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シュンレンカ皮下注/錠(レナカパビル)の作用機序【HIV】

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2023年8月1日、「多剤耐性HIV-1感染症」を対象疾患とするシュンレンカ(一般名:レナカパビル)が承認されました!

2023年7月31日の厚労省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会にて、承認が了承され、僅か1日で正式承認です。

ギリアド・サイエンシズ|ニュースリリース

基本情報

製品名 シュンレンカ皮下注463.5mg、同錠300mg
一般名 レナカパビルナトリウム
製品名の由来 海外における商品名「Sunlenca」の表音から命名した。
製造販売 ギリアド・サイエンシズ(株)
効能・効果 多剤耐性HIV-1感染症
用法・用量 維持療法は6か月に1度の皮下注投与(記事内参照
収載時の薬価 シュンレンカ錠300mg:94,814.20円
シュンレンカ皮下注463.5mg:3,208,604円
発売日 2023年9月13日(HP

 

海外では「SUNLENCA」として既に承認されています。湘南の風が吹いていそうな製品名ですが(笑)

 

木元 貴祥
2023年6月2日に申請され、2か月経たずに審議・承認されました!かなり迅速の審査ですね、すごい!

 

シュンレンカはこれまでのHIV治療薬とは作用機序が異なり、カプシドを阻害する初の薬剤です。そのため、多剤耐性HIV-1感染症に対しても効果が期待されています。

 

今回は、HIV感染症とシュンレンカ(レナカパビル)の作用機序などについてご紹介します。

 

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AIDSとHIV

木元 貴祥
AIDS(エイズ)という言葉は一度は耳にしたことがあると思います。

 

正式名称は「後天性免疫不全症候群(Acquired immune deficiency syndrome:AIDS)」と呼ばれ、体内の免疫細胞が破壊されて後天的に免疫不全を引き起こす疾患です。

 

AIDSを引き起こす原因とされているウイルスが「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」です。

HIVに感染して数年の潜伏期間(無症状)を経た後にAIDSが発症すると言われています。

 

AIDSを発症すると全身倦怠感、体重の急激な減少、咳、発熱、発疹、といった風邪のような症状を呈します。

その後、普通では感染しないような日和見感染症(例:ニューモシスチス肺炎、カポジ肉腫、サイトメガロウイルス感染症)を合併し、生命に危機を及ぼします。

 

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染と増殖メカニズム

HIVの感染経路には以下の3つが知られています。

  • 性的感染
  • 血液感染
  • 母子感染

 

HIVは一本鎖RNAを持つレトロウイルスで、単体では増殖できません。従って、ヒト等の動物の細胞内に感染して増殖を行います。

 

木元 貴祥
それではここから増殖メカニズムについてご説明します。

 

HIVはエンベロープと呼ばれる外膜の中にカプシドがあり、その中にRNAが封入された構造を有しています。

HIVの構造

 

HIVがヒト細胞に感染すると、

  • 吸着
  • 膜融合
  • 脱殻

というプロセスを経てヒト細胞内にウイルスRNA(一本鎖)が放出されます。この状態では、まだRNAはカプシド内に内包されています。

 

その後、「逆転写酵素」によって二本鎖DNAが合成され、ヒト細胞の核内へ運ばれます。その際、カプシドが崩壊し、ヒト細胞の核内にウイルスの二本鎖DNAが放出されます。しかし、核内に運ばれたウイルスDNAは、そのままでは複製や転写・翻訳ができません。

 

そのためウイルスDNAは「インテグラーゼ」と呼ばれるウイルス酵素によって、ヒトDNAの中にウイルスDNAを組み込むことで、ヒト細胞が増殖する際にウイルスDNAも増殖するようになります。また、翻訳によってウイルスのタンパク質合成も行われます。

 

合成されたタンパク質は「プロテアーゼ」と呼ばれる酵素によって適切な大きさに切断され、HIVの増殖が完了します。

 

木元 貴祥
以上がHIVの感染・増殖のメカニズムです。まとめると図のようなイメージですね。

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染と増殖メカニズム

 

HIV感染症の治療

HIV感染症は早期に行うことで、AIDSの発症までの期間を延長することができます。

ただし、HIVを完治させることは現代医学では難しいとされています。

 

主に使用される薬剤には以下の種類があり、これらを適宜併用した多剤併用療法が基本です。1)

  • 核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)
  • 非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)
  • プロテアーゼ阻害剤(PI)
  • 膜融合阻害剤
  • インテグラーゼ阻害剤(INSTI)

 

組み合わせ方としては、HIV抑制効果が強い「キードラッグ」と、キードラッグを補足してHIV抑制効果を高める働きのある「バックボーン」を併用します。

 

木元 貴祥
どの薬剤がキードラッグかバックボーンなのかの明確な定義はないのですが、「NRTI×2剤」をバックボーンとされることが多いです。

 

従って、初回治療の組み合わせとしては、以下のいずれかが患者さんの適正(服用率を100%に近づけることを最優先)に併せて推奨されています。1)

 

これらの多剤併用療法を原則、一生涯行うことでAIDSで死亡することはほとんど無くなったと言われています。

 

