3.呼吸器系

エナジア吸入用カプセル(LAMA/LABA/ICS)の作用機序【気管支喘息】

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2020年6月29日、「気管支喘息」を対象疾患とするエナジア吸入用(インダカテロール/グリコピロニウム/モメタゾン)が承認されました。

ノバルティスファーマ|ニュースリリース

基本情報

製品名 エナジア吸入用カプセル中用量/高用量
一般名 ●インダカテロール酢酸塩
●グリコピロニウム臭化物
●モメタゾンフランカルボン酸エステル
製品名の由来 energyとairを組み合わせて、Enerzair(エナジア)とした
デバイス ブリーズヘラー
製造販売 ノバルティス ファーマ(株)
効能・効果 気管支喘息
(吸入ステロイド剤、長時間作用性吸入β2刺激剤及び長時間作用性吸入抗コリン剤との併用が必要な場合)
用法・用量 1日1回吸入
収載時の薬価 中用量:291.90円
高用量:333.40円

 

エナジアは

  • 長時間作用性抗コリン薬(LAMA)のグリコピロニウム
  • 長時間作用性β2刺激薬(LABA)のインダカテロール
  • 吸入ステロイド薬(ICS)のモメタゾン

の3種類を配合した薬剤で、気管支喘息に対する3剤配合剤は国内初ですね!

参考読み方:LAMAは“ラマ”、LABAは“ラバ”、ICSは“アイシーエス”

 

COPD(慢性閉塞性肺疾患)ではLAMA/LABA/ICSの3剤配合剤として、既にビレーズトリやテリルジーが承認・販売されています。COPDについては以下の記事でベレーズトリとテリルジーの違い・比較について解説していますので是非ご覧ください。

テリルジー吸入用の作用機序:ビレーズトリ・エナジアとの違い【COPD/気管支喘息】

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木元 貴祥
木元 貴祥
ちなみに、エナジアに含まれるLABAの「インダカテロール酢酸塩」は新有効成分とのことです!

 

インダカテロール自体は「インダカテロールマレイン酸塩」としてCOPD治療薬のオンブレス吸入用カプセルが承認・販売されていますね。

 

今回は気管支喘息の概要とエナジアの作用機序について解説していきます。

 

気管支喘息とは

気管支喘息は、呼吸をするときの空気の通り道が、アレルギーなど炎症によって敏感になり、けいれんを起こして狭くなることで起こります。

 

発作時の症状としては、「ゼーゼー、ヒューヒュー」といった喘鳴ぜんめいや、激しい咳が出る、呼吸が苦しくなるといった症状が発現します。痰が絡むこともあります。

気管支喘息では気管支が狭窄している

 

日本では、子供の5~7%、大人の3~5%が喘息であると言われていますね。

 

子供の喘息は男子に比較的多く、アレルギーが原因であることがほとんどとされていますが、成長するに従って発作が消失することもあります。

 

主な原因としては、ダニ、ハウスダスト、ペット 花粉、といったアレルギー物質のほか、たばこ、過労、ストレス、感染症から誘発されることもあります。

 

気管支平滑筋の収縮と弛緩(拡張)

通常、気管支平滑筋の収縮や弛緩(拡張)は副交感神経と交感神経によって調節されています。

  • 副交感神経:平滑筋の収縮
  • 交感神経:平滑筋の弛緩(拡張)

 

副交感神経から産生される「アセチルコリン」が平滑筋の「アセチルコリンM3受容体」に作用することで平滑筋が収縮します。

また、交感神経から産生される「ノルアドレナリン」が平滑筋の「アドレナリンβ2受容体」に作用することで平滑筋が弛緩(拡張)します。

気管支平滑筋の収縮と弛緩(拡張):アセチルコリンとノルアドレナリン

 

気管支喘息の治療

気管支喘息は炎症によって引き起こされているため、抗炎症作用のある「ステロイドの吸入」による治療が基本です。1)

 

その他に、発作の予防として、以下の薬剤を適宜併用して用います。

  • ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA:Leukotriene receptor antagonist)
  • 長時間作用性β2刺激薬(LABAラバ:Long Acting β2 Agonist)
  • 長時間作用性抗コリン薬(LAMAラマ:Long-Actng anti-Muscarinic Agent)

