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2024年9月24日、「トリプルネガティブ乳がん」を対象疾患とするトロデルビ(サシツズマブ ゴビテカン)が承認されました!
ギリアド・サイエンシズ|ニュースリリース
基本情報
製品名 | トロデルビ点滴静注用200mg |
一般名 | サシツズマブ ゴビテカン(遺伝子組換え) |
製品名の由来 | 特になし |
製薬会社 | ギリアド・サイエンシズ(株) |
効能・効果 | 化学療法歴のあるホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん |
用法・用量 | 通常、成人には、サシツズマブ ゴビテカン(遺伝子組換え)として 1回10mg/kg(体重)を、21日間を1サイクルとし、 各サイクルの1日目及び8日目に点滴静注する。 投与時間は3時間とし、初回投与の忍容性が良好であれば、 2回目以降は1~2時間に短縮できる。 なお、患者の状態により適宜減量する。 |
収載時の薬価 | |
発売日 |
トロデルビは国内初の抗TROP2抗体で、トポイソメラーゼⅠ阻害作用を有するSN-38をペイロードとして結合させた新規のADC(Antibody Drug Conjugate:抗体薬物複合体)です。
今回は乳がん治療とトロデルビ(サシツズマブ ゴビテカン)の作用機序、エビデンスについてご紹介します。
乳がんの概要
2011年の女性乳がんの罹患数は、約72,500人と、女性のがんの中では最も多く、約20%を占めると言われています。
手術で取り切れるような早期の乳がんでは、5年生存率は80%を超えます(StageⅠ~Ⅱでは90%を超える)ので、治癒することが可能な比較的予後の良いがんとして知られています。
ただし、発見時に手術ができない(手術不能)の乳がんや、再発した乳がんでは5年生存率は30%と、治癒を見込むのは難しくなってしまいます(基本的には延命)。
従って、日頃の観察やがん検診(マンモグラフィや超音波検査)によって、できるだけ早期に発見することが非常に重要です!!!
また、乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られているため、ホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)の発現状況が治療戦略を決定する上で大切です。
その他、乳がんの15%~25%は「HER2」と呼ばれるタンパク質が細胞膜に発現していることもあり、従来は予後不良と言われていました。
早期の乳がんの治療
早期の乳がんは基本的には手術によって完全に取り除くことが可能です。
早期乳がんの中でも術後に再発リスクが高いと診断された患者さんでは、術後にホルモン療法や抗がん剤によって再発を抑える薬物療法(初期治療)が行われることがあります。
乳がんは、がん細胞の性質によって、術後の初期治療が異なります。
- ホルモン陽性の乳がん:ホルモン療法(タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬)±CDK4/6阻害薬
- HER2陽性の乳がん:パージェタ(ペルツズマブ)+ハーセプチン(トラスツズマブ)±抗がん剤
- ホルモンもHER2も陰性の乳がん:抗がん剤
HER2陽性の場合、ハーセプチン+抗がん剤(主にタキサン系)にパージェタが併用されることもあります。最近では配合剤も登場しましたので、詳しくは以下の記事をご覧ください。
-
フェスゴ配合皮下注(ペルツズマブ/トラスツズマブ)の作用機序【乳がん/大腸がん】
続きを見る
転移のある乳がんの治療(手術不能)
発見時に転移がある乳がんの場合、手術はできませんので、薬物療法(ホルモン療法、抗がん剤、分子標的薬)が基本となります。
転移のある乳がんの場合も、がん細胞の性質によって薬物療法の種類が異なります。
- ホルモン陽性の乳がん:ホルモン療法±CDK4/6阻害薬
- HER2陽性の乳がん:ハーセプチン±パージェタ±抗がん剤
- ホルモンもHER2も陰性の乳がん(トリプルネガティブ乳がん):抗がん剤±免疫チェックポイント阻害薬
最も多いとされるのが、「①ホルモン陽性の乳がん」で、この場合はホルモン療法が基本です。
ホルモン陽性の乳がんに対しては
といったCDK4/6阻害薬が使用できます。両薬剤の比較表については以下の記事で解説しています。
-
ベージニオ(アベマシクリブ)の作用機序:イブランスとの違い/比較【乳がん】
続きを見る
「②HER2陽性の乳がん」の場合にはパージェタやハーセプチンが使用でき、効かなくなった場合、二次治療としてエンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)を使用します。
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エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)の作用機序【乳/胃/肺がん】
続きを見る
さらに、「③ホルモンもHER2も陰性の乳がん(トリプルネガティブ乳がん)」の場合、抗がん剤が基本ですが、PD-L1が陽性の場合には免疫チェックポイント阻害薬と併用することもあります。
トリプルネガティブ乳がんの場合、その90%以上で「Trop-2」と呼ばれる細胞表面抗原が発現していることが知られています。
トロデルビ(サシツズマブ ゴビテカン)の構造・作用機序・特徴
トロデルビはTrop-2を特異的に認識する抗体医薬品のサシツズマブに、トポイソメラーゼⅠ阻害作用を有する抗がん剤のSN-38を結合させた構造を有しています(抗体1分子に対してSN-38は約8分子結合)。
