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タービー(トアルクエタマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

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2025年6月6日、厚労省の薬事審議会・医薬品第二部会にて「多発性骨髄腫」を対象疾患とするタービー皮下注(トアルクエタマブ)の承認可否が審議される予定です!

ヤンセンファーマ|申請のニュースリリース

基本情報

製品名 タービー皮下注3mg/40mg
一般名 トアルクエタマブ(遺伝子組換え)
製品名の由来
製造販売 ヤンセンファーマ(株)
効能・効果 再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)
用法・用量
収載時の薬価
発売日

 

タービーは、CD3とGPRC5Dに共に結合可能な二重特異性抗体に分類されています。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
通常、抗体は1種類の抗原にしか結合できませんが、タービーは2種類の抗原と結合可能です!

 

GPRC5Dをターゲットとする抗体薬は国内初ですね。

 

既に多発性骨髄腫においては、CD3とBCMAに対する二重特異性抗体薬のテクベイリ(テクリスタマブ)エルレフィオ(エルラナタマブ)が承認されています。

テクベイリ(テクリスタマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

タービーは異なる作用機序の二重特異性抗体薬のため、新たな治療選択肢として期待できそうです♪

 

ちなみに、他の疾患でも多くの二重特異性抗体が承認されていますね。

 

 

今回は多発性骨髄腫の概要と共に、タービー(トアルクエタマブ)の作用機序・特徴について解説します。

 

多発性骨髄腫について

通常、人の体内では、異物(ウイルス・細菌など)が侵入した際、B細胞から免疫グロブリン(抗体)が作られることで体を異物から守って感染症等を抑えてくれています。

 

多発性骨髄腫では、この抗体を産生するB細胞が異常増殖(腫瘍化)することで引き起こされる疾患で、血液腫瘍に分類されています。

がん化したB細胞(“骨髄腫細胞”と呼ばれます)は、健康な血液の産生を妨げたり、骨をもろくするなどのさまざまな障害を引き起こします。

 

その結果、症状として、

  • 骨痛
  • 腎機能障害
  • 貧血
  • 易感染性
  • 出血傾向

などがみられます。

 

またこの骨髄腫細胞の表面には、「BCMA」と呼ばれるシグナル伝達分子が過剰に発現していることも知られています。

BCMA:B Cell Maturation Antigen(B細胞成熟抗原)

BCMAとは、多発性骨髄腫の骨髄腫細胞が有している細胞表面抗原である。

 

その他、近年はBCMAに対する治療抵抗性の骨髄腫細胞など、一部の骨髄腫細胞の表面には「GPRC5D」と呼ばれる受容体が発現することも知られるようになりました。

GPRC5D:G protein–coupled receptor, family C, group 5, member D(Gタンパク質共役型受容体ファミリーCグループ5メンバーD)

多発性骨髄腫とGPRC5D

 

多発性骨髄腫の治療

多発性骨髄腫の治療は造血幹細胞移植が可能かどうか、によって選択肢が異なります。1)

  • 移植が可能:ボルテゾミブ+デキサメタゾン等を3~4回施行し、奏効すれば造血幹細胞移植
  • 移植が不能:Ld療法*やMPB療法*が標準治療。その他、MPT療法*等もある。

 

*参考

  • Ld療法:レナリドミド+デキサメタゾン
  • MPB療法:メルファラン+プレドニゾロン+ボルテゾミブ
  • MPT療法:メルファラン+プレドニゾロン+サリドマイド

 

移植が不能な場合、上記の治療と併用して抗CD38抗体ダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)サークリサ(イサツキシマブ)が使用可能ですね。

ダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

造血幹細胞移植やその後の維持療法については以下の記事をご覧ください。

血液
ニンラーロ(イキサゾミブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

移植が成功したとしても一定数の患者さんは残念ながら再発してしまいます。また、移植が不能でMPB療法やMPT療法を行ったとしても不応(難治性)となる場合もあります。

 

その場合、プロテアソーム阻害薬(例:ボルテゾミブイキサゾミブ)もしくは免疫調整薬(例:レナリドミド、ポマリドミド)を単独または併用した治療法が行われますが、抗CD38抗体のサークリサ(イサツキシマブ)を併用することも可能です。

