8.感染症

エムレスビアの作用機序:アレックスビー/アブリスボとの違い【RSVワクチン】

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2025年4月21日、厚労省の薬事審議会・医薬品第二部会にて、「RSウイルスによる感染症の予防」を対象疾患とするエムレスビア筋注シリンジの承認可否が審議される予定です!

モデルナ・ジャパン|申請のニュースリリース

基本情報

製品名 エムレスビア筋注シリンジ
一般名 RSウイルスRNAワクチン(開発コード:mRNA-1345)
製品名の由来
製造販売 モデルナ・ジャパン(株)
効能・効果 RSウイルスによる感染症の予防?
用法・用量 筋注による単回接種?
収載時の薬価 保険給付の対象外のため、未収載
発売日

 

RSウイルスワクチンとしては、既に

がありますが、エムレスビアは初のmRNAワクチンです!

 

木元 貴祥
木元 貴祥
モデルナのmRNAワクチンと言えば、新型コロナウイルスワクチンが有名ですよね~♪
コミナティ、ダイチロナ、コスタイベなどの作用機序【新型コロナウイルス】

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RSウイルス感染は世界中に広がっている一般的なウイルスで、何度も繰り返し感染します。

 

大人の場合は罹患してもただの風邪症状になることが多いのですが、高齢者乳児期早期(生後数週間~数か月間)が罹患してしまうと、しばしば重症化してしまう危険性があります。

有効な治療法はなく、対症療法のみでした。

 

類薬のアレックスビーとアブリスボは、既に高齢者に対して使用可能でしたが、エムレスビアも新たな選択肢に加わります。

 

ちなみに、重症化リスクの高い新生児・乳幼児などに対しては、予防効果を有する抗体製剤のベイフォータス筋注(一般名:ニルセビマブ)が使用できます。

ベイフォータス(ニルセビマブ)の作用機序・特徴【RSウイルス感染】

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今回はRSウイルス感染とエムレスビアの作用機序・特徴、そしてエビデンスについて解説していきます。

 

RSウイルス感染症とは

RSウイルス(RSV:respiratory syncytial virus)に感染することによって引き起こされる呼吸器の疾患のことをRSウイルス感染症と呼んでいます。1)

ウイルス自体は日常に溢れているため、何度も感染と発病を繰り返しますが、生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の児がRSウイルスに少なくとも1度は感染するとされています。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
小さいお子様が保育園・幼稚園に通い出すと、必ず遭遇しますよね・・。

 

RSウイルスの潜伏期間は2~8(多くの場合4~6)日間で、「発熱・鼻汁・咳」などの軽い風邪のような症状が現れます。

 

通常は対症療法のみで回復するのですが、初めて感染した場合は重症化しやすく、気管支炎・肺炎・呼吸困難を引き起こすこともあります。

乳期、特に乳児期早期(生後数週間~数か月間)にRSウイルスに初感染した場合は重症化しやすいため注意が必要です。

 

重症化リスクの高い子供として、以下が挙げられています。2)

  • 生後6か月未満の赤ちゃん
  • 早産・低出生体重の赤ちゃん
  • 先天性心疾患
  • 慢性肺疾患
  • ダウン症
  • 免疫不全症など

 

また、子供だけでなく、慢性呼吸器・心疾患を合併する高齢者でも下気道感染(気管支炎や肺炎等)を引き起こし、入院・死亡の主要な原因となります。3)

 

治療・予防

現在、有効な治療法はありませんので、対症療法が基本です。

重症化リスクの高い子供に対しては、抗体製剤のシナジス筋注液(パリビズマブ)を流行初期から1か月毎に筋注することで、重篤な下気道炎症状の発症の抑制が期待できます。1-3)

 

また、新規の抗体製剤であるベイフォータス(ニルセビマブ)も使用可能のため、今後期待されています。

ベイフォータス(ニルセビマブ)の作用機序・特徴【RSウイルス感染】

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60歳以上の高齢者に対しては、アレックスビーまたはアブリスボによる予防接種が有効とされていて、エムレスビアも新たな選択肢に加わります。

 

RSウイルスの感染メカニズム

RSウイルスの分類としては「一本鎖マイナス鎖RNAウイルス」で、RNAをゲノムとしているウイルスです。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
ウイルスの分類・・・いくつかありますが覚えていますか??特徴と代表例はこんな感じですね。4)

 

ちなみに、アデノ随伴ウイルスの仕組みを用いた治療法なんかもありますね。

ゾルゲンスマ(オナセムノゲンアベパルボベク)の作用機序・特徴【脊髄性筋委縮症】

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プラス鎖というのはゲノムそのものがmRNAとして働くことが可能なもの、マイナス鎖というのはゲノムを鋳型として一旦mRNAを作るものを言います。RSウイルスは「一本鎖マイナス鎖RNAウイルス」の一種です。

 

