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2020年6月29日、「視神経脊髄炎スペクトラム」を対象疾患とするエンスプリング(サトラリズマブ)が承認されました!
中外製薬|ニュースリリース
基本情報
製品名 | エンスプリング皮下注120mgシリンジ |
一般名 | サトラリズマブ(遺伝子組換え) |
製品名の由来 | Enjoy、Spring に由来する。 |
製造販売 | 中外製薬(株) |
効能・効果 | 視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防 |
用法・用量 | 通常、成人及び小児には、サトラリズマブ(遺伝子組換え)として 1回120mgを初回、2週後、4週後に皮下注射し、以降は4週間隔で皮下注射する。 |
収載時の薬価 | 1,532,660円 |
通常、抗体薬は抗原と一度しか結合できませんが、エンスプリングは国内初の「リサイクリング抗体」で、抗原と何度でも結合できるといった特徴があります!
作用機序的には抗IL-6受容体抗体で、アクテムラ(一般名:トシリズマブ)を改良して創薬されたそう。
ちなみに、製品名の由来は「春を楽しむ」。素敵!(笑)
今回は視神経脊髄炎スペクトラムとエンスプリング(サトラリズマブ)の作用機序・特徴について解説します!
視神経脊髄炎スペクトラム(NMOSD)とは
中枢神経の神経線維が変性・脱落すること(脱髄)が原因で引き起こされる疾患を総称して「中枢神経系炎症性脱髄疾患」と呼んでいます。1)
この中で特に視神経や脊髄神経が脱髄して引き起こされる疾患が視神経脊髄炎スペクトラム(NMOSD)と呼ばれるものです。
NMOSD:Neuromyelitis optica(NMO) spectrum disorder
国内では10万人に3.42人が発症する2)と言われていて、難病に指定されています。1)
視神経・脊髄神経の障害のため、症状としては
- 視覚障害(視力低下・視野欠損、失明など)
- 運動機能障害
などを発現し、重篤な場合、痙攣や意識混濁、片麻痺といった致死的になることもしばしばあります。
原因
NMOSDは抗アポクリン4抗体(AQP4抗体)がその発症に重要とされています。
マクロファージやTh2細胞(ヘルパーT細胞の一種)から放出されるサイトカインは様々ありますが、その中でもIL-6による炎症反応がAQP4抗体産生細胞を活性化させます。
その結果、AQP4抗体が体内で過剰に産生されてNMOSDを発症すると考えられています。
ただし、NMOSDの全例にAQP4抗体が産生されているわけではなく、一部、産生されていないNMOSDもあるようです。
治療
根本的な治療法はなく、ステロイドの大量投与(ステロイドパルス療法)や血液浄化療法といった対症療法が中心です。
ステロイドパルス療法で改善が認められても、何度も再発を繰り返してしまいます。そのため、免疫抑制薬などが投与されますが、再発後の治療法として有効なものはありませんでした。
2019年には再発予防としてソリリス点滴静注(一般名:エクリズマブ)の適応拡大が承認されていますね。
-
ソリリス(エクリズマブ)の作用機序【重症筋無力症】
続きを見る
今回ご紹介するエンスプリングはNMOSDの再発時や初発時に単剤もしくはステロイド±免疫抑制薬に追加することで治療効果が示されています!
エンスプリング(サトラリズマブ)の作用機序・特徴:リサイクリング抗体
エンスプリングはNMOSDの発症に関与しているIL-6受容体を選択的に阻害するモノクローナル抗体薬です。
IL-6による炎症反応を抑制することでAQP4抗体産生細胞の活性が抑制され、AQP4の産生量が減るというメカニズムですね。
通常の抗体は抗原と結合すると、細胞内に取り込まれ、結合したままリソソームに移行し、抗体ごと分解されてしまいます。
しかし、抗原に結合していない抗体はリソソームに移行することなく再利用されるということが分かってきました。
その点に着目したのがエンスプリングです!
エンスプリングはIL-6受容体に結合後、細胞内に取り込まれますが、細胞内の酸性条件下で抗原(IL-6受容体)を遊離するように設計されています。
抗原を遊離したエンスプリングはリソソームに移行することなく、細胞外に放出され、再度IL-6受容体に結合することが可能となります!
