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2022年9月26日、「後天性血栓性血小板減少性紫斑病」を対象疾患とするカブリビ(カプラシズマブ)が承認されました。
サノフィ|ニュースリリース
基本情報
製品名 | カブリビ注射用10mg |
一般名 | カプラシズマブ(遺伝子組換え) |
製品名の由来 | 特になし |
製造販売 | サノフィ(株) |
効能・効果 | 後天性血栓性血小板減少性紫斑病 |
用法・用量 | 記事内参照 |
収載時の薬価 | 515,532円 |
発売日 | 2022年12月23日(HP) |
カブリビはフォン・ヴィレブランド因子(VWF)を標的とする抗VWFナノボディに分類されています。
これまで血栓性血小板減少性紫斑病の治療は限られていましたので、治療選択肢が増えることは朗報ですね。
今回は疾患解説と共に、ナノボディの概要、そしてカブリビ(カプラシズマブ)の作用機序について解説していきます。
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP:thrombotic thrombocytopenic purpura)は、人口100万人当たり毎年4人(0.0004%)に発症する疾患で、難病に指定されています。1)
血小板消費が亢進し、血小板の凝集塊が生じることで、以下のような特徴的な症状(5徴候)を呈します。
- 血小板減少症:出血傾向のため、皮膚に紫斑ができる
- 溶血性貧血:赤血球の機械的な崩壊がおこる
- 腎機能障害:腎臓の毛細血管が血栓で閉塞する
- 発熱
- 動揺性精神神経症状:症状に大きな幅があり、また著しく変動する
先天性と後天性がありますが、先天性は非常に稀なため、ほとんどが後天性です。
先天性のTTPについては、以下の記事で解説しています。
-
アジンマ(アパダムターゼ/シナキサダムダーゼ)の作用機序【TTP】
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原因
TTPの原因は、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)を切断するADAMTS13の欠損(先天性)または活性低下(後天性)によります。
通常、出血した際には、血小板が関わる一次止血と、凝固因子が関わる二次止血によって止血されます。
出血が起こると、まずは血中に存在する血小板が活性化し、損傷部位に集まってきて血栓(一次血栓)を形成します。
この際、血小板と損傷部位の橋渡しの役割を担うのがフォン・ヴィレブランド因子(VWF)です。
これを一次止血と呼びますが、これだけでは簡単に剥がれてしまいますので、次いで、一次止血を補強する目的で二次止血が行われます。
二次止血では一次血栓の周囲を「フィブリン」と呼ばれるタンパク質で覆い、強固な止血血栓(二次血栓)を完成させます。
通常、VWFは分子量約25万の単量体(モノマー)が、適度に重合した多量体(マルチマー)として存在しています。
モノマーには血小板との結合能がほとんどないことから、止血において重要ではありません。適度な大きさのマルチマーは適度に血小板と結合することで適切な止血を促します。
しかし、後天性TTPではVWFを切断するADAMTS13に対するインヒビターが生じているため、ADAMTS13の活性が低下しています。
その結果、血中には巨大なマルチマーが存在してしまい、血小板と過度に結合することで、血栓傾向が強まります。これがTTPの原因です。
ちなみに、VWFの活性化が低下することで引き起こされる疾患が「フォン・ヴィレブランド病」です。
-
ボンベンティ(ボニコグ アルファ)の作用機序【VWD】
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また、二次止血に関与しているフィブリンの産生量が低下する疾患には血友病があり、疾患概要・治療薬については以下の記事で解説しています。
-
ヘムライブラ(エミシズマブ)の作用機序と二重特異性抗体【血友病A】
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治療
後天性TTPの場合、以下の治療があります。1)
- 血漿交換療法:第一選択で、できるだけ早期に血漿交換を開始することが重要
- ステロイド療法:血漿交換と併用して実施する
- 抗血小板療法
- その他:難治性TTPの場合、リツキサン(リツキシマブ)を使用することもある
今回ご紹介するカブリビは、血漿交換療法と併用することで、治療効果が期待されています!
