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2024年12月2日、厚労省の薬事審議会医薬品第一部会にて「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」を対象疾患とするクアルソディ髄注(トフェルセン)の承認が了承されました!
バイオジェン・ジャパン|申請のニュースリリース
現時点では未承認のためご注意ください。
基本情報
製品名 | クアルソディ髄注100mg |
一般名 | トフェルセン |
製品名の由来 | |
製造販売 | バイオジェン・ジャパン(株) |
効能・効果 | SOD1遺伝子変異を有する筋萎縮性側索硬化症における機能障害の進行抑制 |
用法・用量 | 通常、成人には、トフェルセンとして1回100mgを1~3分かけて髄腔内投与する。 初回、2週後、4週後に投与し、以降4週間隔で投与する。 |
収載時の薬価 | |
発売日 |
クアルソディは、ALSの原因遺伝子(原因タンパク質)に対して作用する初のアンチセンス核酸医薬品ですね!
今回はALSと共に、クアルソディ(トフェルセン)の作用機序やエビデンスについて紹介します。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は、主に中年以降に発症し、一次/二次運動ニューロンが選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患です。1)
病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2年~5年で死亡することが多いとされています。1)
症状としては、全身の骨格筋の筋力低下や筋萎縮の進行が中心です。
また、初発症状やその後の進展は患者さん毎に多様とされていて、片側の上肢筋力低下で発症する例が最も多く、その他、下肢筋力低下、構音障害などの球麻痺症状、頸部筋力低下、呼吸筋麻痺症状から始まる例など様々です。2)
遺伝子変異の割合:SOD1遺伝子変異が最多
ALSの約5~10%は家族歴を有し、家族性ALS (familial amyotrophic lateral sclerosis: FALS)と呼ばれています。
家族性ALSの遺伝子変異にはSOD1、C9ORF72、FUS、TARDBPなど30種類を超える原因遺伝子が報告されていて、日本ではFALSの32~36%をSOD1変異が占め、次いでFUSが8~11%、TARDBPが2~3%と報告されています。2)
ただし、FALS以外のALSにおいてもSOD1遺伝子変異があることも知られていて、ALS全体(非家族性含む)の約2%がSOD1遺伝子変異を有するという報告もあります。3)
SOD(Superoxide Dismutase:超酸化物不均化酵素)は元々、体内で過剰に発生する活性酸素を取り除く酵素です。そのため、抗酸化作用や抗炎症作用などを示し、生体にとって有益な働きを担っています。
しかしながら、SOD1遺伝子変異を有するALS(SOD1-ALS)では、異常なSODが生成され、それが全身の運動ニューロンを障害することによって筋力の低下と委縮を引き起こすと考えられています。
治療
現在、国内で承認・保険適用が認められている治療薬は以下があります。2)
- リルテック(リルゾール)
- ラジカット(エダラボン)
- ロゼバラミン筋注用(メコバラミン) ※2024年9月承認、同年11月薬価収載・発売
これまではリルテックとラジカットが中心でしたが、2024年11月にはロゼバラミン筋注用(メコバラミン)が新発売されて使用できるようになりました。
エーザイ|筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン®筋注用25mg」、日本において新発売
-
ロゼバラミン筋注用(メコバラミン)の作用機序【ALS】
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その他、呼吸苦や疼痛の緩和には強オピオイド、ALSの痙縮に対して抗痙縮薬が使用されることもあります。
また、対症療法として、不安や抑うつには安定剤や抗うつ薬、筋力低下に伴う痛みに対しては鎮痛剤や湿布薬、関節拘縮の予防には定期的なリハビリテーションが行われます。
呼吸障害に対しては、非侵襲的な呼吸補助と気管切開による侵襲的な呼吸補助が行われれることもあります。
今回ご紹介するクアルソディは、SOD1-ALSに対して使用できる初のアンチセンス核酸医薬品ですね。
クアルソディ(トフェルセン)の作用機序:ASO
クアルソディは、異常なSOD遺伝子のmRNAに結合するように設計されたアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)です。4)