このように再利用可能な抗体技術のことを「リサイクリング抗体(SMART-Ig®)」と呼んでいるようです。
通常の抗体は一度抗原と結合するとそれで終わりですが、リサイクリング抗体は何度でも抗原と結合することができますので、より治療効果が期待できると思います!
エビデンス紹介:SAkuraSky試験
根拠となった臨床試験(SAkuraSky試験)を一つご紹介します。3)
本試験は、免疫抑制剤による治療(ベースライン治療)を受けているNMOSDの患者さんを対象に、エンスプリングを上乗せする群と、プラセボを上乗せする群を比較する第Ⅲ相臨床試験です。
AQP4抗体の有無は問わず。
主要評価項目は「再発割合」とされ、結果は以下の通りでした。
ベースライン治療+ エンスプリング |
ベースライン治療+ プラセボ |
|
再発割合 | 20% | 43% |
HR=0.38(95%CI:0.16~0.88) p=0.02 |
||
AQP4抗体陽性例の 再発割合 |
11% | 43% |
HR=0.21(95%CI:0.06~0.75) | ||
AQP4抗体陰性例の 再発割合 |
36% | 43% |
HR=0.66(95%CI:0.20~2.24) |
ベースライン治療にエンスプリングを併用することで有意に再発を抑えることが確認されていますね!
その他、エンスプリング単剤とプラセボ単剤を比較したSAkuraStar試験4)においてもエンスプリングの有効性が確認されているようです。
副作用
5%以上に認められる副作用として、リンパ球数減少、注射に伴う反応(発疹、発赤、頭痛等)(11.7%)が報告されています。
重大な副作用としては、
- 感染症:肺炎(1.4%)
- アナフィラキシーショック(頻度不明)、アナフィラキシー(頻度不明)
- 無顆粒球症(頻度不明)、白血球減少(11.7%)、好中球減少(4.8%)、血小板減少(1.4%)
- 肝機能障害(頻度不明)
が挙げられていますので特に注意が必要です。
アクテムラ(一般名:トシリズマブ)と同じく、敗血症、肺炎等の重篤な感染症については警告欄にも注意喚起が掲載されています。
用法・用量、在宅自己投与
通常、成人及び小児には、サトラリズマブ(遺伝子組換え)として1回120mgを初回、2週後、4週後に皮下注射し、以降は4週間隔で皮下注射します。
また、2021年8月4日の中医協総会にて在宅自己投与が了承され、2021年8月12日から在宅自己投与が保険適用となりました!
収載時の薬価
収載時(2020年8月26日)の薬価は以下の通りです。
- エンスプリング皮下注120mgシリンジ:1,532,660円
算定根拠については以下の記事で解説しています。
-
【新薬:薬価収載】13製品(2020年8月26日)
続きを見る
まとめ・あとがき
エンスプリングはこんな薬
- IL-6受容体を選択的に阻害する抗IL-6受容体抗体
- アクテムラ(トシリズマブ)を改良したリサイクリング抗体で、再利用が可能
- 重篤な感染症に注意が必要
通常の抗体薬は一度抗原と結合すると遊離はしませんが、エンスプリングは細胞内の酸性条件によって抗原と遊離できるユニークな特徴を有しています。
抗原と遊離することで再利用が可能となり、結果として長時間作用することも可能ですね。実際に臨床試験では月1回(4週毎)の投与で治療効果が認められています。すごい!
これまでNMOSDは治療選択肢が少なかったのですが、新たな治療選択肢が加わったことは朗報ではないでしょうか。2021年にも新たな治療薬が登場しました!
-
ユプリズナ(イネビリズマブ)の作用機序【NMOSD】
続きを見る
以上、今回は視神経脊髄炎スペクトラム(NMOSD)とエンスプリング(サトラリズマブ)の作用機序・特徴について解説しました!
引用論文・資料等
- 難病情報センター|多発性硬化症/視神経脊髄炎(指定難病13)
- 日本神経学会|多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン 2023
- SAkuraSky試験:N Engl J Med 2019; 381:2114-2124
- SAkuraStar試験:中外製薬ニュースリリース
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