
保険や不動産を活用した相続対策についてはこれまでの記事でも説明をして来ましたが、これらの方法は相続「税」対策と言えます。
相続対策と聞くと高額の税金を課せられる相続税をどうやって軽減するか、というイメージが強いかもしれませんがそれだけではありません。
-
-
相続税は意外と身近!かかるのはいくらから?基礎知識を理解しよう
続きを見る
「争族」と言う言葉もあるぐらい相続の財産分与はトラブルに発展しやすい問題ですので、残された家族の事を想うのであれば税金対策よりも、スムーズに資産を承継する事の方が重要と言えるでしょう。
-
-
生命保険が相続税の対策に有利な理由を分かりやすく解説|争族対策にも!?
続きを見る
スムーズに資産を承継するには様々な方法がありますが、その一つに遺言があります。
遺言を上手く活用することで、自分に何かあったとしても家族のトラブルを防ぐことができます。今回の記事では遺言の効果や種類、活用方法について、2026年時点の最新の制度に沿って解説していくので、相続対策に興味のある方はぜひお読み下さい。
この記事のポイント
- 遺言書には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類がある
- 自筆証書遺言は、法務局に預ければ家庭裁判所の検認が不要(手数料3,900円)
- 自筆証書遺言の財産目録は、パソコンで作成してもOK
- 公正証書遺言は2025年10月から手数料が改定され、ウェブ会議でも作成できるようになった
遺言とは?遺言でできること
遺言を上手く活用することで、無用な親族間のトラブルを防ぐ事ができます。
こう聞くと遺言はとても有能なツールに聞こえますが、遺言とはどのような物で何ができるのでしょうか。
遺言は亡くなった方の最後の意思表示
遺言とは人が死後を想定して書く文書で、その文書に書いた意思表示の効果を発生させる目的で書かれる物のことです。
遺言に書く内容は様々ですが財産の分け方に関する事や、生前お世話になった方への感謝の気持ちなどを伝えることができます。
つまり遺言とは自分が死んだ後でも自分の気持ちを親族やお世話になった方に伝えることができる方法ですね!
遺言があれば相続手続きもスムーズに行えるので、残された家族にとっても遺言がある方が故人の気持ちを尊重することが可能となります。
財産に名前を付けて残してあげられる
遺言の内容は人によって様々ですが、やはり大部分を占めるのが財産の分け方に関する内容です。
相続トラブルの多くが遺産分割に関するケースが多いので、遺言でどの財産を誰に残してあげるかを指定する事で遺産分割をスムーズに行うことができます。
遺言で法的な効力が生じる内容は法律で決まっていて、一般的な内容は下記のようなものですね。
- 相続分の指定
- 遺産分割方法の指定(「自宅は妻に相続させる」など)
- 遺贈・寄付(相続人以外の人や団体に財産を渡す)
- 推定相続人の廃除
- 子の認知
- 遺言執行者の指定
思いを伝えることもできる
遺言には財産に関する内容の他に、「付言事項」と言うメッセージを残すことができます。
「家族仲良く暮らしてほしい」や、「お母さんを頼む」のような思いを自由に書けるので家族や大切な方へと、気持ちを伝えられるのです。
また付言事項では、「家を守って欲しいから長男には自宅を、結婚した長女には現金を」のように財産の分け方の理由などを付け加えておくこともできるため、財産の分け方でトラブルが予想される場合などは、気持ちや理由を残しておくと良いでしょう。
付言事項そのものに法的な効力はありませんが、思いや気持ちを添えることで遺言の内容もより家族へと伝わりやすくなります。
遺書との違いは?法的拘束力の有無
自分が死んだ際に大切な方に向けてメッセージを残す文書には、遺言だけでなく遺書もあります。
遺言と遺書はどちらも同じような効果がありますが、実は遺書には遺言と違って法的拘束力がありません。
| 形式 | 法的効力 | |
| 遺書 | 形式に決まりはない | ない(気持ちを伝える手紙) |
| 遺言 | 民法で形式が決まっている | ある |
