1.中枢神経系

アジレクト(ラサギリン)の作用機序と副作用【パーキンソン病】

パーキンソン病」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品のアジレクト錠0.5mg、同錠1mg(一般名:ラサギリンメシル酸塩)2018年3月23日に承認されました。

基本情報

製品名 アジレクト錠
一般名 ラサギリンメシル酸塩
製品名の由来 特になし
製薬会社 製造販売:武田薬品工業(株)
提携:Teva Pharmaceutical Industries Ltd.
効能・効果 パーキンソン病
用法・用量 通常、成人にはラサギリンとして1mgを1日1回経口投与する。
収載時の薬価 0.5mg 1錠:512.10円
1mg 1錠:948.50円

 

木元 貴祥
アジレクトはMAO-B阻害剤に分類されています。

 

今回はパーキンソン病アジレクト(ラサギリン)の作用機序についてご紹介します。

 

パーキンソン病とは

パーキンソン病は、脳内の「黒質」という部分のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患で、難病に指定されています。1)

 

特徴的な症状としては、

  • 安静時の振戦(手足が震える)
  • 筋固縮(筋肉が固くなる)
  • 無動(動きが遅くなる)
  • 姿勢反射障害(体のバランスが悪くなる)

などがあります。

 

発症年齢は50~65歳に多いとされており、高齢になるほど発病率が増加する疾患です。

 

パーキンソン病の原因

現時点では原因不明とされていますが、何らかの遺伝子異常や環境因子が影響していると言われています。

パーキンソン病の各症状は、脳内の神経細胞から分泌されるドパミン量が減少することで発現します。

パーキンソン病とドパミン量

 

パーキンソン病の治療

治療の基本は薬による薬物治療です。2)

 

薬物治療にはいくつかの種類がありますが、最も基本となるのが

  • L-ドパの補充
  • ドパミンアゴニスト

です。

 

ドパミンは、チロシン→L-ドパを経由して脳の神経細胞内で合成されます。

直接ドパミンを補充したとしても、ドパミンは血液脳関門を通過できないため脳内に入ることが出来ません

 

そのため、ドパミンの前駆物質であるL-ドパ(血液脳関門を通過できる)を補充することでドパミンの合成を促します。

 

また、ドパミンはドパミン受容体を刺激することで生理活性を示すことから、ドパミンアゴニスト(ドパミン受容体刺激薬)もパーキンソン病の治療薬として用いられます。

パーキンソン病の治療:L-ドパの補充

 

L-ドパ治療とウェアリング・オフ現象

L-ドパは投与すると比較的速やかに代謝され、体内から消失してしまいます。

 

パーキンソン病の初期では、神経細胞内にドパミンが貯蓄されていますので、L-ドパの効果も長期間続き(オン状態)、症状もコントロールできます。

しかし、パーキンソン病が進行すると、貯蓄されていたドパミンが消費されていきますので、L-ドパで補充しても、効果が長続きしなくなってしまいます。

 

このため、L-ドパの効果が無くなる時間(オフ状態)が生じてしまい、次のL-ドパを補充する前にパーキンソン病の症状が発現してしまいます。

パーキンソン病とウェアリング・オフ現象

 

木元 貴祥
このように効果があるオン状態と効果が無くなるオフ状態を繰り返す現象を「ウェアリング・オフ(Wearing off)現象」と呼びます。

 

アジレクト(一般名:ラサギリン)の作用機序

ドパミンはMAO-Bと呼ばれる酵素によって分解されることが知られています。

 

ウェアリング・オフ現象では、体内のドパミン量が十分ではないため、L-ドパの効果が持続しなくなってしまっています。

 

 

今回ご紹介するアジレクトはMAO-Bを非可逆的に阻害する作用機序を有した薬剤です!

