2021年9月27日、「尿路上皮がん」を対象疾患とするパドセブ(エンホルツマブベドチン)が承認されました!
その後、2023年2月には20mg製剤が新たに承認されています。
アステラス製薬|ニュースリリース
基本情報
製品名 | パドセブ点滴静注用20mg/30mg |
一般名 | エンホルツマブ ベドチン |
製品名の由来 | PADCEV=Antibody-Drug Conjugate(抗体薬物複合体)+ Enfortumab Vedotin(エンホルツマブ ベドチン) |
製造販売 | アステラス製薬(株) |
効能・効果 | がん化学療法後に増悪した根治切除不能な尿路上皮がん |
用法・用量 | 3投1休の4週1サイクル |
収載時の薬価 | 20mg:薬価未収載 30mg:99,609円 |
発売日 | 30mg:2021年11月30日新発売(HP) |
パドセブは尿路上皮がんの三次治療以降に使用する新規のADC(Antibody Drug Conjugate:抗体薬物複合体)です!海外では既にPADCEVとして承認・販売されていますよ。
今回は尿路上皮がんとパドセブ(エンホルツマブベドチン)の作用機序・特徴、エビデンスについて解説していきます。
尿路上皮がんと治療
腎臓から続く「腎盂→尿管→膀胱→尿道」のことを尿路と呼んでいますが、ここは上皮粘膜に覆われています。そして、尿路の上皮粘膜から発生するがんが尿路上皮がんです。
尿路上皮がんのうち、最も頻度が高いのが膀胱がんであり、全体の約95%を占めています。
また、尿路上皮がん細胞のほとんどは「ネクチン-4」と呼ばれる細胞接着分子を発現していることが知られています。
初期の尿路上皮がんの場合、開腹手術やTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)などによって根治が可能ですが、発見時に他の臓器に転移のある場合(StageⅣ)、抗がん剤(化学療法)による治療が基本です。1)
初回の抗がん剤治療としては治療選択肢が少なく、日本ではゲムシタビン+シスプラチン療法(GC療法)を4~6サイクル行います。
未承認ですが、保険償還可能なパクリタキセル+カルボプラチンが行われることもある
GC療法を4~6サイクル行った後は、これまでは経過観察もしくはゲムシタビン単剤による治療が行われていましたが、2021年には維持治療としてのバベンチオ(一般名:アベルマブ)が承認されています。
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【効能効果追加】4製品(2021年1月24日)
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もしバベンチオを行わずにGC療法で増悪が認められた場合には、二次治療としてはキイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)が使用されます。こちらも免疫チェックポイント阻害薬で抗PD-1抗体薬ですね。
このように、尿路上皮がんで化学療法を行う場合、シスプラチン等の白金製剤とそれに続く免疫チェックポイント阻害薬による治療が基本です。しかしながら、その後に増悪した場合、確立された治療選択肢はありませんでした。
今回ご紹介するパドセブは白金製剤と免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体薬/抗PD-L1抗体薬)による治療歴のある患者さんに対して効果が期待されていますよ~!
パドセブ(エンホルツマブベドチン)の構造・作用機序
パドセブは尿路上皮がん細胞のネクチン-4を特異的に認識する抗体のエンホルツマブに、抗がん剤のモノメチルアウリスタチンE(MMAE)を結合させた構造を有しています。
MMAEは微小管(チューブリン)阻害作用を有していて、強力な抗腫瘍活性を持つ抗がん剤ですが、そのまま体内に投与されると、正常細胞も傷つけてしまうため、副作用が強く発現してしまいます。
そこで、尿路上皮がん細胞を特異的に認識する抗体であるエンホルツマブに、抗がん剤のMMAEを結合させることで、抗がん剤ががん細胞のみに作用するよう工夫した薬剤がパドセブです!
このように抗体医薬品と抗がん剤を結合させた医薬品を「ADC(Antibody Drug Conjugate:抗体薬物複合体)」と呼んでいて、以下の薬剤が登場してきています。ベドチン人気!(笑)
- マイロターグ(一般名:ゲムツズマブ オゾガマイシン):造血器腫瘍
- カドサイラ(一般名:トラスツズマブ エムタンシン):乳がん
- エンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン):乳がん
- アドセトリス(一般名:ブレンツキシマブ ベドチン):造血器腫瘍
- ベスポンサ(一般名:イノツズマブオゾガマイシン):造血器腫瘍
- ポライビー(一般名:ポラツズマブ ベドチン):造血器腫瘍
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パドセブは尿路上皮がん細胞にある「ネクチン-4」を認識して結合します。その後、パドセブはがん細胞内に取り込まれ、抗がん剤のMMAEが遊離されます。
そしてMMAEは白血病細胞内の微小管(チューブリン)を阻害し、白血病細胞の増殖を抑制するといった作用機序です!
エビデンス紹介:EV-301試験
根拠となった臨床試験を一つご紹介します(EV-301試験)。
本試験はプラチナ製剤を含む化学療法および、抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体による治療歴のある尿路上皮がん患者さんを対象に、パドセブと抗がん剤単独(ドセタキセル or パクリタキセル or ビンフルニン)を比較する国際共同第Ⅲ相臨床試験です。2)
主要評価項目は「全生存期間」とされ、結果は以下の通りでした。
パドセブ群 | 抗がん剤単独群 | |
全生存期間中央値 | 12.88か月 | 8.97か月 |
HR=0.70(95%CI:0.56-0.89) P=0.001 |
抗がん剤単独と比較して有意に生存期間の延長が示されていますね!すごい!
副作用
30%以上に認められる副作用として、疲労、食欲減退、脱毛症(45.3%)、そう痒症などが報告されています。
また、重大な副作用として、
- 重度の皮膚障害:中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)(頻度不明)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群:SJS)(頻度不明)等
- 高血糖(6.4%)
- 末梢性ニューロパチー(46.3%):末梢性感覚ニューロパチー(33.8%)、末梢性運動ニューロパチー(3.4%)、筋力低下(2.4%)、歩行障害(1.0%)等
- 骨髄抑制:好中球減少(16.6%)、貧血(11.5%)、白血球減少(6.1%)、血小板減少(4.1%)、リンパ球減少(3.0%)、発熱性好中球減少症(0.7%)等
- 感染症(14.5%)
- 腎機能障害:急性腎障害(2.0%)等
- 間質性肺疾患(2.4%):間質性肺疾患(頻度不明)、肺臓炎(2.0%)等
が挙げられていますので特に注意が必要です。
収載時の薬価
収載時(2021年11月25日)の薬価は以下の通りです。
- パドセブ点滴静注用30mg:99,609円
算定根拠については以下をご参考ください。
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【新薬:薬価収載】12製品+再生医療等製品(2021年11月25日)
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まとめ・あとがき
パドセブはこんな薬
- ADC(Antibody Drug Conjugate:抗体薬物複合体)
- ネクチン-4を選択的に認識するエンホルツマブに抗がん剤のMMAEを結合
- 白金製剤と抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体の既治療の尿路上皮がんで効果が期待できる
これまで尿路上皮がんは治療選択肢が少なかったのですが、近年、キイトルーダやバベンチオなどの免疫チェックポイント阻害薬も開発されました!パドセブも新規ADCとして期待できるのではないでしょうか。
以上、今回は尿路上皮がんとパドセブ(エンホルツマブベドチン)の作用機序・特徴について解説しました!
引用文献・資料等
- がん情報サービス|膀胱がん
- EV-301試験:N Engl J Med 2021; 384:1125-1135.
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