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2020年11月27日、「保存期(透析導入前)の慢性腎臓病に伴う貧血」を対象疾患とするエベレンゾ(ロキサデュスタット)の適応拡大について承認されました!
アステラス製薬|ニュースリリース
基本情報
製品名 | エベレンゾ錠20mg/50mg/100mg |
一般名 | ロキサデュスタット |
製品名の由来 | EVRENZO = Everest(エベレスト)+enzyme inhibitor(酵素阻害薬) |
製造販売 | アステラス製薬(株) |
効能・効果 | 腎性貧血 |
用法・用量 | 週3回経口投与。詳細は記事内参照。 |
収載時の薬価 | 20mg 1錠:387.40円 50mg 1錠:819.20円 100mg 1錠:1,443.50円(1日薬価:465.80円) |
エベレンゾは2019年9月20日、初のHIF活性化薬(HIF-PH阻害薬)として「透析施行中の腎性貧血」を効能・効果に承認されていますが、今後は透析前からの使用も可能となりました。
それに伴い、効能効果は「透析施行中の腎性貧血」から「腎性貧血」と変更されています。
エリスロポエチン(EPO)製剤であるネスプ(一般名:ダルベポエチン アルファ)等に次ぐ製品ですね。
また、HIFは2019年のノーベル医学生理学賞の受賞(「細胞の低酸素応答の仕組みの解明」が授賞理由)にも繋がっていますね。すごい!
今回は慢性腎臓病(CKD)と腎性貧血、そしてエベレンゾ(ロキサデュスタット)の作用機序について、また2020年には類薬のバフセオ(バダデュスタット)とダーブロック(ダプロデュスタット)等が登場しましたので、エベレンゾとの違い・比較についても考察しています。
慢性腎臓病(CKD)とは
慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)は、腎障害が慢性的に持続する疾患の全体を意味するものです。
以下の場合、CKDと確定診断されます。
- 尿異常(蛋白尿)、画像診断・血液所見・病理所見等で腎障害の存在が明らか
- GFRが60(mL/分/1.73㎡)未満
※GFR:「糸球体ろ過量」のことで、腎機能の指標です。
CKDのリスク因子としては、以下が知られています。
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症(高脂血症)
- 喫煙
- メタボリックシンドローム
また、CKDは初期にはほとんど無症状のため徐々に腎機能が低下していきます。
腎臓は老廃物の排泄や骨代謝、造血器機能調節といった様々な役割を担っています。
そのためCKDによって腎機能低下が進行してしまうと、
といった様々な症状が現れます。
腎性貧血とは
CKDの症状の一つである腎性貧血について解説します。
体の中で“はたらく細胞”の一つに「赤血球」が知られており、主に酸素の運搬と二酸化炭素の回収を担っている細胞です。
赤血球は造血幹細胞⇒赤芽球を経て産生されますが、そこに関与する物質として「エリスロポエチン(EPO)」があります。
EPOは腎臓で産生され、造血幹細胞の「エリスロポエチン受容体」に作用することで赤芽球への成熟・分化を促進させます。
また、赤血球の内部には酸素運搬に関与するヘモグロビンが存在していますが、これは鉄を中心に含んだタンパク質です。
鉄が食事等で体内に吸収されると、一部は血中でトランスフェリンと呼ばれるタンパク質と結合して存在します(血清鉄)。
赤血球の成熟過程では、血中のトランスフェリン(血清鉄)を取り込むことでヘモグロビンを構成していきます。
しかし、CKDでは腎臓の機能が低下しているためEPOの産生も低下しています。
そのため造血幹細胞から赤芽球への分化が低下し、結果的に赤血球の数が減少してしまい、貧血の症状が現れます。
即ち、腎臓が原因で貧血を生じますので「腎性貧血」と呼んでいます。
腎性貧血の治療
腎性貧血は大まかに、透析の必要性に応じて
- 保存期:透析必要無し
- 透析期:透析の必要あり
があります。
いずれの場合にもESA(赤血球造血刺激因子)製剤であるエリスロポエチン(EPO)製剤の
- ネスプ(一般名:ダルベポエチン アルファ)
- ミルセラ(一般名:エポエチン ベータ ペゴル)
