1.中枢神経系

ヴィアレブ配合持続皮下注(ホスレボドパ/ホスカルビドパ)の作用機序【パーキンソン病】

2022年12月23日、「レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病の症状の日内変動(wearing-off現象)の改善」を対象疾患とするヴィアレブ(ホスレボドパ/ホスカルビドパ)が承認されました!

アッヴィ|ニュースリリース

基本情報

製品名 ヴィアレブ配合持続皮下注
一般名 ホスレボドパ/ホスカルビドパ水和物
製品名の由来 「VYA-(via:~を通じて),-LEV(Levodopa:レボドパ)」と
「VYA-(vibrant:活気に満ちた),-LEV(Levodopa:レボドパ)」の2つに由来する
製造販売 アッヴィ合同会社
効能・効果 レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られない
パーキンソン病の症状の日内変動(wearing-off 現象)の改善
用法・用量 記事内参照
収載時の薬価 10mL1瓶:13,277円
発売日 2023年7月26日(HP

 

レボドパとカルビドパの配合剤は経口剤が主流で使用されていますが、しばしば服用錠剤数が多くなるため、アドヒアランスのコントロールが難しいという問題点もあります。

 

今回ご紹介するヴィアレブはレボドパとカルビドパのプロドラッグで、皮下注で持続的な投与が可能になるため、両剤の血中濃度をより安定的に維持することが可能となります。

 

木元 貴祥
投与にあたっては専用の投与システムを使用するとのことです。

 

今回はパーキンソン病と共に、ヴィアレブ配合持続皮下注(ホスレボドパ/ホスカルビドパ)の作用機序やエビデンスについて解説していきます!

 

パーキンソン病とは

パーキンソン病は、脳内の「黒質」という部分のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患で、難病に指定されています。1)

 

特徴的な症状としては、

  • 安静時の振戦(手足が震える)
  • 筋固縮(筋肉が固くなる)
  • 無動(動きが遅くなる)
  • 姿勢反射障害(体のバランスが悪くなる)

などがあります。

 

発症年齢は50~65歳に多いとされており、高齢になるほど発病率が増加する疾患です。

 

パーキンソン病の原因

現時点では原因不明とされていますが、何らかの遺伝子異常や環境因子が影響していると言われています。

 

パーキンソン病の各症状は、脳内(中枢)の神経細胞から分泌されるドパミン量が減少することで発現します。

パーキンソン病とドパミン量

 

パーキンソン病の治療

治療の基本は薬による薬物治療です。2)

 

薬物治療にはいくつかの種類がありますが、最も基本となるのが

  • L-ドパの補充

です。

 

ドパミンは、チロシン→L-ドパを経由して脳(中枢)の神経細胞内で合成されます。

直接ドパミンを補充したとしても、ドパミンは血液脳関門を通過できないため脳内に入ることができません

 

そのため、ドパミンの前駆物質であるL-ドパ(血液脳関門を通過できる)を補充することでドパミンの合成を促します。

しかし、L-ドパは末梢血において、DDC(ドパ脱炭酸酵素)によって約70%が代謝され、ドパミンに変換されてしまいます。

 

木元 貴祥
末梢にドパミンが増えたとしても血液脳関門を通過できないので意味ないですよね・・・。副作用が増えるだけです。

 

その他、10%はCOMTと呼ばれる酵素によって3-OMDに代謝され、血液脳関門を通過することができます。しかし3-OMDが多くなると血液脳関門通過時にL-ドパと競合してしまうため、中枢のL-ドパ量が減少するといわれています。

L-ドパ(レボドパ)のDDCとCOMTによる代謝

 

そこでL-ドパ治療時にはDDC(ドパ脱炭酸酵素)を選択的に阻害する「ドパ脱炭酸酵素阻害薬(DCI)」が併用されることが多いです。

 

最近ではL-ドパとDCIの配合剤も登場していますので、基本は配合剤が使用されていますね。

  • ネオドパストン配合錠/メネシット配合錠:DCIのカルビドパ配合
  • イーシー・ドパール配合錠/マドパー配合錠:DCIのベンセラジド

 

今回ご紹介するヴィアレブもL-ドパとDCI(カルビドパ)の配合剤ですが、初回から使用できるのではなく、後述する「ウェアリング・オフ現象」が発現した際の選択肢として使用可能です。