サークリサ(イサツキシマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

今回ご紹介するタービーは、プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体を含むレジメンを少なくとも3種類以上受けたことのある多発性骨髄腫に対して治療効果が期待されています。

 

同様の治療治療ラインに対しては、CAR-T細胞療法のアベクマ(イデカブタジェン ビクルユーセル)も使用可能です。

アベクマ(イデカブタジェン ビクルユーセル)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

タービー(トアルクエタマブ)の構造・作用機序

体内の腫瘍細胞を除去する免疫細胞としてT細胞やNK細胞がありますが、T細胞は細胞膜表面に「CD3」と呼ばれるタンパク質を発現していることが知られています。

 

タービーは骨髄腫細胞のGPRC5Dを認識する抗GPRC5D抗体と、T細胞のCD3を認識する抗CD3抗体を組み合わせた構造を有しています。

 

タービー(トアルクエタマブ)の構造:GPRC5DとCD3を共に認識可能な二重特異性抗体薬

 

T細胞は体内の白血病細胞を発見して除去してくれる免疫細胞ですが、骨髄腫細胞はそれから逃れようとしています。

 

タービーは骨髄腫細胞のGPRC5DとT細胞のCD3を共に認識することで、骨髄腫細胞とT細胞に架け橋を形成します。骨髄腫細胞とT細胞が連結することで、骨髄腫細胞は逃げられなくなります。

タービー(トアルクエタマブ)の作用機序:骨髄腫細胞のGPRC5Dと免疫細胞のCD3を架橋することで、骨髄腫細胞を攻撃する

 

木元 貴祥
木元 貴祥
骨髄腫細胞とT細胞の橋渡しをするイメージですね。

 

その結果、骨髄腫細胞に対するT細胞の攻撃が促進され、さらにADCC(抗体依存性細胞障害)活性やDCD(補体依存性細胞障害)活性によって骨髄腫細胞を除去できると考えられます。

 

エビデンス紹介:MonumenTAL-1試験

根拠となった代表的な臨床試験(MonumenTAL-1試験)をご紹介します。2)

本試験はプロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体などの少なくとも3種類以上(中央値では6種類の前治療歴あり)に対して抵抗性のある多発性骨髄腫患者さんを対象に、タービーの静脈内投与および皮下投与の有効性と安全性を評価した第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験です。

 

主要評価項目は「奏効率」とされ、投与方法毎の結果は以下の通りでした。

  • 静脈内投与:70%
  • 皮下投与:64%

 

用法・用量

正式承認後に更新予定です。

 

副作用

正式承認後に更新予定です。

臨床試験では、サイトカイン放出症候群、皮膚関連イベント、味覚異常などが認められていました。

 

類薬のテクベイリなどでは、重大な副作用としてサイトカイン放出症候群神経障害などが挙げられているため、同様の注意が必要だと考えられます。

 

収載時の薬価

現時点では未承認かつ薬価未収載です。

 

まとめ・あとがき

タービーはこんな薬

  • プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体に対する治療歴を有する多発性骨髄腫に使用する
  • 抗GPRC5D抗体と抗CD3抗体を組み合わせた構造を有する二重特異性抗体
  • サイトカイン放出症候群と神経毒性症候群には注意が必要

 

多発性骨髄腫は、抗CD38抗体薬のダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)サークリサ(イサツキシマブ)、二重特異性抗体のエルレフィオテクベイリ、CAR-T細胞療法のアベクマなど、新規の薬剤が続々と登場しています。

ダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

木元 貴祥
木元 貴祥
タービーは新規の作用機序を有しているため、新たな治療選択肢として期待できるのではないでしょうか。

 

今後は既存薬との使い分け等が検討されれば興味深いですね!

 

以上、今回は多発性骨髄腫とタービー(トアルクエタマブ)の作用機序等について解説しました!

 

その他の二重特異性抗体についても、興味があればぜひご確認くださいませ。

 

 

引用文献・資料等

  1. 造血器腫瘍診療ガイドライン 2024年版
  2. MonumenTAL-1試験:N Engl J Med 2022;387:2232-2244

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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