4.消化器系

モビコール配合内用剤(マクロゴール)の作用機序:類薬との比較/違い【便秘症】

慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」を効能・効果とするモビコール配合内用剤(一般名:マクロゴール4000/塩化ナトリウム/炭酸水素ナトリウム/塩化カリウム)2018年9月21日に承認されました。

基本情報

製品名 モビコール配合内用剤LD
モビコール配合内用剤HD
一般名 マクロゴール4000/塩化ナトリウム/炭酸水素ナトリウム/塩化カリウム
製品名の由来 特になし
製薬会社 製造販売元:EAファーマ(株)
販売:持田製薬(株)
効能・効果 慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)
用法・用量 記事中参照

 

モビコールは小児の慢性便秘症にも使用できる薬剤です!

 

元々は「モビコール配合内用剤」でしたが、2021年1月に同製剤は「モビコール配合内用剤LD」に名称変更され、高用量タイプの「モビコール配合内用剤HD」が承認されています。

 

今回は、慢性便秘症とモビコール(マクロゴール)の作用機序、そして類薬(グーフィスアミティーザリンゼスラグノス)との違い・比較についてご紹介します。

 

便秘の疫学

便秘症は、

  • 本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態

と定義されています。

 

便秘の患者さんは全人口の1割程度で、治療に不満を抱く患者さんも多い疾患です。

皆様も便秘は経験されたことがあると思いますが、実際に便秘になると、、、辛いですよね・・・。

 

発症は年齢が高くなればなるほど割合が多くなります。

また、男女比では女性に多くいとされていますが、高齢になれば男女差は無くなっていきます

特に80歳以上では男性に多いとされています。

 

小児でも10人に1人は便秘になると言われており、トイレトレーニングの頃に多いとされています。

 

便秘の症状と種類

便秘の主症状は、腹痛、直腸残便感、腹部膨満感などがあります。

 

また、発症経過から「急性便秘」と「慢性便秘」に大別されています。

具体的には、排便回数の減少排便困難の状態が6カ月以上持続する場合に、「慢性便秘」と診断されます。

 

さらに原因や病態により「器質性便秘」と「機能性便秘」等に分類されています。

  • 器質性便秘:腸の形態的変化(構造異常)を伴う便秘で、胃腸の疾患によるものが多い
  • 機能性便秘:腸の形態的変化(構造異常)を伴わない便秘で、胃腸の機能低下(ストレスや運動不足、食生活)によるものが多い

 

一般的には機能性便秘が多いとされていますね。

 

便秘の治療

これら便秘症に対しては、

  • 生活習慣の改善(食事、運動、睡眠、飲酒など)
  • 内服薬による治療

を適宜組み合わせて行われます。

 

「便通異常症診療ガイドライン2023:慢性便秘症」において、推奨の強さ「強」で推奨されている内服薬は以下の通りです。1)

推奨度 エビデンスレベル 分類 代表薬の例
A 浸透圧性下剤 塩類下剤:酸化マグネシウム
糖類下剤:ラクツロース、D-ソルビトール
浸潤性下剤:ジオクチルソジウムスルホサクシネート(ビーマス配合錠)
高分子化合物:PEG(モビコール配合内用剤)
粘膜上皮機能変容薬 アミティーザ(ルビプロストン)
リンゼス(リナクロチド)
胆汁酸トランスポーター阻害薬 グーフィス(エロビキシバット)

※推奨度:(1)強い推奨、(2)弱い推奨
※エビデンスレベル:A(質の高いエビデンス)からD(非常に質の低いエビデンス)まで分類

 

同ガイドラインにはフローチャートも掲載されていて、第一選択薬は「浸透圧性下剤です。今回ご紹介するモビコールも「浸透圧性下剤」ですね。

改善が認められればそのまま継続しますが、改善が認められない場合、粘膜上皮機能変容薬や胆汁酸トランスポーター阻害薬を選択します。

 

特に小児では浸透圧性下剤から治療を開始することが原則とされています(小児慢性機能性便秘症診療ガイドラインより)。2)

 

酸化マグネシウムは昔から使用経験があり、また薬価も安いため、初回の治療としてよく用いられています。

しかし、酸化マグネシウムは長期に使用すると「高マグネシウム血症」の危険性があるため、ガイドラインには以下の注意書きがあります。

マグネシウムを含む塩類下剤使用時は、定期的なマグネシウムの測定を推奨する

 

モビコールは、ガイドラインや添付文書上は第一選択薬として使用可能ですが、以下の通知が発出されているため、実際には酸化マグネシウム等の浸透圧性下剤で効果不十分な場合に使用されるケースが多いと思われます。

