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2022年6月20日、ベオビュ(ブロルシズマブ)の効能・効果に「糖尿病黄斑浮腫」を追加することが承認されました!
ノバルティス ファーマ|ニュースリリース
基本情報
製品名 | ベオビュ硝子体内注射用キット120mg/mL |
一般名 | ブロルシズマブ |
製品名の由来 | 「Beautiful」(美しい)+「Vision」(視力、 視野、景色」から命名した。 |
製造販売 | ノバルティス・ファーマ(株) |
効能・効果 | ●中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性 ●糖尿病黄斑浮腫 |
用法・用量 | 記事内参照 |
収載時の薬価 | 142,784円 |
ベオビュは「加齢黄斑変性」を対象疾患として2020年3月25日に承認されました。
加齢黄斑変性については既に以下の2製品が承認・販売されていますが、ベオビュはそれに次ぐ3製品目ですね。
上記の2製品は維持期では2か月程の投与間隔でしたが、今回ご紹介するベオビュは維持期で初の3か月毎の投与で治療が可能です。
今回は「加齢黄斑変性」の疾患解説と共に、ベオビュの作用機序や特徴(scFVと他の抗体薬との違い)について解説していきます。
2022年に登場した新薬バビースモ(ファリシマブ)と合わせた類薬の比較については以下の記事をご参照ください♪
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バビースモ(ファリシマブ)の作用機序:類薬との違い・比較【加齢黄斑変性】
眼の構造と黄斑(中心窩)
眼の構造は以下のイラストの通りですが、網膜の中心には「黄斑」と呼ばれる部位があります。
黄斑は視細胞が密集しているため、モノを見るための視機能では最も重要な部位とされています。
黄斑の中心は中心窩(“ちゅうしんか”と読みます)と呼ばれ、ここには視細胞が最も密集しているため特に重要です。
加齢黄斑変性の病態と症状
加齢黄斑変性は、黄斑が加齢とともに障害を受け、視力の低下や視力異常をきたす疾患です。
50歳以上の男性に好発し、日本では増加傾向にあります。また加齢黄斑変性は失明(中途失明)の原因の上位を占めています(中途失明の第1位は緑内障)。
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エイベリス(オミデネパグ)の作用機序:プロスタグランジンF2α誘導体製剤との違い【緑内障】
続きを見る
発症のリスク因子としては「喫煙」や「肥満」がありますので、「目の生活習慣病」とも呼ばれています。
症状としては
- 物が歪んで見える
- 視野の中心が暗くて見えにくくなる
- 視力が低下する
などがあります。
多くの場合、症状は片眼から現れますが、両眼で見ているとなかなか症状に気付かずに、発見が遅れることもあります。
加齢黄斑変性の分類と原因
加齢黄斑変性には以下の2種類があり、原因が異なっています。
- 萎縮型:黄斑組織が加齢によって萎縮していく。進行は遅い。
- 滲出型:脈絡膜新生血管による。進行が速い。
多くの場合、「滲出型」と言われていますので、滲出型について解説します。
網膜のすぐ下には「脈絡膜」が存在していますが、網膜に老廃物が増えていくと、これを除去するために脈絡膜から新たな血管が作成されます。このように新たな血管が作られることを「新生血管」と呼んでいます。
病的で異常な新生血管は非常に脆く、血液成分が漏れ出してしまうことで、水分などが異常に貯まって浮腫となり、黄斑に障害をきたします。
異常な新生血管には「VEGF(血管内皮増殖因子)」と呼ばれる因子や、PlGF(胎盤増殖因子)が関わっていると考えられています。
これらが過剰に分泌されることで脈絡膜新生血管が引き起こされ、滲出型の加齢黄斑変性が発症します。
加齢黄斑変性の治療
萎縮型は進行が遅いことから、特に治療は行われません。
しかし、滲出型に移行することもありますので、定期的な検査によって異常がないかを調べておく必要があります。
滲出型では、以下の治療法が行われます。1)
- 抗VEGF薬:ルセンティス、アイリーアなど
- レーザーによる光線力学的療法
- レーザーによる光凝固法
今回ご紹介するベオビュも「抗VEGF薬」に分類されています。
抗体とその断片(Fc、Fab、scFv):ベオビュの構造
通常、生体内の抗体や抗体薬(例:アバスチン等)は「定常領域(Fc)」と、抗原と結合する「可変領域(Fab)」から成り立っています。現在、承認されている抗体薬はほとんど完全な抗体構造を有しています。
このうち、抗原と結合可能なFab領域のみを製品化したのがルセンティスですね。
Wikipedia|List of therapeutic monoclonal antibodies
ベオビュはFabをより短く切断して、抗原結合領域を残した「ヒト化一本鎖抗体フラグメント(scFv:single chain variable fragment)」です。
scFvでは分子量が抗体薬やFabよりも小さくなっていることから、眼組織への移行性が高いといった特徴があるようです。2)
ベオビュ(ブロルシズマブ)の作用機序
ベオビュは新生血管に関与しているVEGF-Aを特異的に阻害するscFv製剤です。
新生血管の形成に関わるVEGF-Aを阻害することで、異常な新生血管を抑制し、滲出型の加齢黄斑変性の症状を改善するといった作用機序を有しています!
