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- タフィンラーカプセル(一般名:ダブラフェニブ)
- メキニスト錠(一般名:トラメチニブ)
の効能・効果に「BRAF遺伝子変異を有する低悪性度神経膠腫」を追加することが承認されました。
両薬剤は2016年3月28日に「BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫」を効能・効果として承認され、その後、2018年3月には非小細胞肺がん、2018年7月には悪性黒色腫の術後補助療法、2023年11月24日には固形腫瘍の臓器横断的な適応拡大が承認されています。
現在の効能・効果は以下の通りです。
- BRAF遺伝子変異を有する悪性黒色腫
- BRAF遺伝子変異を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん
- 標準的な治療が困難なBRAF遺伝子変異を有する進行・再発の固形腫瘍(結腸・直腸癌を除く)(※1歳以上の小児含む)
- BRAF遺伝子変異を有する再発又は難治性の有毛細胞白血病
- BRAF遺伝子変異を有する低悪性度神経膠腫(※1歳以上の小児含む)
ちなみに、他の遺伝子変異では既に臓器横断的な承認を取得している薬剤もあります。例えば、MSI-Highに対するキイトルーダ(ペムブロリズマブ)や、NTRK融合遺伝子陽性に対するロズリートレク(エヌトレクチニブ)などです。
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キイトルーダ(ペムブロリズマブ)の作用機序【消化器がん/MSI-High固形がん】
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今回は悪性黒色腫・肺がんを中心にご紹介していきます。
悪性黒色腫とその治療
悪性黒色腫(メラノーマ)は皮膚がんの1つであり、ほくろのような黒色のがんができることからこのような名前が付けられています。
発生部位は足底(足のうら)が最も多く、体幹、顔面、爪が続きます。
悪性黒色腫は早期発見(StageⅠ~Ⅲの一部)できれば手術で取り除くことができ、その後は基本的に経過観察(無治療)でした。
しかし、StageⅢでBRAF遺伝子に変異がある場合、無治療では再発のリスクが高く、何かしらの術後補助療法が求められていました。
一方、発見時に進行している場合(StageⅣ)は手術の適応とならず、抗がん剤や分子標的治療薬による治療が行われます。
主に使用される薬剤は以下があります。
- BRAF遺伝子変異ありの場合:タフィンラー(ダブラフェニブ)+メキニスト(トラメチニブ)併用療法、ゼルボラフ(ベムラフェニブ)
- BRAF遺伝子変異無しの場合:免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボ、ヤーボイ、キイトルーダ)の単剤投与
2018年には、免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法も承認されています!
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オプジーボとヤーボイ併用療法の作用機序【悪性黒色腫/腎/大腸/肺/食道がん】
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今回ご紹介するタフィンラー+メキニストは、BRAF変異のあるStageⅣおよび、BRAF変異のあるStageⅢの術後補助療法として使用可能です。なお、悪性黒色腫の約20~30%の患者さんではBRAFの遺伝子に変異のあることが知られています。
その他、類薬としてビラフトビ(エンコラフェニブ)+メクトビ(ビニメチニブ)併用療法も使用できます。
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ビラフトビ/メクトビ併用療法の作用機序【悪性黒色腫/大腸/甲状腺がん】
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非小細胞肺がんと治療について
肺がんは性質や薬の効き方によって“小細胞肺がん”と“非小細胞肺がん”に分類されています。