薬価基準の一部改正に伴う留意事項について

(1)モビコール配合内用剤

本製剤の成人への使用に当たっては、他の便秘症治療薬(ルビプロストン製剤、エロビキシバット水和物製剤、リナクロチド製剤及びラクツロース製剤を除く。)で効果不十分な場合に、器質的疾患による便秘を除く慢性便秘症の患者へ使用すること。

「保医発1119第4号:平成30年11月19日」「保医発1127第2号:平成30年11月27日」

 

木元 貴祥
粘膜上皮機能変容薬と胆汁酸トランスポーター阻害薬も同様の通知が発出されています。

 

モビコール(一般名:マクロゴール4000)の作用機序

モビコールは以下を配合させた薬剤です。

 

モビコールの中身

  • マクロゴール4000
  • 塩化ナトリウム(NaCl)
  • 炭酸水素ナトリウム(NaHCO3
  • 塩化カリウム(KCl)

 

有効成分のマクロゴールは、エチレングリコールと呼ばれる物質を重合させたものですので、「ポリエチレングリコール」とも呼ばれます。

マクロゴールは分子量によって様々な種類があり、マクロゴール4000は平均分子量が4000であることを示します。

 

一般的に、便秘になる時には腸管内の水分が不足してしまっています。

また、水の特徴として、
濃度の薄いところから濃いところへ移動するという性質があります。

 

濃度の薄いところを物理用語で「浸透圧が低い」、濃いところを「浸透圧が高い」と呼びます。

通常、腸管管腔内の浸透圧は低く腸管上皮細胞内の浸透圧は高いため、水は腸管管腔内から腸管上皮細胞内に移動します。

腸管内の浸透圧

 

モビコールは腸管内の浸透圧を高めるように配合された薬剤です!

投与されると有効成分のマクロゴール4000やNaCl等によって腸管内の浸透圧が高くなり、腸管上皮細胞内の浸透圧と同様(約300mOsm)になります。

 

結果、水が腸管管腔内から腸管上皮細胞内に移動しなくなり、経口摂取した水分がそのまま腸管内に滞留し、腸管管腔内の水分量が向上します。

モビコールの作用機序

 

このような作用機序によって腸管内の蠕動運動が高まり、便秘を改善すると考えられています。

 

有効成分のマクロゴール4000は体内に吸収されることはほとんどありませんので、腸管のみで作用し、薬物相互作用も少ないといった特徴があります。

 

エビデンス紹介:成人と小児

根拠となった試験には成人の第Ⅲ相試験と、小児の第Ⅲ相試験があります。

 

成人の第Ⅲ相試験

成人の慢性便秘症患者さんを対象に、モビコールまたはプラセボを2週間投与した際の有効性と安全性を検証した臨床試験です。3)

 

主要評価項目は「自発排便回数の変化量(観察期間第2週と検証期第2週の差)」でした。

試験群 プラセボ群 モビコール群
観察期間第2週の自発排便回数 1.39±0.87 1.60±0.94
検証期第2週の自発排便回数 3.07±2.16 5.85±2.87
自発排便回数の変化量
(検証期第2週-観察期間第2週)
1.64±2.00 4.25±2.93
変化量の群間差[信頼区間]:2.66[1.86, 3.45]
p<0.0001

 

小児の第Ⅲ相試験

小児の慢性便秘症患者さんを対象に、モビコールを12週間投与した際の有効性と安全性を検討した臨床試験です。3)

 

主要評価項目は「自発排便回数の変化量(観察期間第2週と投与期間第2週の差)」でした。

試験群 モビコール群
観察期間第2週の自発排便回数 1.00±0.89 p<0.0001
投与期間第2週の自発排便回数 6.54±4.38
自発排便回数の変化量
(投与期間第2週-観察期間第2週)
変化量:5.54±4.55 -

 

上記の結果より、成人ではプラセボと比較してモビコールで有意な排便回数の改善効果が認められていますし、小児では観察期間と比較して投与期間で排便回数の有意な増加が認められています!

 

用法・用量

用法・用量は幼児と小児と成人で異なっています。

初回用量で投与後、症状に応じて適宜増減が可能です。また、増量の際の注意事項(間隔や増量幅)についても規定があります。

 

初回は1日1回。以降、適宜増減(1日1~3回)。

年齢区分

投与量の区分

モビコール配合内用剤

LD

HD

2歳以上7歳未満

初回用量

1包

1日量あたりの最大増量幅

1包

最大投与量

1回量

2包

1包

1日量

4包

2包

7歳以上12歳未満

初回用量

2包

1包

1日量あたりの最大増量幅

1包

最大投与量

1回量

2包

1包

1日量

4包

2包

12歳以上
(成人を含む)

初回用量

2包

1包

1日量あたりの最大増量幅

2包

1包

最大投与量

1回量

4包

2包

1日量

6包

3包

※増量は2日以上の間隔をあけて行うこと

 

またモビコールはそのまま服用することができませんので、水で溶解して経口投与します。

<調製方法>

本品1包あたりコップ1/3程度(約60mL)の水に溶解し、溶解後は速やかに服用すること

 

なお、やむを得ず保存する必要がある場合は、冷蔵庫に保存して、できるかぎり速やかに服用することとされています。

 

水以外に溶解した場合は?