 

L-ドパの補充の他、ドパミンアゴニスト(ドパミン受容体刺激薬)が使用されることもあります。

ハルロピテープ(ロピニロール)の作用機序:ニュープロパッチとの違い【パーキンソン病】

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L-ドパ治療とウェアリング・オフ現象

L-ドパは投与すると比較的速やかに代謝され、体内から消失してしまいます。

 

パーキンソン病の初期では、神経細胞内にドパミンが貯蓄されていますので、L-ドパの効果も長期間続き(オン状態)、症状もコントロールできます。

しかし、パーキンソン病が進行すると、貯蓄されていたドパミンが消費されていきますので、L-ドパで補充しても、効果が長続きしなくなってしまいます。

 

このため、L-ドパの効果が無くなる時間(オフ状態)が生じてしまい、次のL-ドパを補充する前にパーキンソン病の症状が発現してしまいます。

パーキンソン病とウェアリング・オフ現象

 

木元 貴祥
このように効果があるオン状態と効果が無くなるオフ状態を繰り返す現象を「ウェアリング・オフ(Wearing off)現象」と呼びます。

 

L-ドパ+DCIを投与していても上記の現象が起こってしまう場合、末梢でのCOMTが優位になっていて、3-OMDが増加していると考えられています。3-OMDはL-ドパの中枢への移行を阻害しますので、中枢でのL-ドパの量が減っているというわけですね。

 

今回ご紹介するヴィアレブは、持続的な皮下注投与でL-ドパ+DCIの血中濃度の維持が可能なため、ウェアリング・オフ現象の改善が期待されています。

 

その他には、L-ドパ+DCIに加えてCOMT阻害薬を併用したり、MAO-B阻害薬(エクフィナ、アジレクト、エフピー)が使用されることもあります。

COMT阻害薬
オンジェンティス(オピカポン)の作用機序:コムタンとの違い【パーキンソン病】

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MAO-B阻害薬
エクフィナ(サフィナミド)の作用機序:アジレクト/エフピーとの違い【パーキンソン病】

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ヴィアレブ(ホスレボドパ/ホスカルビドパ)の作用機序

ヴィアレブは、レボドパとカルビドパをリン酸化した以下を配合した薬剤です。

  • ホスレボドパ
  • ホスカルビドパ

 

リン酸化することで水溶性が向上し、皮下注投与が可能になりました。

また、体内に投与されると、脱リン酸化酵素によってレボドパとカルビドパに代謝され、レボドパは中枢に移行し、カルビドパは末梢におけるレボドパの代謝に関与するDDC(ドパ脱炭酸酵素)を阻害します。

ヴィアレブ(ホスレボドパ/ホスカルビドパ)の作用機序・特徴

 

これまで、経口のレボドパ/カルビドパ製剤でウェアリング・オフ現象のコントロールが困難であった場合、手術によって胃瘻を作って、空腸に直接薬剤を持続投与するデュオドーパ配合経腸用液がありましたが、侵襲性も高いため、新たな治療選択肢が望まれていました。

 

木元 貴祥
ヴィアレブは皮下注なので、侵襲性が低く治療可能なのはありがたいですね!

 

また、持続投与が可能なため、日中・夜間を問わず血漿中レボドパ曝露量を維持することができます。個々の患者さんの症状に合わせて持続的なドパミン作動性刺激の実現が期待できますね!

 

エビデンス紹介:M15-736試験

根拠となった臨床試験(M15-736試験)をご紹介します。3-4)

本試験は、既存のレボドパ製剤でコントロール不良な進行期パーキンソン病の患者さんを対象に、ヴィアレブ群(24時間/日の持続皮下注)と経口レボドパ/カルビドパ群を比較した第Ⅲ相臨床試験です。

 

主要評価項目は「12週後におけるジスキネジアを伴わないオン時間のベースラインからの変化量」とされ、結果は以下の通りでした。

ヴィアレブ群 経口レボドパ/
カルビドパ群
12週後における
ジスキネジアを伴わないオン時間の
ベースラインからの変化量
+2.72時間 +0.97時間
p=0.0083

 

木元 貴祥
オン時間が有意に増加していますね!

