12.悪性腫瘍

ゼジューラ(ニラパリブ)の作用機序【卵巣がん】

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2020年9月25日、「卵巣がん」を対象疾患とする新規PARPパープ阻害薬のゼジューラ(ニラパリブ)が承認されました!

武田薬品工業|ニュースリリース

基本情報

製品名 ゼジューラ錠100mg
一般名 ニラパリブ
製品名の由来 “jewel”と語感が似ているとして“Zejula”と命名された。
製造販売 武田薬品工業(株)
効能・効果 ●卵巣がんにおける初回化学療法後の維持療法
●白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣がんにおける維持療法
●白金系抗悪性腫瘍剤感受性の相同組換え修復欠損を有する再発卵巣がん
用法・用量 通常、成人にはニラパリブとして1 日1 回200 mg を経口投与する。
ただし、本剤初回投与前の体重が77 kg 以上かつ
血小板数が150,000/μL 以上の成人にはニラパリブとして1 日1 回300 mg を経口投与する。
なお、患者の状態により適宜減量する。
収載時の薬価 カプセル:10,370.20円(1日薬価:20,740.40円)
錠剤:10,370.20円

錠剤は2021年9月3日に承認。錠剤は室温保存が可能です。ゼジューラカプセルは2024年3月末で終売。

 

PARP阻害薬は国内ではリムパーザ(オラパリブ)が卵巣がん・乳がんに対して既に承認・販売されていますので、ゼジューラは2製品目となりました。

リムパーザ(オラパリブ)の作用機序【卵巣/乳/膵/前立腺がん】

続きを見る

 

木元 貴祥
木元 貴祥
リムパーザは1日2回投与でしたが、ゼジューラは1日1回投与ですので、より簡便な印象ですね。

 

今回は卵巣がんとゼジューラ(ニラパリブ)の作用機序についてご紹介します。

 

卵巣がんと治療

卵巣がんは、卵巣に発生するがんです。

 

新たに診断される人数は、1年間に10万人あたり14.3人と言われています。

また、40歳代から増加を始め、50歳代前半から60歳代前半でピークを迎え、その後は次第に減少します。

 

卵巣がんの約10%は遺伝的要因によるものと考えられており、相同組換え修復異常(HRD:homologous recombination deficiency)の中でもBRCA遺伝子変異があると、発症する危険性を高めることがわかっています。

参考:BRCAは“ビーアールシーエーと読みます。

 

<卵巣がんのBRCA遺伝子変異の割合(日本人)>

  • 卵巣がん全体:14.7%
  • 早期卵巣がん:4.9%
  • 進行卵巣がん:24.1

出典|CHARLOTTE試験:Int J Gynecol Cancer. 2019 Jul;29(6):1043-1049.

 

木元 貴祥
木元 貴祥
PARP阻害薬の適応や効果を考える上で、BRCA遺伝子変異やHRDの有無は非常に重要です。

 

初期治療

卵巣がん治療の基本は手術です。1)

まずは手術によって、がんの拡がり具合を確認するとともに、がんを手術で取り除きます。

 

術後には白金(プラチナ)系薬剤のカルボプラチンと、タキサン系薬剤のパクリタキセルを併用した抗がん剤治療を4~5カ月程行うのが一般的です。

タキソールとタキソテールの作用機序と副作用【抗がん剤】

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また、上記にアバスチン(ベバシズマブ)を併用することもあります。(以下は大腸がんの記事)

アバスチン(ベバシズマブ)の作用機序とバイオシミラー【大腸がん】

続きを見る

 

今回ご紹介するゼジューラはBRCA遺伝子変異の有無によらず、上記の初回の白金系抗がん剤治療(アバスチンを含まない)後の維持治療として投与することで再発を抑えることが期待できます。

ただし、アバスチンを含む場合には使用できない点には注意が必要です。

 

