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フルミスト点鼻液の作用機序【経鼻弱毒生インフルエンザワクチン】

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フルミスト点鼻液の作用機序【経鼻弱毒生インフルエンザワクチン】

2023年3月27日、国内初の鼻腔噴霧型インフルエンザ弱毒生ワクチンであるフルミスト点鼻液が承認されました!

第一三共|ニュースリリース

基本情報

製品名 フルミスト点鼻液
一般名 経鼻弱毒生インフルエンザワクチン
製品名の由来 製品名の由来はインフルエンザ(Influenza)と
噴霧(mist)を組み合わせて命名された。
製薬会社 第一三共(株)
効能・効果 インフルエンザの予防
用法・用量 2歳以上19歳未満の者に、
0.2mLを1回(各鼻腔内に0.1mLを1噴霧)、鼻腔内に噴霧する。
収載時の薬価 本剤は保険給付の対象とならない(薬価基準未収載)
発売日 2024年9月26日(HP

 

これまでのインフルエンザワクチンは皮下注が中心でしたが、フルミストは国内初の鼻腔噴霧型インフルエンザワクチンです。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
針穿刺の必要がありませんので、小児や子供の心理的・身体的負担の軽減も期待できますね!

 

今回はフルミストの作用機序・特徴と共に、従来の皮下注型のインフルエンザワクチンとの違いについて解説していきます。

 

インフルエンザウイルスとは

インフルエンザ、という名前は必ず一度は聞いたことがあると思います。

正式には「インフルエンザウイルス感染症」と呼びます。例年12月~3月頃に流行し、世間を賑わせていますよね。

 

インフルエンザウイルスは、構成するタンパク質の違いから、A型、B型、C型に分類されています。

  • A型:ヒト、鳥、ブタ、ウマに感染し、病原性が強く、症状も強く出る
  • B型:ヒトにしか感染せず、病原性が強い
  • C型:ヒトにしか感染しないが、病原性は弱い

 

木元 貴祥
木元 貴祥
よく流行するのは病原性の強いA型とB型ですね。

 

C型については一度感染すると免疫を獲得するため、大人ではかかりにくいですが、乳幼児に多いとされています。

 

症状

インフルエンザ感染の症状としては、

  • 突然現れる高熱
  • 頭痛
  • 筋肉痛や関節痛
  • のどの強い痛み
  • 咳・鼻水

などが挙げられます。

 

特にA型のインフルエンザ感染症では上記の症状(特に高熱)が強くみられる傾向があります。

免疫力の低下している方や高齢者の方では気管支炎や肺炎など、症状が重篤化する恐れもあります。

 

また小児では中耳炎、熱性けいれん、急性脳症などを併発し、重篤になる場合があるため、注意が必要です。

 

治療

インフルエンザと思われる症状が発現した際には、まずは医療機関を受診して診断することが重要です。

インフルエンザであった場合、医師がその必要性を判断し、抗インフルエンザウイルス薬が処方されます。また、水分を十分に補給し、睡眠を十分にとることも大切です。

 

抗インフルエンザウイルス薬には

がありますが、現在ではノイラミニダーゼ阻害薬が主流ですね。

 

以下の図にインフルエンザ治療薬の作用機序まとめを掲載しています。

ノイラミニダーゼ阻害薬は増殖したウイルスの拡散を抑制しますが、ゾフルーザやアビガンはウイルスの増殖自体を抑制します。

インフルエンザ治療薬の作用機序まとめ

ゾフルーザ(バロキサビル)の作用機序・耐性:類薬との比較【インフルエンザ治療薬】

続きを見る

 

木元 貴祥
木元 貴祥
治療薬があるとはいえ、まずは感染しないことが最重要です!