エビデンス紹介:HAWK試験・HARRIER試験
根拠となった臨床試験には、日本人を含む2つの第Ⅲ相臨床試験(HAWK試験とHARRIER試験)があります。3)
いずれの臨床試験も滲出型加齢黄斑変性患者さんを対象に、アイリーア(維持期2か月毎投与)に対するベオビュ(維持期3か月毎投与)の非劣性を検証しています。(HAWK試験のベオビュ投与法は2群)
主要評価項目はベースラインから48週時点までの「最高矯正視力(BCVA)の平均変化量」とされ、結果は以下の通りでした。
非劣性マージンはいずれも4文字とされています。
試験名 | HAWK試験 | HARRIER試験 | |||
試験群 | ベオビュ 3mg |
ベオビュ 6mg |
アイリーア | ベオビュ 6mg |
アイリーア |
BCVAの平均変化量 [95%CI] |
6.1文字 | 6.6文字 | 6.8文字 | 6.9文字 | 7.6文字 |
アイリーアとの差:-0.6[-2.5~1.3] 非劣性のp<0.001 |
アイリーアとの差:-0.2[-2.1~1.8] 非劣性のp<0.001 |
- | アイリーアとの差:-0.7[-2.4~1.0] 非劣性のp<0.001 |
- |
このように両試験においてアイリーアに対するベオビュの非劣性が確認されていますね。
用法・用量
<中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性>
ブロルシズマブ(遺伝子組換え)として6mg(0.05mL)を4週ごとに1回、連続3回(導入期)硝子体内投与します。
その後の維持期においては、通常、12週ごとに1回、硝子体内投与します。
<糖尿病黄斑浮腫>
ブロルシズマブ(遺伝子組換え)として6mg(0.05mL)を6週ごとに1回、連続5回(導入期)硝子体内投与しますが、症状により投与回数を適宜減じるとのこと。
その後の維持期においては、通常、12週ごとに1回、硝子体内投与します。
なお、いずれの適応症の場合でも、症状により投与間隔は適宜調節可能ですが、8週以上あけることとされていますね。
副作用
重大な副作用として、
- 眼障害:眼内炎(0.7%)、眼内炎症(ぶどう膜炎等)(3.2%)、網膜色素上皮裂孔(1.1%)、網膜剥離(0.3%)、網膜裂孔(0.8%)、網膜動脈閉塞(0.4%)、網膜血管炎(頻度不明)及び網膜血管閉塞(頻度不明)
- 動脈血栓塞栓症:脳卒中(0.1%)及び心筋虚血(頻度不明)
が挙げられていますので注意が必要です。
収載時の薬価
収載時(2020年5月20日)の薬価は以下の通りです。
- ベオビュ硝子体内注射用キット120mg/mL 6mg0.05mL1筒 :142,784円(1日薬価:1,956円)
算定根拠等については以下の記事をご確認ください。
-
【新薬:薬価収載】18製品+再生医療等製品(2020年5月20日)
続きを見る
まとめ・あとがき
ベオビュはこんな薬
- 初のscFv製品
- VEGF-Aを特異的に阻害することで新生血管を抑制する
- 維持期では3か月毎の投与で治療が可能
前述の臨床試験3)ではアイリーアに対して非劣性が認められていましたので、効果としては同程度の印象を受けます。
あとは使いやすさや副作用など、今後は使い分け等が検討されれば興味深いと感じます。
余談ですが、最近では抗体を改変・改良したような色々な薬剤の開発が進行していますね。承認されている薬剤の例では以下があります。
- 二重特異性抗体:ヘムライブラ(一般名:エミシズマブ)
- Fab領域のみの二重特異性抗体(BiTE抗体):ビーリンサイト(一般名:ブリナツモマブ)
- Fc領域のみの製品:ウィフガート(一般名:エフガルチギモド)
2022年に登場した新薬バビースモ(ファリシマブ)と合わせた類薬の比較については以下の記事をご参照ください♪
-
バビースモ(ファリシマブ)の作用機序:類薬との違い・比較【加齢黄斑変性】
続きを見る
以上、今回は加齢黄斑変性症とベオビュ(ブロルシズマブ)の作用機序や特徴(scFVと他の抗体薬との違い)についてご紹介しました!
引用文献・資料等
- 日本眼科学会|加齢黄斑変性の治療指針
- Ophthalmology. 2016 May;123(5):1080-9.
- HAWK・HARRIER試験:Ophthalmology. 2020 Jan;127(1):72-84.
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