12.悪性腫瘍

ダトロウェイ(ダトポタマブ デルクステカン)の作用機序【乳がん】

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2024年12月6日、厚労省の薬事審議会医薬品第二部会にて、「ホルモン陽性・HER2陰性の乳がん」を対象疾患とするダトロウェイ点滴静注用(ダトポタマブ デルクステカン)の承認可否が審議される予定です!

第一三共|申請のニュースリリース

基本情報

製品名 ダトロウェイ点滴静注用100mg
一般名 ダトポタマブ デルクステカン(遺伝子組換え)
製品名の由来
製薬会社 第一三共(株)
効能・効果 化学療法歴のあるホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳がん
用法・用量 ダトポタマブ デルクステカンとして6mg/kgを3週間毎に点滴静注?
収載時の薬価
発売日

 

ダトロウェイは、同じく乳がんに使用するトロデルビ(サシツズマブ ゴビテカン)に次いで国内2製品目となる抗TROP2抗体で、トポイソメラーゼⅠ阻害作用を有するデルクステカンをペイロードとして結合させた新規のADC(Antibody Drug Conjugate:抗体薬物複合体)です。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
デルクステカンは、エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)のペイロードとしても使用されていますね。
エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)の作用機序【乳/胃/肺がん】

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今回は乳がん治療とダトロウェイ(ダトポタマブ デルクステカン)の作用機序、エビデンスについてご紹介します。

 

乳がんの概要

2011年の女性乳がんの罹患数は、約72,500人と、女性のがんの中では最も多く、約20%を占めると言われています。

 

手術で取り切れるような早期の乳がんでは、5年生存率は80%を超えます(StageⅠ~Ⅱでは90%を超える)ので、治癒することが可能な比較的予後の良いがんとして知られています。

 

ただし、発見時に手術ができない(手術不能)の乳がんや、再発した乳がんでは5年生存率は30%と、治癒を見込むのは難しくなってしまいます(基本的には延命)。

 

従って、日頃の観察やがん検診(マンモグラフィや超音波検査)によって、できるだけ早期に発見することが非常に重要です!!!

また、乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られているため、ホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)の発現状況が治療戦略を決定する上で大切です。

 

その他、乳がんの15%~25%は「HER2ハーツー」と呼ばれるタンパク質が細胞膜に発現していることもあり、従来は予後不良と言われていました。

 

早期の乳がんの治療

早期の乳がんは基本的には手術によって完全に取り除くことが可能です。

早期乳がんの中でも術後に再発リスクが高いと診断された患者さんでは、術後にホルモン療法や抗がん剤によって再発を抑える薬物療法(初期治療)が行われることがあります。

 

乳がんは、がん細胞の性質によって、術後の初期治療が異なります。

  1. ホルモン陽性の乳がん:ホルモン療法(タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬)±CDK4/6阻害薬
  2. HER2陽性の乳がん:パージェタ(ペルツズマブ)+ハーセプチン(トラスツズマブ)±抗がん剤
  3. ホルモンもHER2も陰性の乳がん:抗がん剤

 

HER2陽性の場合、ハーセプチン+抗がん剤(主にタキサン系)にパージェタが併用されることもあります。最近では配合剤も登場しましたので、詳しくは以下の記事をご覧ください。

フェスゴ配合皮下注(ペルツズマブ/トラスツズマブ)の作用機序【乳がん/大腸がん】

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転移のある乳がんの治療(手術不能)

発見時に転移がある乳がんの場合、手術はできませんので、薬物療法(ホルモン療法、抗がん剤、分子標的薬)が基本となります。

 

転移のある乳がんの場合も、がん細胞の性質によって薬物療法の種類が異なります。

  1. ホルモン陽性の乳がん:ホルモン療法±CDK4/6阻害薬
  2. HER2陽性の乳がん:ハーセプチン±パージェタ±抗がん剤
  3. ホルモンもHER2も陰性の乳がん(トリプルネガティブ乳がん):抗がん剤±免疫チェックポイント阻害薬

 

最も多いとされるのが、「①ホルモン陽性の乳がん」で、この場合はホルモン療法が基本です。

 

ホルモン陽性の乳がんに対しては

といったCDK4/6阻害薬が使用できます。両薬剤の比較表については以下の記事で解説しています。

ベージニオ(アベマシクリブ)の作用機序:イブランスとの違い/比較【乳がん】

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今回ご紹介するダトロウェイは、「ホルモン陽性」かつ「HER2陰性」の乳がんの二次治療以降に使用します!