 

日本では、インフルエンザに関連した超過死亡数が年間1万人を超えると推定されていて、その大半は高齢者です。

ただ、インフルエンザ脳症に代表される乳幼児での重篤な合併症の報告も多く、インフルエンザでの入院患者の大部分を高齢者と15歳未満の小児が占めていることから、高齢者のみならず小児のインフルエンザ予防も重要とされています。

 

そのため、毎年のインフルエンザワクチン接種の他、手洗い・うがい・マスク着用・加湿、といった日頃の生活で感染を予防することが大切です。

 

これまでのインフルエンザワクチンは皮下注が中心でしたが、フルミストは国内初の鼻腔噴霧型インフルエンザワクチンです。

 

フルミスト点鼻液の作用機序・特徴

これまでのインフルエンザワクチンは「不活化ワクチン」でしたが、フルミストは生きたウイルスを弱毒化させた「生ワクチン」です。

セコム健康くらぶKENKO|ワクチンとは?役割や種類について

 

特に、フルミストに使用されているインフルエンザウイルスには以下の3つの特徴があります。1)

  1. 低温馴化低温で効率良く増殖する
  2. 温度感受性:B型株は37℃、A型株は39℃で増殖しにくくなる
  3. 弱毒化:ヒトのインフルエンザ発症モデルであるフェレットでインフルエンザ様症状を引き起こさない

 

鼻腔内に噴霧されたウイルスは、鼻腔内が比較的低温であることから、鼻腔内で効率的に増殖します。また、肺や全身に移行してしまったとしても、温度感受性のため、37℃以上では増殖しにくくなります。

さらに、弱毒化されているため、たとえ増殖したとしても、インフルエンザ様症状を引き起こさないと期待されています。

 

上記の特徴によって、全身および局所における液性免疫・細胞性免疫を獲得する結果、インフルエンザの感染予防効果が得られると期待されています。

フルミスト点鼻液の作用機序・特徴

 

木元 貴祥
木元 貴祥
注射針を穿刺することもないので、簡便で非侵襲的なのもよい特徴ですよね!また、効果持続期間も長いと言われています。

 

フルミストの効果・エビデンス:J301試験

国内で実施された第Ⅲ相試験(J301試験)をご紹介します。2)

 

木元 貴祥
木元 貴祥
メーカーのHPにわかりやすい結果の概要図もありましたので、併せて掲載しておきます!3)

 

本試験は、2歳以上19歳未満の日本人健康小児を対象とし、フルミスト(治験コード:MEDI3250)またはプラセボを鼻腔内噴霧した際のインフルエンザ発症予防効果を検証した第Ⅲ相試験です。

フルミストの国内第Ⅲ相試験の概要

 

主要評価項目は「インフルエンザ発症割合」とされ、結果は以下の通りでした。

フルミストの有効性・効果

※有効率の95%信頼区間は12.5%~42.0%であり、下限が0を上回ったことからプラセボに対するフルミストの優越性が検証されました。

 

副反応については、以下の通りで、両群における明確な差異は認められていません。

フルミストの副反応・副作用・危険性

 

木元 貴祥
木元 貴祥
以上より、日本の小児において、フルミストの有効性・安全性が確認されました!

 

副反応・危険性について

10%以上に認められる副反応として、鼻閉・鼻漏(59.2%)、咳嗽、口腔咽頭痛、頭痛などが報告されています。

 

また、重大な副反応としては、

  • ショック(頻度不明)、アナフィラキシー(頻度不明)

が挙げられていますので、特に注意が必要です。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
従来の皮下注のワクチンでは、重大な副反応として急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、脳炎・脳症、けいれん、喘息発作、血管炎、間質性肺炎などが挙げられていたため、それよりは少ない印象ですね。

 

注意事項・デメリット

フルミストは生ワクチンであることから、妊婦(妊娠していることが明らかな者)に対しては禁忌のため、投与不可です。

 

また、国内臨床試験では2歳以上19歳未満を対象としていたことから、2歳未満や19歳以上に対しては使用できません。海外では49歳まで使用できるようですので、今後、国内でも対象年齢の拡大があるかもしれませんね。

 

用法・用量

2歳以上19歳未満の者に、0.2mLを1回(各鼻腔内に0.1mLを1噴霧)、鼻腔内に噴霧します。

 

具体的な投与方法は下図の通りです。右と左の各鼻腔内に1回ずつ噴霧します。

フルミストの投与方法

 

