8.感染症

フェトロージャ(セフィデロコル)の作用機序【CRE】

シデロフォアセファロスポリン系抗菌薬

2023年11月30日、「各種感染症」を対象疾患とするフェトロージャ点滴静注用が承認されました!

塩野義製薬|ニュースリリース

基本情報

製品名 フェトロージャ点滴静注用1g
一般名 セフィデロコルトシル酸塩硫酸塩水和物
製品名の由来 フェトロージャ(Fetroja)=Fe(鉄)+Trojan horse(トロイの木馬)
製造販売 塩野義製薬(株)
効能・効果 <適応菌種>
セフィデロコルに感性の大腸菌、シトロバクター属、肺炎桿菌、クレブシエラ属、
エンテロバクター属、セラチア・マルセスセンス、プロテウス属、
モルガネラ・モルガニー、緑膿菌、バークホルデリア属、
ステノトロホモナス・マルトフィリア、アシネトバクター属
ただし、カルバペネム系抗菌薬に耐性を示す菌株に限る
<適応症>
各種感染症
用法・用量 通常、成人には、セフィデロコルとして1回2gを8時間ごとに3時間かけて点滴静注する。
なお、腎機能に応じて適宜増減する。
収載時の薬価 20,203円
発売日 2023年12月20日(HP

 

フェトロージャは、広義のセファロスポリン系抗菌薬に分類されていますが、その中でもシデロフォアセファロスポリン系抗菌薬に分類されている初の薬剤です。

 

木元 貴祥
シデロフォアって・・・、何?ってなりますよね(汗)

 

作用機序的には、セファロスポリン系抗菌薬なので皆さんご存じの通り、ペニシリン結合タンパク質(PBP)を阻害して抗菌作用を示すのですが、細菌細胞内への取り込まれ方が特徴的なんです!

 

また、フェトロージャは厚労省がAMR対策の一環として新たに試行導入した「抗菌薬確保支援事業」の制度を利用した初の薬剤です(厚労省の公募公示)。

これは、抗菌薬の販売を手がける製薬企業の収益の一定額を保証する制度のことで、抗菌薬の開発を促す仕組みを作り、薬剤耐性対策を推進することを目的としているようです。

 

塩野義製薬はゾコーバの緊急承認制度といい、制度を活用するのが上手いですね・・・!

新型コロナウイルス感染症
ゾコーバ錠(エンシトレルビル)の作用機序【COVID-19】

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木元 貴祥
そういえば、先駆け審査指定制度の第一号も塩野義製薬のゾフルーザ(バロキサビル)でしたね。

 

今回はカルバペネマーゼ耐性腸内細菌目細菌(CRE)を中心に、細菌の分類と耐性機序、そしてフェトロージャ(セフィデロコル)の作用機序とエビデンスについて紹介します。

 

細菌の構造と分類(グラム染色)

細菌はヒトを含む真核生物と比較して非常に単純な構造から成り立っています。

主には、鞭毛、莢膜、細胞壁、細胞膜、細胞質などから構成されており、DNAは核膜に覆われていません。(真核生物のDNAは核膜に覆われている)

 

特に細胞壁の合成では「ペニシリン結合タンパク質(PBP)」が関与しており、細菌の細胞壁内に存在していますが、これはヒトには存在していません。

細胞壁の合成では「ペニシリン結合タンパク質(PBP)」が関与していて、鉄の取り込みにはシデロフォアが重要である。

 

また、細菌が感染状態にあると、鉄欠乏状態となります。そのため、細菌は「シデロフォア」と呼ばれる鉄キレート能を有する物質を分泌し、細胞膜を通過して能動的に鉄を取り込みます1)

 

木元 貴祥
細菌の鉄取り込みのために重要な物質がシデロフォアというわけですね。

 

さて、細菌を分類する手法としてグラム染色が知られており、以下に大別されます。

  • グラム陽性菌(例:黄色ブドウ球菌、MRSA
  • グラム陰性菌(例:大腸菌)
シベクトロ(テジゾリド)の作用機序と副作用【MRSA】

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木元 貴祥
これは細胞壁の厚さや性質による分類法です。

 