 

最近では、吸入ステロイドとLABAを配合した合剤(例:レルベアエリプタ)等も販売されています。

レルベアエリプタ(ビランテロール/フルチカゾン)の作用機序【COPD】

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また、同日、エナジアからLAMAのグリコピロニウムを除いたICS/LABAの2剤配合剤であるアテキュラ吸入用カプセル(インダカテロール酢酸塩/モメタゾンフランカルボン酸エステル)も承認されています。

アテキュラ吸入用カプセル(LABA/ICS)の作用機序【気管支喘息】

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しかし上記のような治療(ICS/LABA併用療法)を行っても、喘息がコントロールできない場合もあります。

 

このような場合において今回ご紹介するICS/LABA/LAMA配合剤のエナジアが使用可能となりました!

 

その他、抗体製剤のデュピクセント(デュピルマブ)もコントロール不良な気管支喘息に対して選択肢になります。

デュピクセント(デュピルマブ)の作用機序【アトピー性皮膚炎/気管支喘息/副鼻腔炎】

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エナジア吸入用カプセルの作用機序

エナジアは、

  • 長時間作用性抗コリン薬(LAMA)のグリコピロニウム
  • 長時間作用性β2刺激薬(LABA)のインダカテロール
  • 吸入ステロイド薬(ICS)のモメタゾン

を配合した薬剤です。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
それぞれの有効成分の作用機序を順に解説していきます。

 

グリコピロニウムの作用機序

グリコピロニウムは抗コリン薬に分類されています。

 

アセチルコリンM3受容体を遮断することで気管支平滑筋の収縮を抑制し、気管支を拡張するといった作用機序を有しています。

エナジアの作用機序:グリコピロニウム(LAMA)

 

インダカテロールの作用機序

インダカテロールはβ2刺激薬に分類されています。

 

アドレナリンβ2受容体を刺激することで気管支平滑筋を弛緩(拡張)させるといった作用機序を有しています。

エナジアの作用機序:インダカテロール(LABA)

 

モメタゾンの作用機序

モメタゾンはステロイド薬であり、抗炎症作用を有しています。

喘息では気管支の炎症によって平滑筋が収縮してしまいますが、モメタゾンによって炎症を抑制することができます。

エナジアの作用機序:モメタゾン(ICS)

 

このようにエナジアは、

  • LAMAとLABAによる気管支拡張
  • ICSによる炎症抑制

により、炎症によって狭窄した気管支を広げ、呼吸機能の緩和が期待されています。

 

エビデンス紹介:IRIDIUM試験

根拠となった臨床試験を一つご紹介します。

IRIDIUM試験は中用量~高用量ICS/LABAでコントロールが不十分な成人気管支喘息患者さん(日本人含む)を対象に、エナジア(1日1回:中用量群と高用量群)とアテキュラ(1日1回:中用量群と高用量群)を比較する第Ⅲ相臨床試験です。2)

アテキュラ:インダカテロール(LABA)とモメタゾン(ICS)の配合剤

 

主要評価項目は「投与26週後のトラフFEV1のベースラインからの変化量」で、結果は以下の通りでした。

投与26週後のトラフFEV1
ベースラインからの変化量
エナジア中用量群 299mL 76mL
p<0.001
アテキュラ中用量群 223mL
エナジア高用量群 320mL 65mL
p<0.001
アテキュラ高用量群 255mL

 

LABA/ICSの2剤配合剤のアテキュラと比較して有意にFEV1の改善が認められていますね。

アテキュラ吸入用カプセル(LABA/ICS)の作用機序【気管支喘息】

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その他にもARGON試験という試験において、サルメテロール/フルチカゾン(SAL/FLU)+チオトロピウム(TIO)の併用療法(1日2回)に対するエナジアの優越性も確認されていますよ。3)

 

副作用と注意事項

1%以上に認められる副作用として、発声障害(8.7%)が報告されています。

 

重大な副作用としては、

  • アナフィラキシー(頻度不明)
  • 重篤な血清カリウム値の低下(頻度不明)
  • 心房細動(頻度不明)