MAO-Bを阻害することでドパミンの分解が抑制され、体内のドパミン量が回復する結果、ウェアリング・オフ現象の改善・パーキンソン病症状の改善効果が期待されます。

アジレクト(一般名:ラサギリン)の作用機序

 

エビデンス紹介(CCT-001試験、CCT-002試験)

根拠となった臨床試験は以下の2つがあります。

  • CCT-001試験:レボドパ含有製剤非併用の早期パーキンソン病患者を対象としたアジレクト単剤とプラセボを比較する第Ⅲ相臨床試験3)
  • CCT-002試験:ウェアリング・オフ現象を伴うパーキンソン病患者さんを対象とし、L-ドパ併用下でアジレクト(0.5mg or 1.0mg)とプラセボを比較する第Ⅲ相臨床試験4)

 

CCT-001試験の主要評価項目は治療期26週における「MDS-UPDRSのPartⅡ+PartⅢ合計スコアのベースラインからの変化量」です。

試験名 CCT-001試験3)
試験群 アジレクト群 プラセボ群
主要評価項目
(スコアの変化量)
-4.52 1.87
差:-6.39, p<0.0001

 

CCT-002試験の主要評価項目は治療期における「1日あたりの平均オフ時間の観察期終了時からの変化量」です。

試験名 CCT-002試験4)
試験群 アジレクト群
(0.5mg)
アジレクト群
(1.0mg)
プラセボ群
主要評価項目
(平均オフ時間の変化量)
-1.11 -1.35 -0.51
プラセボ群との比較 -0.60,
p=0.0140
-0.84,
p=0.0006
-

 

このように臨床試験では、早期のパーキンソン病の患者さんにおいてアジレクトを単独で使用し、治療効果が認められています。

 

また、ウェアリング・オフ現象を伴うパーキンソン病の患者さんにおいても、アジレクトとL-ドパを併用することで治療効果が認められていますね。

 

副作用

副作用としては、ドパミン量が増えすぎて起こるジスキネジアの他、悪心、めまい、体重減少、起立性低血圧、口渇、などがありますので注意が必要です。

 

用法・用量

ラサギリンとして1mgを1日1回経口投与します。

 

薬価

収載時(2018年5月22日)の薬価は以下の予定です。

  • 0.5mg 1錠:512.10円
  • 1mg 1錠:948.50円

 

薬価の算定方法については以下の記事をご参照ください。

【新薬:薬価収載】13製品(2018年5月22日)

続きを見る

 

エフピー(セレギリン)との違い

同様の作用機序(MAO-B阻害)を有する薬剤としては、エフピー(一般名:セレギリン)があります。

共にMAO-Bを非可逆的に阻害しますが、アジレクトはエフピーと比較し、MAO-B阻害効果が5~10倍高いと言われています。2)

 

木元 貴祥
この差が臨床的な有効性や安全性にどのように影響するのか興味深いと感じます。

 

その他にも、エフピーは「アンフェタミン骨格」を有するため、覚せい剤原料に該当していますが、アジレクトは「アンフェタミン骨格」を有さないため、覚せい剤原料には該当しません

従って、アジレクトは流通上の規制から外れることになります。

 

2019年には新規のMAO-B阻害薬のエクフィナ(サフィナミド)が承認されましたので以下の記事で比較一覧表を掲載しています。

エクフィナ(サフィナミド)の作用機序:アジレクト/エフピーとの違い【パーキンソン病】

続きを見る

 

まとめ・あとがき

アジレクトはこんな薬

  • MAO-B阻害作用によってドパミン量を回復させる
  • アンフェタミン骨格を有さないため、覚醒剤原料ではない

 

パーキンソン病は未だ根治治療がなく、症状をいかにコントロールできるかが大切です。

アジレクトはウェアリング・オフ現象の改善が期待できることから、パーキンソン病患者さんの症状改善に寄与できると考えます。

 

以上、今回はパーキンソン病とアジレクト(ラサギリン)の作用機序についてご紹介しました。

 

引用文献・資料等

  1. 難病情報センター | パーキンソン病(指定難病6)
  2. 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
  3. CCT-001試験:アジレクト添付文書
  4. CCT-002試験:Parkinsonism Relat Disord. 2018 Aug;53:21-27.

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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