さて、RSウイルスがヒトの細胞に感染する際、ウイルスの膜上にある「Gタンパク質」と「Fタンパク質」が重要な役割を担っています。

  • Gタンパク質:ヒトの細胞への吸着(接着)に関与している。
  • Fタンパク質:ウイルス膜とヒト細胞膜の膜融合(細胞内への侵入)に関与している

RSウイルスの感染メカニズム:Gタンパク質とFタンパク質が関与している。特にFタンパク質は融合前後で構造が大きく変化する

 

特にFタンパク質は膜融合前と膜融合後で、構造が大きく変化することが知られています。

 

エムレスビアの作用機序:融合前Fタンパク質のmRNAワクチン

RSウイルスは、Gタンパクの性状の差から、RSウイルス-ARSウイルス-Bの2つのサブタイプが知られています。

エムレスビアは、RSウイルス-Aの「融合前のFタンパク質」をコードするように設計されたmRNAワクチンで、RSウイルス-AとBに対して共に有効であるとされています。

 

mRNAはそのままでは非常に脆くて分解されやすいため、

  • 人工的な修飾によって安定化
  • 脂質ナノ粒子に封入することで分解抑制

といった工夫がなされています。

エムレスビアの作用機序:融合前Fタンパク質のmRNAワクチン

 

エムレスビアを筋肉注射すると、体内でmRNA情報を元にしてRSウイルスの融合前Fタンパク質が合成されていきます。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
合成されるのはFタンパク質のみのため、もちろん感染力は皆無ですのでご安心ください!

 

合成されたFタンパク質を体内の免疫細胞は「異物だ!」と認識することで排除しようと免疫が活性化されます。

 

その結果、RSウイルスに対して免疫を獲得すると考えられています。

 

エビデンス紹介:ConquerRSV試験

根拠となった臨床試験(ConquerRSV試験)をご紹介します。5)

本試験は60歳以上の成人を対象に、エムレスビアの単回投与群とプラセボの単回投与群を比較した国際共同第Ⅲ相臨床試験です(日本人含む)。

 

主要評価項目は、「2つ以上の徴候・症状を伴うRSV関連下気道疾患の予防」と「3つ以上の徴候・症状を伴うRSV関連下気道疾患の予防」とされ、結果は以下の通りでした。

エムレスビア群
(n=17,572)
プラセボ群
(n=17,516)
2つ以上の徴候・症状を伴う
RSV関連下気道疾患
9イベント 55イベント
下気道疾患に対する有効性=83.7%(95.88%CI:66.0~92.2)
3つ以上の徴候・症状を伴う
RSV関連下気道疾患
3イベント 17イベント
下気道疾患に対する有効性=82.4%(95.88%CI:34.8~95.3)
RSV関連急性呼吸器疾患 有効率=68.4%(95%CI:50.9~79.7)

 

木元 貴祥
木元 貴祥
プラセボと比較して有意に下気道感染の発現率を低下することが示されました!

 

副反応

臨床試験では、倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛などが報告されていました。

 

用法・用量

正式承認後に更新予定です。

臨床試験では、筋注による単回投与とされていました。

 

収載時の薬価

本剤は保険給付の対象外のため、薬価収載されません。

 

アブリスボやアレックスビーとの違い・比較

現在、RSウイルスに対するワクチンとしては、アブリスボアレックスビーがあります。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
簡単に一覧表としてまとめましたので、ご参考にしていただければ幸いです。

 

エムレスビアとアブリスボやアレックスビーとの違い・比較一覧表

 

主な違いは投与対象です。

いずれのワクチンも60歳以上の高齢者には使用可能ですが、50~59歳のハイリスク者にはアレックスビーのみ、妊婦にはアブリスボのみが使用可能ですね。

 

今後の使い分けが待たれます!

 

まとめ・あとがき

エムレスビアはこんな薬

  • RSウイルスに対して初のmRNAワクチン
  • RSウイルスのFタンパク質をコードするmRNAを投与することよって免疫を獲得する
  • 60歳以上の高齢者に接種する
  • 単回投与で効果が持続する

 

RSウイルス感染症には有効な治療法が存在しておらず、これまではワクチンもありませんでした。

2023年9月に国内初のワクチンとしてアレックスビーが登場し、その後、アブリスボも登場して選択肢が増えてきています。

アブリスボ筋注用の作用機序:アレックスビーとの違い【RSVワクチン】

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木元 貴祥
木元 貴祥
今回、RSウイルスに対して初のmRNAワクチンとしてエムレスビアが登場しましたので、新たな選択肢として期待できるのではないでしょうか。

 

以上、今回はRSウイルス感染とエムレスビア筋注の作用機序・エビデンスについて解説しました。

 

参考資料・文献等

  1. 厚生労働省|RSウイルス感染症Q&A(平成26年12月26日)
  2. 国立成育医療研究センター|RSウイルス感染症にご注意ください!!
  3. 国立感染症研究所|成人・高齢者におけるRSウイルス感染症の重要性
  4. International Committee on Taxonomy of Viruses (国際ウイルス分類委員会)による分類
  5. ConquerRSV試験:N Engl J Med 2023;389:2233-2244

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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