が挙げられていますので、特に注意が必要です。

 

また、本剤は抗コリン薬のグリコピロニウムを配合していることから、下記の患者さんには投与禁忌です。

  • 閉塞隅角緑内障の患者さん
  • 前立腺肥大等による排尿障害がある患者さん

 

木元 貴祥
木元 貴祥
共に、抗コリン作用によって、悪化する可能性があるためですね。

 

加えて、ステロイドのモメタゾンには免疫低下作用もあるため、口腔内の感染症(カンジダ症など)が発現することがあります。

従って、吸入後には「うがい」をするなどして予防することが望ましいと添付文書にも記載されています。

局所的な副作用(カンジダ症又は発声障害等)を予防するため、本剤吸入後に、うがいを実施するよう患者を指導すること。ただし、うがいが困難な場合には、口腔内をすすぐよう指導すること。また、口に含んだ水を飲み込まないよう指導すること。

 

用法・用量

通常、成人にはエナジア吸入用カプセル中用量1回1カプセル(インダカテロールとして150μg、グリコピロニウムとして50μg及びモメタゾンフランカルボン酸エステルとして80μg)を1日1回本剤専用の吸入用器具を用いて吸入します。

 

なお、症状に応じてエナジア吸入用カプセル高用量1回1カプセル(インダカテロールとして150μg、グリコピロニウムとして50μg及びモメタゾンフランカルボン酸エステルとして160μg)を1日1回本剤専用の吸入用器具を用いて吸入することも可能です。

 

デバイスとしては「ブリーズヘラー」を使用するようですね。

ノバルティスファーマ|エナジア患者指導箋

 

ちなみに、ブリーズヘラーにセンサーを装着の上、「Propeller アプリ」と呼ばれるスマートフォンアプリとBluetooth連動させることで

  • 吸入確認
  • 服薬リマインダー
  • 主治医に日々の服薬の記録を共有(希望すれば)

が可能になるようです!

 

木元 貴祥
木元 貴祥
なんか近未来的ですね(笑)

 

収載時の薬価

収載時(2020年8月26日)の薬価は以下の通りです。

 

  • エナジア吸入用カプセル中用量:291.90円(1日薬価:291.90円)
  • エナジア吸入用カプセル高用量:333.40円

 

算定根拠については以下の記事で解説しています。

【新薬:薬価収載】13製品(2020年8月26日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

エナジアはこんな薬

  • 気管支喘息で初のLAMA/LABA/ICSを配合した薬剤
  • 1日1回1吸入で治療が可能
  • アプリと連動して吸入確認、服薬リマインダーが確認可能

 

COPDの領域ではLAMA/LABA/ICSの3剤配合剤が相次いで登場(以下の2製品)し、治療選択肢の幅が広がりましたが、気管支喘息への応用も期待されていました。

 

ビレーズトリはCOPDのみですが、テリルジーについては2020年11月に気管支喘息の適応拡大が承認されました!以下の記事で比較表や特徴について解説していますので、是非ご覧くださいませ~。

テリルジー吸入用の作用機序:ビレーズトリ・エナジアとの違い【COPD/気管支喘息】

続きを見る

 

LABA/ICSでコントロールできない気管支喘息の場合、追加でLAMAを併用して治療することもありますが、その場合には吸入デバイスが増えてしまいます。エナジアでしたら1日1吸入でLAMA/LABA/ICSの治療が可能になりますので、患者さんの負担軽減に繋がると期待しています!

 

ちなみに同日、エナジアからLAMAを除いたLABA/ICS配合剤のアテキュラ吸入用カプセルも承認されています。

アテキュラ吸入用カプセル(LABA/ICS)の作用機序【気管支喘息】

続きを見る

 

以上、今回は気管支喘息の概要とエナジアの作用機序について解説しました!

 

引用文献・資料等

  1. 喘息予防・管理ガイドライン2018
  2. IRIDIUM試験:Lancet Resp Med https://doi.org/10.1016/S2213-2600(20)30190-9.
  3. ARGON試験:Resp Med 2020;106021. DOI: https://doi.org/10.1016/j.rmed.2020.106021.

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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