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2019年9月20日、「FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症」を対象疾患とするクリースビータ皮下注(ブロスマブ)が承認されました!
協和キリン|ニュースリリース
基本情報
製品名 | クリースビータ皮下注10mg/20mg/30mg |
一般名 | ブロスマブ(遺伝子組換え) |
製品名の由来 | 骨の結晶構造を強固に(Crystallize)し、患者のQOL を改善し、 生命力(Vitality)を向上(Increase)させる。 |
製造販売 | 協和キリン(株) |
効能・効果 | FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症 |
用法・用量 | 成人:4週毎 小児:2週毎 |
収載時の薬価 | 10mg 1瓶:304,818円 20mg 1瓶:608,282円 30mg 1瓶:911,812円 |
クリースビータは日本初の抗FGF23抗体薬に分類されていて、新規作用機序を有する薬剤ですね!
今回はくる病・骨軟化症とクリースビータ(ブロスマブ)の作用機序について解説していきます。
くる病・骨軟化症の分類・症状
くる病・骨軟化症は骨石灰化障害を特徴とする疾患の総称で、成長軟骨帯閉鎖以前のものを「くる病」、それ以降のものを「骨軟化症」と呼んでいます。
くる病・骨軟化症は大きく以下の2種類に分類されいて、いずれも難病に指定されています。
- ビタミンD依存性くる病・骨軟化症1)
- ビタミンD抵抗性くる病・骨軟化症2)
ビタミンD抵抗性くる病・骨軟化症は、別名「低リン血症性くる病・骨軟化症」と呼ばれていて、慢性的な低リン血症状態によって引き起こされると考えられています。
ビタミンD抵抗性くる病の主な症状としては、
- 骨変形
- 成長障害
- 脊柱の湾曲
- 関節腫脹
などがあり、しっかりと治療を開始しないと成長障害によって低身長となってしまうこともあります。
また、ビタミンD抵抗性骨軟化症では、筋力低下や骨痛が主な症状ですが、こちらも適切な治療を行わないと、最悪寝たきり状態になってしまいます。
特に最近、ビタミンD抵抗性くる病・骨軟化症の多くは「繊維芽細胞増殖因子23(FGF23:fibroblast growth factor23)」の過剰産生によるものだとされています。
低リン状態かつ血中FGF23濃度が30pg/ml未満の場合に診断3)
ちなみにFGF23の測定は「デタミナー®CL FGF23」が2019年10月1日より保険適用されています。
日立化成(株)|FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の体外診断用医薬品の保険適用を取得
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は更にその原因(遺伝的要因や腫瘍性要因)によって細分化されていますが、主なものとしては以下があります。3)
- X染色体優性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLHR)
- 腫瘍性くる病・骨軟化症(TIO)
ビタミンD抵抗性くる病・骨軟化症の治療
根本的な治療法はありませんので、対処療法として以下の薬物療法が中心です。
- リン製剤
- 活性型ビタミンD3製剤
従って、新たな治療選択肢が望まれていました。
FGF23とリン濃度調節
通常、体内のリン濃度は、
- 小腸からの吸収
- 腎臓からの排泄
- 骨形成と骨吸収
- 細胞のリンプール
によって一定に保たれています。
また、活性化ビタミンD3も小腸からのカルシウムとリンの吸収促進作用、腎臓からのカルシウムとリンの再吸収促進(排泄抑制)という大切な役割を担っています。(カルシウムとリンの調整)
同時に活性化ビタミンD3は骨形成を促進させることによって、カルシウムやリンを骨にコーティング(石灰化)し、骨を強くしていきます。
そして最近になって、もう一つリンを調整している因子が発見されました。それが「繊維芽細胞増殖因子23(FGF23:fibroblast growth factor23)」と呼ばれるものです。
通常、FGF23は骨中の成熟骨細胞で産生された後に血中に分泌され、腎臓に作用して以下の働きをします。
- 腎臓でのリンの再吸収抑制(排泄促進)
- ビタミンD3の活性化抑制(1α位の水酸化抑制)
補足:ビタミンDは、肝臓で25位の水酸化 ⇒ 腎臓で1α位の水酸化 によって活性型ビタミンD3に変換されます。
正常な場合には、リンが高くなりすぎないようにFGF23が適度に産生されてリン濃度を調節しています。
