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2022年6月1日、「HIV-1感染症」を対象疾患とする以下の新薬が承認されました。
- ボカブリア水懸筋注400mg、同600mg(一般名:カボテグラビル)
- ボカブリア錠30mg(一般名:カボテグラビルナトリウム)
- リカムビス水懸筋注600mg、同900mg(一般名:リルピビリン)
ヴィーブヘルスケア|ニュースリリース
いずれも抗HIV薬既治療患者さんに対して、使用される薬剤です。
効能又は効果に関連する注意(抜粋)
- 本剤は、ウイルス学的失敗の経験がなく、切り替え前6ヵ月間以上においてウイルス学的抑制(ヒト免疫不全ウイルス[HIV]-1 RNA量が50copies/mL未満)が得られており、カボテグラビル及びリルピビリンに対する耐性関連変異を持たず、本剤への切り替えが適切であると判断される抗HIV薬既治療患者に使用すること。
まずは1か月間、ボカブリア錠とリルピビリンの経口投与で治療後、ボカブリア水懸筋注とリカムビス水懸筋注による併用療法を行っていきます。
今回はHIV感染症とボカブリア/リカムビスの作用機序などについてご紹介します。
AIDSとHIV
正式名称は「後天性免疫不全症候群(Acquired immune deficiency syndrome:AIDS)」と呼ばれ、体内の免疫細胞が破壊されて後天的に免疫不全を引き起こす疾患です。
AIDSを引き起こす原因とされているウイルスが「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」です。
HIVに感染して数年の潜伏期間(無症状)を経た後にAIDSが発症すると言われています。
AIDSを発症すると全身倦怠感、体重の急激な減少、咳、発熱、発疹、といった風邪のような症状を呈します。
その後、普通では感染しないような日和見感染症(例:ニューモシスチス肺炎、カポジ肉腫、サイトメガロウイルス感染症)を合併し、生命に危機を及ぼします。
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染と増殖メカニズム
HIVの感染経路には以下の3つが知られています。
- 性的感染
- 血液感染
- 母子感染
HIVは一本鎖RNAを持つレトロウイルスで、単体では増殖できません。従って、ヒト等の動物の細胞内に感染して増殖を行います。
HIVの構造と吸着・膜融合・脱殻
HIVはエンベロープと呼ばれる外膜の中にカプシドがあり、その中にRNAが封入された構造を有しています。
HIVがヒト細胞に感染すると、
- 吸着
- 膜融合
- 脱殻
というプロセスを経てヒト細胞内にウイルスRNAが放出されます。
ウイルスRNAの逆転写
ヒトの細胞内に放出されたウイルスRNAは「逆転写酵素」と呼ばれるウイルス酵素によって二本鎖DNAが合成されます。
合成されたウイルス二本鎖DNAはヒト細胞の核内へと運ばれていきます。
ヒトDNAへの組み込み(インテグラーゼ)とタンパク質合成(プロテアーゼ)
核内に運ばれたウイルスDNAは、そのままでは複製や転写・翻訳ができません。
そのためウイルスDNAは「インテグラーゼ」と呼ばれるウイルス酵素によって、ヒトDNAの中にウイルスDNAを組み込みます。
ウイルスDNAがヒトDNAに組み込まれることで、HIVに感染したヒト細胞が増殖する際にはウイルスDNAも一緒に増殖していってしまいます。
そしてウイルスDNAの遺伝情報を元に、転写・翻訳が行われ、ウイルスに必要なタンパク質も勝手に合成されていってしまいます。
合成されたタンパク質は「プロテアーゼ」と呼ばれる酵素によって適切な大きさに切断され、HIVの増殖が完了します。
HIV感染症の治療
HIV感染症は早期に行うことで、AIDSの発症までの期間を延長することができます。
ただし、HIVを完治させることは現代医学では難しいとされています。
主に使用される薬剤には以下の種類があり、これらを適宜併用した多剤併用療法が基本です。1)
- 核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)
- 非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)
- プロテアーゼ阻害剤(PI)
- 膜融合阻害剤
- インテグラーゼ阻害剤(INSTI)
組み合わせ方としては、HIV抑制効果が強い「キードラッグ」と、キードラッグを補足してHIV抑制効果を高める働きのある「バックボーン」を併用します。
従って、初回治療の組み合わせとしては、以下のいずれかが患者さんの適正(服用率を100%に近づけることを最優先)に併せて推奨されています。1)
- NRTI×2剤+INSTI×1剤
- NRTI×1剤+INSTI×1剤
- NRTI×2剤+PI×1剤+リトナビル(PI)
- NRTI×2剤+NNRTI×1剤
今回紹介するボカブリアはインテグラーゼ阻害薬(INSTI)、リカムビスは非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)という組み合わせかつ、経口剤+注射剤の組み合わせですが、初回治療としては使用できません。1)
既存の経口剤にて、ウイルス学的に抑制されている場合、「ボカブリア錠+リルピビリン経口剤(1か月間) ⇒ ボカブリア水懸筋注+リカムビス水懸筋注(1か月or2か月毎)」に切り替えることが可能です(推奨の強さA、エビデンスレベルⅠ)。1)
これらの多剤併用療法を原則、一生涯行うことでAIDSで死亡することはほとんど無くなったと言われています。
ボカブリア/リカムビスの作用機序
- ボカブリアはインテグラーゼ阻害薬(INSTI)
- リカムビスは非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
に分類されていましたね。
インテグラーゼ阻害剤(INSTI):ボカブリアの作用機序
ボカブリアは前述のウイルスDNAがヒトDNAに組み込まれる際に関与している「インテグラーゼ」を特異的に阻害する薬剤です。
インテグラーゼが阻害されることで、ウイルスDNAをヒトDNAへ組み込むことができなくなり、その後の増殖プロセスが全てストップしてしまいます。
非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI):リカムビスの作用機序
リカムビスは前述のウイルスの逆転写酵素を阻害する薬剤です。その結果、二本鎖DNAが合成できなくなり、その後の反応が全てストップします。
リカムビス水懸筋注も、筋注とすることで長時間作用が実現です!!
