1.中枢神経系

ケサンラ(ドナネマブ)の作用機序:レケンビとの違い【アルツハイマー型認知症】

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2024年8月1日、厚労省の薬事審議会・医薬品第一部会にて、「アルツハイマー型認知症」を対象疾患とするケサンラ点滴静注液(ドナネマブ)の承認が了承されました!

日本イーライリリー|申請のニュースリリース

基本情報

製品名 ケサンラ点滴静注液350mg
一般名 ドナネマブ(遺伝子組換え)
製品名の由来
製造販売 日本イーライリリー(株)
効能・効果 アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制
用法・用量 通常、1回700mgを4週間隔で3回、
その後は1回1400mgを4週間隔で、少なくとも30分かけて点滴静注する
収載時の薬価
発売日

 

国内では、レケンビ(レカネマブ)に次ぐ抗アミロイドβ抗体薬です!

レケンビ(レカネマブ)の作用機序【アルツハイマー型認知症】

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既に、米国FDAでも製品名「Kisunla」として2024年7月に承認されました(Kisunlaの製品ページ)。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
作用機序はレケンビと同様ですが、結合するアミロイドβの段階が少し異なっています。この差が臨床的にどのような違いを生じるのかは、今後の検討課題でしょう。

 

今回はアルツハイマー型認知症とケサンラ(ドナネマブ)の作用機序について解説します。

 

物忘れとアルツハイマー型認知症

物忘れには「加齢」によるものと「認知症」が原因となるものがあります。

 

加齢によるものは、脳の生理的な老化が原因で起こり、その程度は一部の物忘れであり、ヒントがあれば思い出すことが可能です。本人にも自覚はありますが、進行することはなく、日常生活にも支障は無いと言われています。

 

一方、認知症は脳の神経細胞の急激な破壊により起こり、物事全体がすっぽりと抜け落ち、ヒントがあっても思い出すことができません。本人に自覚はないことが一般的で、進行性かつ日常生活に支障をきたします

 

このような認知症の中でも最も多いのが「アルツハイマー型認知症」で、認知症全体の約6割を占めています。1)

 

アルツハイマー病とアルツハイマー型認知症

狭義には、65歳未満で発症するものをアルツハイマー病、65歳以上で発症するものをアルツハイマー型老年認知症と呼ぶこともありますが、総称して「アルツハイマー型認知症」です。単にアルツハイマー病と呼ばれることも多いです。

 

一般的に認知症=アルツハイマーと認識をされる方も多いと思いますが、認知症の中には、脳血管障害によって発現するものや、レビー小体と呼ばれる物質によって発現するもの、等もあります。

 

アルツハイマー型認知症の原因と検査

アルツハイマー型認知症は、脳内の神経細胞に「アミロイドβ(Aβ)」や「タウ(tau)」と呼ばれる特殊なタンパク質が溜まって神経細胞が死んでしまうことによって認知障害が起こると考えれています。

特にアミロイドβはアルツハイマー型認知症の発症に重要ですね。

 

元々はAPP(アミロイド前駆体タンパク質)と呼ばれるタンパク室からβ/γセクレターゼによって切り出され、その後、次第に重合していって毒性の高い凝集体を形成し、やがては老人斑となってアルツハイマー型認知症を発症します。

近年の報告によると、発症プロセスとしての神経毒性の本体は繊維化して不溶性となったアミロイドβ凝集体ではなく、その前段階である可溶性の「アミロイドβプロトフィブリル」ではないかと考えられています。

アミロイドベータ(Aβ)はアルツハイマー型認知症の発症・進行に関与している

 

木元 貴祥
木元 貴祥
従って、これらの特殊なタンパク質を検出することは、アルツハイマー型認知症の診断において有用な情報のひとつですね!

 

現時点では、「タウ」を検出することはできませんが、「アミロイドβ」の検出は、検査薬とPET検査を行うことで可能です。具体的にはビザミル静注(フルテメタモル)やアミヴィッド静注(フロルベタピル(18F))などがありますね。

ビザミル(フルテメタモル)の作用機序【アルツハイマー検査薬】

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既にビザミル静注とアミヴィッド静注に対して「アルツハイマー病による軽度認知障害又は認知症が疑われる患者の脳内アミロイドベータプラークの可視化」の適応拡大が承認されています。

 

PET-CTについて、国内では400施設500台のPET-CTしかありませんが、その場合、「脳脊髄液(CSF)検査」にてアミロイドβ病理を示唆する所見が確認されれば投与可能とのことです。

 

治療

治療の基本は薬物治療です。1)

できるだけ早期に発見して早期に治療を行うことで、進行を抑制することが可能で、使用可能な薬剤には以下のものがあります。

  • アセチルコリンエステラーゼ阻害薬:ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン
  • NMDA受容体拮抗薬:メマンチン

 

最近ではドネペジルの外用剤アリドネパッチも登場しました。

アリドネパッチ(ドネペジル)の作用機序【アルツハイマー型認知症】

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中心となるのはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬ですね。単剤から使用し、効果不十分な場合には他のアセチルコリンエステラーゼに切り替えたり、メマンチンと併用したりします。

 

今回ご紹介するケサンラは早期のアルツハイマー型認知症に使用することで、上記薬剤と同様に認知の進行抑制効果が期待されています!

