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ヴァンフリタ(キザルチニブ)の作用機序:ゾスパタとの違い・比較【AML】

2023年5月25日ヴァンフリタ錠(キザルチニブ)の「FLT3-ITD変異陽性の急性骨髄性白血病」に関して、一次治療から使用可能とする適応拡大が承認されました!

第一三共|ニュースリリース

基本情報

製品名 ヴァンフリタ錠17.7mg/26.5mg
一般名 キザルチニブ
製品名の由来 FLT3 の語感に由来する。
製造販売 第一三共(株)
効能・効果 FLT3-ITD変異陽性の急性骨髄性白血病
用法・用量 1日1回経口投与(記事内参照
収載時の薬価 17.7mg:19,694.90円
26.5mg:26,582.10円

 

ヴァンフリタは2019年6月18日に「再発又は難治性のFLT3-ITD変異陽性の急性骨髄性白血病」を効能・効果として承認された新薬で、新規のFLT3阻害剤に分類されています!

 

木元 貴祥
似たような作用機序を有する薬剤にはゾスパタ(ギルテリチニブ)がありますね。

 

今回は急性骨髄性白血病とヴァンフリタ(キザルチニブ)の作用機序やエビデンス、ゾスパタとの違いについてご紹介します。

 

急性骨髄性白血病

白血病は「血液のがん」です。

血液細胞には、白血球、赤血球、血小板等がありますが、これら血液細胞の異常化(腫瘍化=がん化)によって引き起こされる病気が白血病です。

また、白血球には

  • 顆粒球(骨髄系):好中球、好酸球、好塩基球
  • リンパ球(リンパ系):B細胞、T細胞、NK細胞

があります。

 

急性骨髄性白血病は、白血球の中でも「顆粒球」の未熟細胞が腫瘍化する疾患で、予後は不良とされています。

この腫瘍化した未熟な顆粒球のことを「白血病細胞」と呼んでおり、白血病細胞の表面にはしばしば「FLT3受容体」と呼ばれるタンパク質が発現していることが知られています。

急性骨髄性白血病とFLT3受容体

 

急性骨髄性白血病の予後因子

急性骨髄性白血病には以下のような様々な予後因子が知られています。

因子 予後良好 予後不良
年齢 50歳以下 60歳以上
合併症有無 なし あり(感染症等)
染色体の核型 t(8;21)
t(15;17)
inv(16) or t(16;16)
3q異常
5・7番の異常
複雑核型 等
遺伝子異常 NPM1変異
CEBPA変異
FLT3変異
TP53変異
寛解までの治療期間 1回 2回以上

 

年齢染色体/遺伝子異常は予後因子として重要であると言われており、FLT3遺伝子に変異がある場合、特に予後不良です。

 

急性骨髄性白血病の治療

基本的な治療は、抗がん剤の多剤併用療法(化学療法)です。1)

1カ月程の化学療法(導入化学療法)によって8割以上の患者さんでは「完全寛解」が得られ、その後、地固め療法を数回行います。

そして完全寛解が5年以上続けば、「治癒」に至ります。

 

現在、標準的な寛解導入療法は、アントラサイクリン+標準量シタラビンで、具体的には以下のような治療です。

  • DNR+AraC療法:ダウノルビシン(DNR)50 mg/m2を5日間+シタラビン(AraC)100mg/m2を7日間持続投与
  • IDR+AraC療法:イダルビシン(IDR)12 mg/m2を3日間+シタラビン(AraC)100mg/m2を7日間持続投与

 

ただし、最初の導入化学療法で1~2割の患者さんは抵抗性を示してしまいます(難治性)。

また、一度完全寛解が得られたとしても、半数以上の患者さんは再発してしまいます。

 

このような再発・難治性の患者さんに対して使用できる薬剤はマイロターグ(一般名:ゲムツズマブオゾガマイシン)がありますが、それ以外には有効な薬剤はなく、造血幹細胞移植などしか選択肢がありませんでした。

血液
マイロターグ(ゲムツズマブオゾガマイシン)の作用機序と副作用【急性骨髄性白血病】

続きを見る

 

今回ご紹介するヴァンフリタはFLT3-ITD遺伝子変異陽性の再発・難治性急性骨髄性白血病に使用できる薬剤ですが、今後は一次治療(初回治療)から使用可能(標準的な寛解導入療法との併用)となりました!

 

木元 貴祥
それではここからFLT3遺伝子変異について解説致します。

 

FLT3遺伝子変異:ITDとTKD

急性骨髄性白血病の白血病細胞には、しばしばFLT3受容体が存在しています。

 

しかし、急性骨髄性白血病の患者さんのうち、約1/3(30~33%)はFLT3遺伝子に変異があることが知られており、この変異がある場合、予後は非常に不良と言われています。

 

FLT3遺伝子変異には以下の2つのタイプがあります。

  1. 遺伝子内縦列重複変異:ITD(Internal Tandem Duplication):約25%
  2. チロシンキナーゼドメイン変異:TKD(Tyrosine Kinase Domain):約7%

FLT3遺伝子変異の種類:ITDとTKD

 

木元 貴祥
割合としてはITD変異の方が多いと言われていますね。(ITD:約25%、TKD:約7%)2)

 

今回ご紹介するヴァンフリタはITDの変異を選択的に阻害する薬剤ですので、TKDには使用できないことに注意が必要です。

 

