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2023年5年25日、ユルトミリス(ラブリズマブ)の効能・効果に「視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防」を追加することが承認されました!
基本情報
製品名 | ユルトミリス HI点滴静注300mg/3mL ユルトミリス HI点滴静注1100mg/11mL |
一般名 | ラブリズマブ(遺伝子組換え) |
製品名の由来 | ultimate, innovative leap from Soliris |
製造販売 | アレクシオンファーマ合同会社 |
効能・効果 | ●発作性夜間ヘモグロビン尿症 ●非典型溶血性尿毒症症候群 ●全身型重症筋無力症(免疫グロブリン大量静注療法又は血液浄化療法による症状の管理が困難な場合に限る) ●視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防 |
用法・用量 | 記事参照 |
収載時の薬価 | 717,605円 |
ユルトミリスは2019年6月に「発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)」を効能・効果として承認され、2020年9月には非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)にも使用可能となりました。
その後、10倍の濃度である HI点滴静注300mg/3mLと同1100mg/11mL製剤の剤形追加承認が行われました。点滴時間の短縮が期待できるとのこと。
それに伴い、これまでの点滴静注製剤は削除されています。
類薬にはPNHやaHUSで既に使用されているソリリス(一般名:エクリズマブ)がありますが、これを改良したのがユルトミリスです。
ソリリスでは2週間に1度の投与が必要でしたが、ユルトミリスは最大8週間に1度の投与で治療できるといった特徴がありますので患者さんの負担軽減・利便性向上が期待できると思います。
今回は発作性夜間ヘモグロビン尿症と重症筋無力症を中心に、ユルトミリス(ラブリズマブ)の作用機序、エビデンス等について解説します。
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)とは
発作性夜間ヘモグロビン尿症(Paroximal Nocturnal Hemogrobinuria:PNH)は稀な疾患(患者さん数は約400人)ですが、重篤化することから難病に指定されています。1)
後天的な原因で酸素運搬等の役割を担う赤血球が壊される(溶血)ことで発症すると考えられており、主な症状としては以下があります。
- 早朝の赤褐色尿(ヘモグロビン尿)
- 嚥下障害
- 男性機能不全
- 腹痛
- 疲労
重症化すると以下のような重度の合併症を呈してしまう2)ため、早期の発見・治療が重要です。
- 血栓症:主要な死因の一つ
- 慢性腎臓病:2/3の患者さんが合併する
- 肺高血圧症
根治的な治療法としては造血幹細胞移植しかありませんが、重篤な骨髄不全やコントロール困難で致命的な血栓症に対して行われます。2)
通常は溶血症状に対してソリリス(一般名:エクリズマブ)や、その他の症状に応じた対症療法が基本です。
このように赤血球の破壊(溶血)が常に起こることで様々な症状・合併症を呈してしまうのが発作性夜間ヘモグロビン尿症ですね。
発作性夜間ヘモグロビン尿症の原因
通常、赤血球の表面には「グリコシルホスファチジルイノシトール(glycosyl phosphatidylinositol:GPI)」と呼ばれるタンパク質が存在しています。
これは自己の免疫システム(次項の補体活性化経路)から身を守るためのもので、通常状態でしたら赤血球は自己免疫の攻撃を受けません。
しかし、PNHでは後天的な原因によってGPIが欠損してしまっていることが知られています。1)
このため赤血球は常に補体活性化(自己免疫の攻撃)を受けてしまい、常に溶血が引き起こされてしまっています。
重症筋無力症とは
続いて、重症筋無力症(MG:myasthenia gravis)は難病に指定されている疾患で、神経と筋肉の境目(神経筋接合部)において、筋肉側の受容体が自己抗体により破壊される自己免疫疾患です。
男女比は1:1.15でやや女性に多いのが特徴で、有病率は人口10万人あたり23.1人、患者数は29,210人とされています(2018年時点)。
症状としては、全身の筋力低下、易疲労性が出現し、特に眼瞼下垂(まぶたが下がってくる)、複視などの眼の症状をおこしやすいことが特徴です。
また、嚥下が上手く出来なくなる場合もあり、重症化すると呼吸筋の麻痺をおこし、呼吸困難を来すこともあります。
