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2021年1月22日、「腎性貧血」を対象疾患とするマスーレッド(モリデュスタット)が承認されました!
バイエル薬品|ニュースリリース
基本情報
製品名 | マスーレッド錠5mg/12.5mg/25mg/50mg/75mg |
一般名 | モリデュスタットナトリウム |
製品名の由来 | 特になし |
製造販売 | バイエル薬品(株) |
効能・効果 | 腎性貧血 |
用法・用量 | 1日1回食後に経口投与(記事内参照) |
収載時の薬価 | 5mg:44.30円 12.5mg:93.70円 25mg:165.10円 75mg:405.30円 |
マスーレッドはHIF活性化薬(HIF-PH阻害薬)に分類されていて、
- エベレンゾ(ロキサデュスタット):2019年承認
- ダーブロック(ダプロデュスタット):2020年承認
- バフセオ(バダデュスタット):2020年承認
- エナロイ(エナロデュスタット):2020年承認
に次いで5製品目となりました!多いね・・・。
HIF-PH阻害薬はエリスロポエチン(EPO)製剤であるネスプ(ダルベポエチン アルファ)等に次ぐ製品です。
今回は慢性腎臓病(CKD)と腎性貧血、そしてマスーレッド(モリデュスタット)の作用機序についてご紹介します。
慢性腎臓病(CKD)とは
慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)は、腎障害が慢性的に持続する疾患の全体を意味するものです。
以下の場合、CKDと確定診断されます。
- 尿異常(蛋白尿)、画像診断・血液所見・病理所見等で腎障害の存在が明らか
- GFRが60(mL/分/1.73㎡)未満
※GFR:「糸球体ろ過量」のことで、腎機能の指標です。
CKDのリスク因子としては、以下が知られています。
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症(高脂血症)
- 喫煙
- メタボリックシンドローム
-
【糖尿病】DPP-4阻害薬の作用機序と一覧まとめ(単剤と配合剤)
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また、CKDは初期にはほとんど無症状のため徐々に腎機能が低下していきます。
腎臓は老廃物の排泄や骨代謝、造血器機能調節といった様々な役割を担っています。
そのためCKDによって腎機能低下が進行してしまうと、
といった様々な症状が現れます。
-
【高血圧】ARB(アンジオテンシンⅡ受容体阻害薬)の作用機序と薬剤一覧の紹介
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腎性貧血とは
CKDの症状の一つである腎性貧血について解説します。
体の中で“はたらく細胞”の一つに「赤血球」が知られており、主に酸素の運搬と二酸化炭素の回収を担っている細胞です。
赤血球は造血幹細胞⇒赤芽球を経て産生されますが、そこに関与する物質として「エリスロポエチン(EPO)」があります。
EPOは腎臓で産生され、造血幹細胞の「エリスロポエチン受容体」に作用することで赤芽球への成熟・分化を促進させます。
また、赤血球の内部には酸素運搬に関与するヘモグロビンが存在していますが、これは鉄を中心に含んだタンパク質です。
鉄が食事等で体内に吸収されると、一部は血中でトランスフェリンと呼ばれるタンパク質と結合して存在します(血清鉄)。
赤血球の成熟過程では、血中のトランスフェリン(血清鉄)を取り込むことでヘモグロビンを構成していきます。
しかし、CKDでは腎臓の機能が低下しているためEPOの産生も低下しています。
そのため造血幹細胞から赤芽球への分化が低下し、結果的に赤血球の数が減少してしまい、貧血の症状が現れます。
即ち、腎臓が原因で貧血を生じますので「腎性貧血」と呼んでいます。
腎性貧血の治療
腎性貧血は大まかに、透析の必要性に応じて
- 保存期:透析必要無し
- 透析期:透析の必要あり
があります。
いずれの場合にもESA(赤血球造血刺激因子)製剤であるエリスロポエチン(EPO)製剤の
- ネスプ(一般名:ダルベポエチン アルファ)
- ミルセラ(一般名:エポエチン ベータ ペゴル)
等が主流で使用されていました。
-
ネスプ(ダルベポエチン)の作用機序とバイオセイム・ABS【CKD・腎性貧血】
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今回ご紹介するマスーレッドは「透析期」と「保存期」、共に使用可能です!
