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アブラキサン(パクリタキセル)の作用機序と副作用【膵臓がん】

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既に販売中のアブラキサン点滴静注用100mg(一般名:ナノアルブミン化パクリタキセル)に「治癒切除不能な膵がん」の効能・効果が2014年12月18日に追加されました。

今回は膵臓がんの治療とアブラキサン(パクリタキセル)の作用機序・特徴についてご紹介します。

 

膵臓の働きと膵臓がん

膵臓は胃の後ろにある細長い臓器で、主な役割としては以下の2つです。

  • 食物の消化酵素の分泌(外分泌)
  • インスリン等のホルモンの産生(内分泌)

 

膵臓がんは膵臓にできる悪性腫瘍(がん)のことで、極めて予後の悪い代表的ながんです。

膵臓がんの初期には症状はあまり出ません。

しかし進行すると、腹痛、食欲不振、腹部膨満感、黄疸、腰背部痛、糖尿病といった症状が現れてきます。

 

膵臓がんの治療

進行具合に応じて治療が行われますが、早期の場合は手術によってがんを取り除く治療が原則です。

手術の後には再発を抑えるために抗がん剤治療(TS-1やジェムザール)が行われます。

 

しかし、発見時に他の臓器に転移のある場合、もしくは再発の場合は抗がん剤治療が原則です。

現在、膵臓がんの初回に使用できる治療法としては以下があります。

 

今回ご紹介するアブラキサンは基本的にはジェムザール(一般名:ゲムシタビン)と併用して使用します。

 

初回治療に抵抗性が認められた場合、二次治療としてはオニバイド(イリノテカン リポソーム製剤)を用いた併用療法がおこなわれます。

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それではここからアブラキサンが関与する微小管とがんの細胞分裂メカニズムについてご説明します。

 

がん細胞分裂(増殖メカニズム)と微小管

がんが細胞分裂を行う際には、まず細胞内のDNAを2倍に増やします(これを“複製”と呼んでいます)。

2倍に増えたDNAは「微小管」と呼ばれる糸のような構造物によって、それぞれ細胞の両極(両側)に均等に運ばれていきます。

その後、細胞の分裂が開始され、がん細胞の細胞分裂が完了します。

 

上記に関与している微小管は「チュブリン」と呼ばれるタンパク質の集合体です。

細胞分裂開始時にチュブリンが集まってきて微小管を形成します(これを“重合”と呼んでいます)。

そして細胞分裂が完了すると、チュブリンがバラバラになって微小管が分解されます(これを“脱重合”と呼んでいます)。

 

アブラキサン(一般名:パクリタキセル)の作用機序

アブラキサンは微小管の脱重合を阻害するといった作用機序を有しており、タキサン系の抗がん剤に分類されています。

本来、細胞分裂完了と同時に分解されるはずの微小管が細胞内に残ったままになってしまい、がん細胞は細胞分裂を完了することができなくなります。

その結果、がん細胞は分裂できないままになり、死滅していってしまいます。

 

このようにアブラキサンは微小管の脱重合を抑制(重合を促進して微小管を安定化)することによって、がん細胞の増殖を抑えると考えられています。

 

アブラキサンの構造と特徴

アブラキサンは、パクリタキセル(製品名:タキソール)人血清アルブミンに結合したものを重合させた構造を有しています。

 

元々、パクリタキセルは水に極めて溶けにくいため、製品であるタキソールでは、「ポリオキシエチレンヒマシ油」と「無水エタノール」を使用して溶解していました。

しかしながら、これらを使用することで過敏症(アレルギー)が高頻度に発現してしまうことが分かり、対策としてタキソール投与前にステロイドや抗ヒスタミン薬を前処置する必要がありました。

タキソールとタキソテールの作用機序と副作用【抗がん剤】

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アブラキサンに使用されている人血清アルブミンは水に溶けやすいため、ポリオキシエチレンヒマシ油や無水エタノールを使用する必要が無くなりました。

従って、過敏症の心配もなく、前処置の必要も無くなったため、患者さんや医療従事者の煩雑さも軽減されています。

 

アブラキサンの副作用

主な副作用として、疲労、脱毛、悪心、末梢神経障害、貧血、好中球減少、下痢、浮腫などが報告されています。

特に末梢神経障害は重度になると回復に時間がかかり、QOLの低下を招くため、注意が必要です。

 

エビデンス紹介(MPACT試験)

根拠となった臨床試験(MPACT試験)をご紹介します。1)

本試験は、遠隔臓器に転移のある膵臓がん患者さんの初回治療としてジェムザールとジェムザール+アブラキサンを直接比較する第Ⅲ相臨床試験です。

 

本試験の主要評価項目は「全生存期間」でした。

臨床試験名 MPACT試験1)
試験群 ジェムザール ジェムザール+
アブラキサン
PFS中央値 3.7か月 5.5か月
HR=0.69, P<0.001
全生存期間中央値 6.7か月 8.5か月
HR=0.72, P<0.001
奏効率 7% 23%
P<0.001

PFS(無増悪生存期間):薬を投与してから、がんが大きく(増大)するまでの期間
†奏効率:がんが30%以上縮小した患者さんの割合

 

このように、無増悪生存期間、全生存期間、奏効率は全てジェムザールにアブラキサンを追加することで良好な結果が得られています。

 

1)MPACT試験:N Engl J Med. 2013 Oct 31;369(18):1691-703.

 

あとがき

切除不能な膵臓がん治療の選択肢としては、ジェムザール単剤、TS-1単剤、ジェムザール+タルセバ、FOLFIRINOX療法が既にありますが、そこにジェムザール+アブラキサンが選択肢として新たに加わりました。

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今後は患者さんの状態や各薬剤の副作用に沿った使い分けが明示されれば良いなと思います。

 

2020年には二次化学療法に使用するオニバイド(イリノテカン リポソーム製剤)も登場しましたので、治療選択肢が増えてきていますよ。

オニバイド(イリノテカン リポソーム製剤)の作用機序【膵臓がん】

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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