今回の記事では、調剤薬局で起こる患者さんに関するトラブルと、その解決方法をご紹介いたします。
専門職でありながら、サービス業の側面も持つ薬局薬剤師。時には、患者さんとお話ししている最中に、「困った!」と感じる瞬間もあるのでは?そんな時のために、あらかじめトラブルを想定し、対処法を学んでおくことが重要です。
今回は調剤薬局でよくある事例を5つ集め、解決策をご紹介します。
患者さんに心地よく薬局を利用してもらえれば、「またこの薬局にお願いしたい!」と思っていただけます。毎日の投薬や、患者さんとの対応に悩んでいる方はぜひご覧くださいね♪
薬の説明をしても聞こえない!?耳が遠い患者さんへの対処法
高齢になると、他人の声が聞こえにくくなる人が多くなります。
耳が遠い患者さんに薬の説明をするときに、困った経験はありませんか?患者さんが同じことを何度も質問したり、投薬時に頷いてばかりで薬への理解度が分からなかったりすると、薬剤師は「薬の説明はこれで大丈夫?」と不安になります。
「大事なお薬の説明を、ちゃんと理解してもらいたい!」と思うあまり、どんどん声が大きくなり、患者さんのプライバシーに配慮できない状態になてしまう・・・。
耳が遠い患者さんに薬の説明をするとき、どんなことに気を付ければよいでしょうか?
聞き取れないことは周囲だけでなく、本人にとっても大きなストレスです。患者さんの中には、「せっかく薬の説明をしてくれているのに、何度も同じことを聞いて申し訳ない」と薬剤師への質問をためらう方もいらっしゃいます。
患者さんの表情を伺いながら、必要に応じて「お薬の説明で分からないことはありませんか?何度も聞いて大丈夫ですよ」と優しい声掛けをすることが大事です。
耳が遠い患者さんとお話しするときのポイントは3つ。
対策ポイント!
- ゆっくり・文節を区切って話す
- 話のトピックを教えながら話す
- 視覚的な情報を利用する
ゆっくり・文節を区切って話す
1つめは、ゆっくり・文節を区切って話すことです。
患者さんが早口の説明を聞き取りにくいことは当然ですが、一音ずつ大げさに区切って話すことも、聞きとりにくい原因になります。「大げさに言われたくない」と不快に感じるかもしれませんよね。
文節で一呼吸をおいて、患者さんが理解する間を設けてあげましょう。
話のトピックを教えながら話す
2つめは、今何について話しているか、話のトピックを教えながら話すことです。
- 「今から、お薬の注意点をお話しします」
- 「〇〇さんのお体の様子について伺います」
など、最初に話の概要を伝えることで、患者さんが理解しやすくなります。
視覚的な情報を利用する
3つめは、視覚的な情報を利用することです。
薬剤情報提供書を活用して、大事な部分はマーカーを引きながら説明しましょう。
どうしても聞き取りにくい場合は、筆談や、音声入力アプリの使用も有効です。私が勤務している薬局では、タブレットで『Googleドキュメント』の音声入力を使い、文字を表示しながらお話しすることがあります。
いつも同じ投薬で薬歴に書くことがない!Do処方が続く患者さんへの対処法
慢性疾患(例:生活習慣病など)の治療をする患者さん。体調が安定しているため、同じ薬を継続しています。
そんなとき、薬が変わらないために「何を話していいか分からない!」「薬歴に書くことが無い!」と困ってしまったことはありませんか?
患者さん自身も、この薬については分かっているから大丈夫だと思っており、薬剤師の説明を話半分で聞くばかり。だんだん薬剤師側も、毎回同じような説明をして、投薬を終わらせてしまいがちです。
しかし、処方変更がないと薬歴は必要ないのか、というとそうではありません。薬は人体にリスクを及ぼす可能性があるもの。Do処方だからと言って、気を抜くわけにはいきませんよね!
そんなときは、薬歴に対する考え方を変えてみましょう。ポイントは3つ。
対策ポイント!
- 薬の効果や副作用以外に着目する
- 問題が無かった時の記録を残す
- 多角的な視点で情報収集をしてみる
薬の効果や副作用以外に着目する
薬歴に書くことがないと感じるとき、薬の効果や副作用ばかりに着目して、患者さんの生活をないがしろにしていませんか?
患者さんのQOLに直結する要員として、
- 食事
- 排泄
- 睡眠
- 運動機能
- 認知機能
の5領域があります。
薬がこれらの分野に影響を与えていないか?という視点があれば、聞くべきことは沢山見つかるはずですよ。
問題が無かった時の記録を残す
2つめに、薬の副作用やトラブルが無いことを判断するためには、「問題が無かった時の記録を残す」ことが必要だと意識しましょう。
生活状況を薬歴に残しておくことで、「〇月〇日にお薬をお渡しした時点では、この副作用が無かった」という記録を残すことができるのです。
後日、体調の悪化があった際は、原因となる薬や患者さんの生活変化が特定しやすくなりますね。問題がないことも大事!
