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2021年3月23日、ベネクレクスタ錠(ベネトクラクス)の効能・効果に「急性骨髄性白血病(AML)」を追加することが承認されました!
アッヴィ|ニュースリリース
基本情報
製品名 | ベネクレクスタ錠 |
一般名 | ベネトクラクス |
製品名の由来 | 特になし |
製造販売 | アッヴィ合同会社 |
効能・効果 | ●再発・難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む) ●急性骨髄性白血病 |
用法・用量 | 1日1回食後経口投与。詳細は記事内参照。 |
収載時の薬価 | 10mg 1錠:874.60円 50mg 1錠:3,964.50円 100mg 1錠:7,601.10円(1日薬価:30,404.40円) |
ベネクレクスタは2019年9月20日、「再発・難治性の慢性リンパ性白血病」を効能・効果として承認された初の経口BCL-2阻害薬です。
今回は慢性リンパ性白血病(CLL)と急性骨髄性白血病(AML)、そしてベネクレクスタ(ベネトクラクス)の作用機序、エビデンスについてご紹介します。
慢性リンパ性白血病とは
白血病は「血液のがん」です。
血液細胞には、白血球(好中球、好酸球、好塩基球)、赤血球、リンパ球(B細胞やT細胞)等がありますが、これら血液細胞の異常化(腫瘍化=がん化)によって引き起こされる病気が白血病です。
- 顆粒球(骨髄系):好中球、好酸球、好塩基球
- リンパ球(リンパ系):B細胞、T細胞、NK細胞
慢性リンパ性白血病(CLL:chronic lymphocytic leukemia)は、リンパ球のうち「成熟した小型のB細胞」が腫瘍化する疾患です。
腫瘍化したB細胞が末梢血や骨髄に存在している時には「慢性リンパ性白血病」と呼ばれ、リンパ節にあるときは「小リンパ球性リンパ腫」と呼ばれます。
慢性リンパ性白血病の発生頻度は日本では非常に少なく、白血病全体の約1~2%で約2,000人と推定されています。
慢性リンパ性白血病の症状と治療
慢性リンパ性白血病は進行が緩やかで無症状であることが多く、この場合経過観察が基本です。
進行すると倦怠感、寝汗を伴う微熱、貧血、血小板減少が認められることもあります。
症状がある場合、抗がん剤(フルダラビンやシクロホスファミド)と適宜リツキサン(一般名:リツキシマブ)を併用した治療や、イムブルビカ(一般名:イブルチニブ)による治療が行われます。1)
-
イムブルビカ(イブルチニブ)の作用機序と副作用【CLL】
続きを見る
しかし上記の治療を行っても治療抵抗性になったり、一度は寛解(効いた)にも関わらず再発してしまうこともあります。
この場合、治療選択肢は限られていました。
今回ご紹介するベネクレクスタは再発・難治性の慢性リンパ性白血病に対してリツキサン(一般名:リツキシマブ)と併用することで治療効果が期待されています。
急性骨髄性白血病と治療
急性骨髄性白血病(AML:Acute Myeloid Leukemia)は、白血球の中でも「顆粒球」の未熟細胞が腫瘍化する疾患で、予後は不良とされています。
基本的な治療は、抗がん剤の多剤併用療法(化学療法)です。1)
1カ月程の化学療法(導入化学療法)によって8割以上の患者さんでは「完全寛解」が得られ、その後、地固め療法を数回行います。
そして完全寛解が5年以上続けば、「治癒」に至ります。
しかしながら、
- 併存疾患
- 高齢
といった理由で導入化学療法が行えない場合もしばしばあります。
今回ご紹介するベネクレクスタは、標準的な導入化学療法が不適格(例:併存疾患・年齢)な患者さんの初回治療として、ビダーザ(一般名:アザシチジン)と併用することで治療効果が期待されている薬剤です!
