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テクベイリ(テクリスタマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

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2024年12月27日、「多発性骨髄腫」を対象疾患とするテクベイリ皮下注(テクリスタマブ)が承認されました!

ヤンセンファーマ|ニュースリリース

基本情報

製品名 テクベイリ皮下注153mg/30mg
一般名 テクリスタマブ(遺伝子組換え)
製品名の由来 有効成分であるteclistamabに由来する。
製造販売 ヤンセンファーマ(株)
効能・効果 再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)
用法・用量 通常、成人にはテクリスタマブ(遺伝子組換え)として、
漸増期は、1日目に0.06mg/kg、その後は2~4日の間隔で0.3mg/kg、1.5mg/kgの順に皮下投与する。
その後の継続投与期は、1.5mg/kgを1週間間隔で皮下投与する。
なお、継続投与期において、部分奏効以上の奏効が24週間以上持続している場合には、
投与間隔を2週間間隔とすることができる。
収載時の薬価 30mg:216,930円
153mg:1,081,023円
発売日 2025年3月19日

 

テクベイリは、CD3とBCMAに共に結合可能な二重特異性抗体に分類されています。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
通常、抗体は1種類の抗原にしか結合できませんが、テクベイリは2種類の抗原と結合可能です!

 

既に多発性骨髄腫においては同様の作用機序を有するエルレフィオ(エルラナタマブ)が承認されていますので、テクベイリは2製品目です。

エルレフィオ(エルラナタマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

他の疾患でも多くの二重特異性抗体が承認されていますね。

 

 

今回は多発性骨髄腫の概要と共に、テクベイリ(テクリスタマブ)の作用機序・特徴について解説します。

 

多発性骨髄腫について

通常、人の体内では、異物(ウイルス・細菌など)が侵入した際、B細胞から免疫グロブリン(抗体)が作られることで体を異物から守って感染症等を抑えてくれています。

 

多発性骨髄腫では、この抗体を産生するB細胞が異常増殖(腫瘍化)することで引き起こされる疾患で、血液腫瘍に分類されています。

がん化したB細胞(“骨髄腫細胞”と呼ばれます)は、健康な血液の産生を妨げたり、骨をもろくするなどのさまざまな障害を引き起こします。

 

その結果、症状として、

  • 骨痛
  • 腎機能障害
  • 貧血
  • 易感染性
  • 出血傾向

などがみられます。

 

またこの骨髄腫細胞の表面には、「BCMA」と呼ばれるシグナル伝達分子が過剰に発現していることも知られています。

BCMA:B Cell Maturation Antigen(B細胞成熟抗原)

BCMAとは、多発性骨髄腫の骨髄腫細胞が有している細胞表面抗原である。

 

多発性骨髄腫の治療

多発性骨髄腫の治療は造血幹細胞移植が可能かどうか、によって選択肢が異なります。1)

  • 移植が可能:ボルテゾミブ+デキサメタゾン等を3~4回施行し、奏効すれば造血幹細胞移植
  • 移植が不能:Ld療法*やMPB療法*が標準治療。その他、MPT療法*等もある。

 

*参考

  • Ld療法:レナリドミド+デキサメタゾン
  • MPB療法:メルファラン+プレドニゾロン+ボルテゾミブ
  • MPT療法:メルファラン+プレドニゾロン+サリドマイド

 

移植が不能な場合、上記の治療と併用して抗CD38抗体のダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)が使用可能ですね。

ダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

造血幹細胞移植やその後の維持療法については以下の記事をご覧ください。

血液
ニンラーロ(イキサゾミブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

移植が成功したとしても一定数の患者さんは残念ながら再発してしまいます。また、移植が不能でMPB療法やMPT療法を行ったとしても不応(難治性)となる場合もあります。

 

その場合、プロテアソーム阻害薬(例:ボルテゾミブイキサゾミブ)もしくは免疫調整薬(例:レナリドミド、ポマリドミド)を単独または併用した治療法が行われますが、抗CD38抗体のサークリサ(イサツキシマブ)を併用することも可能です。

サークリサ(イサツキシマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

今回ご紹介するテクベイリは、プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体を含むレジメンを少なくとも3種類以上受けたことのある多発性骨髄腫に対して治療効果が期待されています。

類薬のエルレフィオ(エルラナタマブ)についても同じ位置付けですね。

 

同様の治療治療ラインに対しては、CAR-T細胞療法のアベクマ(イデカブタジェン ビクルユーセル)も使用可能です。

アベクマ(イデカブタジェン ビクルユーセル)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

テクベイリ(テクリスタマブ)の構造・作用機序

体内の腫瘍細胞を除去する免疫細胞としてT細胞やNK細胞がありますが、T細胞は細胞膜表面に「CD3」と呼ばれるタンパク質を発現していることが知られています。

 

テクベイリは骨髄腫細胞のBCMAを認識する抗BCMA抗体と、T細胞のCD3を認識する抗CD3抗体を組み合わせた構造を有しています。

テクベイリ(テクリスタマブ)の構造:BCMAとCD3と共に結合可能な二重特異性抗体薬

 

T細胞は体内の白血病細胞を発見して除去してくれる免疫細胞ですが、骨髄腫細胞はそれから逃れようとしています。

 