グラム陽性菌では細胞壁が厚いため色素が抜けずに染色されたままになります。一方、グラム陰性菌は細胞壁が薄いため、染色しても色素が抜けてしまいます。

 

臨床的にもグラム陽性か陰性かによって薬剤の感受性や耐性機序等が異なるため、重要な分類法です。

 

今回ご紹介するフェトロージャはグラム陰性菌に対して効果が期待されています。グラム陽性菌に対しては十分な抗菌活性を有していないとのことです。

 

カルバペネム系抗菌薬の耐性機序とCRE

細菌感染に使用する代表的な抗菌薬(抗生物質)としてカルバペネム系抗菌薬(例:メロペネム、イミペネム、ドリペネム、ビアペネム)があり、幅広い抗菌スペクトラムを有しているのが特徴です」。

 

作用機序としては、細菌のPBPに結合して細胞壁合成を阻害することで殺菌的に作用すると考えられていますね。

 

また、カルバペネム系抗菌薬の耐性に関わる因子として「β-ラクタマーゼ」が知られています。

これは細菌が産生する物質で、ペニシリン系抗菌薬・セフェム系抗菌薬・カルバペネム系抗菌薬を分解して活性を低下させてしまいます(耐性の獲得)。

カルバペネム系抗菌薬を分解するβ-ラクタマーゼのことを、カルバペネマーゼとも呼ぶ

 

その他にも、排出ポンプによる薬剤の排出や、薬剤の取り込み阻害なども耐性機序として知られています。

 

そして、院内感染等でしばしば問題となるのが「カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE:carbapenem-resistant Enterobacterales)感染症」で、国内のCRE感染症での死亡率は15-20%程度とされています。2)

 

また、CREは以下の2つの大別されています。

  • カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(CPE:carbapenemase-producing Enterobacterales):約16~17%
  • カルバペネマーゼ非産生のカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(non-CP-CRE:non-carbapenemase-producing Enterobacterales):約80%

 

木元 貴祥
多くの場合、カルバペネマーゼを産生しないnon-CP-CREですね。

 

non-CP-CREの場合、非β-ラクタム系抗菌薬が使用可能です。1)

また、最近承認されたレカルブリオ(レレバクタム/イミペネム/シラスタチン)も使用されることがありますね。

レカルブリオ(レレバクタム/イミペネム/シラスタチン)の作用機序【MDRP】

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しかしながら、カルバペネマーゼを産生するCPEの場合、治療選択肢が非常に限られていました。

そんな中、海外のガイドラインでは、CPEに対してフェトロージャが唯一単剤で使用可能な薬剤に位置付けられています。2)

 

従って、non-CP-CRE感染症や多剤耐性緑膿菌(MDRP:Multi Drug Resitant Psedomonas aeruginosa)に対しては、できるだけフェトロージャを使用せずに温存することとされています。2)

 

木元 貴祥
それだけ大事な切り札というわけですね。もちろん、適応上はMDRPに使用することも可能です。

 

フェトロージャ(セフィデロコル)の作用機序と特徴

フェトロージャは、セファロスポリン骨格にシデロフォア類似構造を結合させた構造です。

前述の通り、シデロフォアは細菌が鉄を取り込むのに重要な物質でしたので、ここに鉄が結合し、能動的にフェトロージャごと細胞内に取り込まれます

 

取り込まれたフェトロージャは、ペニシリン結合タンパク質(PBP)を阻害することで細菌の細胞壁合成を抑制すると考えられています。

フェトロージャ(セフィデロコル)の作用機序:シデロフォア類似構造によって、トロイの木馬のように細菌内に侵入できる

 

細菌のシデロフォアを上手く活用して細胞内に侵入することから、海外の製品キャッチ画像は「トロイの木馬」です・・・(笑)

https://www.fetroja.com/

 

木元 貴祥
シデロフォアが木馬で、騎士はセファロスポリン骨格なんでしょうね。いいセンス。製品名の由来にもなっています。

 

