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2024年3月26日、アブリスボ筋注用の効能・効果に「60歳以上の者におけるRSウイルスによる感染症の予防」を追加することが承認されました。
ファイザー|ニュースリリース
基本情報
製品名 | アブリスボ筋注用 |
一般名 | 組換えRSウイルスワクチン |
製品名の由来 | 海外に準じた |
製造販売 | ファイザー(株) |
効能・効果 | ●妊婦への能動免疫による新生児及び乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患の予防 ●60 歳以上の者におけるRS ウイルスによる感染症の予防 |
用法・用量 | <妊婦> 抗原製剤を専用溶解用液全量で溶解後、妊娠24~36週の妊婦に、1回0.5mLを筋肉内に接種する <60歳以上> 抗原製剤を専用溶解用液全量で溶解後、1 回0.5mLを筋肉内に接種する。 |
収載時の薬価 | 保険給付の対象外のため、未収載 |
発売日 | 2024年5月31日(HP) |
アブリスボは、2024年1月18日に「RSウイルスによる下気道疾患の予防(母子免疫)」を効能・効果とする初のワクチンとして承認されました。
RSウイルス感染は世界中に広がっている一般的なウイルスで、何度も繰り返し感染します。
ほぼすべての乳幼児が2歳までに感染し、特に乳児期早期(生後数週間~数か月間)に感染すると、重症化のリスクが高いと言われています。
しかしながら、有効な治療法はなく、対症療法のみでした。
ちなみに、重症化リスクの高い新生児・乳幼児に対しては、予防効果を有する抗体製剤のシナジス筋注液(一般名:パリビズマブ)が使用できます。
2023年9月には国内初のRSウイルスワクチンのアレックスビー筋注用が承認されていますが、対象は60歳以上でした。今回のアブリスボの適応拡大に伴って、同じく60歳以上に使用可能となりますね。
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アレックスビー筋注用の作用機序【RSウイルス感染ワクチン】
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今回はRSウイルス感染とアブリスボの作用機序・特徴、そしてエビデンスについて解説していきます。
RSウイルス感染症とは
RSウイルス(respiratory syncytial virus)に感染することによって引き起こされる呼吸器の疾患のことをRSウイルス感染症と呼んでいます。1)
ウイルス自体は日常に溢れているため、何度も感染と発病を繰り返しますが、生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の児がRSウイルスに少なくとも1度は感染するとされています。
RSウイルスの潜伏期間は2~8(多くの場合4~6)日間で、「発熱・鼻汁・咳」などの軽い風邪のような症状が現れます。
通常は対症療法のみで回復するのですが、初めて感染した場合は重症化しやすく、気管支炎・肺炎・呼吸困難を引き起こすこともあります。
乳期、特に乳児期早期(生後数週間~数か月間)にRSウイルスに初感染した場合は重症化しやすいため注意が必要です。
重症化リスクの高い子供として、以下が挙げられています。2)
- 生後6か月未満の赤ちゃん
- 早産・低出生体重の赤ちゃん
- 先天性心疾患
- 慢性肺疾患
- ダウン症
- 免疫不全症など
また、子供だけでなく、慢性呼吸器・心疾患を合併する高齢者でも下気道感染(気管支炎や肺炎等)を引き起こし、入院・死亡の主要な原因となります。3)
治療・予防
現在、有効な治療法はありませんので、対症療法が基本です。
重症化リスクの高い子供に対しては、抗体製剤のシナジス筋注液(パリビズマブ)を流行初期から1か月毎に筋注することで、重篤な下気道炎症状の発症の抑制が期待できます。1-3)
また、新規の抗体製剤であるベイフォータス(ニルセビマブ)も申請中のため、今後期待されています。
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ベイフォータス(ニルセビマブ)の作用機序・特徴【RSウイルス感染】
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しかしながら、乳児に対して有効な予防薬はこれまでありませんでした。
RSウイルスの感染メカニズム
RSウイルスの分類としては「一本鎖マイナス鎖RNAウイルス」で、RNAをゲノムとしているウイルスです。
- 二本鎖DNAウイルス:アデノウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス
- 一本鎖DNAウイルス:アデノ随伴ウイルス
- 二本鎖RNAウイルス:ロタウイルス
- 一本鎖プラス鎖RNAウイルス:コロナウイルス、エンテロウイルス、C型肝炎ウイルス、ノロウイルス
- 一本鎖マイナス鎖RNAウイルス:麻疹ウイルス、RSウイルス、エボラウイルス、インフルエンザウイルス
- 一本鎖RNA逆転写ウイルス:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
- 二本鎖DNA逆転写ウイルス:B型肝炎ウイルス
ちなみに、アデノ随伴ウイルスの仕組みを用いた治療法なんかもありますね。
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ゾルゲンスマ(オナセムノゲンアベパルボベク)の作用機序・特徴【脊髄性筋委縮症】
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プラス鎖というのはゲノムそのものがmRNAとして働くことが可能なもの、マイナス鎖というのはゲノムを鋳型として一旦mRNAを作るものを言います。RSウイルスは「一本鎖マイナス鎖RNAウイルス」の一種です。