テクベイリは骨髄腫細胞のBCMAとT細胞のCD3を共に認識することで、骨髄腫細胞とT細胞に架け橋を形成します。骨髄腫細胞とT細胞が連結することで、骨髄腫細胞は逃げられなくなります。

テクベイリ(テクリスタマブ)の作用機序:骨髄腫細胞のBCMAと免疫細胞のCD3を架橋することで、骨髄腫細胞を攻撃する

 

木元 貴祥
木元 貴祥
骨髄腫細胞とT細胞の橋渡しをするイメージですね。

 

その結果、骨髄腫細胞に対するT細胞の攻撃が促進され、さらにADCC(抗体依存性細胞障害)活性やDCD(補体依存性細胞障害)活性によって骨髄腫細胞を除去できると考えられます。

 

エビデンス紹介:MajesTEC-1試験

根拠となった代表的な臨床試験(MajesTEC-1試験)をご紹介します。2)

 

本試験はプロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体のうち、それぞれ1種類以上に対して抵抗性のある多発性骨髄腫患者さんを対象に、テクベイリの皮下投与の有効性と安全性を評価した第Ⅱ相臨床試験です。

 

主要評価項目は「奏効率」とされ、結果は63.0%という結果で主要評価項目を達成しました。

 

用法・用量

通常、成人にはテクリスタマブ(遺伝子組換え)として、漸増期は、1日目に0.06mg/kg、その後は2~4日の間隔で0.3mg/kg、1.5mg/kgの順に皮下投与します。

その後の継続投与期は、1.5mg/kgを1週間間隔で皮下投与します。

 

なお、継続投与期において、部分奏効以上の奏効が24週間以上持続している場合には、投与間隔を2週間間隔とすることも可能です。

 

最初のサイクルのみ低用量とすることで、サイトカイン放出症候群や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群の発現割合および重症度の低減がすると考えられていますよ~。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
類薬のエルレフィオと同じですね。

 

副作用

10%以上に認められる副作用として、下痢、筋骨格痛、注射部位反応(37.2%)、疲労、発熱などが報告されています。

 

重大な副作用としては、

  • サイトカイン放出症候群(72.3%)
  • 神経学的事象(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群含む):頭痛(8.4%)、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(4.2%)、脳症(1.6%)、末梢性ニューロパチー(1.6%)、錯乱状態(0.5%)、浮動性めまい(0.5%)、痙攣発作(0.5%)、意識レベルの低下(頻度不明)等
  • 感染症:上気道感染(22.0%)、肺炎(14.7%)、敗血症(4.2%)、尿路感染(3.1%)、ニューモシスチス・イロベチイ肺炎(2.6%)、蜂巣炎(0.5%)等
  • 進行性多巣性白質脳症(PML)(0.5%)
  • 血球減少:好中球減少症(66.0%)、リンパ球減少症(31.9%)、貧血(29.8%)、血小板減少症(27.2%)、白血球減少症(9.9%)、発熱性好中球減少症(4.7%)等
  • 腫瘍崩壊症候群(0.5%)
  • 低γグロブリン血症(22.5%)
  • 間質性肺疾患(頻度不明)

が挙げられています。

 

特に、サイトカイン放出症候群は類薬のエルレフィオでも同様に挙げられていて、以下の対処が推奨されています。

異常が認められた場合には、製造販売業者が提供するサイトカイン放出症候群管理ガイダンス等に従い、本剤の投与中止、副腎皮質ホルモン剤、トシリズマブ(遺伝子組換え)の投与等の適切な処置を行うこと。

 

収載時の薬価

収載時(2025年3月19日)の薬価は以下の通りです。

  • テクベイリ皮下注30mg:216,930円
  • テクベイリ皮下注153mg:1,081,023円(1日薬価:136,746円)

 

算定根拠については、以下の記事で解説しています。

【新薬:薬価収載】11製品(2025年3月19日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

テクベイリはこんな薬

  • プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体に対する治療歴を有する多発性骨髄腫に使用する
  • 抗BCMA抗体と抗CD3抗体を組み合わせた構造を有する二重特異性抗体
  • サイトカイン放出症候群と神経毒性症候群には注意が必要

 

多発性骨髄腫は、抗CD38抗体薬のダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)サークリサ(イサツキシマブ)、二重特異性抗体のエルレフィオ、CAR-T細胞療法のアベクマなど、新規の薬剤が続々と登場しています。

ダラキューロ/ダラザレックス(ダラツムマブ)の作用機序【多発性骨髄腫】

続きを見る

 

木元 貴祥
木元 貴祥
テクベイリも新規の治療選択肢として期待できるのではないでしょうか。

 

今後は既存薬との使い分け等が検討されれば興味深いですね!

 

以上、今回は多発性骨髄腫とテクベイリ(テクリスタマブ)の作用機序等について解説しました!

 

その他の二重特異性抗体についても、興味があればぜひご確認くださいませ。

 

 

引用文献・資料等

  1. 造血器腫瘍診療ガイドライン 2024年版
  2. MajesTEC-1試験:N Engl J Med 2022;387:495-505

 

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木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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