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「2型糖尿病(ただし、エンパグリフロジン及びリナグリプチンの併用による治療が適切と判断される場合に限る)」を効能・効果とする新医療用配合剤であるトラディアンス配合錠AP、同配合錠BP(一般名:リナグリプチン/エンパグリフロジン)が2018年9月21日に承認されました。
製薬会社
- 製造販売:日本ベーリンガーインゲルハイム(株)
- 販売提携:日本イーライリリー(株)
トラディアンス配合錠は
- DPP-4阻害薬のトラゼンタ錠(一般名:リナグリプチン)と、
- SGLT2阻害薬のジャディアンス錠(一般名:エンパグリフロジン)
を配合した薬剤です!
トラゼンタの“トラ”と、ジャディアンスの“ディアンス”から「トラディアンス」でしょうか。
DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤としては、
に次いで3剤目となります。
今回は糖尿病とトラディアンスの作用機序についてご紹介します!
生体内の血糖調節システム
通常、生体内では以下のいくつかのホルモン等によって血糖が一定に保たれています。
<血糖を上昇させる生体内物質>
- グルカゴン
- アドレナリン
- ノルアドレナリン
- コルチゾール
- 成長ホルモン
<血糖を下降させる生体内物質>
- インスリン
このように、血糖を上昇させる物質は数種類存在していますが、血糖を下降する物質はインスリンしかありません。
インスリンの作用とインクレチン
インスリンは膵臓から分泌されるホルモンです。
分泌されたインスリンは、細胞に作用することで血中のブドウ糖を細胞内に取り込む働きがあります。
この働きによって、血中のブドウ糖を下げる(血糖降下)作用を発揮しています。
また、インスリンの分泌を促進させる物質の一つに「インクレチン(GLP-1やGIP)」と呼ばれるホルモンがあります。
インクレチンは食事が小腸を通過することで分泌されるホルモンで、血糖依存的なインスリン分泌促進作用があります。
血糖値が低い時にはインスリンの分泌を促進しないため、過剰に分泌されても低血糖になる恐れがありません。
しかし、インクレチンは「DPP-4」と呼ばれるタンパク質によって半減期1~2分ほどの早さで速やかに分解され、効果はすぐ失われます。
糖尿病とは
平成29年の厚労省調査(3年に1度)によると、糖尿病の総患者数は約328万人超であり、前回の調査から12万人以上増加しています。
糖尿病はその名の通り、血中ブドウ糖濃度が高い状態が慢性的に継続している病態です。
健康診断等で
- 空腹時血糖値が126mg/dL以上
- HbA1cが6.5%以上
の場合に疑われ、数回の検査を経て確定診断されます。
糖尿病にはその原因や病態によって
- 1型糖尿病
- 2型糖尿病
に分類されています。
日本人では約95%が「2型糖尿病」に分類されており、遺伝因子と食生活・運動不足・肥満等の生活習慣が原因で、以下の理由で引き起こされると考えられています。
- インスリンの分泌低下:インスリン量が減っている
- インスリンの抵抗性増大:インスリンの効きが悪くなっている
主にはインスリンの抵抗性増大によると考えられています。(インスリン分泌低下は軽度~中等度と様々)
一方、1型糖尿病は遺伝因子や自己免疫等によって、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が欠損・破壊されている状態です。(インスリンの分泌低下)
従って、治療の基本はインスリンの補充療法です。
2型糖尿病の治療
2型糖尿病治療は
- 食事療法
- 運動療法
- 薬物療法
を基本としますが、最も大切なのは食事療法と運動療法です。
食事/運動療法を2~3カ月続けても血糖値が下がらない場合、薬物療法が開始されます。
2型糖尿病治療薬
2型糖尿病治療薬にはいくつかの種類があり、年齢や肥満の程度、合併症、肝・腎機能等によって使い分けられます。
まずは経口血糖降下薬の少量から開始されることが多いです。
経口血糖降下薬には以下の種類があり、糖尿病の原因(インスリン分泌低下、抵抗性増大)によって使い分けられます。
<インスリン分泌低下を改善>
- スルホニル尿素(SU)薬:インスリン分泌促進
- グリニド薬:より速やかなインスリン分泌促進
- DPP-4阻害薬:インクレチン分解抑制によるインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制
<インスリン抵抗性を改善>
- ビグアナイド薬:糖新生の抑制
- チアゾリジン薬:インスリンの感受性を向上
加えて、ブドウ糖の吸収を抑制する「α-グルコシダーゼ阻害薬」や、ブドウ糖の排泄を促進する「SGLT2阻害薬」等も使用されます。
これらの経口血糖降下薬で効果が不十分であった場合、用量の増量や、併用療法などが検討されます。
トラディアンスのような配合剤は、上記経口血糖降下薬で効果が不十分であった場合にのみ使用できます。
トラディアンス配合錠の作用機序
トラディアンスは作用機序の異なるDPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬を配合した配合剤です。
DPP-4阻害による「インスリン分泌促進」と、SGLT2阻害による「ブドウ糖の排泄促進」によって、血糖値を下げるといった作用機序です!