さて、RSウイルスがヒトの細胞に感染する際、ウイルスの膜上にある「Gタンパク質」と「Fタンパク質」が重要な役割を担っています。
- Gタンパク質:ヒトの細胞への吸着(接着)に関与している。
- Fタンパク質:ウイルス膜とヒト細胞膜の膜融合(細胞内への侵入)に関与している
特にFタンパク質は膜融合前と膜融合後で、構造が大きく変化することが知られています。
アブリスボの作用機序:2価の融合前Fタンパク質の抗原
RSウイルスは、Gタンパクの性状の差から、RSウイルス-AとRSウイルス-Bの2つのサブタイプが知られています。
アブリスボは、RSウイルス-AおよびBの「2価の融合前のFタンパク質の抗原」を組み合わせたRSウイルスワクチンです。
妊婦に接種することで、出生直後より乳児を感染症から守ることが可能となります。これが母子免疫ですね。
厚生労働省|第27回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会>04資料1-2 ファイザー株式会社提出資料
エビデンス紹介:MATISSE試験
根拠となった臨床試験(MATISSE試験)をご紹介します。5)
本試験は妊娠24~36週の女性を対象に、アブリスボまたはプラセボを1回筋肉内接種する群を比較する国際共同第Ⅲ相臨床試験です(日本を含む)。
主要評価項目は、乳児における「受診にいたった重症RSウイルス関連下気道疾患」と「受診にいたったRSウイルス関連下気道疾患」の2つとされ、生後90日、120日、150日、180日までに発生したものとされました。
結果は以下の通りで、成功基準を達成した項目については、太字下線としています。
アブリスボ群 (n=3,495) |
プラセボ群 (n=3,480) |
||
受診にいたった重症RSウイルス関連下気道疾患の ワクチン有効率 |
生後90日 | 81.8% | |
生後120日 | 73.9% | ||
生後150日 | 70.9% | ||
生後180日 | 69.4% | ||
受診にいたったRSウイルス関連下気道疾患の ワクチン有効率 |
生後90日 | 57.1% | |
生後120日 | 56.8% | ||
生後150日 | 52.5% | ||
生後180日 | 51.3% |
参考までに、60歳以上の成人を対象とした同様の臨床試験(RENOIR試験)6)においても、アブリスボの有効性が確認されたため、現在承認申請中です。
副作用
臨床試験では、疼痛、頭痛、筋肉痛、関節痛、疲労などが報告されていました。
用法・用量
〈妊婦への能動免疫による新生児及び乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患の予防〉
抗原製剤を専用溶解用液全量で溶解後、妊娠24~36 週の妊婦に、1 回0.5 mLを筋肉内に接種します。
ただ、その中でも妊娠28~36週の間に接種することが望ましいとされています。この理由として、臨床試験において、妊娠28~36週に本剤を接種した場合に有効性がより高い傾向が認められているとのことです。
〈60歳以上の者におけるRSウイルスによる感染症の予防〉
抗原製剤を専用溶解用液全量で溶解後、1回0.5mLを筋肉内に接種します。
収載時の薬価
本剤は保険給付の対象外のため、薬価収載されません。
アブリスボとアレックスビーの違い・比較
現在、RSウイルスに対するワクチンとしては、アブリスボとアレックスビーがあります。
主な違いは投与対象です。
アレックスビーは60歳以上の高齢者に対し、アブリスボは妊婦を対象としています。アブリスボは高齢者に対しても使用可能となったため、今後はより適応の範囲が広がりますね。
また、アレックスビーは1価のワクチンでアジュバントが添加されています。一方、アブリスボは2価のワクチンですが、アジュバントは添加されていません。この差が臨床的にどのような違いになるのかは、今後の検討が待たれるところでしょう。
まとめ・あとがき
アブリスボはこんな薬
- RSウイルスに対して母子免疫が期待できる国内2製品目のワクチン製剤
- RSウイルスのFタンパク質抗原(2価)よって免疫を獲得する
- 単回投与で効果が持続する
RSウイルス感染症には有効な治療法が存在していないことから、重症化リスクの高い赤ちゃんに対してはシナジス筋注液(一般名:パリビズマブ)を使用していました。
しかし、高齢者や乳幼児に対しては有効な予防薬やワクチンは存在せず、対処療法しかありませんでした。
アブリスボは、母子免疫を対象とした初のRSウイルスワクチンで、乳児の重症RSウイルス関連下気道疾患を有意に低下させることが示されています。
現在、シナジスに次ぐ抗体製剤のベイフォータス(ニルセビマブ)も承認されたため、新たな選択肢として期待されています。
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ベイフォータス(ニルセビマブ)の作用機序・特徴【RSウイルス感染】
続きを見る
以上、今回はRSウイルス感染とアブリスボ筋注用の作用機序・エビデンスについて解説しました。
参考資料・文献等
- 厚生労働省|RSウイルス感染症Q&A(平成26年12月26日)
- 国立成育医療研究センター|RSウイルス感染症にご注意ください!!
- 国立感染症研究所|成人・高齢者におけるRSウイルス感染症の重要性
- International Committee on Taxonomy of Viruses (国際ウイルス分類委員会)による分類
- MATISSE試験(母子感染):N Engl J Med 2023; 388:1451-1464
- RENOIR試験(高齢者):N Engl J Med 2023; 388:1465-1477
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