しかしながら、一定の割合で上記に抵抗性を示すこともあり、治療選択肢が限られているといった問題があります。

今回ご紹介するシュンレンカは、多剤併用療法で耐性・治療抵抗性が認められた場合にも効果が期待されている薬剤です!また、半年に1回の皮下注投与で効果が得られるのも特徴ですね。

 

注射によるHIV治療薬は、ボカブリア/リカムビス水懸筋注(一般名:カボテグラビル/リルピビリン)が既に承認されていますが、皮下注製剤はシュンレンカが初ですね。

ボカブリア/リカムビス(カボテグラビル/リルピビリン)の作用機序【HIV】

続きを見る

 

シュンレンカ(レナカパビル)の作用機序・特徴:カプシド阻害薬

シュンレンカは、初のカプシド阻害薬です。

カプシドはHIVのRNAを封入しているタンパク質のため、HIVの感染・増殖の多段階の過程で関与しています。

 

シュンレンカは、特にヒトの核内でのDNA放出過程やヒト細胞からの遊離過程を阻害することで、HIVの増殖を抑制すると考えられています。2)

シュンレンカ(レナカパビル)の作用機序:カプシドを阻害することで、HIVの増殖過程における多段階を阻害できる

 

また、細胞から遊離されたばかりのHIVはカプシド形成が未熟な状態ですが、その後、成熟するに伴ってカプシドも成熟状態となります。シュンレンカはカプシドの形成段階も阻害すると考えられています。2)

 

木元 貴祥
これまでのHIV治療薬と作用機序が異なるため、薬剤耐性・治療抵抗性が認められた場合でも効果が期待されているのですね。

 

エビデンス紹介:CAPELLA試験

根拠となった臨床試験(CAPELLA試験)をご紹介します。2)

本試験は多剤耐性HIV患者さんを対象に、2つのコホートで実施された第Ⅲ相臨床試験です。

  • コホート1:プラセボとシュンレンカを比較する無作為化試験
  • コホート2:シュンレンカの非盲検単群試験

 

コホート1では、既存薬で効果が得られない患者さんを対象に、既存薬にプラセボもしくはシュンレンカを併用した際の有効性・安全性が検証されました。主要評価項目は「15日目までにウイルス量が0.5log10コピー/mL 以上減少した患者の割合」とされ、結果は以下の通りでした。

プラセボ群 シュンレンカ群
15日目までにウイルス量が
0.5log10コピー/mL 以上減少した患者の割合
17% 88%
P<0.001

 

木元 貴祥
既存薬に上乗せすることで、有意なウイルス量の減少が示されていますね!

 

用法・用量

まずは錠剤から治療を開始し、2週間の負荷投与による本薬の曝露量の確保・忍容性の確認を行った後、皮下注投与に移行します。

 

通常、成人には投与1日目及び2日目に2錠(レナカパビルとして600mg)を、8日目に1錠(レナカパビルとして300mg)を1日1回経口投与します。なお、本剤は、食事の有無に関わらず投与可能です。

その後、成人にはレナカパビル経口剤の投与開始後15日目に、レナカパビルとして927mgを皮下投与し、以降は、927mgを6か月に1回、皮下投与します。

 

なお、投与に際しては、必ず他の抗 HIV薬と併用することとされています。

 

副作用

3%以上に認められる副作用として、悪心が報告されています(錠剤・皮下注製剤共通)。

皮下注製剤では、注射部位反応(腫脹、疼痛、結節、紅斑、硬結、そう痒感、漏出、不快感、腫瘤、血腫、浮腫、潰瘍)(63%)も報告されています。

 

木元 貴祥
重大な副作用は特にありませんね。

 

収載時の薬価

収載時(2023年8月9日)の薬価は以下の通りです。

  • シュンレンカ錠300mg:94,814.20円
  • シュンレンカ皮下注463.5mg:3,208,604円

 

算定の根拠については、以下の記事をご参照ください。

【新薬承認+薬価収載】1製品+3製品(2023年8月1~2日承認、8月9日薬価収載)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

シュンレンカはこんな薬

  • 国内初のカプシド阻害薬で、多剤耐性HIV-1感染症に対して期待されている
  • 経口と皮下注投与を組み合わせる
  • 皮下注投与は6か月に1度の投与が可能

 

HIV治療薬は様々な多剤併用療法が開発され、これらの多剤併用療法を原則一生涯行うことでAIDSで死亡することはほとんど無くなったと言われています。しかしながら、一定の割合で治療抵抗性を示すこともあり、その後の治療選択肢は限られていました。

 

今回ご紹介したシュンレンカは、多剤併用療法で耐性・治療抵抗性が認められた場合にも効果が期待されている薬剤です。

 

木元 貴祥
多剤耐性HIV感染症の新たな治療選択肢として期待できるのではないでしょうか。

 

皮下注投与は6か月に1度の投与で効果が期待されるのも使いやすくて良いと思います!

 

以上、今回はHIV感染症とシュンレンカ(レナカパビル)の作用機序などについてご紹介しました!

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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