木元 貴祥
木元 貴祥
ワクチン噴霧時、被接種者が積極的に吸入(鼻をすする)する必要はないようですね。

 

他のワクチンとの同時接種

医師が必要と認めた場合には、他のワクチンと同時に接種することができる、とされています。

 

価格・料金:保険給付対象外

フルミストは、保険給付対象外のため薬価収載されません。

ついては、接種にかかる料金は全額自己負担です(各自治体からの補助はあるかもしれません)。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
これまでは、未承認として輸入品が8,000円/回前後で使用されていたようですが、今回正式承認となりましたので、価格はもう少し抑えられるのではと予想しています。

 

従来の皮下注型のインフルエンザワクチンとの違い

従来の皮下注ワクチン(不活化インフルエンザワクチン)とフルミストの違いについて、一覧表にまとめてみました!

 

従来の皮下注型のインフルエンザワクチンとの違い

 

フルミストは生ワクチンであることから、「妊婦」や「免疫抑制剤による治療中」の方への投与は禁忌です。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
また、重大な副反応の項目数はフルミストで少なく見えますが、これはまだまだ使用経験がないためだと考えられます。

 

フルミストのRMPでも、【重要な潜在的リスク】として、

  • ショック、アナフィラキシー ギラン・バレー症候群
  • けいれん(熱性けいれんを含む)
  • ベル麻痺を含む脳神経障害
  • 脳炎
  • 血管炎
  • サリチル酸系医薬品、ジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸との併用に係るライ症候群及びインフルエンザ脳
    炎・脳症

が挙げられていますので、同様の注意が必要だと思われます。

 

日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会の推奨

2024年9月には、日本小児科学会から「経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方」が掲出されました。4)

 

それによると、不活化インフルエンザワクチンとフルミストの推奨は以下の通りとのことです。

不活化インフルエンザ HA ワクチン (正式名称: インフルエンザ HA ワクチン) (inactivated influenza vaccine:IIV) と経鼻弱毒生インフルエンザワクチン (live attenuated influenza vaccine: LAIV) の間にインフルエンザ罹患予防効果に対する明確な優位性は確認されていません。

  1. 2 歳〜19 歳未満に対して、不活化インフルエンザ HA ワクチンまたは経鼻弱毒生インフルエンザワクチンのいずれかのワクチンを用いたインフルエンザ予防を同等に推奨しますが、特に喘息患者には不活化インフルエンザ HA ワクチンの使用を推奨します。経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは飛沫又は接触によりワクチンウイルスの水平伝播の可能性があるため、授乳婦、周囲に免疫不全患者がいる場合は不活化インフルエンザ HAワクチンの使用を推奨します。
  2. 生後 6 か月〜2 歳未満、19 歳以上、免疫不全患者、無脾症患者、妊婦、ミトコンドリア脳筋症患者、ゼラチンアレルギーを有する患者、中枢神経系の解剖学的バリアー破綻がある患者に対しては不活化インフルエンザHA ワクチンのみを推奨します。

 

2歳~19歳の健常な方にはいずれも推奨されていますが、喘息を併存していたり、周囲に授乳婦や免疫不全患者がいる場合には従来の皮下注ワクチンが推奨されていますね。

 

まとめ・あとがき

フルミストはこんな薬

  • 国内初の鼻腔噴霧型インフルエンザワクチン
  • 低温馴化、温度感受性、弱毒化の特徴を有する「生ワクチン
  • 鼻腔内で選択的に増殖し、局所・全身の免疫を獲得する
  • 単回接種で効果が持続する

 

これまでのインフルエンザワクチンは皮下注が中心でしたが、フルミストは国内初の鼻腔噴霧型インフルエンザワクチンです。

針穿刺の必要がありませんので、小児や子供の心理的・身体的負担の軽減も期待できるとともに、接種率の向上にも寄与するのではないでしょうか。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
今後、鼻腔噴霧型のワクチンが広がることを期待したいですね!

 

以上、今回はフルミストの作用機序・特徴と共に、従来の皮下注型のインフルエンザワクチンとの違いについて解説しました!

 

 

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木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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