を1日2回、空腹時に経口投与する。
なお、患者の状態により適宜減量する。
収載時の薬価 20mg:5,564.50円
40mg:10,618.30円
発売日 2022年5月25日新発売(HP

 

慢性骨髄性白血病(CML)ではチロシンキナーゼ阻害薬による治療が基本ですが、しばしば治療抵抗性・不耐容のことがあります。

 

その場合、違う種類のチロシンキナーゼ阻害薬を使用しますが、いずれも作用機序はATPポケットに対する阻害のため、新たなアプローチが望まれていました。

 

セムブリックスはBCR-ABLミストイルポケットを選択的に阻害(Specifically Targeting the ABL Myristoyl Pocket)する新薬で、その頭文字をとって、STAMP阻害薬と呼ばれています。ちょっと無理やり感がありますが・・(笑)

 

木元 貴祥
既存薬とは別の作用機序のため、既存薬で耐性が生じた場合に効果が期待されていますね。

 

本記事では慢性骨髄性白血病とセムブリックス(アシミニブ)の作用機序について解説しています。

 

慢性骨髄性白血病とは

白血病は「血液のがん」です。

血液細胞には、白血球(好中球、好酸球、好塩基球)、赤血球、リンパ球等がありますが、これら血液細胞の異常化(腫瘍化=がん化)によって引き起こされる病気を白血病と総称しています。

 

木元 貴祥
本当は細かく分類すると100種類以上(WHO分類)あるのですが・・・割愛します。。

 

血液細胞の元となる細胞として造血幹細胞が知られていますが、この造血幹細胞に異常が発生(腫瘍化)し、「好中球」が異常に増殖する疾患を慢性骨髄性白血病(CML:Chronic Myelogenous Leukemia)と呼んでいます。

便宜的に、腫瘍化した造血幹細胞を以降、「白血病細胞」と呼びます。

 

初期の自覚症状はほとんどなく、非常にゆっくりと進行していきます。そのため健康診断などで白血球数の増加を指摘され、偶然見つかる場合が半数以上を占めると言われています。1)

 

しかし、発見が遅れたり、治療が遅れたりして進行してしまうと、

  • 倦怠感・無力感
  • 発熱・寝汗
  • 体重減少
  • 脾臓の増大(腹部膨満感)
  • 骨痛

などの自覚症状が発現し、その後、致死的な転帰を辿ってしまいます。

 

木元 貴祥
CMLは現在では早期発見・早期治療を行えば非常に予後良好ですので、早めの対処が重要です!

 

原因:フィラデルフィア(Ph)染色体

CMLの白血病細胞の細胞内には、通常の細胞には存在しない“フィラデルフィア(Ph)染色体”が存在しています。

 

これは何らかの原因で9番染色体と22番染色体の相互転座が起こることで生じますが、その際のPh染色体上にはBCRビーシーアール遺伝子とABLエイブル遺伝子が融合したBCR-ABL遺伝子が新たに作られています。

 

BCR-ABL遺伝子から合成されるBCR-ABLチロシンキナーゼにATP(体内のエネルギーの元)が結合することで活性化し、白血病細胞の増殖活性が促されるというメカニズムですね。

BCR-ABL遺伝子(BCR-ABLチロシンキナーゼ)とCMLの白血病細胞の増殖

 

治療:TKIが中心

BCR-ABLチロシンキナーゼがCMLの白血病細胞を増殖させている原因なので、これを阻害するチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が治療の中心で、いずれもATP結合部位を阻害します。

 

初回治療として使用可能なTKIには以下の3種類です。2)

 

使い分けは明確ではありませんが、治療効果は第一世代のグリベックよりも第二世代の方が高い一方で、心血管系の副作用の発現が高いとされています。2)

 

木元 貴祥
患者さんの年齢・リスク・希望等を考慮されて使い分けされている現状ですね。

 

TKIによる初回治療で耐性・抵抗性を示した場合、他のTKIを使用していきます。例えば、初回治療でグリベックが効かなくなれば、二次治療はタシグナ、三次治療はボシュリフみたいな感じです。

 

また、ATP結合部位には様々な耐性が発生すると考えられていて、その代表が「T315I変異」です。この場合、第三世代のアイクルシグ(一般名:ポナチニブ)が使用されますね。

血液
アイクルシグ(ポナチニブ)の作用機序【CML】

続きを見る

 

今回ご紹介するセムブリックスは既存のTKIを2剤以上使用しても耐性・抵抗性が認められた場合に使用できる薬剤です!!