 

アルツハイマー型認知症では、妄想・易怒性などの「行動・心理症状(BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)」を併発することがあり、そのうちアジテーション(焦燥性興奮)に対してはレキサルティ(ブレクスピプラゾール)が期待されています。

レキサルティ(ブレクスピプラゾール)の作用機序【統合失調症/うつ病/ADに伴うアジテーション】

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ケサンラ(ドナネマブ)の作用機序と特徴:抗Aβ抗体

ケサンラはアミロイドβを標的とする抗アミロイドβ抗体薬です!

点滴静注によって血管内に投与された後、血液脳関門(BBB)から脳組織内に移行します。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
通常、高分子のタンパク質(抗体)はBBBを通過することができないのですが、不思議と通過できるようです(機序は不明)。

 

ただし、BBBを通過することによってBBBが破壊され、アミロイド関連画像異常(ARIAアリア:Amyloid-related imaging abnormalities)を引き起こす可能性も示唆されているので注意が必要かもしれません。2)

 

ARIAには主に以下の2つが知られています。

  • ARIA-E:血液脳関門の内皮接合部の破壊とそれに続く体液の蓄積を伴う脳浮腫
  • ARIA-H:脳微小出血と呼ばれる小さな出血

 

なお、ARIAが引き起こされる明確な原因は現時点では不明ですが、BBBの破壊以外にも、脳血管に沈着していたアミロイドβとケサンラが反応することで、血管透過性の亢進やマクロファージの集積(炎症の活性化)によって血液成分が滲出し、浮腫や出血が引き起こされると示唆する報告3)もあります。

 

さて、脳組織に到達したケサンラは神経細胞のアミロイドβ凝集体に結合し、その働きと凝集を抑制すると考えられています。これを阻害することでアミロイドβ量の減少効果、進行抑制効果が期待できます。

ケサンラ(ドナネマブ)の作用機序と特徴:BBBを通過する抗Aβ抗体

 

レケンビ(レカネマブ)との作用機序の違い

同様の作用機序を有する薬剤としてレケンビ(レカネマブ)がありますが、作用するアミロイドβの段階が異なっています。

 

レケンビは可溶性のアミロイドβプロトフィブリルとの結合能が強い一方で、ケサンラは不溶性のアミロイドβ凝集体との結合能が強いことが示唆されています。4)

ケサンラとレケンビの作用機序の違い:アミロイドβプロトフィブリルか凝集体かが異なっている

 

木元 貴祥
木元 貴祥
この差が臨床的な効果や副作用に直接関係しているのかは不明ですが、両薬剤の有効性・安全性プロファイルを考える参考情報になるかなと思います!

 

エビデンス紹介:TRAILBLAZER-ALZ 2試験

根拠となった臨床試験をご紹介します(TRAILBLAZER-ALZ 2試験)。5)

本試験は、早期アルツハイマー病(アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度のアルツハイマー型認知症と定義)患者さんを対象に、ケサンラとプラセボを比較した国際共同第Ⅲ相臨床試験です(日本を含む)。

アミロイドプラークレベル(24週と52週で評価)が1回のPETスキャンで11Centiloid未満、または2回連続のPETスキャンで11~25Centiloidである場合、ケサンラはプラセボに切り替え

 

本試験の主要評価項目は、ベースラインから76週までの「統合アルツハイマー病評価尺度(iADRS)スコアの変化量」とされ、結果は以下の通りでした。

プラセボ ケサンラ
iADRSスコアの変化量 -13.1 -10.2
群間差:2.92(95%CI:1.51~4.33)
P<0.001
CDR-SB*の変化量 2.42 1.72
群間差:-0.7(95%CI:-0.95~-0.45)
P<0.001
ARIA-E(脳浮腫) 1.9% 24.0%
ARIA-H(微少出血) 7.4% 19.7%

*CDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes):臨床認知症評価尺度

 

iADRSスコアもCDR-SBも、プラセボ群と比較してケサンラ群で有意に改善していましたね!ただ、この差が臨床的にどのくらい影響があるのかは不明なところです。

なお、本試験の日本人における結果も報告6)されていて、全体集団と同程度の有効性・安全性であるとされていました。

 

レケンビの臨床試験(Clarity AD試験)7)のCDR-SBの結果と比べてみると、有効性についてはそこまで大差は無さそうな印象でした。

ARIAの発現頻度は、数値だけみるとケサンラの方が高い傾向ですが、患者背景が異なるため、明確な差はそこまで無さそうです。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
いずれにせよ、ARIAには注意する必要がありますね。

 

副作用:ARIA関連の有害事象には注意

正式承認後に更新予定ですが、恐らくレケンビと同様、重大な副作用として、

  • Infusion reaction
  • アミロイド関連画像異常(ARIA)