重症筋無力症の原因
通常、我々が筋肉を動かそうとする場合、神経筋接合部の運動神経の末端から「アセチルコリン」が放出され、これが筋肉の「アセチルコリン受容体」に結合することで筋肉が収縮します。
重症筋無力症の多くの患者さんでは何らかの原因でアセチルコリン受容体に対する自己抗体が産生されていることが知られています。
この自己抗体がアセチルコリン受容体に結合することで、アセチルコリンが結合できなくなってしまい、筋肉が収縮できなくなってしまいます(筋力の低下)。
重症筋無力症の治療
対症療法としてコリンエステラーゼ阻害薬が使用されることもありますが、治療の基本は免疫療法で、この病気の原因である自己抗体の産生を抑制したり、取り除く治療です。
第1選択は自己抗体の産生を抑制するステロイド薬、第2選択は免疫抑制薬(タクロリムス、シクロスポリン)、第3選択は免疫グロブリン静注療法または血漿交換療法です。
また、少なくとも1剤以上(コリンエステラーゼ阻害薬、ステロイド薬、免疫抑制薬)の治療が行われている場合、ウィフガート(エフガルチギモド)が使用できます。
-
ヒフデュラ/ウィフガート(エフガルチギモド)の作用機序【重症筋無力症】
続きを見る
今回ご紹介するユルトミリスは、免疫グロブリン大量静注療法や血液浄化療法による症状の管理が困難な場合に限って使用可能です。治療ラインとしては、ソリリス(エクリズマブ)と同じですね。
それではここから、ユルトミリスが関与する「補体活性化経路」についてご紹介します。
赤血球の溶血と補体活性化経路
補体(Complement)とは、生体が病原菌などを排除する際に、抗体抗原反応などを補助する免疫システムです。
補体にはいくつかの種類があり、C1~C9で表されます。
詳細は割愛しますが、免疫が活性化する際に、「レクチン経路」、「古典的経路」、「第二経路」と呼ばれる経路によって、補体の「C3」が産生・活性化されます。
この補体C3は、補体C5を「C5a」と「C5b」に分解します。
特に補体C5bは赤血球の溶血を引き起こしますので、前述のGPIが欠損している赤血球ではモロに補体の攻撃を受けてしまいます。
また、重症筋無力症では、自己抗体が大量に産生されている状態のため、体内の免疫反応が活性化されています。それに伴い、補体活性化経路も過剰に活性化されている状態です。
そのため、補体C5aやC5bによって、様々な炎症反応や神経筋接合部の筋肉側の細胞破壊が引き起こされ、歩行しづらい、話しづらい、飲みこみづらい、呼吸しづらいといった深刻な症状を呈してしまいます。
ユルトミリス(ラブリズマブ)の作用機序と特徴
ユルトミリスは補体C5を選択的に阻害する長時間作用型抗補体(C5)抗体製剤です!
補体C5が阻害されることでC5aとC5bの分解が抑制され、赤血球の溶血が抑制されると考えられています。過剰な炎症反応も抑制できるため、重症筋無力症に対しても効果が期待されます。
またユルトミリスは長時間作用型の抗体薬のため、投与間隔は8週間と約2か月に1度の投与で効果を発揮するといった特徴があります。
ソリリスとユルトミリスの構造の違い
余談ですが、ユルトミリスはソリリスの重鎖の4個の固有のアミノ酸(Y27H、S57H、M429L及びN435S)を置換していることで長時間作用型になったようです。
PNHのエビデンス紹介:301試験・302試験
根拠となった臨床試験は以下の2つがあります。
- 301試験:補体阻害薬で治療経験がないPNH患者さんを対象として、ソリリスに対するユルトミリスの非劣性を検証する第Ⅲ相臨床試験3)
- 302試験:ソリリスによる治療経験があるPNH患者さんを対象として、ソリリスに対するユルトミリスの非劣性を検証する第Ⅲ相臨床試験4)
維持治療期間の投与間隔はソリリスで2週毎、ユルトミリスで8週毎とされています。
301試験の主要評価項目は「輸血を必要としない患者割合」と「LDH正常化を維持している患者割合」とされました。
試験群 | ソリリス群群 | ユルトミリス群 |
輸血を必要としない患者割合 | 66.1% | 73.6% |
非劣性が証明 | ||
LDH正常化割合 | 49.4% | 53.6% |
非劣性が証明 |
このように301試験ではこれまでの2週投与のソリリスと比較して、8週毎のユルトミリスは治療効果が同程度であることが示されています。
副作用
主な副作用として、頭痛(17.1%)、悪心(3.2%)、発熱(2.7%)、上気道感染(2.7%)、疲労(2.3%)などが報告されています。
重大な副作用として
- 髄膜炎菌感染症(頻度不明)
- 重篤な感染症(1.5%):播種性淋菌感染症、肺炎球菌感染、インフルエンザ菌感染等
- infusion reaction(頻度不明)
が挙げられています。特に髄膜炎菌感染症は致死的にもなりかねますので特に注意が必要です!