 

セムブリックス(アシミニブ)の作用機序:STAMP阻害薬

BCR-ABLチロシンキナーゼにはATPが結合する部位の他、その活性を司るABLミストイルポケットと呼ばれる部位が存在しています。

正常なABLタンパク質は、C末端側にあるミストイルポケットにN末端部分が結合すると不活性化し、N末端側がミストイルポケットから外れると活性化します。3)

 

しかし、BCR-ABLチロシンキナーゼは、N末端側がBCRタンパク質に置き換わってしまうことでミストイルポケットに結合できなくなり、常に活性化した状態です。3)

 

今回ご紹介するセムブリックスはBCR-ABLチロシンキナーゼのABLミストイルポケットを選択的に阻害する薬剤です。

セムブリックス(アシミニブ)の作用機序:STAMP阻害薬

 

既存のTKIとは別の部位をターゲットとしているため、既存TKIで耐性が生じた場合にも治療効果が期待されていますね。

 

T315I変異に対しても治療効果が得られていますよ~。3)

 

エビデンス紹介:ASCEMBL試験

根拠となった臨床試験をご紹介します(ASCEMBL試験)。4)

本試験は2つ以上のチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)に耐性/不耐性の慢性期の慢性骨髄性白血病患者さんを対象に、セムブリックスとボシュリフを比較する第Ⅲ相臨床試験です。

 

主要評価項目は「24週時点のMMR率*」とされ、結果は以下の通りでした。

試験群 セムブリックス ボシュリフ
24週時点のMMR率* 25.5% 13.2%
p=0.029

*MMR(Major Molecular Response:分子遺伝学的大奏効):BCR-ABL遺伝子の検出レベルが0.1%以下

 

MMR率はセムブリックス群で有意に高い結果でした。また、Grade3以上の有害事象もセムブリックス群で低かったとのことです。

 

現在、初回治療の臨床試験(セムブリックス vs. 各TKI)も進行中のため、期待ですね!5)

 

副作用

5%以上に認められる副作用として、頭痛、悪心、発疹、疲労などが報告されています。

 

重大な副作用としては

  • 骨髄抑制:血小板減少症(24.4%)、好中球減少症(17.9%)、発熱性好中球減少症(0.6%)、貧血(5.1%)等
  • 膵炎:膵炎(頻度不明)、リパーゼ増加(3.2%)、アミラーゼ増加(4.5%)等
  • QT間隔延長(1.3%)
  • 感染症:肺炎(0.6%)等
  • 血管閉塞性事象:脳梗塞(0.6%)、心筋虚血(0.6%)等

が挙げられていますので、特に注意が必要です。

 

用法・用量

通常、成人には1回40mg を1日2回、空腹時に経口投与します。

患者の状態により適宜減量

 

収載時の薬価

収載時(2022年5月25日)の薬価は以下の通りです。

  • セムブリックス錠20mg:5,564.50円
  • セムブリックス錠40mg:10,618.30円(1日薬価:21,236.60円)

 

算定根拠については以下をご参考ください。

【新薬:薬価収載】14製品(2022年5月25日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

セムブリックスはこんな薬

  • 2つ以上のTKI治療歴のあるCMLに対して効果が期待されている
  • ABLミストイルポケットを選択的に阻害STAMP阻害薬
  • 1日2回経口投与

 

近年、CMLはTKIの登場によって予後良好な疾患になりつつあります。

 

しかしながら、一定の患者さんではTKIに不応・不耐となってしまうため、新たな治療選択肢・新たな作用機序の開発が望まれていました。

 

木元 貴祥
セムブリックスは既存TKIとは別の部位をターゲットとしているため、期待できるのではないでしょうか。

 

初回治療としても臨床試験実施中5)のため、興味深いですね!

 

以上、今回は慢性骨髄性白血病(CML)とセムブリックス(アシミニブ)の作用機序・エビデンスについて解説しました!

 

参考資料・文献等

  1. がん情報サービス|慢性骨髄性白血病
  2. 日本血液学会|造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版
  3. N Engl J Med 2019; 381:2315-2326
  4. ASCEMBL試験:Blood. 2021 Nov 25;138(21):2031-2041.
  5. ClinicalTrials.gov:NCT04971226

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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