類薬のエベレンゾは元々、透析期のみでしたが、2020年11月に保存期に対して適応拡大が承認されています。
-
エベレンゾ(ロキサデュスタット)の作用機序:類薬との比較・違い【腎性貧血】
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HIF(低酸素誘導因子)とは
アンデス高地に住んでいる人々は、標高が高いため酸素濃度の低い生活環境で暮らしていますが、この地方の健常成人男性のヘモグロビン値は19.2g/dLと、我々日本人(成人男性で15g/dL前後)と比較しても高値であることが知られています1)。
これは、酸素がより少ない状況下でも、全身の細胞に何とか酸素を行き渡らせようとするメカニズムが働いているためです。
このメカニズムを担っているのがHIFです。
HIF(低酸素誘導因子:hypoxia inducible factor)は、細胞の酸素供給が低下した場合(低酸素状態)に誘導・活性化されるといった特徴を有したタンパク質(転写因子)です。
HIFにはαとβがあり、通常の酸素状態でも産生されています。
しかし、通常の酸素状態ではすぐに「HIF-PH(HIFプロリン水酸化酵素:HIF-Prolyl Hydroxylase)」によって速やかに分解されてしまうため、活性化することはありません。
一方、高地で酸素濃度の薄い場所や、出血などで細胞が低酸素状態になった場合、HIF-PFの働きが抑制されるため、HIFは分解されなくなります。
その後、HIF-αはHIF-βと複合体を形成してDNAの転写を活性化させます。
HIFによって転写が活性化されると、
- エリスロポエチン(EPO)の産生促進
- 鉄の吸収促進
- 赤血球へのトランスフェリンの取り込み促進
によって赤血球の分化・成熟が促進されます。
このように低酸素状態であっても生体の恒常性を維持(ホメオスタシス)するメカニズムの一つがHIFですね。
マスーレッド(モリデュスタット)の作用機序・特徴:HIF活性化
マスーレッドはHIF活性化薬(HIF-PH阻害薬)に分類されている薬剤です。
HIF-PHを選択的に阻害することでHIFの活性を促します。
その結果、EPOの産生促進、鉄の吸収促進、トランスフェリンの取り込み促進等によって赤血球の成熟・分化が促進されると考えられます。
このように通常の酸素状態であってもHIFが活性化することで赤血球の数が回復する結果、貧血の症状軽減に繋がります。
副作用
重大な副作用として、
- 血栓塞栓症(0.3%)
- 間質性肺疾患(0.5%)
が挙げられています。
用法・用量
「保存期でESA未使用の場合」、「保存期でESAから切り替える場合」、「透析期」で用法・用量が設定されています。いずれも1日1回食後に経口投与です。
以下の表にまとめてみましたのでご参考にしてみてください。
用法・用量 | 開始用量 | 最高用量 |
保存期(ESA未使用) | 25mg | 200mg |
保存期(ESAから切り替え) | 25mg or 50mg | |
透析期 | 75mg |
いずれもモリデュスタットとして上記用量を1日1回食後に経口投与
収載時の薬価
収載時(2021年4月21日)の薬価は以下の通りです。
- マスーレッド錠5mg:44.30円
- マスーレッド錠12.5mg:93.70円
- マスーレッド錠25mg:165.10円
- マスーレッド錠75mg:405.30円(1日薬価:457.00円)
算定方法については以下の記事をご確認ください。
-
【新薬:薬価収載】11製品+再生医療等製品(2021年4月21日)
続きを見る
まとめ・あとがき
マスーレッドはこんな薬
- HIF活性化薬(HIF-PH阻害薬)
- HIFの量が増加することでEPO産生促進、鉄の吸収や取り込み促進を促す
- 経口投与で治療が可能
- 保存期・透析期で使用可能
これまで腎性貧血に対しては、注射のエリスロポエチン(EPO)製剤である
- ネスプ(一般名:ダルベポエチン アルファ)
- ミルセラ(一般名:エポエチン ベータ ペゴル)
等が主流で使用されていました。
-
ネスプ(ダルベポエチン)の作用機序とバイオセイム・ABS【CKD・腎性貧血】
続きを見る
マスーレッドは経口投与可能なHIF活性化薬(HIF-PH阻害薬)といった新規作用機序を有していることから、利便性の向上やEPO製剤で効果不十分だった患者さん等に対して期待されています。
類薬のエベレンゾは元々、透析期のみでしたが、2020年11月に保存期に対して適応拡大が承認されています。現在、様々なHIF活性化薬の開発が進行中ですので、腎性貧血以外の疾患に対しても期待されるところですね。
エベレンゾ、バフセオ、ダーブロック、エナロイ、マスーレッドの違い・比較については以下の記事で考察していますので、是非ご覧くださいませ☆
-
エベレンゾ(ロキサデュスタット)の作用機序:類薬との比較・違い【腎性貧血】
続きを見る
以上、今回はCKDと腎性貧血、そしてマスーレッド(モリデュスタット)の作用機序についてご紹介しました!
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