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2025年2月19日、厚労省の薬事審議会再生医療等製品・生物由来技術部会にて、「血友病B」を対象疾患とするベクベッツ点滴静注(フィダナコゲン・エラパルボベク)の承認可否が審議される予定でしたが、「会社都合」で審査が取り下げられました…。
ミクスオンラインの記事によれば、全世界で当製品の開発・商業化が中止されたとのこと。
ミクスオンライン|ファイザー 血友病Bの遺伝子治療用製品・ベクベッツ 「全世界で開発及び商業化を中止」
今後承認される見込みはないため、参考程度として本記事をご覧ください。
基本情報
製品名 | ベクベッツ点滴静注 |
一般名 | フィダナコゲン・エラパルボベク |
製品名の由来 | |
製造販売 | ファイザー(株) |
効能・効果 | |
用法・用量 | |
収載時の薬価 | |
発売日 |
血友病Bに対する初の遺伝子治療でしたが、残念ですね。ただ、他社で類薬の開発は進行中のため、記事としては残しておきます!!!

これまで血友病Bでは一生涯にわたる第Ⅸ因子の補充(例:レフィキシアなど)が必要でしたが、ベクベッツは単回投与で治療が完了する遺伝子治療です!
なお、同様の作用機序を有する再生医療等製品としては、脊髄性筋委縮症に使用するゾルゲンスマ(オナセムノゲンアベパルボベク)があります。
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ゾルゲンスマ(オナセムノゲンアベパルボベク)の作用機序・特徴【脊髄性筋委縮症】
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今回は止血のメカニズムと先天性血友病、そしてベクベッツ(フィダナコゲン・エラパルボベク)の作用機序とエビデンスついてご紹介します。
止血のメカニズム
我々が怪我などをした際に出血すると、体内では血を止めようとする機構(止血機構)が働きます。
止血には、血小板が関わる一次止血と、凝固因子が関わる二次止血があります。
出血が起こると、まずは血中に存在する血小板が活性化し、損傷部位に集まってきて血栓(一次血栓)を形成します。
これを一次止血と呼びますが、これだけでは簡単に剥がれてしまいます。
次いで、一次止血を補強する目的で二次止血が行われます。
二次止血では一次血栓の周囲を「フィブリン」と呼ばれるタンパク質で覆い、強固な止血血栓(二次血栓)を完成させます。
二次血栓に関与するフィブリンは様々な「凝固因子」が血液凝固反応(カスケード)を引き起すことで生成されます。
二次止血時の血液凝固反応(カスケード)とは
血液凝固反応では、全部で14種類の凝固因子が活性化することで引き起こされます。
一般的に凝固因子はローマ数字(例:Ⅴ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)で表され、活性化した凝固因子はローマ数字の後ろに“a”を付けて(例:Ⅴa、Ⅶa、Ⅸa、Ⅹa)表されます。
体内の血液凝固反応は、反応の引き金となる因子の違いから「外因系」と「内因系」に分けられていますが、今回は内因系をメインにご紹介します。
内因系の血液凝固反応は第Ⅻ因子が活性化(Ⅻa)されることで開始されます。
ⅫaはⅪを活性化(Ⅺa)させ、Ⅺaが第Ⅸ因子を活性化(Ⅸa)します。また、第Ⅷ因子が活性化したⅧaと、Ⅸaによって第Ⅹ因子が活性化(Ⅹa)されます。
Ⅹaはプロトロンビンをトロンビンに変換し、トロンビンはフィブリノゲンをフィブリンに変換します。
このようにして完成したフィブリンが二次止血を行い、強固な血栓(二次血栓)を形成します。

血友病とは
血友病は先天的に血液凝固因子が欠損している疾患です。
第Ⅷ因子が欠損している場合を「血友病A」、第Ⅸ因子が欠損している場合を「血友病B」と分類しています。
血友病は染色遺体の伴性劣性遺伝のため、男性の患者がほとんどを占めます。
国内での発症率は男児出生1万人に約1人で、現在では6,000名程の患者さんがいらっしゃると推測されています。
血友病の病態と症状
血友病では血液凝固因子が欠損していることから、二次止血における内因系の血液凝固反応(カスケード)がうまく働きません。
その結果、二次止血に重要な「フィブリン」が生成されないため、様々な出血の症状が現れます。
特徴的な出血症状は、関節内や筋肉内の出血(深部出血)です。その他、抜歯後に血が止まらなかったり、頭蓋内で出血することもあります。