多角的な視点で情報収集をしてみる
3つめに、質問のアプローチを変え、患者さんの日常生活や、家族構成、薬の飲み方など、多角的な視点で情報収集をしてみましょう。
一見薬とは関係のなさそうな生活状況が、治療に影響を与えていることはよくあるものです。
薬剤師が一方的に薬の説明を押し付けるだけではなく、患者さん自身に興味を持ってお話をすれば、薬剤師への安心感も高まります。
在庫はあっているのに…!薬が足りないと毎回不満を言う患者さんへの対処法
薬を正しくお渡しすることは、薬剤師の大切な責務。
しかし、患者さんから「薬の数が合わない」と言われ、困ってしまった経験はありませんか?
高齢の患者さんであれば、お薬の管理が難しいのかな?と思うこともあります。しかし中には、お渡しする前に薬剤師が錠数を確認しているにも関わらず、来局するたびに薬が足りないと言う患者さんも。
「薬剤師が間違えた可能性もあるから…」「在庫数が追いきれないから・・・」と、安易に足りない薬をお渡ししてしまえば、ますます「薬剤師が悪い」とお怒りになってしまうことがあります。
患者さんの認知や生活状況が関わる問題だけに、対処法が難しいシーンですよね・・・。
そんなお薬の不足に対しては、初期対応が重要です。
相手が間違っていると決めてかからず、患者さんの思いを細心の注意を払ってくみ取ってみましょう。
対策ポイント!
- 相手の状況を汲み取る一言
- 薬歴に残しておく
- 少し時間をおいてから対応する
相手の状況を汲み取る一言
1つめに、「薬はきちんとお渡ししたはずですが」といった相手を否定する言葉を使うことはNG。
「お薬が足りなかったのですね、少しお話を伺えませんか?」など、相手の状況を汲み取る一言からスタートしましょう。
薬歴に残しておく
2つめに、トラブルを避けるためには、薬を確実にお渡ししたことを薬歴に残しておくことが重要です。
『○○を△△錠、本人と薬剤師で数を確認してお渡し』のように、2人の確認の上で薬をお渡ししたことが分かるようにしておきましょう。薬が足りないトラブルにも落ち着いて対応できます。
少し時間をおいてから対応する
3つめに、薬の不足についてお電話で問い合わせがあった場合は、患者さん自身も「薬局が薬を間違えた!」という怒りに取りつかれて、冷静な判断が難しくなっているものです。
「在庫を確認し、折り返しお電話致します」といったように、まずは少し時間をおいてから対応すると、冷静になって下さることもあります。
そのうえで、本人の薬が無く不安であった気持ちを受け止め、現在の服薬状況を詳しく確認しましょう。必要に応じて一包化をするなど、患者様のコンプライアンスを改善するための方法が必要です。
それでも薬が足りないと訴える場合は、お薬手帳や薬袋に、患者さん自身で薬の錠数を書いてもらったり、写真に残しておいたりすることも一つの手です。
危険な薬だから飲まない!?ネットや雑誌の情報を信じてしまう患者さんへの対処法
インターネットによって、患者さんが受け取ることができる医薬品情報は格段に増えました。そのため、薬に対して不安な気持ちを抱える患者さんが来局されることがあります。
困るのが、インターネットや雑誌に載っていたネガティブな情報や、薬の副作用について知り、薬を飲むことが怖くなってしまった患者さん。スタチン系やビスホスホネート製剤が多い印象ですかね。
薬に対して不信感を抱くだけならまだしも、薬が怖くて自分で服薬を止めてしまうケースが散見されます。インターネットや雑誌の情報は玉石混合。
薬に対して安心感を持ってもらい、患者さんが間違った情報に振り回される状態を脱するにはどうすれば良いのでしょうか。
薬の中には、患者さんの生命や将来の病気に直結するものが多く存在します。治療を円滑に進めるために、薬への不安や疑問は取り除いてあげたいものですよね。
対策ポイント!