類薬のリムパーザはBRCA遺伝子変異陽性の場合にしか初回治療後の維持治療には使用できません。なお、リムパーザはアバスチンの有無によらずに使用可能です。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
上記の治療によって、治癒する患者さんもいらっしゃいますが、残念ながら再発してしまう患者さんもいらっしゃいます。

 

しかし、一定数の患者さんでは残念ながら再発してしまうこともあり、その場合、次の治療が行われます。再発の時期としては、治療後2年以内が多くみられます。

 

再発時の治療

再発卵巣がんでは、初回の抗がん剤治療完了から6カ月以上経過している場合、もう一度、白金(プラチナ)系薬剤を含んだ抗がん剤治療が行われます。1-2)

 

例えば、

などの治療を4~6カ月程行います。

 

その後は、基本的には無治療で経過観察となりますが、経過観察中にがんが増悪してくることもしばしばありました。

 

そのため、最新のガイドラインでは抗がん剤治療後には以下の治療による維持療法が推奨されています。2)

  • アバスチン(ベバシズマブ)による維持療法(推奨の強さ1)
  • 抗がん剤で奏効した場合には、リムパーザもしくはゼジューラによる維持療法(推奨の強さ1)

 

ゼジューラもリムパーザと同じく、BRCA遺伝子変異の有無に関わらず、抗がん剤治療完了後の維持治療として治療効果が期待されていますね。

ちなみに、卵巣がんで生殖系細胞のBRCA遺伝子の変異を調べる際には「BRACAnalysis診断システム」を使用します。

SRLBRCA1/2遺伝子検査(卵巣癌)

 

また、維持療法後にも再発した場合、HRDがあって3レジメン以上の化学療法歴があれば、ゼジューラ単剤療法が提案されています(推奨の強さ2)。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
それではここから、DNAの修復メカニズムとゼジューラの作用機序についてご説明します。

 

イメージしやすいため、BRCA遺伝子変異の場合を想定して解説していきます。

 

DNA修復因子:PARPとBRCA

通常、ヒトの細胞内のDNAが損傷を受けると、「PARP」や「BRCA」と呼ばれる修復因子によって修復されることが知られています。

PARPはDNAの一本鎖が切断された時、BRCAはDNAの二本鎖が切断された時にそれぞれ修復する因子です。

DNA修復因子:PARPとBRCA

 

しかしながら、BRCAが変異している場合、DNAの修復がうまくできず、がん化する可能性が高くなります。

 

BRCAの変異は、特に乳がん卵巣がんで多いとされています。

BRCA遺伝子変異による発がん

 

ゼジューラ(ニラパリブ)の作用機序

ゼジューラはDNA修復因子であるPARPを特異的に阻害する作用機序を有しています!

 

BRCA遺伝子変異のがん細胞でPARPを阻害すると、一本鎖切断DNAの修復ができずに、二本鎖が切断されてしまいます。

 

本来であれば、二本鎖が切断されると、BRCAによって修復されますが、BRCA遺伝子変異のがん細胞はBRCAが元々変異しているため、修復することができません

ゼジューラ(ニラパリブ)の作用機序:正常細胞へのPARP阻害薬の影響

 

従って、がん細胞のDNAが壊れてしまい、「合成致死」と呼ばれるがん細胞死が誘導されると考えられています!

 

一方、正常のヒト細胞では、PARPが阻害され、二本鎖が切断されたとしても、BRCAは正常ですので、BRCAによって元通りのDNAに修復されます。

ゼジューラは正常細胞には影響を与えにくい

 

木元 貴祥
木元 貴祥
正常細胞にはあまり影響を与えずに、がん細胞にのみ作用すると考えられます。

 

卵巣がん初回治療後のエビデンス:PRIMA試験

卵巣がんの初回治療後の維持療法の根拠となった臨床試験をご紹介します。3)

PRIMA試験は初回の白金(プラチナ)化学療法で奏効がみられた進行卵巣がん新規診断患者さんを対象に、ゼジューラ群とプラセボ群を比較する第Ⅲ相臨床試験です。

 