血友病の治療
血友病の治療は、欠損している血液凝固因子を補充する治療が基本です。
血友病による出血を予防するため、上記因子の「定期補充療法」を行います。また、出血してしまった際には適宜、「オンデマンド補充療法」を行います。
参考オンデマンド(on-demand)とは、「必要に応じて」を意味します。
血液凝固因子製剤は在宅でも安全に静脈内投与ができることから、上記の定期補充療法を中心として、出血時には必要に応じてオンデマンド補充療法を行うことが一般的です。
最近では補充療法以外の治療法として、バイスペシフィック抗体(二重特異性抗体)のヘムライブラ(エミシズマブ)が血友病Aの治療薬として使用されることが多くなってきました。
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ヘムライブラ(エミシズマブ)の作用機序と二重特異性抗体【血友病A】
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定期補充療法のデメリット(インヒビターの出現)
定期補充療法は、出血を予防するために常に体内に一定量の凝固因子を存在させておく必要があります。
従って、血中濃度を一定量維持するため、週に3回程投与する必要があります。最近では半減期を延長し、週に1回の投与で治療が可能な製剤もあります。
また、定期補充療法を繰り返していると、補充している凝固因子を「異物(非自己)」と認識し、凝固因子に対して抗体が産生されてしまうことがります。
このような抗体のことを「インヒビター」と呼び、血友病A患者さんの約30%、血友病B患者さんの約1~3%に認められます。
インヒビターが出現してしまうと、当然、補充した凝固因子が働くことができないため、止血能力が失われてしまいます。
インヒビターが出現してしまった場合の治療法には「インヒビター中和療法」や「バイパス止血療法」がありますが、選択肢は限られていました。
今回ご紹介するベクベッツは、インヒビター保有の血友病には使用できません。今後の適応拡大が望まれますね。
ベクベッツ(フィダナコゲン エラパルボベク)の構造・作用機序
ベクベッツの中身(構造)は、高活性型の第Ⅸ因子であるFⅨ Padua (FⅨ-R338L)の遺伝子を「アデノ随伴ウイルス(AAV)」と呼ばれるウイルスの殻(カプシド)で包んだ構造をしています。
Padua変異は、イタリアのPadua地方のとある患者さんから発見された遺伝子変異で、通常のFⅨの8倍ほどの活性を有することが知られています。

【参考】遺伝性疾患プラス編集部|血友病遺伝子治療の最前線2023~国内外の開発・承認状況を専門医が一挙解説!
通常、血液凝固因子は肝細胞で産生されます。
静脈内に投与されたベクベッツは肝臓に移行し、FⅨ-R338L遺伝子が肝細胞に取り込まれて核内に移行します。
その後、核内で永続的に留まるといった特徴がありますので、そこからFⅨ Padua(FⅨ-R338L)が産生されていきます。1-2)
なお、他の組織に取り込まれる可能性もありますが、肝のみで転写が開始されるプロモーター領域を使用しているため、他の組織では転写が開始されません。

ただし、AAVを使用することから、抗AAV中和抗体を保有している場合には効果が期待できません…。
日本人における抗AAV中和抗体の保有率は20.4~29.4%とされている3)ため、事前のスクリーニングが必要です。
エビデンス紹介:BENEGENE-2試験
根拠となった臨床試験をご紹介します(BENEGENE-2試験)4)。
本試験は、FIX製剤による定期補充療法を6か月以上行い、FIX活性が2%以下、FIXインヒビター陽性歴がない18~65歳の血友病B患者さんを対象とした国際共同の単群第Ⅲ相臨床試験です。
登録された患者さんのうち、抗AAV中和抗体陽性の場合は対象外。
主要評価項目は、投与後12週から15か月までの「年間出血率(治療した出血エピソードおよび未治療の出血エピソード)」で、定期補充療法を受けていた導入期間と比較し、非劣性が達成された場合は優越性を評価することとされました。
導入期間 | 投与後12週から15か月 | |
年間出血率 | 4.42 | 1.28 |
治療差:-3.15(95%CI:-5.46~-0.83)、 p=0.008 |
本試験の結果、定期補充療法に対する非劣性および優越性が確認されています!!
用法・用量
承認見込みがないため、更新しません(静脈内に単回投与想定でした)。
副作用:肝機能障害に注意
承認見込みがないため、更新しません。
臨床試験では、ASTの上昇などが認められていました。

収載時の薬価
現時点では未承認かつ薬価未収載です。承認見込みもありません。
類薬のゾルゲンスマの収載時の薬価は約1憶6,700万円でしたので、もし収載されれば、ベクベッツも高額になる予想していましたが。
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【新薬:薬価収載】18製品+再生医療等製品(2020年5月20日)
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まとめ・あとがき
ベクベッツはこんな薬
- 1回の静脈内投与で治療が完結する血友病Bの遺伝子療法
- アデノウイルスを利用して活性型第Ⅸ因子(FⅨ Padua)の遺伝子を肝細胞の核内に組み込む
- 定期補充療法に対して優越性が確認されている
- 薬価は高額になる見込み
- 会社都合で開発・商業化中止
これまで血友病Bでは一生涯にわたる第Ⅸ因子の補充が必要でしたが、ベクベッツは単回投与で治療が完了する遺伝子治療です!

現在、他の遺伝子治療も開発が進んでいるため、新たな治療選択肢の登場も期待できるところです。
以上、今回は止血のメカニズムと先天性血友病、そしてベクベッツ(フィダナコゲン・エラパルボベク)の作用機序とエビデンスついてご紹介しました!
引用文献・資料等
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