- どんな情報に不安を持っているのかを把握する
- 薬に対する感情を聞いてみる
- 生活に関するアドバイスをする
どんな情報に不安を持っているのかを把握する
1つめに、「危険な薬ではありません」と頭ごなしに否定するのではなく、相手がどんな情報に不安を持っているのかを把握することが大事です。
患者さんも自分自身の病気と健康に対して強い関心を持っています。しかし、医師から言われたからお薬を飲んでいるだけで、本当は薬を飲む理由をきちんと理解できていないかもしれません。
丁寧に患者さんがインターネットで得た情報を精査し、正しい情報を伝えて納得して頂きましょう。
薬に対する感情を聞いてみる
こういった質問を受けることは大変ですが、患者さんが薬に対してどんな感情を持っているのかを聞いてみると、それを知る良い機会になります。
「怖いから薬を飲みたくない」と思っている場合は、薬が怖いものではないことを伝えましょう。
生活に関するアドバイスをする
3つめに、必要に応じて患者さんの生活に関するアドバイスをすることです。
患者さんがインターネットの情報を信じる背景には、「なるべく薬に頼りたくない」という思いが存在していることが多いもの。これを機に、生活習慣に関しても情報を収集しましょう。
そこから、病状を改善するためのアドバイスにつなげることができます。
何よりも大切なことは、普段から薬剤師を頼ってほしいとアピールすることです。患者さんがネガティブな情報を自分一人で抱え込んでしまい、薬を飲まない選択をすることが一番怖いもの。
頑張っているのにイラッとする!「いつまで待たせるの!?」と怒る患者さんへの対処法
処方を見て、医療事務が入力し、薬剤師が調剤して、監査者が最終確認をして・・・と、調剤薬局には薬一つをお渡しするだけでも沢山の工程があります。
素早く・確実に薬をお渡ししたい!と思っていても、必然的に多くの時間を必要とするものです。疑義照会が発生した際は、更にお渡しまでに時間がかかりますからね・・・。
患者様の中には時間がかかることを不満に思う方もいるでしょう。中には、薬を渡すために先生の確認が必要だと説明しても、理解して頂けずに怒鳴る患者さんも…。
「いいから早く薬を渡せ!」「薬剤師は黙って薬を袋に入れればいい!」と言われれば、「こちらも頑張っているのに…」とイライラします。他の患者様にとって迷惑になるばかりでなく、薬局の仕事も滞ります。
薬のお渡しに時間がかかってしまう場合、どのように対応をするべきでしょうか?
待たされている、と患者さんが不満を持つとき、そこには患者さんが期待するサービスと、薬剤師が提供するサービスとの間にギャップが生じています。
患者さんは「薬を早くもらいたい」と思っており、薬剤師は「薬によって被害が起こる可能性を無くすため、丁寧に確認したい。」と思っている。このギャップが「自分が蔑ろにされている」と感じてしまう原因になります。
時間がかかるけれど、最終的には患者さん自身のためになると根気よく伝えることが大切ですね。ポイントを3つ見ていきましょう。
対策ポイント!
- 時間がかかることを、早めに患者さん本人に伝える
- 待てない理由を引き出す
- 薬の適正使用は薬剤師の責務と理解して貰う
時間がかかることを、早めに患者さん本人に伝える
まずは「時間がかかりそうだな」と判断した時点で、早めに患者さん本人に伝えることが大切です。
例えば、「疑義紹介をしなければならない」と判断したときや、「薬が足りないので近隣店舗に取りにいかなければならない」と判断したとき、まず一番初めに患者さんに伝えます。
「○○さん、お待ちいただいてありがとうございます。お急ぎでしょうか?こういう理由で、○○分ぐらい時間がかかりそうです」
と早めにお伝えできれば、患者さんも余裕をもって判断できます。
待てない理由を引き出す
2つめに、患者さんが待てない理由を引き出すこと。
お渡しの時間が数分長くなるだけだとしても、患者さんは仕事があって電車に間に合うか不安なのかもしれません。家で家族が待っている可能性もあります。
理由に共感したうえで、薬剤師にできる範囲での対策を提案しましょう。「薬は後で郵送いたしましょうか、それとも後で取りに来られますか?」など、選択を患者さんに委ねることが提案のポイントです。
薬の適正使用は薬剤師の責務と理解して貰う
それでも「疑義照会なんて必要ないから早くしてくれ!」と訴える場合であっても、引き下がってはいきません。
薬を正しくお渡しすることは薬剤師の責務であると話し、「あなたのためにできることをさせていただきます」という思いを伝えることが大切です。
最後に
本記事では調剤薬局でよくある患者さんとのトラブル5選と、解決方法についてお話しました。あなたの薬局はいかがでしょうか?薬局や薬剤師個人によって対応もそれぞれだと思います。
薬剤師として働くなかで、患者さんとのトラブルは必ず経験します。どんなケースであっても先入観を持たずに対応することが、患者さんの満足度を上げるコツです。
とはいえ、こうした対応は一朝一夕には身に付きません。普段から、トラブルの対処法を考えておくことが大切ですね。
どうしてもお仕事や薬局の人間関係が辛く、患者さんへの対応がままならない方もいらっしゃるはずです。そんな方は転職するのも一つの手。以下の記事でメディカルタックスのオススメ転職サイトをご紹介しています。
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