その他にも、

  • 細胞膜透過性を向上
  • 抗菌活性の向上
  • β-ラクタマーゼに対する抵抗性

を導入しているため、カルバペネム系抗菌薬耐性菌に対して高い効果が期待されています。1)

 

エビデンス紹介:CREDIBLE-CR試験

根拠となった臨床試験(CREDIBLE-CR試験)をご紹介します。3-4)

本試験は、カルバペネム耐性グラム陰性菌による感染症患者さんを対象に、フェトロージャ群と標準治療(1~3剤)群を比較する国際共同第Ⅲ相臨床試験です。

 

感染部位別の有効率以下の通りでした。

感染部位

評価項目

フェトロージャ群

標準治療群

院内肺炎/人工呼吸器関連肺炎/医療ケア関連肺炎

臨床効果

50.0%

52.6%

敗血症を含む血流感染症

43.5%

42.9%

 

また、菌種別の解析も行われ、フェトロージャの効能・効果の適応菌種における有効性も示されています。

 

しかしながら、上記臨床試験では、アシネトバクター属による感染症患者で標準治療群より死亡率が高い傾向が認められています。明確な原因は不明で、偶発的な偏りである可能性は否定できないと考察されていました。5)

 

そのため、添付文書には注意喚起の以下の文言が記載されています。

 

カルバペネム耐性グラム陰性菌による感染症患者を対象とした臨床試験において、原因不明であるものの、本剤が投与されたアシネトバクター属による感染症患者で標準治療群より死亡率が高い傾向が認められた。本剤の使用にあたっては他の治療法も考慮のうえ、本剤を使用する場合は、患者の状態を慎重に観察すること。

 

木元 貴祥
使用を制限するものではなさそうですが、敢えてアシネトバクター属に使用することもないと思われます。

 

副作用

1%以上に認められる副作用として、ALT上昇、γ-GTP上昇、下痢などが報告されています。

 

重大な副作用として、

  • ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)
  • 偽膜性大腸炎(1%未満)
  • 肝機能障害(2.7%)
  • 痙攣、てんかん発作(いずれも頻度不明)
  • 好中球減少症(頻度不明)

が挙げられていますので注意が必要です。

 

用法・用量

通常、成人には、セフィデロコルとして1回2gを8時間ごとに3時間かけて点滴静注します。なお、腎機能に応じて適宜増減します。

 

腎機能別の用法・用量は下表の通りですね。

 

収載時の薬価

収載時(2023年12月20日)の薬価は以下の通りです。

  • フェトロージャ点滴静注用1g:20,203円(1日薬価:121,218円)

 

算定根拠については下記の記事で解説しています。

【新薬:薬価収載】2製品(2023年12月20日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

フェトロージャはこんな薬

  • 国内初のシデロフォアセファロスポリン系抗菌薬
  • カルバペネム系抗菌薬耐性菌に対して効果が期待されている
  • シデロフォア類似構造を結合しているため、能動的に細菌内に取り込まれ、PBPを阻害する

 

これまでカルバペネム系抗菌薬に耐性を示した場合、治療選択肢が限られていました。フェトロージャは国内初のシデロフォアセファロスポリン系抗菌薬のため、新たな治療選択肢として期待されています。

 

木元 貴祥
特に、カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌に対して使用されそうですね。

 

多剤耐性菌は接触感染によって院内で広がるため、まずは接触感染を抑えるのが重要です。また、不必要な抗菌薬の乱用にも注意したいですね!

 

以上、カルバペネマーゼ耐性腸内細菌目細菌(CRE)を中心に、細菌の分類と耐性機序、そしてフェトロージャ(セフィデロコル)の作用機序とエビデンスについて紹介しました。

 

引用文献・資料等

  1. Nature Outlook|Antimicrobial resistance: Shionogi advocates policy change to address the public health threat(日本語版)
  2. 抗微生物薬適正使用の手引き第三版 別冊
  3. フェトロージャ点滴静注用 添付文書
  4. Lancet Infect Dis. 2021 Feb;21(2):226-240.
  5. フェトロージャ点滴静注用 審査報告書

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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