 

さて、続いて「②HER2陽性の乳がん」の場合には一次治療としてパージェタやハーセプチンが使用でき、効かなくなった場合、二次治療としてエンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)を使用します(エンハーツはHER2低発現にも使用可)。

エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)の作用機序【乳/胃/肺がん】

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さらに、「③ホルモンもHER2も陰性の乳がん(トリプルネガティブ乳がん)」の場合、抗がん剤が基本ですが、PD-L1が陽性の場合には免疫チェックポイント阻害薬と併用することもあります。

 

トリプルネガティブ乳がんの二次治療以降としては、2024年に登場したトロデルビ(サシツズマブ ゴビテカン)が使用できます。

トロデルビ(サシツズマブ ゴビテカン)の作用機序【乳がん】

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なお、ホルモン陽性/HER2陰性乳がんやトリプルネガティブ乳がんの場合、「Trop-2」と呼ばれる細胞表面抗原が高発現していることが知られています。

 

ダトロウェイ(ダトポタマブ デルクステカン)の構造・作用機序・特徴

ダトロウェイはTrop-2を特異的に認識する抗体医薬品のダトポタマブに、トポイソメラーゼⅠ阻害作用を有する抗がん剤のデルクステカンを結合させた構造を有しています(抗体1分子に対してデルクステカンは約4分子結合)。

ダトロウェイ(ダトポタマブ デルクステカン)の構造:抗体薬物複合体(ADC)

 

木元 貴祥
木元 貴祥
ちなみに結合させる薬物のことを「ペイロード」、結合を介している物質(手)のことを「リンカー」と呼んでいます。

 

このように抗体医薬品と抗がん剤を結合させた医薬品を「ADC(Antibody Drug Conjugate:抗体薬物複合体)」と呼んでいて、以下の薬剤が既に承認・販売されていますね。

 

ダトロウェイは乳がん細胞のTrop-2を認識して結合した後、細胞質内に侵入していきます。

その後、がん細胞で過剰発現しているリソソームによってリンカーが切断され、デルクステカンが遊離します。

ダトロウェイ(ダトポタマブ デルクステカン)の構造・作用機序・特徴

 

デルクステカンはトポイソメラーゼⅠを阻害する抗がん剤で、作用機序としてはカンプト/トポテシン(一般名:イリノテカン)と同じですね。

 

がん細胞のDNA複製時には、DNAのねじれ(超らせん構造)を解消させるため、トポイソメラーゼⅠによってDNAの一本鎖が切断されますが、これが阻害されるため、がん細胞の増殖が抑制されるといった作用機序です。以下のオニバイドの記事で少し詳しく解説していますのでご覧ください。

オニバイド(イリノテカン リポソーム製剤)の作用機序【膵臓がん】

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エビデンス紹介:TROPION-Breast01試験

根拠となった臨床試験をご紹介します(TROPION-Breast01試験)。1)

本試験は、化学療法歴のあるHR陽性かつHER2低発現または陰性の手術不能または転移性乳がん患者さんを対象に、医師が選択した化学療法(エリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビンのいずれか)とダトロウェイを比較した国際共同第Ⅲ相臨床試験です(日本人を含む)。

 

主要評価項目は「無増悪生存(PFS)」および「全生存期間(OS)」とされ、結果は以下の通りでした。

試験群 医師選択の化学療法群 ダトロウェイ群
PFS中央値 4.9か月 6.9か月
HR=0.63(95%CI:0.52~0.76)
p<0.001
全生存期間(OS)中央値 HR=0.84(95%CI:0.62~1.14)

 

PFSの有意な延長が示されたものの、生存期間については中間解析時点で差は無さそうでした。

 

その後、メーカーのニュースリリースによれば、最終解析においても生存期間における統計学的な有意差は認められなかったとされています。

本試験の主要評価項目の一つである全生存期間について、本剤投与群は化学療法投与群に対し、統計学的に有意な改善は認められませんでした。

【出典】第一三共|ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd/DS-1062)のホルモン受容体陽性かつHER2低発現または陰性の転移性乳がん患者を対象とした第3相臨床試験における全生存期間の最終解析結果について

 

木元 貴祥
木元 貴祥
主要評価項目の一つを満たせなかったことから、臨床試験としてはネガティブな結果です。これがどう解釈されるのかについては、審査報告書等を待ちたいと思います。

 

副作用

後日更新予定です。

臨床試験では、悪心・嘔吐、口内炎等の副作用が認められていました。

 

用法・用量

後日更新予定です。

臨床試験では、ダトポタマブ デルクステカンとして6mg/kgを3週間毎に点滴静注していました。

 

収載時の薬価

現時点では未承認かつ薬価未収載です。

 

まとめ・あとがき

ダトロウェイはこんな薬

  • 抗Trop-2抗体薬のダトポタマブに抗がん剤のデルクステカンを結合させたADC
  • デルクステカンはトポイソメラーゼⅠを阻害する
  • ホルモン陽性/HER2陰性乳がんの二次治療以降で効果が期待

 

ホルモン陽性/HER2陰性乳がんは、近年CKD4/6阻害薬などの治療選択肢が登場したものの、二次治療・三次治療以降の治療選択肢は少ない状態でした。

ベージニオ(アベマシクリブ)の作用機序:イブランスとの違い/比較【乳がん】

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木元 貴祥
木元 貴祥
ダトロウェイは新規の抗Trop-2抗体薬を用いたADC治療のため、新たな治療選択肢として期待できるのではないでしょうか。

 

なお、Trop-2は非小細胞肺がんなどでも発現が知られていて、第Ⅲ相試験のTROPION-Lung01試験ではPFSの延長が認められたものの、全生存期間の延長は認められていませんでした。2)

そのため、米国で申請していたものの、申請が取り消されていました(第一三共|ニュースリリースより)。

 

今後の動向も要チェックですね!

 

以上、今回は乳がん治療とダトロウェイ(ダトポタマブ デルクステカン)の作用機序・特徴等について解説しました。

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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