早期に発見できた場合、手術の適応になりますが、発見時に他の臓器に転移がある場合、化学療法(抗がん剤や分子標的薬)の治療が中心となります。
非小細胞肺がんの初回化学療法(一次化学療法)は、がんの遺伝子状況によって以下の優先順位で使用する薬剤が細かく使い分けられています。
ドライバー遺伝子変異など | 初回化学療法例 |
EGFR遺伝子変異陽性 |
|
ALK融合遺伝子陽性 | |
ROS1融合遺伝子陽性 | |
BRAF遺伝子変異陽性 |
|
MET遺伝子変異陽性 | |
RET融合遺伝子陽性 | |
遺伝子変異/転座陰性 (または不明) |
|
今回ご紹介するタフィンラーとメキニストが関与するBRAF遺伝子変異は、約1~2%に認められると言われています。
BRAF遺伝子変異陽性のがん
がん細胞が増殖するメカニズムは様々な仕組みが存在していますが、がん細胞はしばしば「EGFR」と呼ばれるタンパク質を発現していることあります。
因子であるEGFが、がん細胞のEGFRに結合すると、その刺激が細胞内を伝達(シグナル伝達)し、核内に刺激が届けられます。
このシグナル伝達の中継点として「BRAF(“ビーラフ”と読みます)」や「MEK(“メック”と読みます)」が存在することが知られており、BRAFに伝わったシグナルはMEKに届けられ、核内まで届けられます。
核内まで刺激が伝達すると、増殖・活性化が促進され、がん細胞の増殖に繋がります。
ただし、因子であるEGFが存在しない場合、刺激が核に伝達しないため、がん細胞は増殖しません。
一方、BRAF遺伝子変異陽性の場合、因子であるEGFが存在しないにも関わらず、恒常的にBRAFから下流のシグナル伝達が核へと伝達されています。そのため、MEKも間接的に活性化していると考えられます。
このようにBRAF遺伝子に変異があると、常にがん細胞の増殖が活性化されています。
この変異のある患者さんではがん細胞の増殖速度や転移が促進されており、更には薬剤が効きにくいことから予後不良とされていました。
また、悪性黒色腫や非小細胞肺がん以外の固形がんでもBRAF遺伝子変異がしばしば認められていますが、これまでは有効な治療法がありませんでした。
タフィンラーとメキニストの作用機序
タフィンラーは、BRAF遺伝子変異のあるBRAFを特異的に阻害する薬剤です!
変異したBRAFを阻害することでシグナル伝達を阻害させ、がん細胞の増殖を抑制するといった作用機序を有しています。
また、間接的にMEKも活性化しているため、MEKを特異的に阻害するメキニスト(一般名:トラメチニブ)を併用して用いることでシグナル伝達をより強固に阻害することが可能となります。
このように「タフィンラー」と「メキニスト」は、BRAF遺伝子変異の患者さんに対して併用で使用します。
今後は、標準的な治療が困難なBRAF遺伝子変異の固形がん(大腸がんを除く)に対しても、タフィンラー+メキニストが使用可能となります!!
ちなみに、大腸がんについては、既に類薬のビラフトビ+メクトビが使用可能です。タフィンラー+メキニストの臨床試験でも大腸がんは除かれていました。
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ビラフトビ/メクトビ併用療法の作用機序【悪性黒色腫/大腸/甲状腺がん】
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悪性黒色腫(進行・再発)のエビデンス紹介:COMBI-V試験
BRAF遺伝子変異のある進行・再発の悪性黒色腫に対して、ゼルボラフ(一般名:ベムラフェニブ)とタフィンラー/メキニストを直接比較した第Ⅲ相臨床試験(COMBI-V試験)をご紹介します。1)
本試験の主要評価項目は「全生存期間」でした。
臨床試験名 | COMBI-V試験1) | |
試験群 | ゼルボラフ | タフィンラー/ メキニスト |
PFS中央値※ | 7.3か月 | 11.4か月 |
HR=0.56, P<0.001 | ||
全生存期間中央値 | 17.2か月 | 未到達 |
HR= 0.69, P=0.005 | ||
奏効率† | 51% | 64% |
※PFS(無増悪生存期間):薬を投与してから、がんが大きく(増大)するまでの期間
†奏効率:がんが30%以上縮小した患者さんの割合
ゼルボラフ(一般名:ベムラフェニブ)と比較してタフィンラー/メキニストの方が治療効果が高いことが示されています。