ヴァンフリタ(キザルチニブ)の作用機序

ヴァンフリタは、白血病細胞の内側からFLT3-ITD遺伝子変異のあるFLT3受容体を選択的に阻害します。

ヴァンフリタ(キザルチニブ)の作用機序:FLT3阻害薬

 

その結果、がんの増殖が抑制され、急性骨髄性白血病の進行抑制効果を発揮すると考えられてます。

 

再発・難治のエビデンス紹介:QuANTUM-R試験

再発・難治性AMLの承認の根拠となった臨床試験を一つご紹介します。3)

本試験はFLT3-ITD変異を有する再発または難治性のAML患者さんを対象に、救済化学療法とヴァンフリタを比較した海外第Ⅲ相臨床試験です。

 

本試験の主要評価項目は「全生存期間」で結果は以下の通りでした。

試験群 救済化学療法 ヴァンフリタ
全生存期間中央値 4.7か月 6.2か月
HR=0.76, p=0.02
EFS* 0.9か月 1.4か月
HR=0.90, p=0.11
QT延長 全Grade:0%
Grade 3以上:0%
全Grade:26%
Grade 3以上:4%

*EFS(Event Free Survival):増悪等のイベント無しに生存している期間

 

木元 貴祥
ヴァンフリタは有意に全生存期間を延長していますが、QT延長の副作用の発現が高い印象を受けますね・・・。

その他の副作用については特に差は無かったようです。

 

一次治療のエビデンス紹介:QuANTUM-First試験

AMLの一次治療としてのエビデンスをご紹介します。4)

 

QuANTUM-First試験は、FLT3-ITD変異を有するAML患者さんを対象に、標準化学療法群標準化学療法+ヴァンフリタ群を比較した国際共同第Ⅲ相臨床試験です(日本人を含む)。

 

主要評価項目は「全生存期間」で結果は以下の通りでした。

試験群 標準化学療法 標準化学療法+
ヴァンフリタ
全生存期間中央値 15.1か月 31.9か月
HR=0.776、P=0.0324

 

木元 貴祥
中央値で約2倍も延長!すごいですね。

 

副作用

主な副作用として、悪心(31.7%)、嘔吐(18.3%)、下痢(11.5%)、無力症などが報告されています。

 

重大な副作用としては

  • QT間隔延長(19.3%)、心停止(0.2%)、心室性不整脈(心室細動(0.2%)、Torsade de pointes(頻度不明))
  • 感染症
  • 出血
  • 骨髄抑制
  • 心筋梗塞(0.2%)
  • 急性腎障害(0.9%)
  • 間質性肺疾患

が挙げられていますのでより注意が必要です。

 

用法・用量

未治療に使用する場合と、再発・難治との場合で用法・用量が異なります。未治療の場合、他の抗がん剤(シタラビン、アントラサイクリン系抗悪性腫瘍剤)と併用で使用しますね。

 

<未治療の場合>

通常、成人には寛解導入療法としてシタラビン及びアントラサイクリン系抗悪性腫瘍剤との併用において、地固め療法としてシタラビンとの併用において、キザルチニブとして1日1回35.4mgを2週間経口投与し、寛解導入療法及び地固め療法の投与サイクル数に応じて投与を繰り返します。

その後、維持療法として、キザルチニブとして1日1回26.5mgを2週間経口投与し、それ以降は1日1回53mgを経口投与します。

 

<再発又は難治性の場合>

通常、成人にはキザルチニブとして1日1回26.5mgを2週間経口投与し、それ以降は1日1回53mgを経口投与します。

 

木元 貴祥
いずれも最初の2週間とそれ以降では投与量が異なりますので注意が必要です。

 

収載時の薬価

収載時(2019年9月4日)の薬価は以下の通りです。

  • ヴァンフリタ錠17.7mg:19,694.90円
  • ヴァンフリタ錠26.5mg:26,582.10円(1日薬価:53,164.20円) 

 

薬価算定の根拠は以下の記事をご参考ください。

【新薬:薬価収載】12製品+再生医療等製品(2019年9月4日)

続きを見る

 

ヴァンフリタとゾスパタの違い・比較

ヴァンフリタとゾスパタの違い・比較について簡単にまとめました。

FLT3阻害薬:ヴァンフリタとゾスパタの違い・比較の一覧表

 

木元 貴祥
ご参考にしていただければ幸いです!

 

まとめ・あとがき

ヴァンフリタはこんな薬

  • FLT3-ITD遺伝子変異を有するFLT3受容体を阻害する
  • 1日1回経口投与(最初の2週間とそれ以降で用量が異なる点に注意)
  • 類薬にはゾスパタ(ギルテリチニブ)がある
  • 一次治療にも適応拡大が承認された

 

これまで再発・難治性の患者さんに対してはマイロターグ(ゲムツズマブオゾガマイシン)、もしくは造血幹細胞移植しか選択肢がありませんでした。

 

2018年には同じくFLT3受容体阻害薬のゾスパタ(一般名:ギルテリチニブ)が承認・発売されましたが、ゾスパタはFLT3遺伝子変異のITDとTKDを共に阻害することができます。

血液
ゾスパタ(ギルテリチニブ)の作用機序と副作用【急性骨髄性白血病】

続きを見る

 

木元 貴祥
ヴァンフリタはFLT3-ITD変異のみの阻害ですが、初回治療かも使用可能になりました!一歩リードですね。

 

以上、今回は急性骨髄性白血病とヴァンフリタ(キザルチニブ)の作用機序についてご紹介しました。

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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