ガイドラインにおいても、後天性TTP治療の第一選択に位置付けられていますね。2)
ヒトIgG抗体とナノボディ(VHH抗体)
通常、国内の抗体薬と言えば、ヒトのIgG抗体を応用した医薬品ですよね。
IgG抗体は重鎖と軽鎖から構成されています。また、抗原との結合部位はFab領域と呼ばれ、この部位も重鎖と軽鎖から構成されています。
医薬品によっては、Fab領域のみのものもありますよね。例えば、加齢黄斑変性に使用するルセンティス(ラニビズマブ)やベオビュ(ブロルシズマブ)が代表です。
そして、ラクダ科の一部の動物が産生する抗体は、ヒトの抗体と構造が異なっていて、重鎖のみで構成されています(重鎖抗体)。
重鎖抗体の抗原結合部位のみを分離したものが「ナノボディ」です。3)
ナノボディというのはAblynx社の登録商標で、
- 「VHH抗体(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)」
- 「シングルドメイン抗体」
と呼ばれることもありますね。
ナノボディは通常のIgG抗体と比べて分子量が小さいため、従来なら作用できなかった部位にも作用が期待されている技術ですよー!
リウマチ領域でも臨床応用されています。
-
ナノゾラ(オゾラリズマブ)の作用機序・特徴【関節リウマチ】
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カブリビ(カプラシズマブ)の作用機序
カブリビは、VWFの血小板部位に作用するナノボディ製剤です。
VWFと血小板との相互作用が阻害される結果、巨大なVWFマルチマーであっても、血栓を生じにくくなり、血小板消費も抑制されると考えられています。
エビデンス紹介:HERCULES試験
根拠となった臨床試験(HERCULES試験)をご紹介します。4)
本試験は、TTP患者さんを対象に、血漿交換中とその後の30 日間カブリビを投与する群とプラセボを投与する群を比較した第Ⅲ相試験です。
主要評価項目は「血小板数が正常化するまでの期間」とされ、結果は以下の通りでした。
カブリビ群 | プラセボ群 | |
血小板数が正常化するまでの期間 | 2.69日 | 2.88日 |
P=0.01 | ||
試験治療期間中における TTP関連死・TTPの再発・血栓塞栓イベントの複合割合 |
12% | 49% |
P<0.001 |
血小板正常化までの期間は数値だけで見るとあまり変化ないように見えますが、統計学的には有意にカブリビ群で短縮していました。
副作用
10%以上に認められる副作用として、注射部位反応、発熱などが報告されています。
重大な副作用として、
- 出血:脳出血(頻度不明)、消化管出血(頻度不明)等の生命を脅かす致死的な出血を含む大出血、鼻出血(18.6%)、歯肉出血(10.2%)等
が挙げられていますので、特に注意が必要です。
用法・用量、在宅自己注射
成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、本剤の投与初日は、血漿交換前に10mg を静脈内投与し、血漿交換終了後に10mgを皮下投与します。その後の血漿交換期間中は、血漿交換終了後に1日1回10mgを皮下投与します。
血漿交換期間後は、1日1回10mgを30日間皮下投与します。
なお、患者の状態に応じて、血漿交換期間後30日間を超えて本剤の投与を延長することが可能です。
また、在宅自己注射も可能ですので、利便性が良いと思われます。
ただし、「自己投与は血漿交換期間後の1日1回10mg皮下投与の場合のみとすること」とされているので注意が必要ですね。
収載時の薬価
収載予定時(2022年11月16日)の薬価は以下の通りです。
- カブリビ注射用10mg:515,532円
算定根拠については以下をご確認ください。
-
【新薬:薬価収載】16製品(2022年11月16日)
続きを見る
まとめ・あとがき
カブリビはこんな薬
- 後天性TTPにおいて血漿交換療法と併用する
- VWFに対するナノボディ製剤
- VWFと血小板の相互作用を阻害して血栓傾向を抑制する
これまで血栓性血小板減少性紫斑病の治療は限られていましたので、治療選択肢が増えることは朗報ではないでしょうか。
近年、ナノボディを応用した新薬開発が活発化していますね。今後、他の領域でも期待できる技術だと思います!
-
ナノゾラ(オゾラリズマブ)の作用機序・特徴【関節リウマチ】
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以上、今回はTTPと共に、ナノボディの概要、そしてカブリビ(カプラシズマブ)の作用機序について解説しました~。
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