SOD1-ALSでは、異常なSOD遺伝子のmRNAが翻訳されることで異常なSODが生成され、全身の運動ニューロンを障害します。
クアルソディは異常なSOD遺伝子のmRNAに結合することで、RNase H1(リボヌクレアーゼH1)によってmRNAが分解されます。
そのため、以降の翻訳が行われずに異常なSODの量が減少すると考えられていますね。
参考までに、他疾患でもいくつかの核酸医薬品が登場しています。
- スピンラザ(ヌシネルセン):国内初のアンチセンス核酸医薬品として登場(脊髄性筋委縮症)
- ビルテプソ(ビルトラルセン):筋ジストロフィー治療薬に使用するアンチセンス核酸医薬品
- オンパットロ(パチシラン):国内初のsiRNAの核酸医薬品(TTR-FAP)
- アムヴトラ(ブトリシラン):オンパットロの改良製品
エビデンス紹介:VALOR試験
根拠となった臨床試験(VALOR試験)をご紹介します。3)
本試験は、SOD1 ALSの成人患者さんを対象に、クアルソディ群とプラセボ群を比較した国際共同第Ⅲ相臨床試験です(日本人を含む)。
主要評価項目は「ALS機能評価スケール改訂版総スコアのベースラインから28週までの変化量」とされ、結果は以下の通りでした。
クアルソディ群 | プラセボ群 | |
ALS機能評価スケール改訂版総スコアの ベースラインから28週までの変化量 |
-6.98 | -8.14 |
P=0.97 | ||
血漿ニューロフィラメント軽鎖(NfL)*の変化量 | -55% | +12% |
脳脊髄液中のSOD1タンパク質の変化量 | -35% | -2% |
*NfLは神経細胞の構成成分であり、神経変性疾患においてその血中濃度が上昇することが知られている。ALSにおいては、NfLの濃度が病状の進行状況を反映する重要なバイオマーカーとされている。
主要評価項目は両群で有意差はなく、ネガティブな結果となりました…。
しかし、米国では血漿ニューロフィラメント軽鎖(NfL)の減少が認められたことに基づいて、迅速承認制度の下でクアルソディが承認されています。
その後、プラセボ群にクアルソディを投与して有効性・安全性を確認するオープンラベル延長試験(VALOR OLE試験)も実施され、早期開始参加者(VALOR試験のクアルソディ群)を遅延開始参加者(VALOR試験のプラセボ群→VALOR OLE試験のアルソディを投与)と比較した場合、死亡または永久人工呼吸器装着までの期間のハザード比は 0.36(95% CI:0.14~0.94)、死亡までの期間のハザード比は 0.27(95% CI:0.08~0.89)と報告されています。3)
https://www.qalsodyhcp.com/en-us/home/clinical-study-information/study-design.html
現在、SOD1遺伝子変異を有するALS発症前の方にクアルソディの投与を開始することで臨床的症状の発現を遅らせることができるかどうか、そして血漿NfLの上昇のバイオマーカーとしてのエビデンスを評価するための試験(ATLAS試験)も実施中とのことです。5)
副作用
後日更新予定です。
臨床試験では、処置痛、頭痛、腕や脚の痛み、転倒、背痛などが報告されていました。
用法・用量
通常、成人には、トフェルセンとして1回100mgを1~3分かけて髄腔内投与します。
初回、2週後、4週後に投与し、以降4週間隔で投与します。
収載時の薬価
現時点では未承認かつ薬価未収載です。
まとめ・あとがき
クアルソディはこんな薬
- SOD1-ALSに対する初のアンチセンス核酸医薬品
- 異常なSOD遺伝子のmRNAに結合することで、mRNAを分解し、SODの生成を抑制する
- 初回~3回までは14日毎、その後は28日毎に髄注投与
これまで、ALSは治療選択肢が極めて少なく、新たな治療選択肢が求められていました。
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ロゼバラミン筋注用(メコバラミン)の作用機序【ALS】
続きを見る
以上、今回はALSと共にクアルソディ(トフェルセン)の作用機序やエビデンスについて紹介しました!
引用文献・資料等
- 難病情報センター|筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)
- 日本神経学会|筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023
- VALOR試験:N Engl J Med 2022;387:1099-1110
- Eur J Neurol. 2024 Feb;31(2):e16140.
- ATLAS試験(ClinicalTrials.gov):NCT04856982
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