また上記のように書式の形式にも違いがあり、遺言は民法で定められた形式で書かなければ効力がありませんが、遺書の場合は自由な形式で記入することができます。
遺書に比べると、遺言は形式が決まっている分、その内容に法的拘束力があるのが大きな違いと言えるでしょう。
遺言は3種類ある|各メリット・デメリット
遺言には作成方法によって
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
の3種類に分かれ、それぞれ下記のような特徴があります。

それぞれの遺言の特徴やメリット・デメリットを見ていきましょう。
①自筆証書遺言
まずは自筆証書遺言から見ていきます。
自筆証書遺言は名前の通り、遺言を自分で書いて作成する遺言書です。本文・日付・氏名をすべて自分で手書きし、押印します。紙やペンなどに決まりは無く、いつでも自分で自由に作成ができるので一番お手軽に作成できて費用負担も少ないのがメリットです。
なお2019年1月からは、遺言に添付する財産目録はパソコンで作成したり、通帳や登記事項証明書のコピーを添付したりしてもよいことになりました。ただし、財産目録の各ページ(両面に記載がある場合は両面)に署名・押印が必要です。
自筆証書遺言を自宅などで保管していた場合は、相続が始まった後、相続人が家庭裁判所に遺言書を提出して、内容の確認をしてもらう「検認」という手続きが必要になります。
またいつでも自由に作成出来る反面、日付の書き方などの形式不備による無効や、相続人による改竄や紛失など、トラブルになりやすいというデメリットも理解しておきましょう。
法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を使えば検認不要
こうした自筆証書遺言のデメリットを補うのが、2020年7月から始まった法務局の自筆証書遺言書保管制度です。作成した自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預けておくことができます。
自筆証書遺言書保管制度のポイント
- 保管の手数料は遺言書1通につき3,900円
- 相続が始まった後の家庭裁判所の検認が不要
- 原本と画像データが法務局で保管されるので、紛失・改ざんの心配がない
- 希望すれば、亡くなった後に指定した人へ、遺言書が保管されていることを通知してもらえる
- 申請は本人が法務局へ出向く必要がある(予約制・代理人や郵送は不可)
- A4用紙・余白などの様式ルールがある
法務省|自筆証書遺言書保管制度 手数料
ただし、法務局が確認するのは日付や署名などの形式面だけです。遺言の内容が法的に有効かどうかまでは確認してもらえないので、内容に不安がある場合は専門家に相談しましょう。
②公正証書遺言
次に紹介するのが、公正証書遺言です。
公正証書遺言は、証人2名の立ち合いのもと、公証人に作成してもらう遺言で、3種類の遺言の中では一番確実に遺言を残すことができます。
作成した遺言の原本は公証役場で保管されるので紛失や改ざんの心配がなく、家庭裁判所の検認も不要で、遺言としての効力を発揮しやすいのがメリットです。
しかし効力が確実な反面、手間と費用がかかるのがデメリットに。
作成の際には証人2名が必要になります。証人には、未成年者、推定相続人や受遺者(財産をもらう人)とその配偶者・直系血族などはなる事ができません。
つまり家族以外の誰かに依頼する必要があるので、人選にも手間がかかります(あてがなければ公証役場に紹介を依頼することもできます)。
2025年10月から公正証書遺言の作成がデジタル化
これまで公正証書遺言は、公証役場に出向くか、公証人に出張してもらって作成する必要がありました。
2025年10月1日からは公正証書の作成手続きがデジタル化され、遺言者が希望し、公証人が相当と認めた場合は、ウェブ会議で作成できるようになりました。原本も原則として電子データで作成・保管されます。
ただし、遺言は本人の意思確認がとても重要なため、ウェブ会議を利用できるかどうかは公証人が慎重に判断します。希望すれば必ず使えるわけではない点に注意しましょう。