等が主流で使用されていましたが、エベレンゾなどのHIF-PH阻害薬も使用可能となりました。
-
ネスプ(ダルベポエチン)の作用機序とバイオセイム・ABS【CKD・腎性貧血】
続きを見る
HIF(低酸素誘導因子)とは
アンデス高地に住んでいる人々は、標高が高いため酸素濃度の低い生活環境で暮らしていますが、この地方の健常成人男性のヘモグロビン値は19.2g/dLと、我々日本人(成人男性で15g/dL前後)と比較しても高値であることが知られています1)。
これは、酸素がより少ない状況下でも、全身の細胞に何とか酸素を行き渡らせようとするメカニズムが働いているためです。
このメカニズムを担っているのがHIFです。
HIF(低酸素誘導因子:hypoxia inducible factor)は、細胞の酸素供給が低下した場合(低酸素状態)に誘導・活性化されるといった特徴を有したタンパク質(転写因子)です。
HIFにはαとβがあり、通常の酸素状態でも産生されています。
しかし、通常の酸素状態ではすぐに「HIF-PH(HIFプロリン水酸化酵素:HIF-Prolyl Hydroxylase)」によって速やかに分解されてしまうため、活性化することはありません。
一方、高地で酸素濃度の薄い場所や、出血などで細胞が低酸素状態になった場合、HIF-PFの働きが抑制されるため、HIFは分解されなくなります。
その後、HIF-αはHIF-βと複合体を形成してDNAの転写を活性化させます。
HIFによって転写が活性化されると、
- エリスロポエチン(EPO)の産生促進
- 鉄の吸収促進
- 赤血球へのトランスフェリンの取り込み促進
によって赤血球の分化・成熟が促進されます。
このように低酸素状態であっても生体の恒常性を維持(ホメオスタシス)するメカニズムの一つがHIFですね。
エベレンゾ(ロキサデュスタット)の作用機序・特徴:HIF活性化
エベレンゾは初のHIF活性化薬(HIF-PH阻害薬)に分類されている薬剤です。
HIF-PHを選択的に阻害することでHIFの活性を促します。
その結果、EPOの産生促進、鉄の吸収促進、トランスフェリンの取り込み促進等によって赤血球の成熟・分化が促進されると考えられます。
このように通常の酸素状態であってもHIFが活性化することで赤血球の数が回復する結果、貧血の症状軽減に繋がります。
エビデンス紹介(透析期):1517-CL-0307試験
日本で実施された透析期のCKD患者さんを対象とした4つの第Ⅲ相試験を元に承認申請が行われていますが、代表の試験(1517-CL-0307試験)をご紹介します。2)
血液透析施行中の腎性貧血患者さんを対象に、ESA(赤血球造血刺激因子)製剤からエベレンゾに切り替える群と、そのままESAとしてネスプを使用する群を比較する国内第Ⅲ相臨床試験です。
本試験の主要評価項目は「投与18週から24週におけるベースラインからの平均Hb値変化量」とされ、結果は以下の通りでした。
試験群 | エベレンゾ 切替え群 |
ネスプ群 |
投与18週から24週における ベースラインからの平均Hb値変化量 |
-0.04g/dL | -0.03g/dL |
非劣性が証明 |
その他の臨床試験では、透析期でESA製剤未使用の患者さんに対するエベレンゾの効果も確認されていますね。3)
エビデンス紹介(保存期):1517-CL-0303試験(第Ⅱ相)
保存期(透析前)の根拠となった臨床試験には以下の3つがあります。
- 1517-CL-0310試験(第Ⅲ相):ESA製剤からエベレンゾへの切り替え
- 1517-CL-0314試験(第Ⅲ相):ESA製剤未治療に対するエベレンゾの有効性(用量比較)
- 1517-CL-0303試験(第Ⅱ相):ESA製剤未治療に対するエベレンゾの有効性(プラセボ比較)4)
本試験の主要評価項目は「6週時点におけるベースラインからのHbの上昇率」とされ、結果は以下の通りでした。
試験群 | プラセボ群 | エベレンゾ 50mg |
エベレンゾ 70mg |
エベレンゾ 100mg |
6週時点における ベースラインからのHbの上昇率 |
-0.052 | +0.2 | +0.453 | +0.57 |
プラセボに対する有意差検定 p<0.001 |
いずれの用量群においてもプラセボと比較して有意にHbを上昇することが示されていますね!