悪性黒色腫(術後補助療法)のエビデンス紹介:COMBI-AD試験
BRAF遺伝子変異のあるStageⅢの悪性黒色腫の手術後に、プラセボ投与とタフィンラー/メキニストを直接比較した第Ⅲ相臨床試験(COMBI-AD試験)をご紹介します。2)
プラセボ、タフィンラー/メキニストの治療期間は12か月(1年)間です。
本試験の主要評価項目は「無再発生存期間(RFS)」でした。
臨床試験名 | COMBI-AD試験2) | |
試験群 | プラセボ | タフィンラー/ メキニスト |
3年時点のRFS率* | 39% | 58% |
HR=0.47, P<0.001 | ||
3年時点の生存率 | 77% | 86% |
HR=0.57, P=0.0006 |
*3年RFS(無再発生存期間)率:3年時点で再発せずに生存されている割合
プラセボと比較してタフィンラー/メキニスト方が再発率を抑制できることが示されています。
臓器横断のエビデンス紹介:NCI-MATCH Subprotocol H試験、BELIEVE試験(NCCH1901)、他
標準的な治療が困難なBRAF遺伝子変異の固形がん患者さんや胆道がん患者さんを対象とした海外のNCI-MATCH Subprotocol H試験3)やROAR試験4)、および国内で同対象に対して実施されたBELIEVE試験(NCCH1901)5)の結果、奏効率等の有効性が認められました。
参考までに、国内のBELIEVE試験(NCCH1901)についてご紹介します。
本試験は、通称「受け皿試験」とも呼ばれ、希少な遺伝子変異を有する患者さんを対象に、それぞれの遺伝子異常に対応する適応外薬を添付文書に基づいて投与し、治療経過についてのデータを収集することを目的とした試験です。
国立がん研究センター中央病院が全体の調整事務局となり、がんゲノム医療中核拠点病院12施設で行う多施設共同研究です。
本来であれば、適応外薬を使用すると保険適応外のため、多額の薬剤費がかかりますが、本研究では賛同が得られた企業から薬剤無償提供を受け、患者さんの負担軽減が図られています。
国立がん研究センター中央病院|治療選択肢の可能性を求めて(患者申出療養)
無償提供されている医薬品リストや登録状況については、上記のリンクから確認することができます。
試験の結果は論文5)で報告されていて、奏効率は28.0%と、主要評価項目を達成していました。
あとがき
悪性黒色腫に対する治療は、ここ最近で多くの新規薬剤(オプジーボ、ヤーボイ、ゼルボラフ)が登場してきました。
進行・再発では同様の作用機序を有する類薬のビラフトビ/メクトビ併用療法が登場しています。使い分けについても考察していますので、是非ご覧ください。
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ビラフトビ/メクトビ併用療法の作用機序【悪性黒色腫/大腸/甲状腺がん】
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術後補助療法については、オプジーボ(一般名:ニボルマブ)やキイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)も登場しているため、今後はこれらの薬剤との使い分けも気になるところです。
また、今後は標準的な治療が困難なBRAF遺伝子変異の固形がん(大腸がんを除く)に対しても、タフィンラー+メキニストが使用可能となります。
以上、今回はBRAF遺伝子変異を有するがんと、タフィンラー/メキニストの作用機序についてご紹介しました☆
引用文献・資料等
- COMBI-V試験:N Engl J Med. 2015 Jan 1;372(1):30-9.
- COMBI-AD試験:N Engl J Med. 2017 Nov 9;377(19):1813-1823.
- NCI-MATCH Subprotocol H試験:J Clin Oncol. 2020 Nov 20;38(33):3895-3904.
- ROAR試験:Lancet Oncol. 2020 Sep;21(9):1234-1243.
- BELIEVE試験(NCCH1901):EClinicalMedicine. 2024 Feb 2:69:102447.
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