公正証書遺言の手数料(2025年10月改定)
また財産の額に応じて、下記のように公証人の手数料が必要になるので、費用負担が大きくなってしまうのも公正証書遺言のデメリットと言えるでしょう。
手数料は2025年10月1日に改定され、多くの区分で値上げされました。
| 目的の価額 | 手数料 |
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円超~100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超~200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超~500万円以下 | 13,000円 |
| 500万円超~1,000万円以下 | 20,000円 |
| 1,000万円超~3,000万円以下 | 26,000円 |
| 3,000万円超~5,000万円以下 | 33,000円 |
| 5,000万円超~1億円以下 | 49,000円 |
| 1億円超 | 49,000円+超過額に応じて加算 |
日本公証人連合会|公証人手数料令の改正について(令和7年10月1日から)
手数料は財産の総額ではなく、財産を受け取る人ごとに計算して合計します。さらに、遺言全体の財産が1億円以下の場合は「遺言加算」として13,000円が加わります。
例えば、実家(固定資産税評価額1,200万円)を長男に、預貯金800万円を長女に残す場合は、26,000円+20,000円+遺言加算13,000円=59,000円が目安です。
このほか、正本・謄本の交付費用や、証人を紹介してもらう場合の謝礼、公証人に出張してもらう場合の日当などが別途かかります。
③秘密証書遺言
秘密証書遺言は自分で作成して封をした遺言を、証人2名と公証人の前に提出し、自分の遺言であることを証明してもらう方法です。
公正証書遺言との違いは、公証人が遺言の内容までは確認しない事で、遺言の内容を秘密にできることがメリットでしょうか。
しかし遺言の内容までは確認しないことから形式不備などによる無効のおそれがあるうえ、証人の手配や公証人手数料が必要で、保管も自分で行います。家庭裁判所の検認も必要です。
そのため秘密証書遺言を利用する方は少なく、あまりメリットの多い遺言では無いのが実際のところですね。
どんな場合に遺言が必要?活用事例を紹介
遺言は自分の思いを伝えることで、相続トラブルを回避してスムーズな遺産分割を行うための方法の一つです。
そのため相続に不安のある方であれば積極的に活用すべきと言えますが、遺言を作成するには費用や手間がかかるのも事実です。
遺言を書いておいた方が良いかどうかは一概に判断できませんが、ここでは実際に遺言を活用した事例を紹介していきます。遺言を書くべき事例の一つとして、参考にして貰えたら嬉しいです。
子供がいない場合
相続による資産承継と言えばお子様たちに引き継いでいくケースが多いですが、最近ではお子様がいないご夫婦もとても多いです。
お子様がいない場合は、配偶者と、親(父母・祖父母)または兄弟姉妹が法定相続人になるため、財産の分け方としては難しいケースが多くなってしまいます・・・。
例えば下記のような状況(両親はすでに亡くなっている)で相続が発生すると、法定相続人は配偶者・弟・妹です。
そのため財産は配偶者・弟・妹の3名で分けることになりますが、弟や妹よりも配偶者に全てを残したいと考える方も多いでしょう。

このような場合、遺言で全ての財産を配偶者に残してあげることを書いておけば、自分の思った通りの遺産分割をできる可能性が高まります。
相続人が最低限受け取れる権利である遺留分も兄弟姉妹にはありませんので、スムーズに配偶者に遺産を遺してあげられるでしょう。
親(父母・祖父母)が存命の場合は、親が相続人になり、遺留分もあります。
遺留分については別の記事で簡単に解説しています。
-
-
生命保険が相続税の対策に有利な理由を分かりやすく解説|争族対策にも!?