小児が服用する場合には水以外のジュース等に溶解することも考えられます。

インタビューフォーム4)には以下のジュース等で溶解した際の配合変化試験結果が掲載されていますので、参考になるかと思います!

※あくまで添付文書上は「水」での溶解ですのでご注意ください!

 

  • オレンジジュース(なっちゃん)
  • リンゴジュース(なっちゃん)
  • スポーツドリンク(ポカリスエット)
  • 緑茶(おーいお茶)
  • 烏龍茶(烏龍茶)
  • 麦茶(ミネラル麦茶)
  • 紅茶(午後の紅茶® ストレートティー)

配合変化試験結果は>>こちら

 

浸透圧を見ると、いずれも水で溶解した場合と同程度もしくは少し高い結果だと記載されていました。

 

副作用

主な副作用として下痢や腹痛が報告されています。

 

モビコールと類薬(グーフィス、アミティーザ、リンゼス、ラグノス)との違い/比較

慢性便秘症に使用できる最近の薬剤としては以下があります。

 

上記3剤は全て「成人」にしか適応がありませんが、モビコールは「小児と成人」に適応があります(2歳以上の幼児から使用可能)。

 

また、モビコールの有効成分は体内に吸収されないため、薬物相互作用が少ないので併用注意薬がありません!(←アミティーザリンゼスも併用注意薬なし)

 

以上より、「小児」や併用薬の多い「高齢者」の慢性便秘症の患者さんに対して広く使用可能ではないでしょうか。

 

木元 貴祥
以下、簡単な比較表を作成していますので、ご参考にしてみてください♪

 

慢性便秘症治療薬の一覧比較表

 

上記の5剤については全て「他の便秘症治療薬(上記5剤を除く)で効果不十分な場合に使用すること。」との通知が発出されていますので、基本的には酸化マグネシウム等の既存薬で治療が開始されると思われます。

 

個人的な印象ですが、上皮機能変容薬よりも浸透圧性下剤の方が作用が緩徐で副作用もマイルドですのでコントロールしやすい印象です。

酸化マグネシウム製剤も浸透圧性下剤のため、酸化マグネシウムで効果不十分な場合には同系統の薬剤の方が使いやすいかもしれませんね。

 

一方、酷い便秘や便秘による諸症状(腹痛など)が発現している場合、より強力な上皮機能変容薬が適用できると考えます。

 

以上より使い分けのポイントをまとめてみました☆

慢性便秘症治療薬の使い分けのポイント

  • 併用注意薬の影響:リンゼス・アミティーザ・モビコールは併用注意薬が無い
  • 小児への適応:モビコールのみ
  • 酸化マグネシウムで効果不十分な場合、同系統の薬剤の方が使いやすい(かも?)
  • 酷い便秘の場合には上皮機能変容薬が良い(かも?)
  • 副作用プロファイルの違い

収載時の薬価

収載時(2018年11月20日)の薬価は以下の通りです。

  • モビコール配合内用剤(現、LD製剤):83.90円(1日薬価:260.30円)

 

算定方法等については以下の記事をご覧ください。

【新薬:薬価収載】12製品(2018年11月20日)と市場拡大再算定

続きを見る

 

また、高用量HD製剤の収載時(2021年11月25日)の薬価は以下の通りです。

  • モビコール配合内用剤HD:139.80円

 

まとめ・あとがき

モビコールはこんな薬

  • マクロゴール4000の浸透圧によって排便を促す
  • 吸収されないため、薬物相互作用が少ない
  • 小児にも投与できる

 

慢性便秘症の治療薬は2012年のアミティーザを皮切りに、2018年にはグーフィスリンゼスの適応拡大、と治療選択肢が広がっています。

 

モビコールと同日、同じく浸透圧性下剤のラグノスゼリー(一般名:ラクツロース)も承認されています。

ラグノスNF経口ゼリー(ラクツロース)の作用機序と類薬との違い【便秘症】

続きを見る

 

モビコールは併用薬の制限がなく、小児にも使用可能ですので酸化マグネシム製剤に取って代わっていくような気がしますね!

 

今後はこれらの薬剤の使い分け等が検討されれば興味深いと感じます。

 

以上、今回は慢性便秘症とモビコール(マクロゴール4000)の作用機序、そして類薬(グーフィスアミティーザリンゼスラグノスゼリー)との違い・使い分けについてご紹介しました。

 

引用文献・資料等

  1. 便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症
  2. 小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン
  3. モビコール添付文書、メーカーHP
  4. モビコールインタビューフォーム

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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