5.内分泌・骨・代謝系

バクスミー点鼻粉末剤(グルカゴン)の作用機序・特徴【低血糖】

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2020年3月25日、「低血糖時の救急処置」を対象疾患とするバクスミー点鼻粉末剤(グルカゴン)が承認されました!

日本イーライリリー|ニュースリリース

基本情報

製品名 バクスミー点鼻粉末剤3mg
一般名 グルカゴン
製品名の由来 特になし
製造販売 日本イーライリリー(株)
効能・効果 低血糖時の救急処置
用法・用量 通常、グルカゴンとして1回3mgを鼻腔内に投与する。
収載時の薬価 8,368.60円

 

低血糖時の対応としては、

  • 経口グルコース投与
  • グルカゴンの筋注投与

が一般的に行われますが、バクスミーは初の点鼻で治療可能な薬剤となります。

 

特に糖尿病患者さんでは低血糖のリスクが高いため、今回は糖尿病を中心にバクスミーの作用機序・特徴について解説します。

 

生体内の血糖調節システム

通常、生体内では以下のいくつかのホルモン等によって血糖が一定に保たれています。

 

<血糖を上昇させる生体内物質>

  • グルカゴン
  • アドレナリン
  • ノルアドレナリン
  • コルチゾール
  • 成長ホルモン

<血糖を下降させる生体内物質>

  • インスリン

 

このように、血糖を上昇させる物質は数種類存在していますが、血糖を下降する物質はインスリンしかありません。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
バクスミーは上記のうち、血糖を上昇させるグルカゴン製剤ですね。

 

生体内において、グルカゴンは膵臓ランゲルハンス島のα細胞から分泌されています。

 

糖尿病の概要

平成29年の厚労省調査(3年に1度)によると、糖尿病の総患者数は約328万人超であり、前回の調査から12万人以上増加しています。

厚生労働省平成29年(2017)患者調査の概況

 

糖尿病はその名の通り、血中ブドウ糖濃度が高い状態が慢性的に継続している病態です。

 

健康診断等で

  • 空腹時血糖値が126mg/dL以上
  • HbA1cが6.5%以上

の場合に疑われ、数回の検査を経て確定診断されます。

 

糖尿病にはその原因や病態によって

  • 1型糖尿病
  • 2型糖尿病

に分類されています。

 

日本人では約95%が「2型糖尿病」に分類されており、遺伝因子と食生活・運動不足・肥満等の生活習慣が原因で、以下の理由で引き起こされると考えられています。

  • インスリンの分泌低下:インスリン量が減っている
  • インスリンの抵抗性増大:インスリンの効きが悪くなっている

2型糖尿病の発症要因

 

 

主にはインスリンの抵抗性増大によると考えられています。(インスリン分泌低下は軽度~中等度と様々)

 

 

一方、1型糖尿病遺伝因子自己免疫等によって、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が欠損・破壊されている状態です。(インスリンの分泌低下

従って、治療の基本はインスリンの補充療法です。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
1型・2型、いずれも遺伝因子が関与していますが、その関与の程度は1型糖尿病の方が強いと言われています。

 

2型糖尿病の治療

2型糖尿病治療は

  • 食事療法
  • 運動療法
  • 薬物療法

を基本としますが、最も大切なのは食事療法運動療法です。1)

 

食事/運動療法を2~3カ月続けても血糖値が下がらない場合、薬物療法が開始されます。

 

2型糖尿病治療薬

2型糖尿病治療薬にはいくつかの種類があり、年齢や肥満の程度、合併症、肝・腎機能等によって使い分けられます。

まずは経口血糖降下薬の少量から開始されることが多いです。1)

 

経口血糖降下薬には以下の種類があり、糖尿病の原因(インスリン分泌低下、抵抗性増大)によって使い分けられます。

 

<インスリン分泌低下を改善>

  • スルホニル尿素(SU)薬:インスリン分泌促進
  • グリニド薬:より速やかなインスリン分泌促進
  • DPP-4阻害薬:GLP-1分解抑制によるインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制

 

<インスリン抵抗性を改善>

  • ビグアナイド薬:糖新生の抑制
  • チアゾリジン薬:インスリンの感受性を向上

 

加えて、ブドウ糖の吸収を抑制する「α-グルコシダーゼ阻害薬」や、ブドウ糖の排泄を促進する「SGLT2阻害薬」等も使用されます。

 

これら経口血糖降下薬を使用しても血糖値が下がらない場合、経口薬の増量や併用、そして注射剤(GLP-1受容体作動薬、インスリン製剤)の使用が検討されます。

リベルサス(経口のセマグルチド)の作用機序と特徴【糖尿病】

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また、最近では経口血糖降下薬でコントロール不十分な場合、BOTBPTと呼ばれれる治療が行われることもありますね。