 

用法・用量、在宅自己注射

用法・用量はかなりややこしいのですが、

  • 負荷投与:症状を速やかにコントロールするために持続投与を開始する直前に行う投与
  • 持続投与:日中の血漿中レボドパ濃度を一定に保つための投与
  • 追加投与:日中に運動低下した場合に必要に応じて行う投与

の投与量がそれぞれ計算式で設定できるようになっています(計算式は割愛)。

ヴィアレブ配合持続皮下注|適正使用ガイド

 

本剤投与前の経口レボドパ量に応じて1時間あたりの注入速度を設定し、24時間持続皮下投与します。

患者がオフ状態で本剤の投与を開始する場合には、持続投与開始前に負荷投与を行います。なお、必要に応じて持続投与中に追加投与を行うことが可能です。

通常、成人には、本剤を0.15~0.69mL/時間(レボドパ換算量として約26~117mg/時間)で持続投与します。負荷投与を行う場合は本剤0.6~2.0mL(レボドパ換算量として約100~350mg)を投与します。追加投与は本剤を1回あたり0.1~0.3mL(レボドパ換算量として約17~51mg)で投与します。

本剤の投与量は症状により適宜増減しますが、1日総投与量は16.67mL(レボドパ換算量として2840mg)を超えないこととされています。

 

なお、投与にあたっては、専用の投与システム(輸液ポンプ(ヴィアフューザー)、輸液セット、シリンジ、バイアルアダプタ)を用いるとのことですね。

ヴィアフューザー皮下投与システム

ヴィアフューザー皮下投与システム:中央社会保険医療協議会 総会(第544回)資料より

 

2023年5月18日の中医協総会にて在宅自己注射が了承されましたので、自己注射も可能です。

 

副作用

5%以上に認められる副作用として、ジスキネジア、浮動性めまい、オンオフ現象、悪心、注入部位紅斑(44.7%)、注入部位結節(23.6%)、注入部位浮腫(16.4%)、注入部位疼痛(15.7%)、注入部位反応、注入部位内出血、注入部位血管外漏出、注入部位丘疹、注入部位血腫、体重減少などが報告されています。

 

ジスキネジアについては以下の記事が関連するため、合わせてご確認ください。

遅発性ジスキネジア
ジスバル(バルベナジン)の作用機序【遅発性ジスキネジア】

続きを見る

 

重大な副作用としては、

  • 悪性症候群(頻度不明)
  • 幻覚(20.4%)、錯乱(2.2%)、抑うつ(0.3%)
  • 溶血性貧血(頻度不明)、血小板減少症(頻度不明)
  • 突発的睡眠(頻度不明)
  • 悪性黒色腫(頻度不明)
  • 閉塞隅角緑内障(頻度不明)
  • 注入部位感染(32.7%)

が挙げられていますので、特に注意が必要です。

 

収載時の薬価

収載時(2023年5月24日)の薬価は以下の通りです。

 

  • ヴィアレブ配合持続皮下注10mL1瓶:13,277円(1日薬価:9,570円)

 

算定の根拠については、以下で解説しています。

【新薬:薬価収載】11製品(2023年5月24日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

ヴィアレブはこんな薬

  • ホスレボドパ/ホスカルビドパの持続的皮下注配合剤
  • レボドパは中枢に移行し、カルビドパは末梢におけるレボドパの代謝に関与するDDCを阻害する

 

これまで、経口のレボドパ/カルビドパ製剤でウェアリング・オフ現象のコントロールが困難であった場合、手術によって胃瘻を作って、空腸に直接薬剤を持続投与するデュオドーパがありましたが、侵襲性も高いため、新たな治療選択肢が望まれていました。

 

今回ご紹介するヴィアレブはレボドパとカルビドパのプロドラッグで、皮下注で持続的な投与が可能になるため、両剤の血中濃度をより安定的に維持することが可能となります。

 

木元 貴祥
新たな治療選択肢として期待できるのではないでしょうか。

 

以上、今回はパーキンソン病と共に、ヴィアレブ配合持続皮下注(ホスレボドパ/ホスカルビドパ)の作用機序やエビデンスについて解説しました!

 

引用文献・資料等

  1. 難病情報センター | パーキンソン病(指定難病6)
  2. 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
  3. M15-736試験:Lancet Neurol. 2022 Dec;21(12):1099-1109.
  4. ヴィアレブ配合持続皮下注 添付文書

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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