SN-38は、有名な抗がん剤であるカンプト/トポテシン(一般名:イリノテカン)が体内で加水分解されて変換される活性代謝物です。最近ではリポソーム製剤のオニバイド点滴静注も登場していますね。
元々、SN-38の水溶性を高めて副作用を軽減するために「ピペリジノピペリジノカルボニルオキシ基」をエステル結合させたものがイリノテカンです。投与後、肝臓のエステラーゼによって加水分解され、活性代謝物のSN-38に変換されます。
このように抗体医薬品と抗がん剤を結合させた医薬品を「ADC(Antibody Drug Conjugate:抗体薬物複合体)」と呼んでいて、以下の薬剤が既に承認・販売されていますね。
- マイロターグ(一般名:ゲムツズマブ オゾガマイシン):造血器腫瘍
- カドサイラ(一般名:トラスツズマブ エムタンシン):乳がん
- アドセトリス(一般名:ブレンツキシマブ ベドチン):造血器腫瘍
- ベスポンサ(一般名:イノツズマブオゾガマイシン):造血器腫瘍
- エンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン):乳がん、胃がん
- パドセブ(一般名:エンホルツマブベドチン):尿路上皮がん
トロデルビは乳がん細胞のTrop-2を認識して結合した後、細胞質内に侵入していきます。
がん細胞の細胞内は酸性環境になっていて、その環境下でリンカーが加水分解されてゴビテカン(SN-38)が遊離します。
SN-38はトポイソメラーゼⅠを阻害する抗がん剤で、作用機序としてはカンプト/トポテシン(一般名:イリノテカン)と同じですね。
がん細胞のDNA複製時には、DNAのねじれ(超らせん構造)を解消させるため、トポイソメラーゼⅠによってDNAの一本鎖が切断されますが、これが阻害されるため、がん細胞の増殖が抑制されるといった作用機序です。以下のオニバイドの記事で少し詳しく解説していますのでご覧ください。
-
オニバイド(イリノテカン リポソーム製剤)の作用機序【膵臓がん】
続きを見る
エビデンス紹介:ASCENT試験
根拠となった臨床試験をご紹介します(ASCENT試験)。1)
本試験は、切除不能・局所進行性または転移性のトリプルネガティブ乳がんで、少なくとも2種類の全身療法歴を有する患者さんを対象に、医師が選択した単剤化学療法(エリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビンのいずれか)とトロデルビを比較した国際共同第Ⅲ相臨床試験です。
主要評価項目は「脳転移のない患者における無増悪生存(PFS)」とされ、結果は以下の通りでした。
試験群 | 医師選択の化学療法群 | トロデルビ群 |
脳転移の無い患者における PFS中央値 |
1.7か月 | 5.6か月 |
HR=0.41(95%CI:0.32〜0.52) p<0.001 |
||
脳転移の無い患者における 全生存期間(OS)中央値 |
6.7か月 | 12.1か月 |
HR=0.48(95%CI:0.38 ~ 0.59) p<0.001 |
PFSもOSもトロデルビ群で有意に延長していますね!
なお、脳転移を有する集団も含めた解析においても、トロデルビ群で有意なPFSとOSの延長が認められていました。
副作用:下痢や好中球減少に注意!
10%以上に認められる副作用として、悪心(62.6%)、便秘(38.1%)、嘔吐(31.3%)、腹痛、口内炎、疲労(無力症を含む)(59.5%)、食欲減退、低カリウム血症、低マグネシウム血症、関節痛、頭痛、不眠症、呼吸困難(労作性呼吸困難を含む)、咳嗽、脱毛症(46.6%)、発疹などが報告されています。
重大な副作用としては、
- 骨髄抑制:好中球減少症(66.7%)、貧血(38.8%)、白血球減少症(22.4%)、リンパ球減少症(10.2%)、血小板減少症(6.8%)、発熱性好中球減少症(5.4%)
- 重度の下痢(11.6%)、腸炎(3.4%)
- Infusion reaction(32.3%)
- 感染症(51.7%)
- 間質性肺疾患(0.7%)
が挙げられています。
有効成分としてゴビテカン(SN-38)を含むことから、カンプトやオニバイドと同様、下痢・好中球減少には十分注意する必要がありそうです。重度の下痢に対しては、止瀉薬(ロペラミド等)の投与、補液等の適切な処置を行うこととされています。
用法・用量
通常、成人には、サシツズマブ ゴビテカン(遺伝子組換え)として1回10mg/kg(体重)を、21日間を1サイクルとし、各サイクルの1日目及び8日目に点滴静注します。
投与時間は3時間とし、初回投与の忍容性が良好であれば、2回目以降は1~2時間に短縮できます。
収載時の薬価
現時点では薬価未収載です。
まとめ・あとがき
トロデルビはこんな薬
- 抗Trop-2抗体薬のサシツズマブに抗がん剤のゴビテカン(SN-38)を結合させたADC
- ゴビテカン(SN-38)はトポイソメラーゼⅠを阻害する
- トリプルネガティブ乳がんの二次治療以降で効果が期待
- 下痢や好中球減少には注意が必要
トリプルネガティブ乳がんでは治療選択肢が少なく、予後も不良なため新たな治療選択肢が望まれていました。
トロデルビは国内初となる抗Trop-2抗体薬を用いた治療のため、新たな治療選択肢として期待できるのではないでしょうか。
以上、今回は乳がん治療とトロデルビ(サシツズマブ ゴビテカン)の作用機序・特徴等について解説しました。
参考文献・資料等
- ASCENT試験:N Engl J Med 2021;384:1529-1541
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