続きを見る
保有不動産が多い場合

承継する資産の占める割合に不動産が多い場合も、遺言を書いた方が良いでしょう。
現預金などの金融資産と違って、不動産は複数に分割しにくい資産だからです。
持ち分を共有にするという方法もありますが、将来建て替えや売却をする際にトラブルとなるケースも多いのであまりおすすめできません。
そのため不動産は物件毎に誰に引き継ぐかを決めていくのが理想的な方法ですが、物件によって価格の違いが大きいために慎重に分け方を決める必要があります。
具体例を挙げてみましょう。例えば、相続財産が下記のような状況で、相続人が配偶者と子一人(独立済)だったとします。
| 資産内容 | 評価額 |
| 自宅 | 5,000万円 |
| アパート | 1億円 |
| 現預金 | 1億円 |
法定相続分では全てを半分ずつ分けることになりますが、故人の立場になればそれでは不安でしょう。
配偶者の今後の生活を確保することを考えれば自宅と現預金を配偶者に、経済的にも自立できている子供にはアパートを引き継がせたいと考えられます。
このように財産に占める割合に不動産が多い場合は、分け方も慎重になる場合が多いです。
なお、2024年4月から相続登記が義務化され、不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記の申請が必要になりました(遺言で不動産を受け取った場合も同様)。遺言で不動産の承継先をはっきりさせておくと、この手続きもスムーズに進められます。
不動産や土地が多い方は是非、遺言で残し方や思いを伝えるようにしてください。
-
-
相続対策で賃貸不動産の購入は今も有効?2027年の評価見直しと節税の仕組みを解説
続きを見る
法定相続人以外に残したい場合
長男の妻など、法定相続人以外に財産を残してあげたい場合にも遺言は有効です。
家族関係は様々なので、自分が闘病で辛い思いをしている時に献身的に介護をしてくれた長男の妻に感謝をしているという方も多いでしょう。
しかしいくら子供の配偶者とは言え、法定相続人では無いので何もしなければ相続財産を受け取ることはできません(2019年7月からは、介護などに貢献した親族が相続人に金銭を請求できる「特別寄与料」の制度もありますが、請求には期限などのハードルがあります)。
ましてや次男や三男の妻がいるようなケースでは、受け取る側からしたら不公平感が生まれてしまう可能性があります。
このような場合も遺言であらかじめ財産の分け方を決めておくことで、残したい相手に名前を付けて残してあげることができます。
相続人間のトラブルを避けるためにも、付言事項でその理由や思いをしっかりと伝えてあげましょう。
遺言の活用のまとめ

相続対策にはたくさんの行うべきことがあり、どうしても税金などの圧縮に目がいってしまいがちですが、それだけではありません。
相続税を圧縮することも大切ですが、それ以上に円満に相続手続きが行えるように準備しておくことも相続対策の一つです。
円満な相続のために有効な方法の一つが、今回紹介した遺言です。遺言は財産の分け方だけでなく、自分の思いをメッセージとして伝えることができるので、しっかりと残しておくことで親族同士のトラブルを防ぐ効果があります。
遺言のおさらい
- 手軽さ重視なら自筆証書遺言+法務局保管(3,900円・検認不要)
- 確実さ重視なら公正証書遺言(ウェブ会議での作成も可能に)
- 子供がいない・不動産が多い・相続人以外に残したい方は、特に遺言の作成を検討
- 財産の分け方の理由は、付言事項で伝えておく
遺書と違って法的拘束力があるのが遺言の特徴なので、その分作成の際には手間や費用がかかります。しかし、今回の記事で紹介しているようなケースでは、しっかりと遺言を作成しておくことでトラブル防止へと繋がるのです。
もちろん、併せて相続税対策もやっておきましょうね。不安があれば我々税理士に相談してください。
-
-
生前贈与機能付き終身保険のメリット・デメリットは?相続対策に有効な理由
続きを見る
相続が心配ならすぐに税理士に依頼しよう
相続税、私はどれくらいかかるんだろう・・・
相続対策としての不動産や生命保険って難しいけどアリなの?
遺産分割協議書の作成、戸籍収集などの相続手続きが不安・・・
こんな悩みは税理士に解決して貰いましょう!税理士ドットコムなら全国の相続に強い税理士を無料で検索することが可能です。調べるだけなら全て無料のため、使わない手はありませんね。
税理士ドットコム公式サイト:https://www.zeiri4.com/