エビデンス紹介
根拠となった臨床試験は主に以下の3つの第Ⅲ相臨床試験です。
- ATLAS試験2):既存の3剤経口レジメンの1日1回投与によりウイルス抑制が達成されているHIV感染患者さんを対象に、そのまま経口レジメンを継続する群と、ボカブリア/リカムビス群(注射剤は1か月毎の投与)に切り替える群を比較
- ATLAS-2M試験3):ATLAS試験と同様の患者さんを対象に、ボカブリア/リカムビスの1か月毎投与に対する2か月投与の非劣性を検証
- FLAIR試験試験4):治療歴のないHIV感染患者さんを対象に、トリーメク(ドルテグラビル/アバカビル/ラミブジン)を20週投与し、その後、トリートメクを継続する群と、ボカブリア/リカムビス群(注射剤は1か月毎の投与)に切り替える群を比較
いずれの臨床試験においても主要評価項目は達成されています!
用法・用量
前述の通り、既存の経口剤にて、ウイルス学的に抑制されている場合、「ボカブリア錠+リルピビリン経口剤(1か月間) ⇒ ボカブリア水懸筋注+リカムビス水懸筋注(1か月or2か月毎)」に切り替えることが可能です。
ボカブリア錠
リルピビリン塩酸塩との併用において、通常、成人には1回1錠(カボテグラビルとして30mg)を1日1回経口投与します。
ボカブリア錠の用法及び用量に関連する注意(抜粋)
- カボテグラビル注射剤及びリルピビリン注射剤の併用療法の経口導入として用いる場合には、本剤をリルピビリン経口剤との併用により1か月間(少なくとも28日間)を目安に経口投与し、カボテグラビル及びリルピビリンに対する忍容性を確認すること。
ボカブリア水懸筋注
〈1か月間隔投与〉
リルピビリンとの併用において、通常、成人にはカボテグラビルとして600mgを臀部筋肉内に投与します。以降は、400mgを1ヵ月に1回、臀部筋肉内に投与します。
〈2か月間隔投与〉
リルピビリンとの併用において、通常、成人にはカボテグラビルとして600mgを臀部筋肉内に投与します。本剤初回投与1ヵ月後に600mgを臀部筋肉内に投与し、以降は600mgを2ヵ月に1回、臀部筋肉内に投与します。
リカムビス水懸筋注
〈1か月間隔投与〉
カボテグラビルとの併用において、通常、成人にはリルピビリンとして900mgを臀部筋肉内に投与します。以降は600mgを1ヵ月に1回、臀部筋肉内に投与します。
〈2か月間隔投与〉
カボテグラビルとの併用において、通常、成人にはリルピビリンとして900mgを臀部筋肉内に投与します。本剤初回投与1ヵ月後に900mgを臀部筋肉内に投与し、以降は900mgを2ヵ月に1回、臀部筋肉内に投与します。
収載時の薬価
収載時(2022年6月8日)の薬価は以下の通りです。
- ボカブリア錠30mg:3,541.60円(1日薬価:3,541.60円)
- ボカブリア水懸筋注400mg:176,458円
- ボカブリア水懸筋注600mg:253,850円(1日薬価:4,173円)
- リカムビス水懸筋注600mg:90,582円
- リカムビス水懸筋注900mg:130,310円(1日薬価:2,142円)
算定根拠については以下をご参考ください。
-
【新薬承認+薬価収載】3製品(2022年6月1日承認、6月8日薬価収載)
続きを見る
まとめ・あとがき
ボカブリア/リカムビスはこんな薬
- 国内初の注射剤による治療
- ボカブリアはインテグラーゼ阻害薬(INSTI)
- リカムビスは非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
- ボカブリア錠+経口リルピビリンを1か月経口投与し、その後、ボカブリア水懸筋注+リカムビス水懸筋注を1か月または2か月に1度投与
これまでHIV治療薬は1日1回の経口剤による治療が基本でした。
しかし、連日経口投与のため、どうしても煩雑であったり、飲み忘れのリスクもあります。
ボカブリア/リカムビスは、最初の1か月は経口投与が必要なものの、その後は水懸筋注による1か月毎もしくは2か月毎の注射で治療可能なため、新たな治療選択肢として期待できるのではないでしょうか。
以上、今回はHIV感染症とボカブリア/リカムビスの作用機序などについてご紹介しました!
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