  • 持続型インスリン製剤+経口血糖降下薬:BOT(Basal Supported Oral Therapy)
  • 持続型インスリン製剤+GLP-1受容体作動薬:BPT(Basal supported post Prandial GLP-1 therapy)2)
ゾルトファイ配合注(インスリンデグルデク/リラグルチド)の作用機序【糖尿病】

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さて、上記のような糖尿病治療により血糖値のコントロールが可能になりますが、稀に薬の過剰投与や食事制限等で低血糖状態となってしまうことがあります。

 

糖尿病治療と低血糖

低血糖状態とは、以下のような原因で血糖値が70mg/dLの場合を言います。3)

  • 食事の量や炭水化物の不足
  • 薬を使ったあとの食事時間の遅れ
  • 運動の量や時間が多い時の運動中、運動後
  • 空腹での運動
  • インスリン注射や飲み薬の量が多かった
  • 飲酒
  • 入浴

 

症状としては発汗や頻脈、動悸・息切れ、頭痛などがありますが、重度の場合、昏睡けいれんを引き起こし、後遺症が残る可能性もあります。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
そのため、糖尿病治療においては低血糖予防のためのブドウ糖やグルコースを持ち歩いたり、食事量や腹薬量に注意したりする必要がありますね。

 

低血糖時に意識がある場合、主な対処法は以下の通りです。

  • ブドウ糖の経口摂取
  • ブドウ糖を含む飲料の摂取

 

しかし、昏睡やけいれん等で意識がない場合、ブドウ糖を口唇と歯肉に塗り付ける方法や、グルカゴンの筋注投与(例:グルカゴンGノボ注射用)を行います。

 

上記の方法ではなかなか家族など周りの人で速やかに対処できることが難しい場合がありますが、今回ご紹介するバクスミーは初の点鼻で治療可能な薬剤です!

 

バクスミー(グルカゴン)の作用機序・特徴

バクスミーが点鼻で投与されると有効成分のグルカゴンが肝臓のグリコーゲンを分解し、グルコース(ブドウ糖)に変換していきます。

その他、肝臓の糖新生と呼ばれるプロセスからもグルコースの合成を促進させます。

 

メモ

  • グリコーゲン:グルコース(ブドウ糖)が重合した貯蔵多糖。主に肝臓・筋肉組織に貯蔵されている。
  • 糖新生:ピルビン酸、乳酸、アミノ酸、プロピオン酸、グリセロールなどの糖質以外の物質から、グルコースを生産する手段・経路。

バクスミー(グルカゴン)の作用機序・特徴

 

このようにバクスミーは肝臓において

  • グリコーゲンの分解
  • 糖新生の促進

といった作用機序によって血糖値を上昇させる薬剤ですね。

 

ただし、バクスミーの血糖上昇作用は主として肝臓のグリコーゲンの分解によります。従って、

  • 飢餓状態
  • 副腎機能低下症
  • 糖原病、等

の場合はそもそもグリコーゲンが少ないため、血糖上昇効果がほとんど期待できないことに注意が必要です。

 

副作用

10%以上に認められた副作用として、悪心、嘔吐、頭痛などが報告されています。

 

重大な副作用としては、

  • ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)

が挙げられていますので特に注意が必要です。

 

用法・用量

通常、グルカゴンとして1回3mgを鼻腔内に投与します。

 

収載時の薬価

収載時(2020年8月26日)の薬価は以下の通りです。

 

  • バクスミー点鼻粉末剤3mg:8,368.60円

 

算定根拠については以下の記事で解説しています。

【新薬:薬価収載】13製品(2020年8月26日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

バクスミーはこんな薬

  • 低血糖時の救急処置として使用する初の点鼻薬
  • 肝臓のグリコーゲンを分解して血糖値を上昇させる

 

これまで低血糖の救急処置としては筋注のグルカゴンしかありませんでしたが、バクスミーは初の点鼻で治療が可能となります。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
患者さんや周りのご家族は利便性が向上しますので朗報ではないでしょうか。

 

以上、今回は糖尿病を中心にバクスミーの作用機序・特徴について解説しました!

 

糖尿病治療薬関連の以下のまとめ記事もありますので是非ご覧くださいませ☆

 

引用文献・資料等

  1. 日本糖尿病学会|糖尿病治療ガイド
  2. Pharm Med 2014; 32: 101-11
  3. 糖尿病情報センター|低血糖

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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