しかし、遺伝的な要因や腫瘍によってFGF23が過剰に産生されると、過剰に働いてしまい、極度な低リン状態になってしまいます。
これが慢性的に生じることでくる病・骨軟化症を発症すると考えられています。
クリースビータ(ブロスマブ)の作用機序
クリースビータは抗FGF23完全ヒト抗体製剤で、FGF23の働きを特異的に阻害します。
FGF23の働きが阻害されることで
- リンの再吸収促進
- 活性型ビタミンD3の産生促進
によって血中リン濃度が増加すると考えられます。
リン濃度が増加する結果、くる病・骨軟化症の症状改善に繋がります。
エビデンス紹介:成人・小児
根拠となった臨床試験をご紹介します。
成人のX染色体優性低リン血症性骨軟化症(XLH)患者さんを対象に、クリースビータ(4週毎の皮下注)もしくはプラセボを比較した国際共同第Ⅲ相試験(日本人含む)が行われました。4)
本試験の主要評価項目は「投与開始後24週間の血清リン濃度平均値が正常な患者の割合」とされ、結果は以下の通りでした。
試験群 | クリースビータ群 | プラセボ群 |
血清リン濃度平均値が 正常な患者の割合 |
94.1% | 7.6% |
p<0.001 | ||
運動機能 (WOMAC*) |
-3.11(改善) | +1.79(悪化) |
p=0.048 | ||
関節のこわばり (WOMAC*) |
-7.87(改善) | +0.25(悪化) |
p=0.012 |
*WOMAC(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index):膝関節症や変形性、股関節に特異的なQOLの尺度
また、小児のX染色体優性低リン血症性骨軟化症(XLH)患者さんを対象にした同様の臨床試験5)においてもクリースビータの有効性が確認されています。
副作用
主な副作用として、注射部位反応(発疹・そう痒・疼痛等)(29.5%)、筋骨格痛、下肢不快感、などが報告されています。
用法・用量、在宅自己注射(2020年12月1日より可能)
適応症と対象(成人・小児)で異なっていますので下表にまとめてみました。いずれも皮下注です。
適応症 | 対象 | 投与間隔 | 1回投与あたりの 基本の投与量 |
FGF23関連低リン血症性 くる病・骨軟化症 |
成人 | 4週毎 | 1mg/kg* |
小児 | 2週毎 | 0.8mg/kg (最高用量:2mg/kg)* |
|
腫瘍性骨軟化症 | 成人 | 4週毎 | 0.3mg/kg (最高用量:2mg/kg) |
*1回投与量は90mgを超えないこと
また、2020年11月11日の中医協総会にて在宅自己注射の了承が得られたため、2020年12月1日より在宅自己注射が可能になりました!!
在宅自己注射の対象薬剤に係る運用基準(平成30年5月23日中医協総会において承認)及び学会からの要望書等を踏まえ、ブロスマブ(遺伝子組換え)については、2週間~4週間毎に皮下投与を行うものであるため、在宅自己注射指導管理料の対象薬剤に追加してはどうか。
【引用】中央社会保険医療協議会 総会(第468回) 議事次第:在宅自己注射等について「総-5-1」
収載時の薬価
薬価収載時(2019年11月19日)の薬価は以下の通りです。
- クリースビータ皮下注10mg 1瓶:304,818円
- クリースビータ皮下注20mg 1瓶:608,282円
- クリースビータ皮下注30mg 1瓶:911,812円
有用性加算もされています!
有用性加算の根拠
- 本剤はFGF23に結合し、血清リン濃度の低下作用を阻害することにより、血清無機リン濃度を維持し、骨軟化症に伴う症状の改善傾向を示した新規作用機序医薬品である。
- 本剤の開発に当たって、小児でリン酸製剤等による既存の治療法と比較したランダム化非盲検比較試験が実施され、本剤群でくる病の重症度評価で有意な改善が認められたことから、有用性加算(Ⅰ)A=45%が妥当と判断した。
収載時の算定根拠については以下の記事で解説しています。
-
【新薬:薬価収載】14製品と市場拡大再算定(2019年11月19日)
続きを見る
まとめ・あとがき
クリースビータはこんな薬
- 国内初の抗FGF23完全ヒト抗体製剤
- FGF23を阻害することで血中リン濃度を増加させ、症状を改善する
これまでFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は対症療法以外に有効な治療薬がありませんでした。
クリースビータは新たな治療選択肢になり得ることから患者さんにとっては朗報ではないでしょうか。
以上、今回はくる病・骨軟化症の概要と国内初の抗FGF23完全ヒト抗体製剤であるクリースビータ皮下注(ブロスマブ)の作用機序・エビデンスについて解説しました!
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