副作用
重大な副作用として、
- 血栓塞栓症(3.4%)
が挙げられていますので特に注意が必要です。添付文書の警告欄にも掲載されています。
HIFはVEGF(血管内皮細胞増殖因子)の活性化にも関与しているため、眼関係の副作用(例:黄斑変性や網膜出血)が気になるところでしたが、審査報告書5)には以下の記載がありました。
現時点では本薬で明らかに網膜出血リスクが増加する傾向は認められていないと考える。
ただし、臨床試験では網膜出血を発現するリスクの高い患者(未治療の増殖糖尿病網膜症、黄斑浮腫、滲出性加齢黄斑変性症、網膜静脈閉塞症等を合併する患者)を除外していたこと、また、本薬は HIF 経路の活性化を介して血管新生を亢進する可能性が考えられることから、これらの網膜出血を発現するリスクの高い患者に対しては特に注意して投与するよう添付文書で注意喚起するとともに、網膜出血の発現状況は製造販売後も引き続き情報収集し検討する必要がある。
用法・用量
ESA(赤血球造血刺激因子)製剤の使用歴によって異なります。
<ESA製剤未使用の場合>
通常、成人には、ロキサデユスタットとして1回50mgを開始用量とし、週3回経口投与します。
<ESA製剤から切り替える場合>
通常、成人には、ロキサデユスタットとして1回70mg又は100mgを開始用量とし、週3回経口投与します。
いずれの場合も以後は患者さんの状態に応じて投与量を適宜増減が可能ですが、最高用量は1回3.0mg/kgを超えないこととされています。
収載時の薬価
薬価収載時(2019年11月19日)の薬価は以下の通りです。
- エベレンゾ錠20mg 1錠:387.40円
- エベレンゾ錠50mg 1錠:819.20円
- エベレンゾ錠100mg 1錠:1,443.50円(1日薬価:465.80円)
収載時の算定根拠については以下の記事で解説しています。
-
【新薬:薬価収載】14製品と市場拡大再算定(2019年11月19日)
続きを見る
バフセオ/ダーブロック/エナロイ/マスーレッドとの違い・比較
同様の作用機序を有する薬剤も既に承認されていますね。
- バフセオ(バダデュスタット):「透析期」と「保存期」で2020年6月29日承認
-
バフセオ(バダデュスタット)の作用機序・特徴【腎性貧血】
続きを見る
- ダーブロック(ダプロデュスタット):「透析期」と「保存期」で2020年6月29日承認
-
ダーブロック(ダプロデュスタット)の作用機序・特徴【腎性貧血】
続きを見る
- エナロイ(エナロデュスタット):「透析期」と「保存期」で2020年9月25日承認
-
エナロイ(エナロデュスタット)の作用機序・特徴【腎性貧血】
続きを見る
- マスーレッド(モリデュスタット):「透析期」と「保存期」で2021年1月22日承認
-
マスーレッド(モリデュスタット)の作用機序【腎性貧血】
続きを見る
エベレンゾ(ロキサデュスタット)はまずは透析期のみで承認され、その後の保存期の適応拡大が行われました。一方、上記4製品は承認時に保存期にも使用可能です。
参考までにエベレンゾと上記4製品の比較表を作成してみました。
相互作用(併用注意)に関してはダーブロックやエナロイが少なくて使用しやすそうな印象を受けますね。特にダーブロックは多価陽イオン製剤と併用する際の制限がないのもポイントです。
また、エベレンゾとエナロイとマスーレッドは妊婦に投与禁忌ですが、バフセオとダーブロックは「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与可能」とされています。
まとめ・あとがき
エベレンゾはこんな薬
- 初のHIF活性化薬(HIF-PH阻害薬)
- HIFの量が増加することでEPO産生促進、鉄の吸収や取り込み促進を促す
- 経口投与で治療が可能
- 保存期・透析期の腎性貧血に使用する
これまで腎性貧血に対しては、注射のエリスロポエチン(EPO)製剤である
- ネスプ(一般名:ダルベポエチン アルファ)
- ミルセラ(一般名:エポエチン ベータ ペゴル)
等が主流で使用されていました。
-
ネスプ(ダルベポエチン)の作用機序とバイオセイム・ABS【CKD・腎性貧血】
続きを見る
エベレンゾは経口投与可能なHIF活性化薬(HIF-PH阻害薬)といった新規作用機序を有していることから、利便性の向上やEPO製剤で効果不十分だった患者さん等に対して期待されています。
以上、今回はCKDと腎性貧血、そしてエベレンゾ(ロキサデュスタット)の作用機序、そして類薬との比較についてご紹介しました!
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