主要評価項目は相同組換え欠損を有する症例および全体における「無増悪生存期間*」とされました。

試験群 ゼジューラ群 プラセボ群
無増悪生存期間中央値
(HRDあり)
21.9か月 10.4か月
HR=0.43(95%CI:0.31-0.59),
p<0.001
無増悪生存期間中央値
(全体集団)
13.8か月 8.2か月
HR=0.62(95%CI:0.50〜0.76),
p<0.001

*がんが増悪するまでの期間

 

ゼジューラはいずれにおいても有意に増悪までの期間を延長することが示されています。

 

再発卵巣がんのエビデンス紹介:NOVA試験

再発卵巣がんの根拠となった臨床試験の一つのNOVA試験をご紹介します。

 

NOVA試験は、生殖系細胞のBRCA遺伝子変異の有無によらず、再発卵巣がんに対して白金(プラチナ)系薬剤を含んだ2つ以上の治療が行われた患者さんを対象に、プラセボとゼジューラを直接比較する第Ⅲ相臨床試験です。4)

 

本試験の主要評価項目は「無増悪生存期間*」とされ、生殖系細胞のBRCA遺伝子変異有無別の結果は以下の通りでした。

試験群 ゼジューラ群 プラセボ群
無増悪生存期間中央値
(BRCA遺伝子変異あり)
21.0か月 5.5か月
HR=0.27(95%CI:0.17-0.41),
p<0.001
無増悪生存期間中央値
(BRCA遺伝子変異なし)
9.3か月 3.9か月
HR=0.45(95%CI:0.34-0.61),
p<0.001

 

木元 貴祥
木元 貴祥
ゼジューラは生殖系細胞のBRCA遺伝子変異の有無によらず、プラセボと比較して無増悪生存期間を有意に延長していますね!

 

その他、3つ以上の化学療法歴があり、HRDを有する再発卵巣がん患者さんを対象として、ゼジューラ単剤の有効性を検討した第Ⅱ相試験(QUADRA試験)5)においてもゼジューラの有効性が確認されています。

 

用法・用量

通常、成人にはニラパリブとして1日1回200mgを経口投与します。

ただし、本剤初回投与前の体重が77kg以上かつ血小板数が150,000/μL 以上の成人にはニラパリブとして1日1回300 mgを経口投与します。

患者の状態により適宜減量

 

副作用

10%以上に認められる副作用として、頭痛、不眠症、悪心(59.1%)、便秘(24.2%)、嘔吐(20.0%)、食欲減退、下痢、疲労(33.2%)、無力症などが報告されています。

 

また、重大な副作用として

  • 骨髄抑制(78.8%)
  • 高血圧(9.8%)
  • 可逆性後白質脳症症候群(頻度不明)
  • 間質性肺疾患(0.6%)

が挙げられていますので特に注意が必要です。

 

収載時の薬価

薬価収載時(2020年11月18日)の薬価は以下の通りです。

  • ゼジューラカプセル100mg:10,370.20円(1日薬価:20,740.40円)

 

錠剤については、2022年5月25日に薬価収載されています。

  • ゼジューラ錠:10,370.20円

 

算定根拠については以下をご覧ください。

【新薬:薬価収載】9製品(2020年11月18日)

続きを見る

 

まとめ・あとがき

ゼジューラはこんな薬

  • リムパーザに次いで2製品目のPARP阻害薬
  • PARPを阻害すると「合成致死」と呼ばれるがん細胞死が誘導される
  • 初回・再発卵巣がんに使用される

 

国内では2製品目のPARP阻害薬となりましたが、今後はリムパーザとの使い分け等が検討されれば興味深いと思います。

 

2024年には新規のPARP阻害薬ターゼナ(タラゾパリブ)が登場予定のため、以下の記事でPAPR阻害薬3製品を比較しています。

ターゼナ(タラゾパリブ)の作用機序:リムパーザ、ゼジューラとの違い【乳/前立腺がん】

続きを見る

 

以上、今回は卵巣がんとゼジューラについてご紹介しました☆

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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