また、導入化学療法で抵抗性を示したり、一度完全寛解が得られた後に再発したりすることもあります。その場合には、以下が治療選択肢となりますね。
-
ヴァンフリタ(キザルチニブ)の作用機序:ゾスパタとの違い・比較【AML】
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BCL-2によるアポトーシスの抑制
正常の細胞がダメージや傷を受けた場合、そのまま放置されてしまうと異常細胞になってしまったり、がん細胞になってしまったりします。
そのため、細胞には「アポトーシス」と呼ばれる自然細胞死の機能が備わっており、異常な細胞はアポトーシスによって自然に消滅していきます。
しかし白血病細胞はBCL-2と呼ばれる抗アポトーシスタンパク質を過剰に発現してることが知られています。
BCL-2は通常、細胞内のミトコンドリアに存在していますが、がん細胞や白血病細胞が過剰に発現するとアポトーシスが抑制され、死ななくなってしまいます。
また、抗がん剤等で白血病細胞がダメージを受けると、通常はアポトーシスが起こりますが、BCL-2が発現しているとアポトーシスが抑制されることから、抗がん剤の耐性にも関与していると考えられています。
ベネクレクスタ(ベネトクラクス)の作用機序:BCL-2阻害薬
ベネクレクスタは白血病細胞で過剰に発現しているBCL-2を選択的に阻害する薬剤です。
BCL-2が阻害されることで白血病細胞のアポトーシス機能が回復し、自然細胞死が誘導されると考えられます。
また、CLLで併用するリツキサンは白血病細胞のCD20を特異的に阻害するモノクローナル抗体薬です。リツキサンの作用機序については以下の記事をご覧ください。
-
リツキサン(リツキシマブ)の作用機序と副作用【悪性リンパ腫】
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CLLのエビデンス紹介:MURANO試験
CLLの根拠となった臨床試験を一つ紹介します。2-3)
本試験は1~3つの治療歴のある再発・難治性の慢性リンパ性白血病患者さんを対象に、ベネクレクスタ+リツキサン群とトレアキシン(ベンダムスチン)+リツキサン群を比較した国際共同第Ⅲ相臨床試験です。
主要評価項目は「無増悪生存期間(PFS)」とされました。
試験群 | ベネクレクスタ+ リツキサン群 |
トレアキシン+ リツキサン群 |
PFS中央値 | 未到達 | 17か月 |
HR=0.17[95%CI:0.11-0.25], p<0.001 | ||
2年時点の全生存率 | 91.9% | 86.6% |
HR=0.48[95%CI:0.25-0.90] | ||
Grade3/4の いずれかの有害事象 |
82.0% | 70.2% |
-Grade3/4の好中球減少症 -Grade3/4の発熱性好中球減少症 |
57.7% 3.6% |
38.8% 9.6% |
このようにトレアキシン+リツキサンと比較してベネクレクスタ+リツキサンは増悪までの期間を有意に延長することが示されています。
AMLのエビデンス紹介:VIALE-A試験
AMLの根拠となった試験をご紹介します。4)
本試験は強力な導入化学療法が適応とならない(例:併存疾患・高齢)未治療のAML 患者さんを対象に、ビダーザ(アザシチジン)+プラセボ群と、ビダーザ(アザシチジン)+ベネトクラクス群を比較する第Ⅲ相臨床試験です。
主要評価項目は「全生存期間」とされ、結果は以下の通りでした。
試験群 | ビダーザ+ ベネトクラクス群 |
ビダーザ+ プラセボ群 |
全生存期間中央値 | 14.7か月 | 9.6か月 |
HR=0.66[95%CI:0.52-0.85], p<0.001 |
このようにビダーザにベネトクラクスを併用することで有意な生存期間の延長が示されています!
副作用
重大な副作用として、
- 腫瘍崩壊症候群(2.7%)
- 骨髄抑制:好中球減少(44.2%)、貧血(15.7%)、血小板減少(27.7%)、発熱性好中球減少症(17.6%)
- 感染症(29.3%)
が挙げられていますので特に注意が必要です。
用法・用量
<CLLの場合>
通常、成人にはベネトクラクスとして、1日1回食後に経口投与ですが、用量を徐々に増やしていきますので投与量が変則的です。
下表にまとめてみましたのでご参考ください。
治療期 | 投与量 | |
用量漸増期 | 1週目 | 20mg |
2週目 | 50mg | |
3週目 | 100mg | |
4週目 | 200mg | |
5週目 | 400mg | |
維持投与期 | 400mg |
患者の状態により適宜減量する。
また、原則としてリツキサンと併用して使用します。併用する時期は維持投与期からですのでご注意ください。
- リツキシマブ(遺伝子組換え)の投与が困難な場合を除き、維持投与期の開始からリツキシマブ(遺伝子組換え)と併用投与すること。
- リツキシマブ(遺伝子組換え)以外の抗悪性腫瘍剤との併用による有効性及び安全性は確立していない。
ベネクレクスタ錠 添付文書より
<AMLの場合>
AMLの場合も1日1回食後に経口投与ですが、併用薬剤によって投与量が変則的です。
治療期 | 投与量 | ||
用量漸増期 | 1日目 | 100mg | |
2日目 | 200mg | ||
3日目 | 400mg | ||
4日目 | アザシチジン併用 | 400mg | |
シタラビン少量療法併用 | 600mg | ||
維持投与期 |
アザシチジン併用 | 400mg | |
シタラビン少量療法併用 | 600mg |
患者の状態により適宜減量する。
収載時の薬価
薬価収載時(2019年11月19日)の薬価は以下の通りです。
- ベネクレクスタ錠10mg 1錠:874.60円
- ベネクレクスタ錠50mg 1錠:3,964.50円
- ベネクレクスタ錠100mg 1錠:7,601.10円(1日薬価:30,404.40円)
収載時の算定根拠については以下の記事で解説しています。
-
【新薬:薬価収載】14製品と市場拡大再算定(2019年11月19日)
続きを見る
まとめ・あとがき
ベネクレクスタはこんな薬
- 経口のBCL-2阻害薬
- 白血病細胞のアポトーシス機能を回復させる
これまで慢性リンパ性白血病や急性骨髄性白血病の治療選択肢は限られていたことから、今後も色々な薬剤開発が進めば良いなと感じています。
以上、今回は慢性リンパ性白血病・急性骨髄性白血病と、国内初のBCL-2阻害薬であるベネクレクスタの作用機序についてご紹介しました☆
引用文献・資料等
- 日本血液学会|造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版
- MURANO試験:N Engl J Med 2018; 378:1107-1120
- MURANO試験(追加解析):J Clin Oncol. 2019 Feb 1;37(4):269-277.
- VIALE-A試験:N Engl J Med 2020; 383:617-629
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