が挙げられると思います。

 

特にARIAには注意する必要がありそうです。

 

ちなみにですが、アミロイドβの蓄積や凝集に関わるタンパク質として「アポリポ蛋白質E(ApoE)」が知られていて、アルツハイマー型認知症の発症に関与していると考えられています。いくつかの遺伝子多型(ε2、ε3、ε4)があって、特に「ε4」の遺伝子多型を保有していると発症リスクが高くなります。

 

前述の臨床試験では、アポリポ蛋白質E ε4(ApoE ε4)の保有別(ヘテロ接合体/ホモ接合体)にARIAの発現頻度を確認したところ、以下の結果でした。

TRAILBLAZER-ALZ 2試験のケサンラ群 ARIA-E発現頻度
ApoE ε4遺伝子多型なし 15.7%
ApoE ε4遺伝子多型あり
:ヘテロ接合体
:ホモ接合体
:22.8%
:40.6%

 

ApoE ε4遺伝子多型を保有しているとARIAの発現頻度が高くなり、さらにホモ接合体で保有していると非常に高頻度に発現しています。

 

ARIA発症リスクを知ることができるため、治療開始前にApoE ε4の遺伝子検査をした方が良いと思いますね(現状、ApoE ε4の遺伝子検査は保険適応外)。

 

用法・用量

正式承認後に更新予定です。

海外では、4週毎に初回3回は700mg(固定用量)、その後は1400mg(固定用量)を約30分かけて点滴静注することとされています。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
類薬のレケンビは2週毎に1時間の投与ですので、利便性はケサンラの方がよいかもしれませんね。

 

投与終了の目安と投与制限

ケサンラは原則18か月間まで投与可能ですが、投与開始から12か月時点でアミロイドPET検査を行い、アミロイドの除去を確認できた場合には18か月を待たずに投与を終了できるとのことです。

類薬のレケンビの投与制限も同じく18か月ですが、投与終了の目安はありません。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
この点、ケサンラは患者さんや医療従事者にとっても良いポイントですね!

 

2024年8月29日には、ビザミル静注とアミヴィッド静注に対して「抗アミロイドベータ抗体薬投与後の脳内アミロイドベータプラークの可視化」の適応拡大が承認されています。

ビザミル(フルテメタモル)の作用機序【アルツハイマー検査薬】

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最適使用推進ガイドラインの要件

類薬のレケンビと同様、ケサンラも最適使用推進ガイドラインの対象になると予想されます。

情報が公開され次第、追記します。

 

収載時の薬価

現時点では未承認かつ薬価未収載です。

 

ケサンラとレケンビの違い・比較

抗Aβ抗体薬のケサンラとレケンビについて、現時点までで判明している情報を元に比較の一覧表を作成しました。

ケサンラ(ドナネマブ)とレケンビ(レカネマブ)の違い・比較一覧表:アルツハイマー型認知症に使用する抗アミロイドβ抗体薬

 

有効性・安全性については、直接比較できないため、どちらがよいのかは不明です。

 

木元 貴祥
木元 貴祥
そのため、まずは用法・用量や利便性、副作用面を考慮して使い分けられると予想されますね。

 

まとめ・あとがき

ケサンラはこんな薬

  • レケンビに次ぐ抗アミロイドβ抗体で、BBBを通過して脳内のアミロイドβ凝集体を特異的に阻害する
  • 4週間に1度の点滴静注(投与時間は約30分)
  • ARIA関連有害事象には注意が必要(ApoE ε4遺伝子多型保有の場合、高リスク)

 

アルツハイマー型認知症はこの数十年間、様々な薬剤開発が行われましたが、残念ながらそのほとんどが失敗しています。

そんな中、初の抗アミロイドβ抗体薬として2023年にレケンビが登場しました。

レケンビ(レカネマブ)の作用機序【アルツハイマー型認知症】

続きを見る

 

ケサンラも同様の作用機序ですが、アミロイドβに対する作用部位が異なるため、新たな治療選択肢として期待できるのではないでしょうか。

 

最近では、ドネペジルの初の経皮吸収型製剤であるアリドネパッチも登場しましたね。以下の記事で解説しています。

アリドネパッチ(ドネペジル)の作用機序【アルツハイマー型認知症】

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木元 貴祥
木元 貴祥
アルツハイマー型認知症に対しては、現在もいくつかの薬剤が開発中のため、期待できるのではないでしょうか。

 

以上、今回はアルツハイマー型認知症とケサンラ(ドナネマブ)の作用機序について解説しました!

 

 

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  • この記事を書いた人

木元 貴祥

株式会社PASS MED(パスメド)代表

【保有資格】薬剤師、FP、他
【経歴】大阪薬科大学卒業後、外資系製薬会社「日本イーライリリー」のMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。

今でも現場で働く現役バリバリの薬剤師で、薬のことを「分かりやすく」伝えることを専門にしています。

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