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2021年11月25日、ハイヤスタ錠(ツシジノスタット)の効能・効果に「再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫」を追加することが承認されました!
Meiji Seika ファルマ|ニュースリリース
基本情報
製品名 | ハイヤスタ錠10mg |
一般名 | ツシジノスタット |
製品名の由来 | H(HUYA Bioscience International 社)+ IYAS(癒やす)+Tucidinostat |
製造販売 | Meiji Seika ファルマ(株) |
効能・効果 | ●再発又は難治性の成人T細胞白血病リンパ腫 ●再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫 |
用法・用量 | 1日1回40mgを週2回、3又は4日間隔で食後に経口投与 |
収載時の薬価 | 20,030.50円 |
ハイヤスタは2021年6月23日に「成人T細胞白血病リンパ腫」を対象疾患として承認された新規HDAC阻害薬で、エピジェネティクス関連タンパク質に作用する薬剤です。
今回はエピジェネティクスと言う言葉、そして末梢性T細胞リンパ腫とハイヤスタの作用機序について解説します。
エピジェネティクスとは
通常、体内のタンパク質発現は遺伝子配列(DNA配列)によって制御されています。しかし、目の細胞と肝臓の細胞、DNA配列は同じでも発現しているタンパク質は全く異なりますよね?
このように、DNA配列以外でタンパク質の発現を制御しているのがエピジェネティクスと呼ばれるシステムです。ちなみに、ジェネティクスは「遺伝学」、エピは「上に」という意味。つまり遺伝子情報の上にさらに修飾されたもの、という意味合いでしょうか。
具体的にはDNAはヒストンと呼ばれるタンパク質に巻き付いて存在していますが、ヒストンが緩んだ状態では遺伝子の転写が活性化され、タンパク質の発現量が増えます。しかし、ヒストンが凝集した状態では遺伝子の転写が行われず、タンパク質の発現も抑制されています。1)
通常、体内にはがん細胞の発生を抑制するため、がん抑制遺伝子・タンパク質が存在しています。しかし、エピジェネティクス関連タンパク質に異常があると、上手くがん抑制遺伝子・タンパク質が合成されなくなり、がんの発生や増殖に関与することが知られています。
代表的なエピジェネティクス関連タンパク質として「HDAC」がありますね。
その他、EZH2も知られていて、こちらに作用する薬剤はタズベリク(タゼメトスタット)です。
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タズベリク(タゼメトスタット)の作用機序【悪性リンパ腫】
続きを見る
末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)
末梢性T細胞リンパ腫(“PTCL”と略されます)は、血液腫瘍の一種ですが、あまり聞きなれない疾患かもしれません。
血液中にはご存知の通り、「白血球」と呼ばれる細胞が存在し、主に免疫を司っていますが、大きく“顆粒球”と“リンパ球”に分類されます。
- 顆粒球:「好中球」、「好酸球」、「好塩基球」の3つの総称
- リンパ球:「T細胞」、「B細胞」、「NK細胞」の3つの総称
今回ご紹介するPTCLは、血球細胞の中でも「リンパ球のT細胞」が異常増殖することで発症する疾患です。
症状としては、リンパ節の腫れやしこり、発熱、大量の寝汗、体重減少などがみられることがあります。
基本的な治療は抗がん剤の多剤併用による化学療法で、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロンの4種類の薬剤を用いるCHOP療法が一般的に行われています。2)
このCHOP療法で腫瘍細胞が消えた(完全奏効)場合、治療は終了で、以後は経過観察のみです。
ただし、CHOP療法で治療効果が認められなかった難治性の場合、または完全奏効後に再発した場合には、次に使用できる薬剤は限られていました。
類薬として、以下の薬剤も使用可能ですね。
- ジフォルタ(プララトレキサート):ジヒドロ葉酸還元酵素阻害薬
- イストダックス(ロミデプシン):HDAC阻害薬
- ダルビアス(ダリナパルシン):有機ヒ素化合物
- エザルミア(バレメトスタット):EZH1/2阻害薬
ハイヤスタ(ツシジノスタット)の作用機序
ハイヤスタは過剰に発現しているHDACを選択的に阻害する薬剤です。
エピジェネティクスに関与しているHDACが阻害されることで、リンパ腫細胞の正常分化が促され、同時にがん抑制遺伝子・タンパク質の発現量も増えることからリンパ腫細胞の増殖抑制効果が得られると考えられています。
副作用
10%以上に認められる副作用として、下痢、悪心、倦怠感、体重減少、食欲減退、低アルブミン血症、味覚異常などがあります。
重大な副作用としては、
- 骨髄抑制:血小板減少(78.3%)、好中球減少(52.2%)、白血球減少(43.5%)、貧血(39.1%)、リンパ球減少(8.7%)
- 間質性肺疾患:間質性肺疾患(4.3%)、肺臓炎(頻度不明)
- 感染症:ニューモシスチス・イロベチイ肺炎(4.3%)、尿路感染(4.3%)
- 不整脈、QT間隔延長:第一度房室ブロック(4.3%)、動悸(4.3%)、QT間隔延長(頻度不明)
などが挙げられていますので、特に注意が必要です。
用法・用量
通常、成人にはツシジノスタットとして1日1回40mgを週2回、3又は4日間隔で食後に経口投与します。
患者の状態により適宜減量
収載時の薬価
収載時(2021年8月12日)の薬価は以下の通りです。
- ハイヤスタ錠10mg:20,030.50円
算定根拠等については以下をご確認ください。
-
【新薬:薬価収載】15製品+再生医療等製品(2021年8月12日)
続きを見る
まとめ・あとがき
ハイヤスタはこんな薬
- 新規のHDAC阻害薬
- がん抑制遺伝子・タンパク質の発現量が増加することでリンパ腫の増殖抑制効果を示す
再発・難治性の末梢性T細胞リンパ腫は治療選択肢が限られていたため、新たな治療の登場は朗報ではないでしょうか。
以上、今回はエピジェネティクスと言う言葉、そして末梢性T細胞リンパ腫とハイヤスタの作用機序について解説しました!
引用文献・資料等
- 国立がん研究センター 研究所|エピジェネティクスとは?
- 造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版
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