リナグリプチン(DPP-4阻害薬)の作用機序
DPP-4阻害薬はインクレチンを分解するDPP-4を阻害することで、インクレチンの働きを維持させ、その結果、インスリン分泌が促進されて血糖値が降下する、といった作用機序を有しています。
エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)の作用機序
通常、血中のブドウ糖は尿中に排泄されません。
その理由として、腎臓の糸球体でろ過された原尿には、血漿と同じ濃度のブドウ糖が含まれていますが、近位尿細管で実に99%以上のブドウ糖が再吸収されます。
ようするに、一旦はブドウ糖は糸球体で原尿へ濾過されるももの、そのほとんどが再吸収されて体内(血中)に戻ってきてしまいます。
この原尿中のブドウ糖再吸収を行うトランスポーターは「SGLT2(Sodium-Glucose Transporter 2)」と呼ばれています。
SGLT2阻害薬はブドウ糖再吸収に関与するトランスポーターのSGLT2を阻害することで、ブドウ糖の再吸収を抑制する薬剤です。
つまり、SGLT2阻害剤は糖の再吸収を抑える(=糖の排泄を促進する)ことで血糖を低下させるといった作用機序を有しています。
このようにSGLT2阻害薬はインスリン作用を介さないため、低血糖や体重増加・肥満といった副作用が発現しにくいといわれています。
エビデンス紹介:国内第Ⅲ相試験
根拠となった臨床試験を一つご紹介します。
本試験はリナグリプチン単剤投与で血糖コントロール不十分な日本人2型糖尿病患者さんを対象に、「トラディアンス配合錠AP錠(エンパグリフロジン10mg+リナグリプチン5mg)」と「プラセボ+リナグリプチン5mg」を比較した第Ⅲ相臨床試験です。1)
主要評価項目は「24週時点のベースラインからのHb1Ac値の変化量」で、24週時点の各結果は以下の通りです。
試験群 | トラディアンス配合錠(AP錠) | プラセボ+リナグリプチン |
ベースラインからの HbA1c値の変化量 |
-0.93% | +0.21% |
差:-1.14%, P<0.0001 | ||
HbA1c値<7.0%を達成した割合 | 27.5% | 5.4% |
P<0.0001 | ||
ベースラインからの 空腹時血漿血糖値の変化量 |
差:-40.18mg/dL, P<0.0001 |
このようにトラディアンス配合錠はプラセボ+リナグリプチンと比較して有意にHbA1cの有意な低下が認められています。
また、本試験のトラディアンス配合錠投与患者さんは、24週後にHbA1c≧7.0%であった場合、トラディアンス配合錠のBP錠(高用量)に変更されて治療が継続されています。
1)Diabetes Obes Metab. 2018 Sep;20(9):2200-2209.
トラディアンス配合錠の副作用
主な副作用として、血中ケトン体増加、無症候性細菌尿、膀胱炎などが報告されています。
トラディアンス配合錠の用法・用量
通常、成人には1日1回1錠(AP錠またはBP錠)を朝食前または朝食後に経口投与します。
有効成分の配合量はリナグリプチン5mgに、
- AP錠はエンパグリフロジン10mg
- BP錠はエンパグリフロジン25mg
が含有されています。
AP錠が低用量、BP錠が高用量製剤ですね。
トラディアンス錠の薬価
収載時(2018年11月20日)の薬価は以下の通りです。
- トラディアンスAP錠:283.30円(1日薬価:283.30円)
- トラディアンスBP錠:395.60円
算定方法等については以下の記事をご覧ください。
>>【新薬:薬価収載】12製品(2018年11月20日)と市場拡大再算定
まとめ・あとがき
2017年にDPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の初の配合剤であるカナリア配合錠が登場し、その後、2018年にはスージャヌ配合錠が登場しました。
今後も様々な配合剤の登場が予想されていますので、注目していきたいと思います。
DPP-4阻害薬とその配合剤については以下の記事にまとめていますので、併せてご参照ください。
-
【糖尿病】DPP-4阻害薬の作用機序と一覧まとめ(単剤と配合剤)
続きを見る
以上、今回は糖尿病とトラディアンス配合錠の作用機序についてご紹介しました。
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