添付文書の警告欄にも「原則、本剤投与前に髄膜炎菌に対するワクチンを接種すること。」と記載されています。
用法・用量
発作性夜間ヘモグロビン尿症、全身型重症筋無力症及び視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防の場合
通常、成人には、ラブリズマブ(遺伝子組換え)として、患者の体重を考慮し、1回2,400mg~3,000mgを開始用量とします。
初回投与から2週間後に1回3,000mg~3,600mgを投与し、以降は8週ごとに1回3,000mg~3,600mgを点滴静注します。(用量は下表の体重に応じる)
体重 | 初回投与量 | 2回目以降の投与量 |
40kg以上60kg未満 | 2,400mg | 3,000mg |
60kg以上100kg未満 | 2,700mg | 3,300mg |
100kg以上 | 3,000mg | 3,600mg |
非典型溶血性尿毒症症候群の場合
通常、成人には、ラブリズマブ(遺伝子組換え)として、患者の体重を考慮し、1回600mg~3,000mgを開始用量とします。
初回投与から2週間後に1回300mg~3,600mgを投与し、以降は4週または8週ごとに1回300mg~3,600mgを点滴静注します。
収載時の薬価
収載時(2019年9月4日)の薬価は以下の通りです。
- ユルトミリス点滴静注300mg 1瓶:717,605円(1日薬価:133,587円)
有用性加算の根拠
- ソリリスと比較して注射の頻度が4分の1となって患者負担の軽減につながる。(ユルトミリスは8週毎、ソリリスは2週毎)
薬価算定の根拠は以下の記事をご参考ください。
-
【新薬:薬価収載】12製品+再生医療等製品(2019年9月4日)
続きを見る
その後、高濃度製剤は2021年11月25日に薬価収載されました。
- ユルトミリス HI点滴静注300mg/3mL:699,570円
- ユルトミリス HI点滴静注1100mg/11mL:2,565,090円
まとめ・あとがき
ユルトミリスはこんな薬
- 補体C5を特異的に阻害する抗体製剤
- PNH維持治療期間中は8週毎の投与で治療効果を発揮する
- 髄膜炎菌感染症には注意が必要!
ユルトミリスはソリリスと同じく補体C5を阻害しますが、長時間作用型といった特徴があります。
2024年には新たな抗補体C5抗体薬のピアスカイ(クロバリマブ)も登場しましたので、3製品の比較一覧表を以下の記事に掲載しています。
-
ピアスカイ(クロバリマブ)の作用機序【PNH】
続きを見る
以上、今回は難病の発作性夜間ヘモグロビン尿症・重症筋無力症とユルトミリス(ラブリズマブ)の作用機序、エビデンス等についてご紹介しました!
参考資料・文献等
- 難病情報センター:発作性夜間ヘモグロビン尿症(指定難病62)
- 日本PNH研究会
- 301試験(補体阻害薬未治療):Blood. 2019 Feb 7;133(6):530-539.
- 302試験(ソリリス既治療):Blood. 2019 Feb 7;133(6):540-549.
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